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003話 鑑定は神羅万象の味

(変身)


 俺はオッサンになって、全裸でベビーベッドの上に胡坐(あぐら)をかいて座るという体験を、人生初めて経験した。


 母アーラと婆が授乳とオムツ替えの時の他は寝室に来なくなったので、赤子のルキウスから前世?の蒼汰に身体を変更したら、前述の状況になっていた。ベビー服とオムツは蒼汰に変わる前に脱げたようで、身体の下敷きになっている。ルキウスの小さな身体から直接に蒼汰に変わる訳ではないようで、破れて使い物にならなくなる事態が避けられたのは幸いだった。


『わぁっ!』

『まあまあね!』

『ソータは面白いね!』


 2女神は俺の中心を興味深(きょうみぶか)そうに凝視(ぎょうし)しながらニコニコと微笑んだ。創造神は笑い転げるように俺の上をクルクルと回りだした。


『……今、身体を貸そうか?』

『『『退散!』』』


 3柱の神は申し合わせたように即座(そくざ)に消えて見えなくなった。

 俺は眼鏡がなくても良く見えるようになって便利だなと思いつつ、下敷(したじ)きになっていたベビー服とオムツを救出すると、白虎が現れた。


『赤ちゃん状態だと着られないしどうするかな、これ……』

『原初の海に収納してあれば、着ているイメージを変身するときにすると、着た状態で変身するぞ。変身しなくても着替えに使えるので楽になる』

「母が使っていた片手剣を出し入れしていたやつの応用でアイテム・ボックスか! 収納」


 俺は原初の海を思い浮かべて手に持っていたベビー服とオムツを意識すると、2つが光って消えて行った。


『母は長い呪文を唱えていたような!?』

『お主は我らと同じ高みに至った者だからな。イメージできていれば呪文は必要ない』

「では試しにルキウスに変身」


 赤子に戻った俺は、ベビー服とオムツを身に着けて現れたのに満足すると、元の蒼汰に戻った。


『蒼汰の服をイメージしても出て来ないな』

『そんな複雑な物をパッと出せるほど魔法は万能じゃないぞ』


 白虎は笑いながら答えた。


「しょうがないな…。蒼汰の服は後で手に入れるとして、異世界のお約束を試すか。ステータス・オープン!」


 俺はステータス・ウィンドウを出すべく、指を上から下に振り下ろしたり単語を変えたり色々と試すが、出て来ないので(あきら)めた。


『何してるんだ?』

『異世界のお約束の行動を試して見ただけで、深い意味はないな。自分の強さとかが数値化されて見えるはずなんだ』

『何だそれは。聞いたことが無い。アカシック・レコードの閲覧(えつらん)でも試せば?』

『創造神から許可されたやつか。どう使うんだ?』

『一番多い使い方は分からない物を調べたり検索する時だな。対象を指定してアカシック・レコードに問い合わせる感じでイメージする』

『異世界お約束の鑑定か!』


 俺はベビーベッドを指さして「鑑定」と言った。


「ぐはっ!!!!」


 俺は情報の洪水に(おぼ)れそうになった。ベビーベッドの名前はおろか売買や製作工程や材質、資材搬入(はんにゅう)だけでなく、果ては資材の成り立ちまでが一気に頭の中に流れ込んできた。二日酔いのまま遊園地のコーヒーカップで激しくグルグル回ったら、こんな感じかもといった頭痛と()()に襲われて頭を抱えるしかなかった。


『大丈夫か?』

『……神羅万象(しんらばんしょう)を頭に流し込まれた感じだ。(ひど)い頭痛に吐き気がする』

『肉体を保ったままでの直接の閲覧は、誰もやったことがないからな。名前だけとかイメージを(しぼ)れ』


 もう一度、俺は恐々(こわごわ)とベビーベッドを指さして鑑定と考えると、今度は名前と概要(がいよう)が頭に浮かんだ。

 試しに自分を見て視線を合わせて、鑑定と思うだけでもと出てきて、対象が人物にも可能なのは(すご)く助かるが、異世界お約束のステータスが出て来ないのは残念でならなかった。


