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【完結】神様に元の世界に帰りたいと願ったら身体を要求された  作者: 仲津山遙
第1章 幼少期編

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038話 闇の闘技場でパパを働かせる悪い息子[後半]

「ブルネイズさん、出場の準備をお願いします!」


 闇の闘技場での父の偽名が呼ばれて、出番が来たので雑談は終了だ。俺達は出場ゲートに向かった。闘技場は中央に円形の舞台があり、そこで戦うようだ。観客席はその周りを囲んでいて、立って警戒している剣聖が見えたので母達の居場所は直ぐに分かった。母が手を振って来たので、俺達は振り返した。

 父は舞台に上がって盾だけ構えていると、初戦の相手が現れ、ナイフを構えている牛か馬の獣人男だった。遠くからだと分からないので、鑑定して見ると馬人のようだ。試合を進行する係の男が出場者を紹介して試合が始まった。


「ブルネイズは初挑戦です。盾しか構えていないのですが、大丈夫でしょうか? 対するクルトはナイフで素早い攻撃が特徴で、前回は3回戦まで勝ち残っています。……試合開始!」

「初戦で俺様に当たったのは運の尽き……うわっ!」


 父は面倒くさそうに盾をクルトの方に振り回すと、その風圧でクルトは場外に飛んで行った。観客席の方も風で色々と飛ばされていた。ドラゴンとか剣聖の攻撃を受け流せる盾の威力は凄まじいとしか言いようがなかった。真面(まとも)に正面から殴打(おうだ)を盾で受けたら、白虎の蹴りのように身体の部品を巻き散らしながら飛んで行ったと思う。

 場内がシンと静まり返っていたが、進行係が我に返って父の勝利を告げた。


「……ブルネイズの勝利です! 何と凄まじい盾の風圧でしょうか!」


 場内が歓声に包まれたので、父は母に手を振りながら戻って来た。


「盾しか構えていなくてびっくりしたよ」

「たかが賭け事の試合で殺すのは(しの)びないので、しばらくは盾で行きます。私の片手剣は両刃なので手加減が難しいので」


 父は盾だけで3戦目まで勝って、4戦目の前の休憩時間に進行係が飲み物のコップを持ってやって来た。


「決まりだ。一口で良いので飲め」


 父の目の前に飲み物のコップが付き出された。父は俺を見たので頷いて、躊躇なくコップの飲み物を飲み干した。


「良い飲みっぷりだ。勝利を期待しているよ」

『ミネルヴァ、何の毒だった?』

『一番近いのはイソギンチャク類が生成するパリトキシンに似ていますが化学式が一部違います。おそらく何かしらの魔獣か魔物の毒と思われます。毒としての仕組みは変わらないので、細胞のナトリウム接種に障害を引き起こす毒になります。放置すると2時間後に一番確率が高い死亡原因は、肺の筋停止による呼吸障害か、心臓の筋停止による循環障害と思われます』


