058話 逃げたパパと爺にお仕置き[後半]
フラステス公爵ご一行の滞在の最終日、魔石伯の両親とディスペンサーの双子の兄が午前中に帝都へ帰って行った。続けて午後に公爵達は専用の宇宙船で公爵領に帰って行く。
父と剣聖が俺を置いて逃げたお仕置きで罠を張り、旧ナノ・ゴーレム薬でミネルヴァの支配下に置いた。今日くらいは俺の実験に付き合ってもらおうと思い、父と剣聖の遺伝子サンプルを採取する。
そして全ゲノム・シーケンスの解析と比較が完了した。用意した遺伝子サンプルは蒼汰、ルキウス、白虎、父、オケアヌス、剣聖、魔石伯、クリスだ。白虎と魔石伯とクリスは抜け毛の毛根から抽出し、他は頬の内側の上皮細胞から抽出になる。
父が不安そうに俺に尋ねた。
「な、何をしたのでしょうか?」
「説明が難しいね。父さんと爺の他に、オケアヌスのサンプルも貰って来た。蒼汰とルキウスに、黙って白虎と魔石伯とクリスのも加えたから、色々と比較すると面白いと思うんだよね。
簡単に言うと生物としての設計図を読み取ったんだよ。人族と獣人の違いとか、アルティウスとそれ以外の違いとか、地球人とマギウスマテリア人との違いとか、剣聖一家とその他の違いとか、様々なアプローチで設計図を比較ができるようになった」
この銀河はマギウスマテリア銀河と言うので、地球人との対比でマギウスマテリア人と俺は勝手に名付けた。ただ俺はアルティウスになったので、厳密に地球人と同じかと言われると反論はできない感じだ。そこら辺りの厳密な調査は、地球に帰ってからのお楽しみとして置こう。
「マスター。比較後に役割が不明な遺伝子が多数見つかったので、原初の海でゲノム・シミュレーションをする必要があります。行って来てよろしいですか?」
「ああ、頼むよ」
ミネルヴァが少し虚ろな表情になったので、原初の海に分身を送ったようだ。
今回のお仕置きは母と婆も協力してくれるようなので、アルグラを説得してある物を作って貰う必要がある。
「アルグラ。協力してくれれば、ご褒美に母さんと婆が抱き上げてくれるって言っているけど、どうする?」
「わいモテ期来たーーー!!」
「じゃ前に言っていたように、全体数量は百万個としてゴム九十パーセントとポリウレタン十パーセントの数量で。パッケージングは十個単位にして。
サイズは控えめの太さ5パーセント、普通の太さと太いは四十パーセントずつ、とても太いは十五パーセントの数量でよろしく」
ゴムアレルギーとサイズの割合は、アカシック・レコードで統計調査した数値にマージンを加算してある。「恋愛から性愛の相談まで任せて」と言っていた青龍に、最初に男の大事な所のサイズの割合を聞いたら「デリカシーがないわね!」と怒られた。俺はアカシック・レコードで調べると言ったら、統計が出終わるまで居続けて興味深そうに結果を見てから帰って行ったのは興味があるからだよね?
