045話 錬金窯は武器だった件[前半]
ギルドカードのオークション開催に向けて俺が頑張ったら、魔石伯が対応に追われる事になった。1日で城の西側の岩山が消え、宇宙港の北東の湖が広がり桟橋もできて、商業区の北側の岩山もなくなったので領民から問い合わせが殺到して大変だったようだ。あちこちで建築ラッシュになったようで、オークションの準備が進んで良かった。
一番の問題は宇宙港の拡張で領都の北側が広がったので、他の領地の貴族から方法の問い合わせが殺到している件だ。領民は身分差で有耶無耶にできるが、他の領地の貴族は邪険にできないので俺は執務室に呼ばれた。剣聖も着いて来てくれた。
「ソータよ。結界のモニュメントがあったはずだが、どうやって移動したのだ?」
俺が運動魔法と剣聖の身体強化のゴリ押し技を説明すると、魔石伯は頭をかかえた。
「そんなものお主達にしか出来んではないか! それに結界が広がったのであろう。結界を維持する魔素消費量が多くなったので、領都で使える魔素が少なくなってしまったのではないか?」
「逆に使える魔素が増えたはず。モニュメントの魔法陣を積層魔法陣に組み替えたのと俺の結界魔法イージスの方式にしたので、結界を維持する魔素量は半減した。これは全ての世界樹に適用したので全ての都市で半減している」
「す、凄い事をさらっと言いおった! は、半減じゃと?」
「信用できないなら世界樹に聞いてみれば? ほら感覚共有」
俺はこの部屋にいる魔石伯と家令のディスペンサー、剣聖を感覚共有した。
「世界樹の銀、伯爵に結界維持の魔素消費量が半減したのを疑われたんだけれど」
『ソータ様。ピーク時で半減なのでもっと減っていますよ』
「どういう事?」
『ソータ様の眷属のミネルヴァの仮想敵が魔人に設定しているようで、常に魔人からの防御をしている訳ではないので、いつもは結界の出力を落としていますので』
「ああ、いつもはパッシブ・モードで監視しているだけなのか。じゃあもっと魔素に余裕あるね。世界樹の銀、ありがとう」
『こちらも素晴らしい結界になって楽になったので感謝しております!』
「今までの都市計画の苦労は何だったのであろうか……」
「何か問題でもあったの?」
都市には世界樹と結界が配置されていて、これはベトスの民が残したもので今では失われた技術だそうだ。貴族院の領主科で習うそうだが都市で使う魔素は魔法省で厳密に管理されていて、都市に配置されている世界樹の出力を超えないように都市全体で計画的に運用されているようだ。
「魔法を使いたい放題かと思っていたけれど、結構融通が利かないんだね。じゃレビタス車も積層魔法陣にする?」
「この前に玄武様と議論していたやつであるか」
「レビタス車がどうしたのだ?」
俺はレビタス車の魔法陣を改良して、消費魔素を半減までできたことを伝えた。レビタス・バイクを作って乗りたいので、父や剣聖に見せた動画を魔石伯に見せてお強請りする。
「この乗り物を考える段階でレビタス車の魔法陣が効率悪いので、最適化したから書き換えれば消費魔素を半減できるよ。それでレビタス・バイクを作って乗りたいんだけれど、乗り物の許認可ってどうなっているの? 伯爵の許可だけで作って乗れるの?」
「新しい乗り物など帝国の歴史上に現れたことはないが、世界樹の龍脈から魔素を得るのであれば魔法省の管轄ではないか? あと乗り物は航宙者ギルドで免許を管理しておる」
「世界樹の龍脈から魔素を得ようと思っていたんだけれど、面倒くさそうだね……。もう自分で魔素供給するかな」
「魔素症で動かなくなる乗り物なぞ作ってどうする?」
「俺、魔素症にかからないみたい」
「何だと!」
「あと魔素症も治せるよね、爺」
「この前に治してもらって驚いた所じゃ」
「ソータが居れば無敵ではないか!」
「別に何とも戦わないから無敵じゃないし」
魔石伯の領内ならレビタス・バイクを乗って構わないと許可を貰えた。少し話が逸れたので、皆でお茶を飲んで落ち着いた。剣聖が話の方向を修正してくれた。
「他の領地の貴族から問い合わせが来とると言うことは、視察をしたいと言って来とるのではないか?」
