057話 逃げたパパと爺にお仕置き[前半]
フラステス公爵ご一行の滞在の最終日、魔石伯の両親の隠居伯夫婦とディスペンサーの双子の兄が帝都へ帰って行った。
「ここでお土産をもらったのは初めてよ」
マレ婆の姉ラクスが困惑顔で魔石伯を見つめた。俺が用意したお土産は大荷物になったので荷物専用で送る事になっている。それを聞いた魔石伯は口笛を吹き出した。ご両親にお土産の1つも渡さないなんて薄情な息子だね……。
「たまにはこちらに帰るのも良いの」
「いつか帝都に遊びに来て下さい。ソータ様」
「ルキウスがもう少し大きくなったら行きたいね」
隠居伯夫婦とディスペンサーの双子の兄ヴァサルスとハグして別れた。
見送った後に俺は貴金属四兄弟の店舗に行って、速攻でレビタス・バイクの通算四号機目を世界樹の魔素駆動の廉価素材で組み上げた。色は考えるのが面倒だったので銀色で、車のカラーで言うとメタリック・シルバーになる。グロスに売るので飽きの来ない色にした。
ちなみにそれ以前のレビタス・バイクは高級素材で組んでいて、初号機は搭乗者の魔素駆動の赤色、弐号機は世界樹の魔素駆動で青色、参号機は世界樹の魔素駆動で緑色になっている。初号機は俺専用で、弐と参号機の搭乗予定者が絶賛逃亡中だけどね! 折角、弐と参号機は座高を高くして跨るようにして、剣を振り回して戦闘しやすいように改良したのに……。
グロスと待ち合わせで冒険者ギルドにしようと思ったが、運転の仕方を教えないとならないので、魔石伯に許可をもらって城に来てもらう事にした。グロスに運転を教えていると、何故かギャラリーが増えて来る不思議。
「ソータよ。私も乗りたいのだが……」
「ソータさん。運転を教えてくれるわよね?」
魔石伯から始まり、母や公爵に魔聖にオケアヌス将軍、仕舞いには貴族院の教授達まで加わって運転したいらしい。俺は仕方なく弐号機と参号機も出して教える事にした。俺は先程グロスに教えたので、グロスが四号機でパーティメンバー3人に伝授する。アイルも昨日乗り回していたので公爵と教授達を担当して貰った。俺は母と魔聖にオケアヌスと魔石伯を担当する。
やはり3台も集まって運転に慣れると、誰かが城内を競争しようとか言い出したのでレースの開幕だ。俺が出場すると勝ってしまうので母に出場禁止を言い渡されただけか、「どうせなら優勝景品が欲しいね」の一言で収納から試作品を提供する事になった。
俺は収納から2個の飴細工を出した。
「「「「「「「「「「「「おおっ!」」」」」」」」」」」」
「男性向けが白虎の形で、女性向けは薔薇の花束に蝶が止まっている形の飴細工ね」
両方共に手の平サイズだが細部まで拘ってアルグラに作らせた。俺は失敗作の白虎を取り出して、運動魔法で割って皆に少しずつ渡して舐めさせた。
「「「「「「「「「「「「甘いっ!」」」」」」」」」」」」
「この様に食べられる芸術品ね」
珍しく母がやる気でトーナメントとかルールを色々と指示してレースが開始された。十四人の参加者で3台しかレビタス・バイクがないので3の倍数にしたいので、ジャンケンのような手技で2人落とされたのがアイルと女性教授のリートゥスだった。アイルは万能薬が出た反動だろうか?
