006話 父を探してMGS[前半]
食事をしてから城塞の客室に通されて落ち着いた後に、母は金策に出かけたようだ。父だけでなく母も手持ちが少なくなったようで、厄介になるのに金の無心まで出来ないと冒険者ギルドに向かったら、すぐに戻って来た。一人でソロ活動だと魔物討伐系の依頼が受けられないようで、伯爵夫人の仕事を手伝う代わりにパーティを組んで欲しいと頼んで即座に了承されて、2人で楽しそうに出かけて行った。強い男が好きそうだし母は脳筋なのだろうか?
その時に練習とばかりに赤ちゃん言葉を真似て二言くらい母に話しかけると、伯爵夫人と2人して大喜びしていたが、父が夜這いされた話の時に居合わせなかったことを悔しく歯ぎしりしていた青龍に見られてニヤニヤされたので、俺は顔を赤らめる事になった。青龍の恋愛脳には困ったものである。
俺は赤子のルキウスのままでマレ婆にお強請りした。
「お金がないところで悪いんだけど、お小遣い下さい」
「……赤ちゃんにお小遣いを強請られたのは初めてです」
婆は困ったように頬に手を当てるが悪い気はしないのか、まだ部屋の隅に積まれた荷物に向かうと革袋を取って来て俺に金貨を1枚渡すと、微笑みながら頭を撫でてくれた。
「大事にお使いなさいね」
「分かった、ありがとう」
前世?ではなかった孫と祖母のやり取りにほっこりすると、俺は金貨を収納して蒼汰に変身した。
「まあっ! ルキウス様でも魔法が使えますのね」
「見た目は違うけど中身は同じだからね。何か不味いかな?」
「十歳以降に神殿で世界樹と契約しないと魔素が得られないので、普通、子供は使えませんよ。しかも呪文の詠唱がなかったようですが?」
「うわぁ、気を付けるよ」
「もしかしまして、出かけられますか?」
白虎が面白い提案を念話でしてきた。
『ソータよ。長期間不在にするならルキウスの分身を残して行くがよい』
『そんな事ができるのか! 分かった』
「いつまでも父?の服のままじゃ困るし、ついでにお金がないなら稼いでこようかなと。それからルキウスの分身を残して行くのでビックリしないように」
「そんな事もお出来になるのですね! お金は気になさらずとも良いと思われます。お気をつけて行ってらっしゃいませ。私はアーラ様のお部屋から整えて来ます」
婆が客室から出て行くと、白虎が分身を教えてくれた。自分の思考をトレースするし、後で記憶の統合もできるようで、まるで並列思考のようだと思った。聞いてみると並列思考のような使い方もできるらしいが、統合せずに数ヵ月とか放置すると、言う事を聞かなくなる場合があるようなので注意らしい。白虎は1度やらかして自分の分身と戦って苦労した与太話もしてくれた。
さっそくルキウスの分身をベビーベッドに出現させてみた。神々に聞いていた通り金髪碧眼のイケメンになりそうな面立ちで、抱き上げたら「恥ずかしいからやめろ」と返されたのでベッドに戻した。
『それからソータよ。この部屋は問題ないが、この城内は誰かに見張られているので注意がいる』
『もしかして母が言っていた諜報活動をしている暗部ってやつか』
『船には居らなんだが厄介であるな。認識阻害を覚えるか?』
『それは存在を感知させないようにする魔法?』
『少し違う。存在は感知されているが、意識として認識が出来なくなるのだ。耳目だけでなく、鼻で嗅いだ匂いや魔力など全てが阻害される』
『それいいね! 段ボール箱を被らなくて良かった』
『ダン…ボールバコとは何だ?』
『前の世界の遊びで、認識阻害のような事ができる謎の紙箱だから気にしないで』
『その箱が欲しい!』
玄武が段ボール箱を欲しそうに割って入ってきたが、他の四神によると道具とか物作りが好きらしい。取りあえず無視して白虎に認識阻害を習った。白虎の説明は抽象的過ぎて分かりにくかったが、科学的に解釈すると自分から出ている光や音や匂いや魔素に、魔力で無かったことにするように呪いをかけるらしい。
ついでに身体強化もとお願いすると、『もう使っておるだろ』と不思議な顔をされた。
『ソータは無意識に目に魔力を込めているだろ』
『あ、前は眼鏡がないと見えないド近眼だったんだけど、目が良くなったのは身体強化のおかげなのか』