俺は男性用の避妊具の材料を収納からアルグラに突っ込んだ。アルグラはやる気になると最終的にパッケージングされて出て来る、出来る錬金窯だ。
「んぐぁぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……ペッ、ペッ、ペッ、ペッ、ペッ、ペッ、ペッ、ペッ、ペッ、ペッ、! ふひぃ……」
俺はアルグラから避妊具が吐き出されると収納にしまった。1個の普通サイズをサンプルとして手元に置いた。俺はパッケージの中の説明書を出して、父達に指を使って避妊具の使い方や注意点を説明した。
「月経中の妊娠を防げるのは良いな。もうマレに子供を産ませるのは危険だからな」
剣聖は避妊具の利点を理解して物欲しそうな顔をした。
「私は子供が何人か欲しいので、あまり必要ありませんね」
父は利点を見出せなかったようで、俺は別の視点を提示した。
「妊娠中だけど、胎児に悪影響を与える可能性があるのは男性の子種なんだよ。女性の体調が良くて極端に激しくしなければ、これで子種を防げば妊娠中でも事に及べる」
「!!」
父はやっと利点を理解したのか、ゴクっと生唾を飲み込んだ。現在、母さんが妊娠中で父は禁欲で爆発しそうだとボヤいていたので、喉から手が出る程に欲しいだろう。
「母さんと伯爵夫人とモーリスさんが妊娠中だから、伯爵とミーティスには上げようっと!」
「ちょ、ちょっと待って下さい! パパが先ではないですか!?」
「孫が悪魔のように見えるぞ……」
父達は好き勝手に言い合いだした。
「これはお仕置きの一環だからね。しばらく禁欲して反省して貰わないと」
「なっ!」
父は絶望の表情で呻いた。
「爺はこれだけだとお仕置きが不十分なので、お髭をしばらく脱毛しよう!」
「ま、待つのだっ! それはマレに怒られる!」
「婆が「フォルティス様はソータ様を放って逃げるなんて酷いですね。お髭は本人が気に入っているので無くなったらショックだと思いますよ。私はお髭がないお顔も、しばらくぶりに見たいので、やっちゃって下さい」だって」
「!!」
俺が婆のメッセージを伝えると、剣聖は絶望の表情で固まった。
「ミネルヴァ。爺のお髭を脱毛して」
「はい、マスター」
「ぐぬぬぬ……酷い孫じゃ」
お仕置きが終わったら、またいつでも生やせるのは黙って置く。剣聖の顎髭や口髭がパラパラと落ちて行くのは面白かった。落ちた髭が散らばっているのは良くないので、収納に片づけていく。剣聖の髭がない顔が露わになると、俺と父は唖然とした。
「わ、若くない?」
「若返っていますね……」
剣聖の髭なし顔は、どう見ても二十代前半になっているように見える。オケアヌスが居た時にアルグラで作った髭なし写真と同じで、野性味ある赤髪黒眼でイケメンだ。俺は収納から手鏡を出して剣聖に顔を見せて見た。
「これ儂か? 鏡が壊れていないだろうか?」
「マスター。ゲノム・シミュレーションが完了しました。おそらく剣聖の若返りに関する因子もご報告できます」
とっくにゲノム・シミュレーションは終わっていたであろうが、ミネルヴァがタイミングを見計らって声をかけて来た。取りあえずお仕置きは終わったので、ミネルヴァに父と剣聖の拘束を解除してもらう。
「ミネルヴァ、父さんと爺の拘束を解除して。それから結果を聞こうか」
「拘束の解除を致しました。マスター・ソータとルキウス様と白虎様、お父様とお爺様に共通の遺伝子が見つかりました。シミュレーションによると肉体を全盛期の年齢に保ち不老になるようです」
「えっ!? 不老って死なないの?」
「老化しないだけで不死ではありません」
「それでも凄いじゃん!」
しかし俺と白虎はアルティウスだからと共通項があるが、父と剣聖が関わってくるのが良く分からない。俺は父と剣聖を感覚共有して、白虎を呼ぶ事にした。
「白虎来てよ!」
『何だ、ソータか。追加の鞄が気に入らなかったのか?』
『それは凄く良い出来なので、ありがたく使わせてもらうよ』
白虎が現れると俺は今回の実験の趣旨を説明した。
『青龍と一緒に男の大事な所の大きさを調べていたそうだが、また珍妙な調べ物をしておるようだな』
