028話 神殿にお賽銭は必要か?[前半]
市場で食材やら色々を買って冒険者ギルドに戻ると、待ち合わせをしていた父の隣に、魔石伯と剣聖がセットで待ち構えていた。
「出迎えなら美女が良かったんだけど?」
「ソータよ。愛人を出待ちするのも良い物よ」
「その設定、まだ有効なのね……」
魔石伯は暇なのか聞いたら、母アーラと伯爵夫人は城に服飾商会を呼んで、上の息子スマラとルキウスを着せ替え人形にする日なので出て来たそうだ。俺も着せ替え人形は嫌なので、分身ルキウスに任せて出て来たので文句は言えないかも。
「所でソータ。良い酒を造ったと聞いたが?」
「誰がそれを……」
『ピィー、ヒョロ、ピィー、ヒョロ♪』
他の人には見えないアルグラが、口笛を吹きだしたので犯人は分かったけれど、いつだろうか?
「戦勝パレードの夜で城の宴会ですね。アルグラを出したままソータ殿が用足しに行った時に、試作品を大量に作ったと自慢していました」
「流石に宴会でその事を聞くと流れで酒を出す事になって、我らの分が少なくなると思って今まで黙っておったのだ」
『アルグラ! あとでお仕置きだ!』
『ガーン! 殺生な……』
今日はツインテールフォックスの革製品を錬成しようと思って、応接室を借りたので4階に向かった。4人で入り、魔石伯と剣聖親子はソファーに腰かけて寛いだ。俺はアルグラを床に召喚すると、じっと黄金色のオリハルコンを見つめた。
「アルグラ召喚!」
「削るのは堪忍や……」
「良かったなアルグラ。今日は不思議な金属を持っているのが2人も居るので、お前を削るのはしない」
「やったーっ!!」
「剣聖と伯爵。剣をお借りしてもよろしいですか? 特に傷つけたりしないので、本当に見るだけの短時間です。酒代と思って下さい」
「剣を貸すだけで新しい酒が飲めるのなら安い物だ」
「構わぬ」
「ミネルヴァ召喚!」
「マスター。お呼びでしょうか?」
「伯爵と剣聖の剣を、魔素顕微鏡で素材を確かめたい」
「畏まりました」
俺はまずは魔石伯の曲刀の1本を借りる。刀身が赤いので何で出来ているのか見当もつかないので聞いてみる。
「伯爵。この金属は何ですか?」
「ヒヒイロカネと聞いておる」
「ヒヒイロカネ!」
俺はファンタジー金属に胸が躍った。顔がニヤけていたようで、魔石伯に不気味がられた。
「ソータが怖い……いつもこうなのか?」
「マスターは調べものがある時は、このようなお顔をなさいます」
「わいを削って調べようとするんや旦那は! 同じオリハルコンを提供してくれる剣聖はんには感謝や!」
「はいはい。アルグラは黙って剣を受け入れろ」
「んぐぁぐぐ」
「ミネルヴァ、ピコメートルの解像度にしてから電子の数を数えてくれ」
「了解しました」
思った通りに何かの分子を、光のモヤモヤの鎖が絡まるように魔素が強化しているのが見えた。
「電子数は二十九個です」
「銅なのか! これでヒヒイロカネを作れるぞ!」
「今、作れるとか聞こえたが?」
「ああ。通常の金属に魔素を付与して強化したのが不思議な金属なんだ。この前に魔鉄とミスリルは目途が立ったので、新しくヒヒイロカネが加わった」
「では儂のオリハルコンも作れると?」
「見て見ないとなので、この曲刀は伯爵に返して、剣聖の両手剣をお借りしますね」
「うむ」
「んぐぁぐぐ」
俺は剣聖の両手剣をアルグラに突っ込んだ。他のファンタジー金属と同じように魔素が強化しているのが見えた。
「電子数は七十九個です」
「金か! これでオリハルコンも作れる…けど、原価が高すぎだな」
「この前に歪んだ剣と壊れた盾は何で出来ているの?」
「魔鉄ですね」
「ヒヒイロカネだと耐えられる?」
「魔鉄よりはヒヒイロカネの方が硬くて丈夫だが、ソータの連れは耐えるスタイルなので、もう1ランク上の素材が良いかも知れぬな。私は二刀流なので軽いヒヒイロカネにしているのだ」
「1ランク上の素材ってオリハルコンの他に何かあるの?」
「アダマンタイトとか聞くな」
「アダマンタイトもあるのか! 高いのかな?」
「オリハルコンよりは安いと思うが、そう出回る物ではないので、庭付きの家が買えるくらいにはなるのではないか? しかも剣でそれだけするので盾もセットとなると豪邸が余裕で買えるだろう」
