039話 鎧に着せられている
冬なのに水鉄砲を作った。俺の周りには敵の殲滅力が過剰な人員が揃っているので、敵を無力化して捕縛する能力が欲しいと思ったからだ。実は水ではなくて粘りのない旧ナノ・ゴーレム薬が充填されている。これを人に当てればミネルヴァの管理下に置かれるので、敵対者を簡単に無力化できるのだ。
父はまだマシだが、剣聖に動かれると生きたまま捕らえるとかが難しいので、水鉄砲で補おうと思ったのだ。
「父上! 卑怯です!」
「敵を前にして、そんな悠長な事は言っておれんぞ」
父と剣聖に貸したら中庭で遊び始めてしまった。それを見たスマラとクリスの魔石伯の息子兄弟も貸してくれと遊び出したので、分身ルキウスも巻き込まれてしまった。ついでにスマラとクリスを健康診断したら健康そのものなので良かった。しかし途中から旧ナノ・ゴーレム薬がなくなったので、ただの水を入れてから雲行きが怪しくなる。ちなみに母と婆は編み物中なので中庭には出て来ていない。
クチュンッ!
クリスがくしゃみをしたので、子供達の水鉄砲は中断した。水鉄砲を回収して旧ナノ・ゴーレム薬を充填してから収納にしまう。魔石伯の使用人の女がクリスに駆け寄った。
「あら、坊ちゃまがくしゃみを……」
「ミネルヴァ、外気温は何度?」
「7度です」
「風邪を引くから今日はもう止めておきな。暖かいお風呂に入るように。後で暖かくて甘い飲み物を上げるから」
「「「はぁい!」」」
冬にココアは俺的に定番なので、子供達は使用人に任せるべくココアの入れ方の説明をして粉が入った袋を渡した。残ったら使用人達で飲んでと言ったら、凄く喜ばれた。
俺はまだ遊んでいる大人の問題児2人をどうするか考えた。
「ミネルヴァ、2人を俺の前に整列させて」
「了解しました。マスター」
父と剣聖は一瞬、ビクンと身体を振るわせると、軍隊の行進のように俺の前に歩いて来た。水鉄砲を捧げ持ったまま、足を揃えて気を付けの姿勢を保った。俺が2人の前に手を差し出すと、水鉄砲を渡してくれたので旧ナノ・ゴーレム薬を充填して収納にしまった。2人の身体から水鉄砲を受けた水分が蒸発して湯気が出ている。それでも風邪など引かなそうで騎士は丈夫過ぎるね……。
「こんな感じで、水鉄砲で敵を無力化できるの」
「凄く実感しました」
「これでは言いなりではないか。儂は孫がちょっと怖い」
「父さんと爺は俺と一緒にお風呂に入ろうね」
「この前に一緒に入ったのも水浸しの時でしたね」
「やったぞ! 孫と風呂に入れる!」
「ミネルヴァ送還」
俺達は城の大浴場に向かった。父と剣聖は脱衣所でミネルヴァが同じような動作で服を脱がしていく。2人の衣服を渡されたので、運動魔法で水分だけ一気に蒸発させて乾かした。浴場ではかけ湯をしてから、3人で浴槽に入って温まった。
「いつ、この操り人形状態を解いてくれるのだ?」
「もうちょっと我慢してね」
俺と父は先に上がって父の背中だけ洗ってから、父の身体を操るのを止めた。
『ミルネヴァ、父さんはもういいよ。次は爺を洗う』
『了解です』
「父さん、残りは自分で洗ってね」
次に剣聖を浴槽から出させると、俺は頭から洗いだした。
「こんなに長時間、浴槽に浸かったのは初めてじゃ」
「いつもこの前に見たくらいの短時間なの?」
「騎士はいつ出動がかかるか分からんからな。しかし孫に身体を洗ってもらうのは良い物じゃな」
「今は出動とか気にしなくて良いんだから、きちんと洗ってね。この位しっかりと洗わないと最悪、感染症で大事な所がもげたりするよ」
『ミネルヴァ、爺の拘束も解いて良いよ』
『了解です』