『そうだ。強化したい部位に魔力を込めて強化するイメージを発動させる感じだ。目の場合は遠くを良く見えるようにしたり、暗闇も見えるようになる。耳でいつもは聞き取れないような微かな音を拾ったり、犬猫のように嗅覚を鋭くできたりする。手足には動きを早くとか力が増すイメージをすれば良い。
ただしあくまでも強化はできるが、元の手足の筋肉とかと連動しており、魔力で増幅しているだけなので注意だな。まあもう言われなくとも分かっていると思うが』
白虎はニヤリと笑った。宙族討伐で記憶に新しい苦い思い出だ。
『それじゃあ試すかなス○ーク』
俺は認識阻害を発動して、クリスタウムを短縮して勝手に名付けた愛称クリスの寝室に向かった。部屋のドアを開けてクリスの寝ているベビーベッドに近づいても、一緒に居た使用人の女は気づかなかった。
「スネー○最高!」
声を出しても気づかれないので、俺は赤子だと男女の見た目が分からなかったのもあり、疑問に思っていたクリスのオムツをずらして男の子だと判明させた。調子に乗ってクリスの耳と尻尾を撫で始める。モフモフは正義だと思う。
『ソータよ。大胆だな……』
白虎が呆れたように呼んだので思い出した。原初の海に戻って、白黒の斑模様の耳と尻尾をモフモフする。原初の海では認識阻害は効かないらしく、白虎は驚いたように目を見張るが、大人しくされるがままなのが意外だった。いつも我様なのに変な声を上げているのが、ちょっと楽しかった。
『獣人の尻尾を家族以外が触るのは、番への求愛になるのだが……』
『俺、既婚者だし獣人じゃないから、そんなの知らない』
俺はモフモフを堪能したので生命の庭に戻って、クリスの寝室を後にした。このやり取りを妻が聞いたら、きっと目を輝かせて喜ぶと思うので、お土産話ができたと思うことにした。
これで人に邪魔されずに城内を移動できるが、城門とかは鍵がかかっているし通行が無理だなと思い出した。それなら城だから絶対に隠し通路とかあるような気がして、検索を試して見る。
『半径百メートル以内の隠し通路を検索!』
クリスの寝室の先には伯爵夫妻の部屋があるが、その廊下の突き当りに反応があったので、壁を探ってみる事にした。しかし普通の壁のようで仕掛けが見当たらない。
『ソータ。壁に魔力を流してみろ』
玄武に言われて試して見ると、身体が壁をすり抜けて前に倒れ込んでしまった。
『痛…くない。身体強化は便利だな』
『壁の後ろ側に魔法陣があるな……。魔法陣からすると、この城の城主に連なる者が一緒に居ないと通れないはずだが』
『もしかしてクリスの抜け毛?』
俺は手に付いていたクリスの抜け毛を摘まんだ。
『それだ! おそらく通路の先の出入り口側にも同じ仕掛けが、なされていると思う。ソータの変態が役に立ったな』
玄武の物言いにムッとして床を拳で殴ってしまったが痛くないので、身体強化の凄さを更に実感した。クリスの抜け毛は必要になるので、取りあえず収納にしまい込んだ。
身体強化のお陰で隠し通路の先は、薄暗いが見えない事はなくとも、明かりが欲しい所だ。
『ここまで来れば暗部は平気かな。認識阻害を切って、明かりの魔法はこんな感じかな。光よ』
最初は登山用具のヘッドライトをイメージしたが身体強化のせいで眩しすぎたので、魔法世界の物語で良くやられている頭上を光の球が追ってくるイメージで出し直して隠し通路を進む。
青龍と白虎は俺の魔法を褒めてくれた。
『もう魔法を使い熟してるわね。認識阻害なんて暗黒魔法だし、ソータって全属性なのかしら?』
『我が見た所、火水土光闇は使っておったから、おそらく風も問題なかろう。我ら四神は得手不得手があるが、ソータは不得手がないように見えるな。創造神様のお気に入りなだけはある』
『お気に入り? 弄ばされているだけな気がするけど……。そう言えば、この頃は出て来ないね』
『創造神様は忙しいそうなので、しばらく来られないわ。出来ればソータが会いに行ってくれると良いのだけれど……』
何故か創造神の事を聞いた瞬間に悪寒がしたので、俺は肯定も否定もせずに無言を通した。この時には創造神がお飾りくらいだと思っていたので、世界に及ぼす影響を知る由もなかった。
次回の話は翌日の19時になります。
父を訪ねて三千光年くらい(実際は桁が増えます)の後半です。
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