 俺の視界に父が摂取した毒の化学式が表示された。横にパリトキシンの化学式も表示されたが、確かに似ているが若干違っている。


『隔離と分解は問題ない?』

『はい。既に隔離してから致死量未満に分解致しました』


 進行係が去って行き、3回戦で負けた羊人の女が心配そうにやってきた。


「あんた飲んじまったのかい」

「忠告と心配をありがとう。確かに毒が入っていたね。2時間後くらいに呼吸停止か心停止みたい」

「ちょっと大変じゃないかい!」

「もう毒は分解したから問題ない」

「それを先に言ってください。少しヒヤッとしました」

「そんな事が出来るのかい!」

「でも良い飲みっぷりだったね。信じてくれていたんだね、ありがとう」

「私の神様ですからね」


 父が俺にニヤリと笑いかけた。


「羊人のお姉さん。お礼だけど俺に手伝える事があったら願いを聞くよ」

「どうせ何も出来やしないよ」

「言うだけ言ってみたら? もしかしたら奇跡が起こるかもよ?」

「……病気の娘を助けたいんだ。神殿では小白金貨が必要だと言われた。私は娘が生きている内に稼げるか自信がない駄目な親だよ」

「じゃ、休み時間のうちに会いに行こう!」

「ちょ、ちょっと待ちな。本気でどうにかできると思っているのかい」

「即死じゃなければ何とかなるんじゃないかな」

「本当に最初見た時から不思議な子だね。まだ下の毛も生え揃ってないような顔をして」

「ええっ?! そんな風に見えるのか……休憩時間が終わっちゃうから早く案内してよ」


 訝しがる羊人の女はオビスと名乗った。娘はアモルと言う名前で、(せき)がずっと続いている状態のようだ。俺はオビスの家に着くと親子2人を認識阻害から外した。


「あれ、少し歳を食ったように見えるけど、ブルネイズと変わらないくらいかい?」

「認識阻害の魔法をかけていたんだ。俺はソータで、こっちはホリゾン。秘密にしてもらえると助かる」

「ホリゾンってドラゴンを倒したって言う剣聖の息子さんかい! 道理で強いと思った。しかもソータって言えば獣人の神様みたいな人だって聞いたよ。伯爵の愛人なんだろ?」

「ブフッ!」


 父は(たま)らずに噴き出した。ちょっと市井(しせい)での俺の評判も気になるが、まずは病気の治療が先だと我慢した。


「はいはい、雑談はおしまい。ちょっとヒヤッとするけど我慢して」


 俺は矢継ぎ早に親子2人に新ナノ・ゴーレム薬をかけた。


『ミネルヴァ。アモルちゃんは何の病気?』

『百日咳ですね。あといくつかの合併症を引き起こしているので全て治療します。それから栄養が足りていないと思われるので、時間短縮のために新ナノ・ゴーレム薬を追加で2本お願いします。栄養が足りてなくて未発達な部位を健康な状態にします』