父と剣聖はギョッとして大事な所を確かめたので、お灸はこの位で良いかな。既に浴槽内に居る父の近くに俺と剣聖は座った。
「ふう、敵にも拘束されたことがないのに、孫に初めて拘束されるとは。面白い体験じゃった」
「身体を操ったりするのは、どのくらい持つのですか?」
「そうだね。水鉄砲で撃ちだして当たった薬品の量によるけれど、半日から丸1日くらいじゃないかな。治療したり行動させたりすると効果時間が減るけれど、1度影響下に置ければ継ぎ足せば無期限かな」
「恐ろしいですね。自白とかにも使えるのですか?」
『ミネルヴァ、爺に俺を嫌いって言わせて』
『はい』
「儂はソータ殿の事が嫌いじゃ。考えると虫唾が走る」
「えっ?!」
「待つのじゃ! 儂の口が勝手にしゃべったぞ!」
「そんなふうに嘘の自供もさせ放題。自白の嘘も大抵は見抜けると思うよ。あとは治療ができるって事は、身体の破壊もできるって事だからね。見た目は変わらないけれど痛みだけ与える拷問とかもできる」
「何と恐ろしい薬じゃ!」
「元々はスタンピードでの部位欠損者を治療するために作ったんだよ」
「部位欠損とは、千切れたり、もげても生やせるのか?」
「近くで治療を見ていましたが、手足が生えてきていましたね」
「無敵ではないか!」
「流石に首チョンパとかの即死は無理だからね。手足とかも完全に元に戻るけれど生やすのにかなり時間がかかるし、新しい手足に慣れるまでに時間が必要なのもあるから、決して無茶はしないように」
父と剣聖が急に頷き合って、両隣から俺の肩を抱いて来た。
「何だよ。気持ち悪いな2人して」
「所でソータ殿。生やして元に戻るのは分かりましたが、大きさを変えたりできるのですか?」
「そうじゃ。長くしたり太くしたり硬くしたりできると良いのじゃが」
「え~と……人体の設計図が身体の中にあるんだけれど、それをある程度は無視して大きく育つようにすれば出来るんじゃないかな。やったことないから人体実験になっちゃうけど」
「素晴らしいですね」
「それは僥倖。男のロマンじゃ」
「どこを大きくしたいの?」
父と剣聖は下を覗き込んだ。2人の視線の動きは、俺のも観察されている気がする。
「同じ男だから気持ちは分かるけれど、2人は俺より立派なんだから、それ以上に大きくしなくても良いんじゃないの」
「息子に言われると嬉しいですね」
「孫に言われるのも良いの」
「まったく……。のぼせるから出ようよ」
「そうですね」
「そうじゃな」
俺達は脱衣所で服を着ると、剣聖がお強請り声で言って来た。
「しかしそろそろ誘ってくれても良いのじゃぞ」
「えっ? 爺を何に誘うの?」
「ほれ……ホリゾンとは組んで居るじゃろ。パーティ」
「ああ、パーティに入りたいの? 良いよ。爺も冒険者ギルドに入っていたんだね」
剣聖は首の革紐を手繰り寄せてギルドカードを出し、収納から出した俺のギルドカードと打ち合わせた。
「「パーティを組む」」
2人のギルドカードが重なり合うと、カードの宝石から画面が表示された。パーティ情報に剣聖の名前が載ったので成功だ。剣聖のギルドランクがSに見えるけれど、Aの上があるようだ。
剣聖が拳を出して来たので、自分の拳をぶつけてから腕を組んだ。
「パーティよろしく」
「こちらこそじゃ」
「ランクSって見えたけれど、Aの上があるの?」
「上級者のAを極めるとSになるそうです。両手の指で数える位しかいませんけれど」
「へぇ。爺は凄いんだね」
「長くやっとるからな。しかし本当に儂の2つ下の四十歳なのが驚きじゃ。孫の息子が大人だったのを見とらんかったら、ギルドカードの情報でも信じられなかったが」
「孫の息子が大人?」
俺にはもう直ぐで3歳になる娘しか居ないけれど?