「……高すぎ。取りあえず一旦は保留かな。手が出ないね」
「何だ此奴の剣盾を探しておったのか。やる訳にはいかんが、アダマンタイトならあるぞ」
「えっ! 伯爵素敵! 見せて!」
「私の第二夫人になるなら」
「それは嫌だけど、見せてくれたらお酒におつまみも付けるけど?」
「それを早く言わんか! 待っておれ、持って来させるから」
魔石伯は廊下に出て、待機していた部下に指示を出した。
「アダマンタイトが来るまでにツインテールフォックスの錬成をしておくか」
俺はまずは敷物を錬成する。ツインテールフォックスの革と、綿布と綿と糸を、アルグラに突っ込んでしゃもじを回した。
「ペッ!」
「おおっ! いいね。モフモフ敷物!」
応接室の床にツインテールフォックスの敷物を敷いてみて寝そべって見た。毛皮の下に布を貼って中に綿を敷き詰めてあるので、敷布団の上に毛皮が乗っている感じで寝心地がとても良かった。剣聖親子も寝そべって来た。
「見事なツインテールフォックスの革であるな。これだけの大きさで傷がないのは素晴らしい」
「これは寝心地が良いですね」
尻尾含めて体長7メートルくらいあったので、まだ革は余っている。続けて手袋を錬成してから、コートもしとこうかと思って、素材が足りない事に気づいた。ダッフルコートにしようと思っていたけど、ボタンの素材が足りない。象牙なんてないから木材で良いかなと思ったら、世界樹の銀色をした木材を思い出してしまった。欲しい…けど神殿には行きたくないな。
仕方がないのでダッフルコートも一旦は保留にして、アルグラを磨く革切れを作った。
「旦那、小さいようですが……」
「罰は受けないとな!」
俺はアルグラを磨いた。
「シクシク……。半分だけ磨くとか殺生な」
「本当にこれで磨くと輝くね。通販番組のビフォーアフターの使用前と使用後みたいでイイね!」
「アルグラ先輩が輝いています。半分だけ」
「ぐぬぬぬ……」
城から届いたようで魔石伯が戻って来た。
「これだソータ」
魔石伯から渡されたのは青い金属製の箱だった。
「その箱は魔人討伐の報酬か。儂の帝都の屋敷にも同じものがある」
「ああそうだ。あの魔人はきつかったな。今にして思うとソータが居れば楽であったろうに」
「お二人で魔人討伐を?」
「5年程前に公爵領で魔人が発生して公爵領軍が壊滅的な被害を受けて、私と剣聖が駆り出されたのだ」
俺は積もる話でもありそうだと思い、日本酒2種類とおつまみを出した。魔石伯は嬉しそうにツインテールフォックスの敷物に胡坐をかいた。
「こっちが甘口で、こっちが辛口の日本酒」
「にほんしゅ?」
「日本と言う所で米から作られたお酒ね。作る工程が複雑なので味わい深くて俺は好き。それと唐揚げとフライドポテトは知っていると思うけど、もう1品にチーズを追加で。チーズは生乳を発酵させて寝かせると固まった食品ね。まろやかなのでお酒に合うよ」
飲兵衛共が胡坐を囲んで飲みだしたので、俺はアダマンタイトの箱を調べた。
「んぐぁぐぐ」
「電子数は七十四個です」
「タングステンか!」
「タングステンであれば、以前に行った狐の巣穴ダンジョンに鉱脈があります」
「おお、いいね。コバルトもあればダイヤモンド並みに硬い超硬合金にできるのに」
「コバルトも近くの鉱山に鉱脈があります」
「やった! これで剣と盾の素材の目途が立った」
ツインテールフォックスの敷物の方を見ると男3人が騒いでいた。どうやら日本酒は口に合ったようで、俺も混ざろうかと席を立とうとしたら、見知らぬ念話に呼び止められた。
『ソータは、こちらでございますか?』
見上げると酒盛りを羨ましそうにしている四神の横に、桃色トーガを纏っている桃髪桃眼で右目に片眼鏡をかけた女が現れた。
『何用よ、モレストゥス』
青龍が珍しく不快感を露わにしている。青龍だけでなく、他の四神も眦が吊り上がったので招かれざる客のようだ。
『原初の海に行くよ』
俺は原初の海に行った。
『あたくしは契約魔法の窓口役をしているモレストゥスざます。以後、お見知りおきを』
モレストゥスは右手を胸に当てて、優雅に腰を折ってお辞儀をした。
『本日はソータが不当な契約魔法を行使して、神殿を窮地に陥れた件について、是正するよう指導に来たざます』