『これでいいかな』


 アモルに2本追加で新ナノ・ゴーレム薬をかけた。自分の娘もこのくらいなんだよなと、感傷に浸りながら頭を撫でた。


『お母さんのオビスはどう?』

『古傷を含んで外傷は完治しました。病気はないですが栄養失調なので、こちらも時間短縮のために新ナノ・ゴーレム薬を追加で1本お願いします』

「ちょっと2人共に栄養失調だってよ。食べるのを削るのは止めてね」


 俺はオビスに1本追加で新ナノ・ゴーレム薬をかけた。


「娘を治療したかったので金を貯めていたのさ」

「そうだろうけど、アモルちゃんはそのせいで合併症と言って、身体に悪さする見えないくらい小さな悪魔に取りつかれていた」

「何だって!」

「落ち着いて。咳が止まったでしょ?」

「確かに。こんなに長い時間、咳が出ないのはしばらくぶりだよ」

「アモルちゃんは百日咳と言う病気と、その他の合併症だったので治療した。オビスは古傷が治ったでしょ?」

「ええっ? 私も直してくれたのかい。……左腕の痛かった傷跡がなくなっているよ!」

「ママ……」

「アモルっ!」


 アモルが起き上がったので、オビスは抱きしめた。


『怪我や病気は完治しました。通常の生活を続けて問題ありません』

『ありがとう、ミネルヴァ』

「もう通常の生活を続けて問題ないよ。お腹が減ったから何か食べようか。ホリゾン、カレーセットが余っているから、それでいい?」

「しばらくぶりなので食べたいですね」

「ほら、オビスとアモルちゃんも食べなよ」


 俺は収納からカレーセットを取り出して盛り付けした。室内がカレーの匂いに包まれて、親子2人が(よだれ)を垂らした。


「治療までしてもらって、こんなご馳走までもらって、本当に獣人の神様なのかい?」

「ちょっと神殿に思う所があったから皆を治療しただけで、別に獣人限定って訳でもないよ。それに神様なんて呼ばれるほど大層な事をしてないし」

「美味しい!」

「それは良かった! 一杯食べて大きくなりなよ」

「ありがとう。お兄ちゃん!」


 俺はアモルの頭を撫でた。俺達は闘技場に戻り、羊人親子はホリゾンの観戦をすると言うので、ドーナツを差し入れした。


「ブルネイズに賭けときな」

「そうさせてもらうよ。何から何まで世話になって、どうやって恩を返せば良いやら……」

「夕方になったら一騒動あるから、その後にやってもらいたいことがあるんだけれど」

「変な事じゃないだろうね」

「まっとうな仕事を斡旋(あっせん)するよ」

「まあ、あんたの事だから信用しているけれどね」


 父の4戦目も盾だけで圧勝だった。次の5戦目で決勝戦なので注意が必要じゃないかなと思ったら、父は超硬合金アダマンタイトの片手剣を抜いて構えた。相手は剣聖よりも年を食っている赤い斧使いの男だ。赤い斧なので鑑定して見るとヒヒイロカネで出来ているようだ。超硬合金アダマンタイトの方が硬いので負けるとは思わないが、父は油断ならないと片手剣を使う気になったのだろう。

 進行係が決勝戦の開始を告げた。


「無敗のセキュリスの登場です! 対するブルネイズは初挑戦で決勝まで勝ち上がって来ました。今日は初めて片手剣を構えたのが注目です。……試合開始!」


 父は開幕に盾の風圧で牽制(けんせい)してみたが、セキュリスは身じろぎもせずに()えた。今までよりも風圧を上げたようで、観客席は大変なことになっていた。母の方にも風が向かったようで、風に髪がかき乱されたのを怒っているようで、父は母に盾を掲げて謝っていた。

 父の牽制が終わると、セキュリスが間合いを詰めて斧を連続して振りかぶった。父は身を躱したり、片手剣で弾いたり、盾で受け流したりしながら片手剣でカウンターを狙っている。


カンッ、ゴンッ、ガキーンッ!


「試合前の飲み物は旨かったか?」

「貴方は何が入っているか知っていて試合をしているのですか?」

「さて、何のことやら。お前が動けているのが信じられないがなっ!」


 セキュリスが隙を見つけたのか、父の右側に回り込んで斧を振り下ろした。父の右脚に斧が掠って負傷したようで血が飛び散った。


「ミネルヴァ!」

『止血は完了しました。ただナノ・ゴーレムの残量が足りないので完治までは無理です』

「毒で使ったからか! 失敗した」


 俺は焦って回復魔法を飛ばそうとするが、流石に場外から回復魔法が飛んだら問題になると思い直して我慢した。


「坊主は右脇が甘いんだよ。左は盾でがっちり守られているが、攻撃に転ずると右脇がお留守になる」


 セキュリスは挑発するように言い放った。確かにドラゴン戦の時も右脚を負傷していたので、当たっているのかも知れない。


()えて隙を残しているのですよ。カウンターを狙うには隙がないと動きが読みにくいですからね。ただ今のように隙で誘ったつもりが技量や力業で上回られると弱点になるのが分かりました。授業料として特別に剣聖の技を見せますよ。言い残す事はないですか?」

「ハッ! 剣聖にでもなったつもりか。やれるものならやってみな。返り討ちにしてやる!」


 父は盾を投げ捨てると、片手剣を右側面に両手で頭の位置に持ち、先端を正面に向けて構えた。


「ヤバイ、ミネルヴァ! 観客席をイージスで守れ!」

『了解しました』


 父の剣の構えは剣聖の構えにそっくりだった。父が消えたように見えた瞬間、轟音が場内を駆け抜け、土煙で見えなくなった。俺は時間遅延で見ていたが、父が剣聖と同じような速度……いや、剣聖よりも格段に速い速度でセキュリスに突っ込んでいるのが分かった。セキュリスは表情を変える間もなく血飛沫を上げて粉みじんになってしまった。


