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005話 異世界ママ友

 宙族退治の際に、白虎に良い意味で変態的な体術を自分の身体でされた影響か、筋肉痛になった。普段使っていない筋肉を強制的に動かされたので蒼汰に変身すると(うめ)くしかないので、玄武に回復して貰い助かった。


 その時に回復魔法を習ったら、光属性じゃなくて水属性だと聞いて驚いた。どうやら回復魔法は全ての属性で使えるらしく、試しに闇属性で回復魔法を使ってもらっても発動したので、俺が知っているファンタジー世界の常識とのカルチャーショックを受けた。ちなみに水属性以外だと、使用魔素量や回復効率が悪化するので、お(すす)めはしないと玄武に釘を刺された。


 それから玄武が回復魔法を使うと水玉に包まれるエフェクトだが、俺だと無数の細かい泡に包まれるイメージだったのが興味深かった。玄武にどのようなイメージで魔法を使っているのかと問い詰められたら、傷には消毒薬をかけて泡々に包まれてから手当てするというイメージが魔法エフェクトに現れているようで、血管を血小板(けっしょうばん)(ふさ)いだり、その後に細胞分裂を早く(うなが)して傷口の細胞を修復するイメージだと伝えたら、『何だ、それは?』と不思議な顔をされてしまった。科学が発達していないので当然の(ごと)く医療も技術的に発達していないようで、血液がどうなっているだとか、身体は細胞で出来ているだとかの知識がないようだ。

 どうも俺の回復魔法は効果が高くて効率が良いらしく、筋肉痛を直してもらったのを盾に後で研究に付き合うことを約束されたのはご愛敬(あいきょう)だ。


 マレ婆によると玄武が世界樹の治療後に母アーラが回復して船の推力(すいりょく)を取り戻したので、目的地のアヌルスという惑星に着陸するようだ。赤子のルキウスのままに甲板から着陸を見せてもらったが、大気圏の突入中も甲板に出ていられるので魔法は凄いとしか言いようがなく奇麗で感動した。

 惑星アヌルスは、この一帯の星系群を領地に持つ伯爵(はくしゃく)の領星で、今回滞在するのは南半球の大陸中程にある領都カストルムなので、上空から見てかなり大きな都市なのが分かった。都市の北側にある湖が宇宙港で、船が着水してから待機していた伯爵家の車に乗って城に向かう。母の親友が伯爵家に嫁いだらしく、その(えん)厄介(やっかい)になるようだ。


『外観は馬の居ない馬車なんだけど、車が路面から浮いているな。車輪もないし』

『車輪なんか付けても邪魔(じゃま)だよ』


 玄武と白虎に身体を貸したのを最近に知った朱雀が、2柱に狡いと突っかかっていたのを止めて答えてくれた。玄武と白虎は追及(ついきゅう)から助かったとばかりに朱雀の後ろから片手を上げた。

 母に抱っこされて車に乗っているが、やっとハイハイが出来るくらいの赤子では暇なので、異世界のカルチャーショックに(ひた)っていた所だった。実はルキウスの赤子の状態でも言葉を話せるようになったのだが、婆に流暢(りゅうちょう)に話過ぎるので、もう少し育ってからで良いのではと、やんわり止められている。

 異世界お約束の揺れて座り心地の悪い馬車を体験して、地球の技術は凄いアピールしてドヤ顔したかったのに、車が浮いていて調子が狂った。まあ宇宙に木船が飛んでいる世界なので、常識が違い過ぎるのを予想できなかった俺の独り相撲だったが……。


『城と言うより巨大な(とりで)のような……城塞(じょうさい)か。警備が物々(ものもの)しいな。何に警戒しているんだろう?』


 車の窓から見えたのは、丘の上の石造りの立派な塀に囲われた建物群だった。門を(くぐ)ってからも様々な石造りの建物があって、道も複雑なので敵襲に備えた作りになっている。門は開けっ放しでなくて来客があると門番が開け閉めしているようなので、地球での観光地にある城のような解放感はなかった。


『魔物が怖いからじゃないかな。でも変だね。ここ玄武が結界のモニュメントを建てていたよね? 魔物なんて入って来られないはずなのに』

『高みに至る前だから、凄い昔だな。身体がないとメンテナンス出来ないので(つら)い所ではある』


 チラッと玄武が俺を見たのを朱雀に見つかって、また狡いと追及され始めたのは自業自得だと苦笑した。


 しばらく朱雀の追及を聞き流していると、エントランスの前で車が停車した。赤子を抱いた若い女を中心に、使用人と思わしき人々が後ろに控えていた。母が俺を抱えて車を降りると歓迎(かんげい)を受けた。


「「「「いらっしゃいませ」」」」

「アーラ様、遠い所にお越し頂き歓迎いたし……まあっ! その赤子はどうしたのかしらっ!」

「お姉様とは昨年の祝賀会以来になりますね。私の子ですよ。お姉様も2人目がお産まれになりましたのね」

「えっ? 誰との子なのかしら……」


 興味津々(しんしん)に伯爵夫人が問い詰めようとするが、後ろに控えていた使用人の女に(ささや)き声で諭されて、建屋に入る事になった。婆は待機していた使用人に指示して、車から建屋に荷物を運びこむようだ。