「そうなのだ。城に迎賓館の用地を用意して貰ったのは助かったのである。あとは方法の説明が問題だな」
「宇宙船を使って紐で釣り上げて牽引したって言えば良いじゃない。ミネルヴァの計画案の1つがそれだよ。ボツにしたのは母さんの宇宙船が壊れて使えなかったからだし」
「おお、それは妙案であるな。資料もあると助かるが」
「地形改造のサインを貰った時に渡した計画書の中にあるから良く読んでね」
「くくくっ! 儂の孫は策士であるな」
「坊ちゃまが資料をお読みにならないのが悪いと思います」
「それは反省しているのだ。ソータの行動が早すぎて追い付けないのもあるが……。それにしても使える魔素が増えるのは素晴らしいな」
「レビタス車の魔法陣も更新しておく? レビタス車を借りないと出来ないからやってないんだけど」
「この城のレビタス車を貸すのでやってくれ。それでどれくらい使える魔素が増えるのだ?」
「領都で使用しているレビタス車がこれだけあるから、結界の件も合わせてピーク時の6割ちょっと増えるはず」
俺はミネルヴァが試算した資料を収納から渡した。
「全てのレビタス車の魔法陣を書き換えられるのか?」
「できるよね? 世界樹の銀」
『はい』
「使える魔素が増えたのは、他の領地の貴族に説明のしようがないので黙っておくぞ」
「そうだね。誰か気づくまで、ここの領でも派手に魔素を使わない方が良いかもね」
俺と剣聖は執務室を後にすると、ディスペンサーの案内でレビタス車の魔法陣を書き換えて、世界樹にお願いして全てのレビタス車に適用して貰った。
航宙者ギルドに行こうとすると、父と母とマレ婆が帰って来た所に出くわした。今日は母のショッピングに父が付き合っていたようで、父は少し疲れた顔をしていた。レビタス・バイクを組み立てに向かうので行くか父に尋ねると、即答で着いて来てくれる事になった。父からショッピングの荷物を受け取ったディスペンサーと母と婆は城に戻って行った。
「女性の買い物は長いですね……」
「やっと気づいたの?」
「母上の買い物に付き合った事はあったので薄々気づいてはいましたが、姫様で今日は実感しました」
「マレはまだ短い方である」
まあ父は男兄弟しかいないから分からないよね。俺も妻で体験組だから遅い方だったけれど。
航宙者ギルドでレビタス車の免許を取得した。父も持っていなかったので一緒に取得する。地球の自動車とかの免許と違って筆記がなくて実技だけで取得できるのは驚く。聞いた感じだと右側通行の原則だけ守れば良いらしい。レビタス車の運転席に初めて乗ったが、ハンドルじゃなくてスティックのような棒を倒して運転するようだ。2時間くらいで取れてしまったが、交通事故とか大丈夫なのだろうか?
「これ交通事故とか大丈夫なの?」
「交通事故って何ですか?」
「車同士がぶつかったりとかしないの?」
「世界樹が危ない利用をしていると判断すると、魔素の供給を止めて停止してしまいますね」
「うわ。凄くハイテクだった」
魔法陣を読んだだけではそこまで分からなかった。
『マスター。私に運転はお任せください』
『動かすのは楽しいから、運転が面倒くさい時は頼むね』
『了解しました』
俺にはミネルヴァが居るので自動運転が出来るのを思い出す。
ドワーフの貴金属四兄弟の店舗に行くと繁盛していた。父と剣聖が客に見つかると剣舞が強請られる。冒険者ギルド前でこの店の宣伝として剣聖が剣舞を披露したのだが、見られなかった人は店に通っていたそうだ。
「組み立ての間は暇だろうし、外で披露してあげたら?」
「ソータ殿がそう言うのであれば。ホリゾンよ、行くぞ」
「はい、父上」
2人が外の広場で剣舞をしている隙に、レビタス・バイクを組み立てよう。
「ソータ様、助かっただべ」
「もしかして剣聖の出待ちされた?」
「そうだべ。まあ商品は買ってくれるので売り上げ的には良いだべが」
「そうだ。組み立ての前にお願いされていた素材を持って来たんだけれど」
「おおっ! ありがたいだべ」