『ミネルヴァ、速度は?』

『平均で音速の十倍で、マッハ十を超えました。最大瞬間的にはマッハ十二です』

『剣聖の超本気は?』

『マッハ9が最高値でした』

『ハハハ……。剣聖を超えているのか』

『イージスは2層まで破られましたが、観客席は無事ですのでご安心下さい』


 土煙が収まると無事な観客席が見えたが、悲鳴が飛び交い避難する人が出口に殺到しているのが見えた。母はニコニコしながら父に手を振っていて、剣聖は何故か悔しがって地団駄(じたんだ)を踏んでいるので婆に宥められている。

 場内は抉れて使い物にならなくなっているし、父は片手剣を納刀してから盾を拾って俺の所にやってきた。近くに居た涙目の進行係に尋ねる。


「セキュリスは粉みじんにしてしまったが、私が勝利で良いだろう?」

「は…い……」


 進行係は化け物でも見るような感じで、震えながら父に勝利を告げると、気を失ってしまった。


「回復」

「ありがとう。ソータ殿」


 俺は父の右脚を回復した。


「やりすぎだよ父さん」

「セキュリスは毒の飲み物の件を知っていて試合をしていたようで、更に私の隙を指摘されてイラッとしてしまいました。私は未熟者だと言う事ですね」

「イージスがなかったら観客にも被害が出ていたよ」

「そこは息子を信じていました」

「2層も突破されてミネルヴァが不機嫌なんだけれど」

「凄く硬くて弾力性のある壁に当たった感触がしました。おそらくそのまま突っ切っていれば破壊できたかも知れませんが、観客の事を考えて切り返した感じですね」

『マスターの一族は化け物ですので、今後は基準から除外します』

「ミネルヴァに化け物扱いされたけれど?」

「強いという事ですよね? 光栄ですね」

『……』

「しかし剣聖の技を使えたんだね」

見様見真似(みようみまね)ですが旨く行きましたね。今までは剣が耐えられなかったので断念していたのですが、この剣は素晴らしいです」


 父は腰に差している片手剣の柄に手をやって撫でた。


「後でメンテナンスするね」

「お願いします」

「取りあえず優勝の賞金を貰って、掛け金の配当を換金しないと」


 俺は収納から新ナノ・ゴーレム薬を出して進行係を起こそうとすると、武装した集団と共にオーナーらしき金の装身具を一杯付けた男が俺達の前に立ちはだかった。


「お前がブルネイズか! この落とし前はどう付けてくれるんだ!」

「賞金を渡しに来たにしては物騒ですね」

「お前は毒で死んでいるはずだし、何故ピンピンしている! 試合は無効だ。どういうカラクリか知らんが、試合場を滅茶苦茶にしたんだ。奴隷落ちで死ぬまで働いてもらうぞ!」

「試合場の修理費くらいは出すつもりだったけど、試合が無効って賞金も貰えないし、掛け金の配当も貰えないの?」

「当然だ!」


 やはりゴネて来たようで、予想通りの展開に俺はほくそ笑んだ。


「儂らを通してくれ」

「何だお前らは!」


 剣聖が母と婆を伴って出場者ブースに入って来た。もう1人居て軍団長も一緒に入って来る。安宿の男も見え、オビス親子と父に1戦目で負けたクルトが、室外から様子を伺っているのが見えた。


「ソータ殿、そろそろ認識阻害を外されたらどうじゃ?」

「そうだね。ブレイク・マジック」


 俺達の認識阻害が解けると、オーナーは顔が青ざめた。


「剣聖にその息子、……伯爵の愛人?」


 その言葉に父は苦笑し、俺を知る者は爆笑した。母にも笑われて悲しい。


「その呼称は撤回して欲しいけれど、今はいいや。軍団長、状況を報告」


 俺は収納からマギウスジェム領の統帥権の錫杖を取り出して手に持った。軍団長は敬礼してから報告を始める。


「代理将軍閣下、部隊による制圧が完了致しました。こちらが帳簿の原本です。関係者の自宅で親族を拘束しております」

「ご苦労。この者達を脱税で拘束せよ」

「ハッ!」


パンッ! パンッ!