「男の大事な所の隠語ですね」
「ああ、そう言う事! 変な所で年齢を悟らないでよ」
剣聖はニヤリと笑うと、俺の肩をバシバシと叩いた。でも俺もおっさんなので親父ギャグは嫌いじゃない。俺達は居間に向かいながら雑談を続けた。
「そう言えば2人は鎧を着ているけれど、もうボロボロだよね。新しいのは支給されないの?」
「随分前に申請はしていましたが音沙汰なかったですね」
「儂はこれに愛着があるので壊れるまで使う予定じゃ」
「ドラゴンの素材が余っているから鎧が欲しくない?」
「「欲しい!」」
居間に入った時に2人の声が重なったので、母と婆はビックリして俺達を咎めた。
「大きな声をだして驚いたではないですか」
「子供達が起きてしまいますよ」
良く見るとツインテールフォックスの敷物の上で子供達3人が寝ていた。1人は俺の分身だからどうでも良いけれど、スマラとクリスは起こしたら可哀そうだ。
「ああ、ごめんね。2人の鎧をドラゴン素材で作ろうと思って、欲しいか聞いたら興奮しちゃったみたい」
「確かに見窄らしくなっていましたね。ソータさんからのプレゼントですか?」
「うん」
「私達には何も頂けないのかしら?」
母と婆はニコニコと俺を見つめて来た。こちらの石鹸が気に入らなかったので作った、洗顔クリームを2人に渡して洗顔してくるように居間から追い出した。2人は戻ってくると顔を輝かせていた。
「ソータさん! この洗顔クリームください!」
「私も欲しいです」
「うん、それはあげるよ。次からが本番なんだけれど」
母と婆をソファーに座らせて、水属性ポーションを入れて作った化粧水と美容液を2セット、収納から出して2人の顔に塗った。ポーションは角質層を無視して体内の奥まで行き渡るので顔の細かい傷を修復しつつ、肌の潤いとハリを与える配合にしてある。たぶんここまでは他でも作れると思う。
「肌が潤って凄いわ」
「私もアーラ様のような若い肌になりました!」
「それもあげるよ」
それから商業区の鉱石商会で白色絵具の材料のイルメナイトを見つけたので、酸化チタンを取り出すことに成功している。それで化粧品を作ってしまった。どう考えてもこれの基礎素材は俺とアルグラにしか作れないので、女に見つかると化粧品工場にされそうで嫌だったので隠していた品だ。乳液、ファンデーション、パウダーの3点セットを2個収納から出した。順番に母の顔に塗っていくと、婆の驚く声が上がった。
「アーラ様、粉雪のような、キメの細かい白い肌になっています!」
「ええっ! 見たい」
俺は手鏡を収納から出して母に持たせた。
「まあっ! 凄く白くて奇麗……」
「日焼けも防ぐよ」
酸化チタンは紫外線も反射するので日焼け対策もバッチリだ。婆にも母と同じように塗ったら、母から渡された手鏡を覗き込んで喜びの声を上げた。
「私が白い肌になるなんて夢のようです!」
「それもあげるよ。伯爵に見つかると2人の分が無くなっちゃうから気を付けてね。塗る順番は瓶に番号が書いてあるから守るように。俺達は鍛冶屋に行ってくるから」
「「ありがとう、分かりました。行ってらっしゃい」」
母と婆は化粧品の談義を始めたので、俺達は居間を後にした。
「あんなものまで作ったのですか?」
「宇宙船の素材探しをしていたら、中間素材から出来ちゃったんだよ」
「女性陣の機嫌を取るには、孫に相談するのが早そうだのう」
「女性に物で機嫌を取るのは先延ばしの最終手段だよ。絶対に機嫌が悪くなった原因は覚えているから、後でしっぺ返しくるからね」
「儂の体験を見たのか?」
「俺も痛い思いをしたことがあるから、そんなの見なくても分かるから。父さんも母さんに注意ね」
「怖そうなので、肝に銘じます……」
冒険者ギルド前からレビタス車に乗って、東にある職人街のドワーフで貴金属四兄弟の店舗に着くと、俺達は熱烈な歓迎を受けた。
「来るの待っていただべ。儂達の神様がご到着だべ」
「偉い歓迎ぶりだけれど、どういう事?」
商談スペースに連れられて無理やり座らされ、四男のキュープラムにお茶まで出された。長男のプラティウムが対面に座って語り出した。
「実は売ってもらっているスピリタスって酒を工業者ギルドで自慢してしまったら、姉貴達にバレて吊し上げ食らっただべ」
「ああ、確か母さんの宇宙船に居るんだっけ。お姉さん達」
「そうだべ。そりゃしつこくネチネチと姉貴達の方がソータ様に近いのに、何で儂達が売って貰えるのと嫌味を言われ続けて、この頃は胃が絞めつけられとる気分だべ。女は怖いだべ」
「売るのは問題ないんだけれど、お姉さん達と面識ないんだよね。船内で見かけた気はするんだけれど、跪かれていたから顔も覚えてない感じ。貴金属四兄弟で注文を受けて横流ししたら良いんじゃないの?」
「横流しだべか?」
「卸値は秘密にしといて、利鞘を乗せてお姉さん達に売ったら儲かるよ」