『う~ん、良く分からんけど不当な契約魔法ってのは何で?』
『生命の庭からの契約魔法は、あたくしを通す必要があるざます』
『そんなことはないわ。恋愛系は私に来るし、旅系は朱雀、物作り系は玄武、戦闘系は白虎に来るから、貴女を通さないとならない話ではないわ』
『ソータ、ソータ、ソータ来たっ!』
俺の胸元に光の球が突っ込んできたので、尻餅を付いてしまった。
『創造神か!』
俺は創造神をモフモフし、ついでに頬ずりした。モフフカで気持ちがいい。ツインテールフォックスの敷物より断然とこっちだね。白虎と甲乙が付けがたい。
モレストゥスはとてつもなく驚いているようだ。
『そ、そ、創造神…様?』
『モレストゥス、久しぶり。5千年振りくらい?』
『……創造神様。ご機嫌麗しゅうざます。ソータは創造神様にお手を触れるなんて不敬ざます』
『私が触って欲しいから飛び込んだんだけど?』
『……』
モレストゥスが黙ってしまったので、俺は聞いてみた。
『創造神。モレストゥスを通さない契約魔法は駄目なのか? 俺、自分宛ての承認したのを文句言われたんだけど』
『ソータが申請して承認したアクアヴィータのやつでしょ? 文句が良く分からないんだけれど、文句があるなら私も追加で承認しようか。はい、承認が終わったよ』
モレストゥスの顔が青くなった。高みに至っても青くなるのか!
『契約魔法の件は終わりで、神殿を窮地に陥れたってのが良く分からないんだけど?』
『ソータが回復魔法と神聖魔法を使いまくって神殿にお布施が入らなくなったざます。それとアクアヴィータざますか、そのポーションもどきのせいで神殿のポーションが売れなくなったざます。神殿の財務が悪化して、このままでは潰れてしまうと神殿長の祈りが届いたざます』
『俺が回復魔法とか神聖魔法を使ったり、アクアヴィータを考えて売ったりは駄目なのか? 創造神』
『ソータには肩身の狭い思いはして欲しくないかな。そこもっと撫でて』
『それでは神殿が潰れてしまいます……』
創造神が現れたタイミングはバッチシだったよ。この紋所が目に入らぬかって感じ。
『神殿が潰れるかは分からないけれど、苦しめたい訳でもないんだよね? ソータ』
『ああ。こんな感じで文句を言われたり、危害を加えられなければ良いよ』
『こういう時、人族はお金で解決するんでしょ? ソータは払うのは嫌?』
『金で解決できるならありがたいね。正し契約で縛らせてもらうけど』
『モレストゥス。神殿に神託を出して、ソータと法王の間に契約するのはどうだろうか? それからソータがアルティウスだと言う事、前の通達の通りにヌンクの民には内密に頼む』
『承知致しました。創造神様の寛大な御心に感謝致します』
『創造神ありがとう』
『もう少しソータに撫でてもらいたかったけど、また遊びに来てね』
『ああ、またな』
俺は生命の庭に戻ると、飲兵衛共3人組は寝ていた。剣聖の顎髭を見て、幼馴染の爺さんと孫である幼馴染も髭を伸ばしていたので懐かしくなり触ろうとした。直前で剣聖は目を開く。しかしその眼差しに非難の色はなく、微笑んでいるような優しさに満ちていた。
「あ、ごめん」
「触らんのか?」
「触っていいの?」
「構わん」
俺はお言葉に甘えて剣聖の顎髭を撫でた。その柔らかい感触に懐かしくなり、薄っすらと涙が出てしまう。
剣聖は上半身を起こして、優しく俺の頭を撫でてくれた。
「遠くに居る今は会えない爺さんとその孫が、髭を伸ばしていたので懐かしくて……」
「そうか。会えると良いな。ソータ殿はいくつなのだ?」
「四十」
「!!」
「そこの寝ている2人は俺のギルドカードを見たから、本当か聞くと良いよ。これから神殿に行かないとならないんだ」
「儂も付いて行こう」
「えっ? いいの?」
「酒代には剣と髭くらいでは足りぬであろう?」
「……お願いするよ」
剣聖がニヤリと笑ったので、着いて来てもらう事にする。俺はアルグラとミネルヴァを送還すると、応接室前で待機している魔石伯の部下にアダマンタイトの箱を返して、神殿に行く伝言を言付けた。
次回の話は翌日の19時になります。
宗教は集金装置か?
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