 軍団長が柏手を2回打つと、出場者ブースに騎士が突入してきてオーナーと気絶している進行係、武装した集団を拘束した。


「何かの間違いだ!」

「もう少し平和的に解決したかったんだけれどね。俺的には脱税はどうでも良いんだけれど、父さんに毒を飲ませたのは許せない。今までに何人、毒で殺した?」

「代理将軍閣下。こちらが過去の出場者名簿です」


 軍団長に渡された出場者名簿をパラパラと捲って見た。5年間を月2回開催しているので、百二十名弱が犠牲になっているようだ。


「母さん。脱税の刑罰は?」

「え、私に聞くのね。貴族院の試験を思い出すわ……。脱税額の追徴(ついちょう)課税含めて満額収めれば、奴隷落ち半年って所かしら。追徴課税を納めなければ、その残額によって刑期延長よ。ここだと奴隷は鉱山送りかしら」

「平民が騎士爵に対する殺人未遂は?」

「平民が貴族に害をなしたら未遂でも死罪確定ね。連座(れんざ)が適用されるわ」

「連座って何?」

「3親等までの親族に同じ刑罰が適用されるのよ」

「うわ、厳しいね」

「百二十名弱の毒殺疑惑は実証が難しいかな。こちらは土葬? 火葬?」

「基本は火葬だけれど、貧民は火葬の費用が出せなくて、そのまま埋めたり川に流したりするそうよ」


 死体を集めて新ナノ・ゴーレム薬かアルグラに突っ込んで調べれば毒の特定は出来そうだけれど、科学的な調査の技術的な根拠が説明不可能だし、平民の俺では身分的に押し通せないと思った。脱税と父への殺人未遂で責めるしかない。


『ミネルヴァ、刑を決めたいんだけれど、追徴課税を資産で相殺できそうか?』

『無理ですね。法例に照らし合わせると刑期の延長は十年を超えます』

執行猶予(しっこうゆうよ)の制度はある?』

『あります』

『ありがとう』

「じゃそこのオーナーは、貴族に対する殺人未遂と脱税の罪で、奴隷落ちと死罪執行猶予十年ね。ただし最初の1年間は、ここの経営を助けるように。親族は刑期半分で同じ」

「十年……そ、そんな馬鹿な……」

「そこの気絶している進行係は共犯なので、奴隷落ちと死罪執行猶予8年で。オーナーと一緒で最初の1年間はアデトさんを助けるように。

 武装した集団は金で雇われただけのようだから、罰金刑の大金貨3枚で払えなかったら奴隷落ち3ヵ月って所かな。書類にサインしてね」


 俺は収納から予めアルグラとミネルヴァで作って置いた書類に、刑期を書き込んで机に並べた。奴隷契約書もあるが犯罪奴隷なので相手の同意は必要ない。他には土地施設や資産凍結の同意書や、営業許可の譲渡同意書等、多岐に渡る。軍団長に脅されるようにしてオーナーは書類にサインした。武装した集団は渋々、軍団長にギルドカードで罰金を支払っていた。

 俺は手招きをして安宿の男を呼び寄せる。何故に自分がと疑問の顔を浮かべながら、俺の近くに寄って来たので小声で囁いた。


「えーと名前はアデトさんだっけ? 闘技場の経営に興味ない?」

「はっ?!」


 冒険者ギルド前で雑談してからアカシック・レコードで調査済みだが、このアデトが働いている安宿はオーナーが別にいて、アデトは給料で働いている雇われオーナーだ。独立したいようだが金が貯まらずに苦労していると愚痴っていていたが、経営手腕には問題なかったので、今後の闘技場の経営を任せたいと思っていた。


「闘技場は領の資産になるけれど、別に土地や建物含めて経営者になりたかった訳じゃないでしょ? 今後は公営になるけれど、伯爵には俺から言っておくからオーナーをしてくれると助かる。俺、伯爵の愛人らしいからゴリ押しできると思うよ」