「ソータ様は実は悪魔だっただべか?」
「私も時々そう思います」
父はそう言って笑った。商売の基本だし問題ないと思うよ。貴金属四兄弟が悪さをしたら卸値の秘密がどうなるかは言わないで置いた。
「そうして貰えるなら、ありがたいだべ。それで今日は何用だべ?」
「こっちの剣聖の息子のホリゾンは覚えているでしょ? 今日は剣聖も連れて来たから、2人の騎士の全身鎧と略式鎧を作って欲しいんだ」
「「「剣聖!」」」
姉達の件で頭が一杯だったのが片付いたので、ドワーフ兄弟は剣聖が来ている事にやっと気づいたようだ。
「全身鎧も頂けるのですか?」
「父さんと爺が着ているのを見たいんだよね」
「嬉しいですね」
「なんて良い孫じゃ」
「鎧をくれる神様なんてありがたいだべ。こっちもお陰様でホリゾン様がドラゴンスレイヤーになったので、その剣と盾を作った店として繁盛してきただべ」
そう言えば前は店内に客が居なかったが、今日はそれなりに客入りがあって、三男のアルゲントゥムが接客をしている。客が剣聖を指さしていたりするので、また評判が上がるかも知れない。
「今回の全身鎧は鋳型が欲しくて、略式鎧は金型を作りたいのでその鋳型が欲しいかな。主要パーツの金属の材料は持ち込むので、それ以外のパーツは汎用品を用意してくれれば良い。2人分で4着も作るから大白金貨1枚でどう?」
「酒を沢山用意できるなら半額でも良いだべ」
「置き場所ある?」
「こっちだべ」
俺はプラティウムに店の奥の倉庫スペースに連れて行かれた。収納から十二樽のスピリタスを一気に出す。
「お姉さん達含めて6人だから1人2樽なら喧嘩しないでしょ?」
「収納にこれだけ入るとか凄いだべ!」
実はまだ六十樽も在庫が収納に入っているのは言わない事にした。商談スペースに戻って弟達に樽数を伝えると大喜びしていた。俺なら1樽を1年かかっても飲めないから、ドワーフは酒で動いているのだろうか?
小白金貨5枚分をギルドカードで前渡しようとすると、父と剣聖が支払おうとしたので俺に奢らせてと押し通した。母と婆にもプレゼントしたので納得はして貰う。
採寸は長男のプラティウムが剣聖を担当し、次男のアウルムが父を担当するようだ。
「オーダーメイドは初めてじゃが、こんなに触られないと作れんのか?」
「剣と盾の時も結構、触られていましたね」
「防具は身体に合わせるのでサイズが重要だべ。手足の肘と膝の先は型を取るので無駄毛を剃るだべ」
「あ、俺やりたい!」
アウルムが石鹸を泡立てた器と刷毛、毛剃りナイフを用意してくれた。父は若いから腕の無駄毛はあまりないので剃らなくて良さそうで、足は脛毛を剃った。
「くすぐったいですね」
「それなら触覚を止めようか」
『ミルネヴァ、父さんの足の触覚を止めて』
『止めました』
「触った感覚がなくなって怖いですね」
「終われば元に戻すよ」
『マスター。いっその事、私がナノ・ゴーレム薬で無駄毛を抜きましょうか?』
『これはね、モフモフと一緒で感触と行為を楽しみたいの』
『それは失礼しました』
父が終わったので剣聖の番だ。剣聖は腕も足も剛毛なので剃りがいあって楽しかった。
「ツルツルになったね。分かっていたらさっきのお風呂で剃って来たのにね」
「自分の足じゃない感じですね」
「子供の頃に戻ったようじゃ」
2人の手足を石膏で型取りする間に、頭に布を被せられて粘土で頭の型取りを行っていた。説明を聞くと手足は造形が複雑なので石膏が良くて、頭は球体に近いので粘土で十分なようだ。2人の型取りが終わったので、ミネルヴァに剃った無駄毛を生え変わらせた。
『ミネルヴァ、2人の無駄毛の復活を』
『了解ですが、無駄毛の復活とは言葉に矛盾があって、人間とは面白いです』
『俺もそう思うよ!』
「「生えて来た!」」
俺は収納から鎧のデザイン画と設計図を机の上に乗せた。それを見た父と剣聖とドワーフ兄弟が目を見張る。
「格好良い鎧ですね」
「儂達の動きを邪魔しないように出来ておるように見える」
「これは作り甲斐がある鎧だべ」
「腕が鳴ります」
某RPGのデザインをベースに、ミネルヴァに物理シミュレーションさせて完成した物だ。RPGの仲間に良い装備を着させる感覚で楽しい。
「俺も作って着てみようかな……」
「絶対に動けなくなるので、止めて下さい」
「動けなかったら儂が抱っこするぞ」
「作って着ても、ソータ様は線が細いので鎧に着せられているだべ」
「収納の肥やしになるような」
皆からの言われように、俺は1人で憤慨した。
次回の話は翌日の19時になります。
蒼汰君は遠い銀河系で変な日本語を広めてしまう……。
作品が気に入って頂けましたらログインして、ブックマークをして更新通知をオンにすると便利です。
また評価して頂けると作品作りの励みになります。