「ごめんなさいアーラ様。立ち話も何なので中で(うかが)いましょうか」


 広くて質素だが品のある応接間に通されて、お茶を出されると伯爵夫人は使用人を下がらせた。俺は母の横のソファーに座らされる。

 伯爵夫人の赤子はぐずったので使用人に連れて行かれたが、母に似たのか目は濃い紫で、犬に似た耳と尻尾が孤児院時代に飼われていた小麦色のゴールデンレトリバーにそっくりだった。犬と猫は大好きなので機会があったら()で回してみたいと思った。ちなみに伯爵夫人は赤髪の普通の人間に見えるので、遺伝的な何かがあるのかもと気になった。

 白虎にこっそりと聞いたら『我と同じ獣人(じゅうじん)であるな』との事だが、白虎の耳と尻尾にも前から興味があったのを思い出して、じっくりと観察したら『何か良からぬ事を考えていないか?』と返されて、原初の海でなら触れるのか後で試そうと心に秘めた。当然、虎は猫科なので俺の標的である。


「で、誰との子なのアーラ!」

「その責め口調は貴族院に居た時のようで懐かしいね」


 母はお茶を一口飲むと、目を少し泳がせてから笑った。


「……ホリゾンよ」

「!!」


 伯爵夫人は声もなく驚いて一瞬立ち上がりかけるが、行儀が悪いと思い直したようで浅くソファーにかけ直して、母を問い詰める姿勢を取った。


「いつの間に、そんな仲になっていたのよ?」

「全然そう言うのじゃなくて、本当は(じい)の子種が欲しかったの」

貴女(あなた)、昔からそう言っていたけど、本気だったのね。冗談だと思っていたわ」

「爺に断られたので、次に強い男ってホリゾンじゃない? 夜這(よば)いを……」

「されたの?!」

「違うの逆。私が夜這いしたの!」


(危うく声を出しそうになったが、声を出せないくらいに驚いたので、良かった……。)


「たしか貴女も彼も(ねや)は初めてのはずよね。一回で授かったのかしら?」

「そうなの。凄いよね」

「……貴女の度胸には驚かされるわ。ちなみに、この子は男の子かしら?」

「そうよ。ルキウスって名付けたの。もう一人くらい欲しいけど、今度は女の子が良いな」

「それはあの一族が絡むと難しそうね。ホリゾン含めて男子三人だし、ルキウス君も男の子だし、絶対に何かありそうね! それで肝心(かんじん)のホリゾンはどうしたの?」

「……逃げたの」

「そりゃ俺でも……」

『ソータ声が出てる』

「「声がしませんでした?」」


 2人は、お互いを見合ってから不思議そうに辺りを見回すが、他に誰も見当たらないので、しばらくしたら諦めてくれた。語られた衝撃(しょうげき)の事実の連続に2回目は()えられなかった。しかし僕使い女子に見える朱雀の制止がなかったら危なかったな。

 童貞の時に夜這いで(おそ)われたら下手すれば女性不振(ふしん)になりかねないし、俺だったとしても逃げるな……。実は女より男の方が、ある意味で精神的にデリケートだ。委縮(いしゅく)したままだと子作り出来ないし!


『朱雀ありがとう』

『僕も驚いたよ』


 ママ友の2人は仕切(しき)り直すように、お茶で口を湿(しめ)らせた。


「ここに来たのは、私に会いに来てくれただけじゃないのね?」

「お姉様に、この子を見せたかったのもあるのよ。暗部(あんぶ)の情報によると、この街にホリゾンが来てるって話を聞いたの」


(暗部って諜報活動とかする組織だよな? 母との接点と言うか関係が分からん。)


「追いかけてきたのね。彼、捕まえられるかしら?」

「ホリゾンの同期が魔石伯(ませきはく)の騎士団に居るじゃない。旅費が()きてピンチらしいのを聞いたから、この星から身動き取れないはずなの」

「ああ、あの子ね。寮住まいだから彼を泊まらせる訳にも行かないし、どこで夜露(よつゆ)(しの)いでいるのかしら?」

「お姉様には悪いのだけれど、しばらくホリゾンを探すので、ここにご厄介をさせて欲しいの」

「厄介なんて言わないで頂戴(ちょうだい)。貴女ならいつまででも歓迎よ」

「魔石伯にもご挨拶しないと」

「あの人は騎士団と一緒に、この街の防衛をしていて、(まれ)にしか帰ってこないわ。後で伝令させるから大丈夫よ」

「領政はどうしているの?」

「私が代行しているわ。クリスタウムが産まれたばかりなので、代官(だいかん)を立てて欲しいのだけれど……」

「私、手伝おうか?」

「貴女にそんな事をさせたら、さすがにあのお方に睨まれてしまうわ」

「今なら大丈夫よ。孫の顔を見せたら、きっとすぐに忘れると思う」


 母は俺の頭を撫でた。あの犬獣人の赤子はクリスタウムと言うのか。少し名前が長いのでクリスと呼ぼう!


「ルキウス君が産まれたのは、ご存じなのかしら?」

「この子、船内で産まれたから父上は知らないはずよ。暗部にも黙っていてと言ったし、報告したら取り合いになるから、もう一方の爺が黙ってないわよと(おど)したの」

「それは……」


 2人は苦笑すると現状のすり合わせが終わったと思ったのか、再びお茶で口を湿らせてから、今度は学生時代の昔話に花を咲かせた。時々、話が脱線して夜這いの時の状況とかが語られていたが、子供?に聞かせて良い話じゃないと思いつつ、無邪気(むじゃき)な赤子を演じるのに俺は疲れ果てた。

次回の話は翌日の19時になります。

父を訪ねて三千光年くらい(実際は桁が増えます)の前半です。


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