「何か裏があるんじゃないのか? お前に得がなさすぎる」

「儲かっているんだから潰すの勿体ないじゃん。はいこれ、過去5年間の帳簿。税金を真面目に払っても結構儲かると思うよ」


 俺はアデトに帳簿を渡した。アデトはしばらく時間をかけて、じっくりと読み込んでいた。


「凄い……やってみたいが怖い」

「この契約書を見てもらえば分かるけれど、過失の損害以外は保険で賄われるから、報酬以上の責任を問われる事はないよ。あと賭場(とば)なのでどうしても荒事があると思うので、腕っぷしは申し分ないスケットを用意してある」

「オビスさんと、1戦目で負けたクルトさん来て!」

「あたいに何か用かい?」

「おい、ちょっと待て! 負けたって言っても剣聖の息子でドラゴンスレイヤーは反則だろ」

「オビスさんは警備員の隊長ね。クルトさんは副隊長でお願い。これが雇用契約書」

「「えっ?!」」


 2人は字が読めないようなので、俺は読んであげた。


「良すぎる条件だけど、間違いない?」

「こんなに貰えるならやるぞ」

「伯爵にはゴリ押しするので、それで間違いない。新オーナーも良いよね?」

「……夢を見ているようだ。私で良いのか?」

「強制執行後の混乱を治めるにも、適任だと思ったからね」

「魔法の調味料のお前に賭けるよ!」


 アデトはサインし、オビスとクルトは代筆して血判を押してもらった。


「ソータさん。用意が良いのだけれど、契約魔法に神官の立ち合いが必要よ」

「姫様、ソータ殿の規格外を体験する時ですね」

「契約を承認する!」


 俺は契約魔法を発動して、神官立ち合いの承認を行った。書類が浮かび上がり、俺の周りをクルクルと回ってから、元の位置に戻る。人との間の契約なので、アルティウスとしての承認は必要ない感じだ。


「うそよね! 神聖魔法なのに……」

「儂も驚いた」

「私も初めて見た時は驚きました。ソータ殿が居れば神殿は必要ありませんね」

「そんな事ないよ。数で責められるとどうしようもないし、知り合いにしか使う気ないからね。

 軍団長、これが刑の執行書。この2人の親族に奴隷紋(どれいもん)が付いたことを書類と一緒に確認してね。税の強制執行関係の書類はこっちなので、税務官を立ち合わせて執行した後に財務省に提出よろしく」

「畏まりました。ここまで用意頂き大変に助かります」


 俺は軍団長に書類を渡した。元オーナーと進行係の首に、鎖が巻き付いたような奴隷紋が浮かび上がったのを確認する。


「公営化の手続きは俺が伯爵にやらせるから、アデトそんは元オーナーと進行役を使って、ここの事を覚えるように。雇用契約書の写しは、それぞれに渡して置く。軍団長、掛け金の配当の払い出しとか止めてないよね?」

「はい。窓口は通常通り営業しています」

「結構。賞金を受け取りたいんだけど、どうするの?」

「いつもは進行係が窓口に連れて行っているわね」


 オビスが教えてくれたので、奴隷になった進行係と一緒に、俺と父は窓口に向かった。ギルドカードで受け取れるようで、額を見て父は感嘆の声を上げた。その横で俺は掛け金の配当を払い出してもらう。


「大白金貨を頂けました!」

「うわ、8倍に下がったのか……。もう少し行くと思ったんだけどな。大白金貨4枚にしかならなかったよ。今回は面倒だったから伯爵からお小遣い貰ってもいいな」

「ちょっと待って下さい! 優勝した私より稼いでいるじゃないですか! しかも伯爵からも巻き上げるつもりですか?」

「脱税を見つけたんだから、報奨金くらい貰っても罰は当たらないよね。それに元手の掛け金が高かったんだよ。父さんも賭ければ良かったのに」

「賭ける金がなかったからパパは働いたのに、それに便乗して儲ける悪い息子ですね……」

「結果として稼げたから良いじゃん」


 俺は笑いながら、父の肩を叩いて慰めた。

次回の話は2025年1月16日の19時になります。

RPGじゃなくても仲間の強化は楽しいですね!


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