次は4組毎にやって、1組目はくまのプーレと白熊のアルブムと柔らかめの熊毛のテネルの熊人同士でプーレの勝利。2組目は公爵と魔聖と魔石伯で意外にも魔聖が勝利した。3組目は母とオケアヌスとグロスで危なげなく母の勝利。4組目は残った教授達で貴族院領主のセネクスの勝利。この勝者4人を3人にしたいので再び手技をしてプーレが落とされた。
決勝戦は母と魔聖とセネクスで、母と魔聖は接戦していたが最後のコーナーで車体を傾けすぎて世界樹に危険と判断されて、魔素を停止されてしまった魔聖がリタイヤして母が優勝した。
優勝した母は、薔薇の花束に蝶が止まっている飴細工を貰って喜んでいた。
「これ奇麗すぎて食べるのが勿体ないね」
「腐る物じゃないから日陰で保存すると良いよ。これテクタイトの保管ケースね」
俺はテクタイトで作った保管ケースに飴細工を入れて上げた。レビタス・バイクの実働テストとしても丁度良かったので、俺的にも満足なレースだった。
公爵は午後には帰るようで、その前に機会を作って貰って俺は剣聖の突進技の研究の引継ぎを魔聖や教授達から伝授された。迎賓館の会議室に魔聖とオケアヌスに教授達が揃っている。
「あの突進技だけど、オケアヌスは出来ないんでしょ?」
「私はどう頑張っても無理だった。兄弟の中ではホリゾンが唯一、発動間際まで行っていたが、こっちで使えたって話を聞いたんだが本当か?」
「闘技場で使っていたね。しかも剣聖よりも早くて強かった。俺の結界魔法だけど、魔人の攻撃を反射した時よりも格段に強化した結界が破れそうなので観客に被害が出るから、途中で切り返したって言っていたから確実に剣聖よりも強力になっている」
「弟ながら半端じゃねぇな……」
「私も見たかったわね」
「「「「そうじゃ!」」」」
「いや、速度が尋常じゃない。技が発動したら瓦礫と砂塵に覆われている感じで終わった後しか分からないよ」
魔聖と教授達は見たいようだが、俺は時間遅延があるので見られるが、常人があの速度の技を見ても事後しか認識できないだろう。技を食らったら死んだ認識もなくあの世だろうし。
魔聖と教授達は剣聖を捕まえた時の実験結果を教えてくれた。魔封の腕輪を着けられて基礎体力の測定やら、大量の魔術具を着けられて突進技を連続で使わせて魔素症にさせるとか、確かにミーティスが言っていた実験動物扱いだね……。
「それで何か分かったの?」
「世界樹の龍脈から流れて来る魔素を一時的に体内に貯めて、爆発的に身体強化している所までは掴めたわ」
「そんな事をしたら全身が筋肉痛みたいになって動けなくなりそう」
「それ魔素反撃症って言うのよ。剣聖もホリゾンも平気だったんでしょ?」
「ピンピンしていたね……あっ!」
俺は仮説を思いついて、収納からスプーンを出してオケアヌスに見せた。スプーンは浄化魔法で奇麗にする。
「何でスプーン??」
「口の中に突っ込むから口開けて」
「えっ?」
「ほら、早く開けるんだよ」
俺は面倒くさくなって来たので、オケアヌスの鼻を摘まんで口呼吸にさせてから、スプーンを口に突っ込んで頬の内側を何度か抉った。
「いぎだりなじずるんだっ!(いきなり何するんだっ!)」
「実験用のサンプル採集ね」
「うわぁ……」
「「「「ひどい……」」」」
魔聖達に言われる筋合いはないな。俺は叔父と戯れているだけだし! 俺はスプーンをオケアヌスの口から引っこ抜くと収納にしまって満足した。後は父と剣聖とルキウスのサンプルを取らないとな。
オケアヌスはどうせならスプーンじゃなくて舌なら良かっただのとブツブツと言い出したので、黙らせるために白虎の形の飴細工をテクタイトの保管ケースに入れて渡した。献血の後に貰えるトマトジュースの感覚だ。現金な物で彼はニッコリと微笑んだ。何故かムカついたので「そう言う事は思っていても口に出さないもんだ!」とオケアヌスに拳骨をくれてやる。
魔聖と教授達も飴細工が欲しいようだが俺は断った。
「私達のもサンプル取って良いのよ!」
「いや、剣聖と親子関係じゃないとサンプルの意味がないから必要ない」
「そ、そんな……」
「「「「がっかりだ……」」」」
午後早く、公爵ご一行を宇宙港でお見送りになった。公爵とアイルに挨拶しようとしたら、侍従達に囲まれた。
「ソータ殿、我が娘を送りますので、治療をお願いします」
「「「うちも送ります!」」」
侍従達は親族の治療をして欲しいようで、手の平返しでフレンドリーな対応をされる。
「当然ですが公爵の許可は頂いて下さいね」
「「「「もちろん!」」」」
侍従達と離れて公爵とアイルに挨拶する。
「公爵。アイルと一緒に治療して欲しい者が来訪する予定ですかね?」
「そのつもりだ」
「人選はお任せしますし、若い公爵の領政に生かして下さい」
「それはどういう意味だろうか?」
「ソータさんは貴方の領政を行いやすくする道具として、治療の可否で舵取りを強化するように言っているのよ」
「!!」
母が治療の活用の仕方を補足してくれた。公爵に従わない者は親族の治療を許可しなければ良い。
「ソータ師匠、ありがとうございます。アイル共々、よろしくお願いします」
「師匠って恥ずかしいな!」
「帝都にお立ち寄りの際は、是非、我が領にもお立ち寄りください」
「そうさせて貰うよ。アイル、またな!」