「男の大事な所?」
「大きさじゃと?」
父と剣聖にジト目を向けられてしまった。俺は男性用の避妊具を作るのに必要だったと皆に説明した。
『好きだから調べていたのではないのか』
「男なら皆付いていて嫌いな奴はいないんじゃない? それに他人の大きさが気になる人もいるし」
以前に父と剣聖が長くしたり太くしたり硬くしたりしたいとか言っていた気がするし。
「調べたと言う事は、どのくらいで大きく見られるのか分かるのですか?」
「後で詳しく教えるのじゃ」
「やっぱ皆好きなんじゃん! 違うの白虎。違う話がしたいの!」
『我はこの話に興味がある』
「白虎もかよっ!」
取りあえず話が逸れたので、俺は肉体を全盛期の年齢に保ち不老になる遺伝子の存在を説明する。
『我にもあるのか。そうするとベトスの民の儀式が関わっているのかも知れぬな。お主の父と剣聖が良く分からぬが』
「何それ?」
『ベトスの民は仲間に引き入れる時に、同じ時を生きるように祝福するのだ。そうすると全盛期に若返り不老になる』
「白虎。その祝福をすると、祝福者から光の粒が飛んで行って対象を包む感じ?」
『良く知っておるな』
「やっちまったよ……」
父と剣聖に騎士の誓いで光の粒が飛んで行った謎が解けた感じだ。
「父さん、爺。騎士の誓いの時にベトスの民の祝福になったみたい」
「老いるのは少し体験したかったですが、無い方がありがたいですね」
「儂は別に困らぬから良いが」
「えーと、母さんとか婆とか子供と同じ時間を生きられないんだよ? 相手が先に死ぬ」
俺は色々な物語で不老の苦悩を知っているので不安になった。
「別に普通ではないですか。一緒に死ねる訳でもないですし、どちらかが長いか短いかだけの話ですよね?」
「儂もホリゾンと同意見じゃ。騎士なんていつ死ぬか分からんのに伴侶や子供との離別など、疾うの昔に出来ておる。最近、若い頃と同じように力が漲る感じだったのは、ソータ殿の祝福のお陰だったのであるか。1点だけ問題があるがのう」
「何?」
「夜に収まりが付かなくて、マレに呆れられているくらいか。姫様とマレもその祝福をしても良いのではないか?」
どちらかと言うと母さんはオマケで、剣聖は婆との夜を楽しみたいと顔に書いてある。
「まあ本人達が納得すれば良いけれどね。さっきの遺伝子はベトス遺伝子と名付けるか。それでミネルヴァ、他にはどんなのがあったの?」
「マスター・ソータとルキウス様と白虎様に共通の遺伝子が見つかりました。シミュレーションによるとベトス遺伝子と効能が重複していて、それにプラスして魔素症になりにくいようです。後は、その遺伝子はシミュレーションのデータ不足で不明な部分があります」
『我とソータとルキウスならば、アルティウス固有のようだな』
「そうだね。その遺伝子はアルティウス遺伝子と名付けるか。他は?」
「唯一、マスター・ソータに無い遺伝子で、身体強化の魔法とは別に、素の身体機能を大幅に増強させる遺伝子です」
蒼汰の運動能力が低いのではなくて、その遺伝子のお陰でルキウスの運動能力が凄く高い理由な気がする。身体強化がなくても父に放り投げられても平気だったし異常だと思っていた。
「俺が弱いんじゃなくて、君達が強いんじゃないか。理由が分かってスッキリしたよ!」
「地球の方はソータ殿くらいの身体能力なのですか?」
「儂らが地球へ行ったら超人であるか?」
「間違いなく超人だと思うけれど、地球の世界樹は動いていないから魔法が使えないからね」
「「残念無念」」
「それはマギウスマテリア遺伝子って名付けようか。地球人とマギウスマテリア人の違いはそれだけ?」
「はい。地球人で言うとモンゴロイドとコーカソイドの違い程度しかありません。子も成せます」
俺はアルティウスなので地球でも魔法が使えるはずだが、父や剣聖が行っても使えないはずだ。宇宙船の世界樹の若木が近くにあれば使えるとは思うが。
地球人とマギウスマテリア人の違いが余りなくて良かった。ここで違いが出て来ると今までの治療とかを見直さないとならないからね。
「それは良かった。ミネルヴァ、他は?」