長男のプラティウムと共に素材置き場に行って、頼まれていた魔鉄とヒヒイロカネのインゴットを大量に収納から出した。材料は鉱石商会から鉄を買って魔素を注入して魔鉄に、銅を買って魔素を注入してヒヒイロカネにした。錬金窯がないとこの工程は無理なので、普通はダンジョンから入手するしかないので希少な金属のようだ。
「凄いありがたいだべ!」
「でもミスリルは素材が普通に出回っていないので、レビタス・バイクが組み上がったら取りに行こうかなと思っている」
「ミスリルも作れるだべか! オリハルコンも持っているだべ?」
「そうだね。ちなみにテクタイトも作れるよ。ミスリルは卸せるけれど、オリハルコンとテクタイトはコストが高すぎだから無理ね。それから作れるのは秘密だからね」
「もちろん他には漏らさないだべ」
俺とプラティウムは作業場に向かうと、四男のキュープラムが待っていた。頼んでいたレビタス・バイクの部品が床に並んでいる。
「ソータ様。途中までは設計図の通りに組み立てて置きました」
「おお、助かるよ」
骨格のシャーシはマギウスチタンで頼んだので組み上がっていた。俺は動力部の魔術基盤を収納から取り出すと、シャーシに取り付けた。魔術基盤はオリハルコンの板に大き目の魔石が組み込まれて最下層の魔法陣が刻まれており、その上にテクタイトの層が上に重ねられている。積層魔法陣がテクタイトに折り重なって刻まれているので、魔素を注入するとキラキラと魔法陣が輝くので奇麗だ。
次についに見つけてしまった石油から精製した、魔素で強化したカーボンファイバーのボディを取りつける。石油は冒険者ギルドで「燃える黒くて粘ついた水」の捜索募集を高額で掲示して貰ったら、ダンジョンに沸いているのを見たパーティが居たので、ダンジョンパーク近くにあると言うので取って来た。魔素があるので燃料としては利用価値がないが石油製品が作れるようになったので嬉しくて、アルグラ念願の女に抱きかかえられる願いを城に居た女性に頼んでやってもらった。始終、アルグラがハイテンションだったので煩かったので後悔したが……。
最後にシートとかハンドルとかブレーキペダル等の細かい部品を取り付けて完成だ。バイザーはテクタイト製で、全体的なボディ色は赤で、浮かぶので使わないが疑似的なタイヤが付いている。ちなみに有名アニメ映画の恰好が良いバイクをモデルにしているが、超能力バトルは想定していない。タイヤが丸く光ったりディスプレイを付けたり、常温超電導モーターの音がしたりと細かいギミックには拘ったが。
レビタス・バイクに乗らずに起動すると浮いたので、横から操作して軽く動作チェックする。正常系は問題ないので、俺の魔素で動いているので離れると魔石の魔素を使ってゆっくりと床に降りる動作をさせたりと、緊急時の動作も問題ないので遠くに出かけようと思った。
外の広場で剣舞をしている父と剣聖の元に向かうと、俺を見つけたので最後にダイナミックな回転技や空中技を披露して舞を終わらせた。歓声と拍手が鳴り響く中に近寄って来て、俺の横にあるレビタス・バイクを感心しながら覗き込んだ。
「完成したのですね」
「赤とは派手な色であるな。儂の髪に合わせてくれたのか?」
「いや、参考にした物が元からこの色だからね。少しドギツイ赤色でしょ。ミスリルの材料を取りに、これで遠くに出かけようと思うんだけれど、ダンジョンだからどちらか着いて来てくれると嬉しいんだけれど」
「「どちらか……」」
流石に3人乗ると厳しいので、どちらかにして欲しい所だ。
「私の方がソータ殿とパーティを組んだのは先ですし、出会ったのも先なので父上は遠慮して下さい」
「ここは老い先が短い年長者を優先して、先に楽しませてくれるのが若い者の務めではないか?」
2人は睨み合ったので余程乗りたいらしい。俺は面倒になったので、後で後悔する提案をしてしまった。
「乗れるなら2人共に乗ったら?」
「良いのですか?」
「儂は乗るぞ!」
「出力的には問題ないはず。ただ3人乗りとか想定していないので、窮屈だと思うよ」
「「そのくらいなら問題ない!」」