【名前:剣持蒼汰

 性別:男

 年齢:四十歳

 概要:元地球人のアルティウス】


 アルティウスとは何だろうかと鑑定の要領で検索してみると、【高みに至った者をアルティウスと呼ぶ】と分かったので(おどろ)いた。

 しばらく鑑定やら検索して試していると、一瞬(いっしゅん)、室内の照明が暗くなったような気がした。


『何か一瞬、暗くなったような? 気のせいかな。しかしこれ凄い便利だな! 本とかも読めるのか?』

『読むというより記憶に追加されるから、肉体持ちだと副作用があるかもな』

『副作用?』

『肉体は有限の記憶媒体だから、記憶できる容量に限界があって、オーバーすると他が消えたりするんじゃないかと思う』

『それは怖すぎる……』

『……誰かがこの部屋に近づいてくるが良いのか?』

「やばっ!」


 俺がルキウスに戻ると同時に、寝室の扉が開いて、婆が普段とは違って(あわ)てて入って来た。


「ルキウス様!」


 婆はベビーベッドに寝そべる俺を見て少し安堵(あんど)したようだが、不思議に思っているように辺りを見回した。


「大きな魔力反応は、ここからでしたのに……」

『魔法って使っていると分かるのか?』

『この船が魔法を大量に使っているから隠れ(みの)にはなるが、大きな魔法だと感知できるな。……もしかしたら、あれか? 鑑定の一番最初のやつ』

『あーなるほど、神羅万象を垣間(かいま)見たからな!』


 婆は手の平を上して腕を頭上に押し上げた。


「アルティウスの神々よ。どうか我らを宙族(ちゅうぞく)の魔の手からお救い下さい」

『もしかして宙族って海賊の宇宙版?』

『そのようだな』

『やばいじゃん!』

『ソータは何か忘れてないか?』

『赤ちゃんじゃ何もできないし』

『ソータになって身体を貸せ!』

『白虎が宙族をやっつけてくれるのか?』

『我の望むところだ。身体を使って戦いたかったからな!』

『じゃ後で頼む。変身』


 俺は蒼汰に変身する。


「あっ!」

「…えっ?!」


 婆と呼ばれているが、まだ中年くらいの女性の前に俺は全裸で現れる。緊急事態に裸だったのをすっかり忘れていたが、羞恥(しゅうち)に顔を赤くしながら、俺は身体の中心を手で(おお)い隠した。


「悪いけど服を貸してくれると助かる」

「……あ、承知しました……」


 婆は目を泳がせながら寝室を出て行くが、かなり早めに服を持って戻って来た。


「息子の服ですがどうぞ」

「ありがとうございます」


 俺は服を受け取ると収納し、ベビーベッドを()りてて魔法で服を装着した。唐草(からくさ)色の貫頭衣(かんとうい)に同色のズボンだが、日本人の標準くらいだった俺にはサイズが少し大きいようだ。


「ルキウス様……なのでしょうか?」

「詳しく話すと長くなるけれど、今の身体は高みに至った方で、ルキウスに産まれ変わった。姿は違うけどルキウスと魂は同じなのでルキウスでもある」

「高みに至ったという事は、アルティウスの神なのですね!」


 俺の前で婆は片膝を跪いた。婆を鑑定してみると分かったので、この服の持ち主は父なのだろうか?


【名前:マレ・ウクサー・グラディウス

 性別:女

 年齢:四十一歳

 概要:ルキウスの父方の祖母】


「俺の婆さんなんでしょ。(かしこ)まられても困る」

「お判りになるのですね。さすがアルティウスの神です」

「それより宙族の話が聞きたい」

「この船の供給魔素量が急激(きゅうげき)に低下して航行不能になり、宙族が迫って来ています」


 俺はマレ婆に手を貸して立ち上がらせると、供給魔素量の低下の話を聞いて驚いた。


『供給魔素量の低下って、どうしてだろう?』

『……もしかしてソータは魔法を使う時、この船の【若木(わかぎ)】から魔素を得たのか?』

『意識して使ってないから知らないな』

『普通、人は原初の海から直接は魔素を引き込めなくて、創造神様がお作りになられた世界樹から魔素を引き込んでいるのだ。世界樹には【龍脈(りゅうみゃく)】と言う魔素を分配する範囲があって、それを離れると魔素が受け取れないので、宇宙船には世界樹の若木を積んで、そこから魔素供給をしている。

 しかしお主のような高みに至った者は特殊で、原初の海の魂経由で魔素を引き込めるはずだ。高みに至った者の使う魔法は消費魔素が桁違(けたちが)いに多いので、若木が供給できる魔素量をオーバーしてしまったのかもな』


(つまり電気の契約アンペアを超える電力を俺が使ったので、ブレーカーが落ちて船に回せなくなったってことか……。)


『この騒動は俺のせい……』

『我も伝え忘れた、許せ』

『じゃあ身体……』


ガコン、ゴゥーン、ゴゥン・・・・・


 俺は白虎に身体を貸そうとするが、何かがぶつかったような音が(ひび)いて、寝室が僅かに()れたのを感じた。

次回の話は翌日の19時になります。

神達に身体を貸すデメリット?と、我様無双です!


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