「獣人は特別な遺伝子ではなく、身体の造形や仕組みに関わる遺伝子が変異しているようでした。ただサンプルが犬人だけなので仮定になります」
「成程。魔素で変異しているのかな。ミネルヴァ、もう終わり?」
「これで最後ですが、剣聖一家のルキウス様とお父様とオケアヌス様とお爺様に共通の遺伝子が見つかりました。シミュレーションによると2種類あって、Y染色体を持つ精子に身体強化を及ぼす物と、身体強化に非常に強い耐性を持っていて魔素反撃症にならないようです」
後半の魔素反撃症にならない方は実験で知っていたので、遺伝だと言う事が分かったくらいで真新しくはなかった。俺としては前半の方が驚いた。どうやら父と剣聖と白虎は、前半の方は意味が分からなかったようだ。
俺は男の精子には2種類あって、赤子の性別が精子の種類で決まる事を説明した。Y染色体を持っている方が受精すると男になって、持っていない方が受精すると女になるのだ。この数は丁度半数ずつなので、普通、男女は半々の確率で産まれてくるようになっている。
「ミネルヴァ、Y染色体を持つ精子に身体強化を及ぼすってどうなるの?」
「シミュレーション上では運動能力が3倍くらいになっていました」
「3倍!!!」
某アニメの赤い人じゃないけれど、3倍速く動ければ物凄く受精には有利だ。
「これで剣聖一家に男児しか産まれない理由が分かったね」
「男になる子種の方が元気だって事ですよね? そうすると姫様のお腹に居る子も男の子の可能性が高そうですね」
「儂、孫は男女どちらでも良いのう」
蒼汰としては弟妹が居なかったので、どちらでも良いね。ただ蒼汰には娘が居るから分かるが女の子も可愛いよね。
次に後半の魔素反撃症にならない方を父と剣聖に聞いてみた。
「魔素反撃症は父さんも爺もならないよね?」
「魔素反撃症って何ですか?」
「過度の身体強化をすると、魂からの魔素に肉体が攻撃されて、筋肉痛の酷い感じになるやつ」
「ソータ殿が起きられなかったやつですね。私はなった事ないですね」
「儂もなったことがないぞ。ただ騎士の中で言われていたのは、身体強化に限度があって超えると大変になるとは聞いておった」
『お主ら一族は反則ではないか? 魔素反撃症にならないとは、羨ましいぞ! 持久戦に持ち込めば絶対に勝てると言う事ではないか』
「そうだけれど、普通は魔素反撃症の前に魔素症になるからね」
『それではルキウスが最強ではないか!』
「あっ! そう言えばそうだね」
ルキウスはアルティウスだから魔素症にならないし、剣聖一家でもあるから魔素反撃症にならないのか。
『これはルキウスと一度、戦ってみたいものだ』
「是非、騎士になって欲しいですね!」
「儂も騎士として鍛えがいがありそうじゃ!」
「ルキウスはそんな野蛮な事はしないから実現しないよ」
「「『もったいない!!』」」
俺は父と剣聖が居なかった間の公爵やアイルの事、オケアヌスに告白されて振った事、魔聖や教授達をやり込めてレビタス・バイクの世界樹の魔素駆動版を申請して許可が出た事等、色々と話して聞かせた。
「魔聖や教授達の興味は俺に集中していたし、もう剣聖一家の秘密も分かったから平気じゃないかな」
俺は父と剣聖の間の膝の上に跨って、ルキウスに変身した。
「それから、寂しかったのは本当」
「それはすみませんでした」
「すまんかったな」
父と剣聖に代わる代わる抱っこされて甘やかされていると、扉がノックされる。
コンッ、コンッ!
剣聖が俺を抱えながら立ち上がり、扉に向かった。時々、顎を擦っているので、髭がないのに違和感を感じているようだ。
「誰じゃ? 孫と戯れておったのに」
「貴方はどちら様……でしょうか?」
扉を開けると魔石伯が剣聖を見上げて尋ねた。髭がなくて若い剣聖は別人に見えるようで、魔石伯は戸惑っている。
「儂じゃが……」
「わし? 素敵な呼称ですね! 私とお茶でもしませんか?」
「「「ブフッ!」」」
俺と父と剣聖は噴き出してから笑い転げた。
次回の話は2025年2月26日(水)の19時になります。
ママの船が直りましたね。
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