仕方なく3人乗りで出かける事にした。剣聖をシートに乗せてその上に俺が乗り、父は俺にお姫様抱っこの要領で横抱きにしがみつく、アクロバティックな曲芸乗りになってしまった。
「そんな乗り方で大丈夫だべか……」
「出力としては問題ないから、これで行ってみるよ。取りあえず冒険者ギルドまで試運転で旨く行ったらミスリルの材料を取りに行く感じ」
「気を付けて行ってくるだべ」
「無茶はしないで下さいね」
プラティウムとキュープラムのドワーフ兄弟に見守られながら、レビタス・バイクで冒険者ギルドに向かった。春先だから良いが父と剣聖に挟まれているので夏だと暑くて無理な乗り方だと思うが、問題なく冒険者ギルドに着いた。受付のお姉さんに東の山を2つ越えた先の名前がないダンジョンに行くことを告げる。何故かギルド長のエレガンターが出て来て説明を求められた。
「ちょっとレアな素材がそこで手に入るんだよね。東の山を2つ越えた先なんだけれどダンジョンの入口が狭い峠に挟まれていて、通り道も狭いので宇宙船やレビタス車で行けない場所にあるやつ」
「ああ、何年か前に発見された名無しのダンジョンですね。魔物が居ない赤茶けた石しかない所だと記録で見ましたが」
赤茶けた石はボーキサイトでアルミニウムの原料鉱石だ。ボーキサイトからアルミニウムを精製して錬金窯で魔素を注入して強化するとミスリルになる。この話は出来ないので、嘘の話をでっち上げた。
「うちの錬金窯がその赤茶けた石を食べたいらしいんだ」
「まあ、そんな石を食べるのね。剣聖もドラゴンスレイヤーも連れて行くのよね? それなら問題ないわ。行ってらっしゃい」
「ありがとう」
取りあえずダンジョン名を赤茶石ダンジョンと名付けたようで、何か面白い物があったら報告する事を約束されて向かうことにした。
筋肉にサンドイッチされている他は山を1つ超えて順調に進んだ。父と剣聖は始終はしゃいでいて、世界樹から魔素供給するレビタス・バイクを作ってくれと懇願された。レビタス・バイクに乗って剣を振り回したいらしい。時々は休憩を入れて2つ目の山を下っている時に悲劇が起きた。
「儂の孫よ、あの峠にダンジョンがあるのではないか?」
「爺、危ないから乗り出さないでよ……クショッン!」
剣聖が俺の肩越しに身を乗り出したので、顎髭が俺の鼻に直撃した。直後、レビタス・バイクが緊急モードになってゆっくりと降下して地面に降りた。レビタス・バイクを降りて調べると、魔術基盤の魔法陣が一部、過負荷に耐えられなくてショートしているのが判明した。
「魔術基盤の魔法陣がショートしているね。もしかしてくしゃみで瞬間的に膨大な魔素が流れ込んだ?」
「それはありえますね。咳とかくしゃみで身体強化が一時的に上がったりするので。あと大きな掛け声とかでも魔素量のコントロールを超えたりします」
「うはっ! 想定外の事態だけど、魔法陣に過負荷対策を追加すれば良いか」
父の助言で問題対策は出来そうなので、レビタス・バイクを収納にしまった。折しも冷たい雨が降り出したので、崖側にあった雨宿りできそうな窪みに避難する事にした。
『ミネルヴァ、魔法陣エディタを起動してくれ』
『はい、マスター』
俺の視覚の中空にレビタス・バイクの魔法陣が現れたので、俺からの魔素の入り口付近に過負荷対策を施した。
「アルグラ召喚!」
「ふひぃひぃぃぃ……」
「何かいつもと様子が違うけど、まあいいか」
俺は魔術基盤をアルグラに突っ込もうとするが、どう頑張っても入らなかった。
「どうしました?」
「アルグラに素材が入らないんだよね」
「貸して下さい」
父が身体強化して強引にアルグラに魔術基盤を入れようとするが、器の上の黒い境界線を越えられなかった。
「儂がやってみよう」
剣聖がかなり本気で魔術基盤をねじ込もうとした。ソニックブームが発生したので自動的にイージスの結界が発生して衝撃波を防いでいたが、それでも器の上の黒い境界線は突破できなかった。
次回の話は翌日の19時になります。
しゃべって武器になる錬金窯は高性能ですね!
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