「はいっ!」
公爵達は専用の宇宙船で公爵領に帰って行った。俺もその内に宇宙船が欲しいね。
城に帰って来ると白虎からの念話が届いた。
『ソータよ。追加の魔法鞄ができたので宝箱から受け取ってくれ!』
『ありがとう!』
宝箱から5個の鞄が出て来た。ウイスキー1樽につき鞄1個をくれたので律儀と言うか貰い過ぎのような気もするが、ありがたく貰っておくことにする。どうやら時間停止して作っていたようで追加の5個は女性向けにアレンジしてあった。鞄の表面に革でひまわりの模様が編み込まれていて可愛らしい感じに仕上がっていた。白虎は脳筋だと思っていたけれど意外と文化人なのかも知れないね。
そしてお仕置きタイムとなる。母からの発信として、ギルドカードのメッセージを父と剣聖に送ってもらう。貴族院の教授達が帰ったといった内容だ。俺はルキウスの部屋で分身を統合してからルキウスに変身すると、旧ナノ・ゴーレム薬を自分にかけて吸収させた。メッセージの内容には続きがあって、ルキウスが泣き止まないから宥めに帰りなさいといった事を付け足してもらっている。
魔石伯達は俺の様子を見ると「触らぬ神に祟りなし」を、こっちの諺で「キラービーの巣には近づくな」と言いながら尻尾を股の間に挟みつつ逃げて行った。母は部屋を出て行く際に、俺に釘を刺して行く。
「逃げた騎士達にはお仕置きが必要だと思うけれど、程々にして置きなさいね」
「は~い」
しばらくすると2人が近づいて来たのをミネルヴァに教えて貰った。
『マスター。対象2名が部屋に近づいて来ます』
『2人が旧ナノ・ゴーレム薬を吸収したら、捕獲よろしく!』
『はい』
部屋の扉が開いて父と剣聖が飛び込んできたので、俺は演技を開始した。
「わ~ん、ぱぱとじいが、かえってこないよ。すてられたぁ……さみしいよ」
俺の目からは旧ナノ・ゴーレム薬が滴っていて、ミネルヴァに俺には再吸収しないように頼んである。
「る、ルキウスが本当に泣いていますね……」
「ルキウスよ。泣くでないぞ。お~、よしよし……」
何か父に失礼な事を言われたような気がした。ルキウスは中身おっさんだけれど、まだ1歳の赤子なんだけれどね! 父と剣聖に代わる代わる抱っこされてあやされた。俺の目から旧ナノ・ゴーレム薬が2人にかかり吸収されていく。まだ足りないので2人に見えないように、収納から旧ナノ・ゴーレム薬の中身をぶちまけた。
「「冷たっ!!」」
「や~い、引っかかった!」
2人は一瞬ビクッと震えてからミネルヴァの支配下に入って硬直した。俺は父の腕から抜け出して床に着地すると、蒼汰に変身する。
「だ、騙されました?」
「身体が動かないのだ。もしやあの薬か!」
「ふふん! 俺を置き去りにしたんだから、今日くらい魔聖達の代わりに実験に付き合ってもらうよ。アルグラとミネルヴァ召喚!」
「あーる晴れた、ひーる下がり、いーちーばへ……やっぱりドナドナでやす?」
「はい、マスター」
俺はアルグラとミネルヴァを召喚した。別に父と剣聖を売る訳じゃないから、その歌は違うと思うぞアルグラ。
「ミネルヴァ、2人をソファーに座らせてから口を開けさせて」
「はい」
俺はオケアヌスにやったように、2人の口にスプーンを突っ込んで頬の内側を何度か抉った
「らんでずが、ごべば?(何ですか、これは?)」
「ずぶーんご、だべぬじゅびばらびぞ!(スプーンを、食べる趣味はないぞ!)」
「これで遺伝子サンプルが揃った。アルグラ、それぞれ隔離するように」
「うひぃ! 唾をわいの中に入れるのは堪忍やす!」
「もっと嫌そうなのから無難な物になったんだけれど?」
「参考に聞きたいでやす」
俺はアルグラにしか聞こえないように念話で話した。
『精液』
「そのスプーンでやらして頂きやす!」
まあルキウスがまだ出ないので、この案はボツになったのでアルグラ脅しにしかならない。用意した遺伝子サンプルは蒼汰、ルキウス、白虎、父、オケアヌス、剣聖、魔石伯、クリスだ。白虎と魔石伯とクリスは抜け毛の毛根から抽出し、他は頬の内側の上皮細胞から抽出になる。
俺は父達の対面に座り、遺伝子サンプルをアルグラに突っ込むと、吐きそうな呻き声が辺りに響いた。
「んぐぁぐぐ……うぇっ! シクシクシク」
「ミネルヴァ、全ゲノム・シーケンスと解析してくれ。それから比較も頼む」
「了解しました」
俺の目の前にミネルヴァが全ゲノム・シーケンスした内容が表示される。ATGCと塩基の頭文字を現した記号が8人分になると莫大な情報量だが、アルグラの中は時間加速ができるので一瞬でシーケンスして解析まで完了した。比較も原初の海でミネルヴァの分身が行い、こちらの生命の庭は時間停止されているので、体感時間は一瞬だ。
「全ゲノム・シーケンスの解析と比較が完了しました」
「ありがとう、ミネルヴァ。アルグラは良く耐えたな。もう吐き出しても良いぞ」
「ペッ、ペッ、ペッ、ペッ、ペッ、ペッ、ペッ、ペッ! えぐえぐ……」
俺はスプーンを収納にしまうと、アルグラとミネルヴァに多めに魔力を注いでやった。
次回の話は翌日の19時になります。
剣聖一家の秘密が明かされる!
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