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神様に元の世界に帰りたいと願ったら身体を要求された  作者: 仲津山遙
第1章 幼少期編

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026話 戦勝パレードは丸く儲けます

 地上に太陽が誕生した後、珍しくミネルヴァが焦っているような声を出した。


『申し訳ありませんマスター』

「どうした?」

『イージスのベクトル・リフレクターの倍率設定による影響を考慮不足で、温度が十億度を突破し、次の核融合反応が発生したので、イージスの反射限界に達する可能性が高いです』

「物質生成を止めて燃料をなくすか」

『お願いします』


 俺は大規模な殲滅魔法用の触媒をコントロールしようとするが、何故か制御ができなくなっていた。


「不味い。制御が効かなくなっている……」

『イージスの反射限界まで、およそ四十秒です』


 俺は焦った。実験室レベルを実用化しようとすると起きるトラブルだった。理論上は可能な事と、日常的に繰り返すには大きな開きがあるのだ。


「……下は地殻に影響あるし、横は領都があるから無理だな。核融合のエネルギーを成層圏外に撃つようにイージスの設定を頼む。イージスの上部開放のタイミングは俺の合図で」

『了解です……イージス設定変更と伸長(しんちょう)を完了しました』

「撃てっ!!!」


 俺の合図で巨大な赤紫色の光の柱が上空に放たれた。惑星軌道上から見たら某SF映画の死の星のスーパーレーザー砲みたいなシーンが見られると思う。良く見るとこの星のリングに当たっているような気がするけど、たぶん気のせいだろうと見なかった振りをした。


「何とか済んで良かった。実験不足あるあるだな」

『マスター、申し訳ありませんでした』

「いや、行き当たりばったりで、ここまでやれれば(おん)()だ。ミネルヴァ助かったよ」

『わいもな! それからアルグラ・アタックは無しでお願いしやす』

「ああ、もちろんアルグラもありがとう。アタック無しは約束できんな」

『ぐぬぬぬ……』


 俺は地上の戦況(せんきょう)を観察する。大規模な殲滅魔法から逃れた魔物が結構な数を残しているので、負傷者が多数出ているようだ。俺は近くの船員に地上に降りたい事を伝えると、船を降下してくれた。それでも二十メートルくらいの高さがあるが、運動魔法で自分を浮かせるイメージが怖かったので身体強化をして飛び降りてみる。


「着地成功! 身体強化凄いな。ミネルヴァ、負傷者のマーカーと重傷者の優先をトリアージして順番の指示を頼む。あと見える範囲で良いので、動けない負傷者にイージスを展開してくれ」

『了解しました。マスター』


 俺の近くに居た負傷者がイージスに包まれて、視覚に矢印が表示された。俺は矢印の指示に従って回復魔法で治療していく。稀に部位欠損者が出たので新ナノ・ゴーレム薬を振りかけるが、皆の反応としては生理的に受け付けないようだった。


「ギャーッ! ひゃっこいっ! しかも何だよ、このネバネバはっ!」

「うるさいっ! その千切れた指をどうにかしたかったら我慢しろっ!」

『マスター。温めたのを用意しましょう』


 まったく……ミルネヴァが不機嫌になって、変な提案をするようになったじゃないか。しかも温めたらアレに近づくじゃないか! まあ手足が無くなったクラスは出なかったので領都に戻るまでに治療が完了しそうだし、欠損治療で腹が空かないようなので薬品としては成功だと思う。


 2時間くらいすると粗方の魔物は片付いたので、父達と合流した。剣聖親子は無傷だが、魔石伯が腕を負傷していたので回復魔法で治療した。


「おお、すまぬな。ソータ」

「ソータ殿の連れは腕が良いが、装備が腕に釣りあっていないようだ。その剣と盾は儂の息子へ、成人の祝いに贈った物に似ておる」

「これより良い物は高いので手が出ませんね……」


 剣聖が父の装備を見て溜息を付いた。父のマントの認識阻害の魔法陣が効いているので、自分の息子と認識できていない発言だった。

 父を見ると剣が(さや)に収まらないくらいに歪んでしまったようで困っていた。盾も上部が欠けたので、もう使い物にならなそうだ。


「そう言えば魔物達の中央に魔人が居たぞ」

「それで魔物が強化されていたのであるか」

「そうなの?」

「魔人のような強い個体がでると周りの雑魚(ざこ)も強化されるのだ」


 俺は魔石伯の説明を半信半疑(はんしんはんぎ)に聞いて、神殿の世界樹に聞いた原初の海が荒れている件を後程(のちほど)に確かめようと思った。


「皆の者、今日は良くぞやってくれた! 明日は戦勝パレードとする!」


 魔石伯の掛け声に、皆の歓声が答えた。


 領都に戻ると騎士を辞めて、ウルスメル商会の頭取になったミーティスが迎えてくれた。


「ホリゾンにソータ殿、無事で何より」

「明日は戦勝パレードだって。商会としては(もう)け時だよね?」

「儲けられるのですか?」


 俺の言葉にミーティスは首を(かし)げた。


「人が集まるお祭りなら屋台で儲けられるじゃない?」

「それは盲点(もうてん)でした!」


 ミーティスに聞いてみると、祭りに屋台を出す発想がなかったようで、売り出す商品がないらしい。本当に食事事情が(わび)びしいので悲しくなりつつ、俺は試作品のドーナツを取り出して父とミーティスに配った。匂いを嗅ぎつけた魔石伯と連れ立っていた剣聖が、俺の後ろに無言で立っていたので、仕方なく2人にもドーナツを配る。


「「「「旨いな!」」」」


 これで商品は決まったようだが、揚げる文化が唐揚げとかフライドポテトのレシピを俺が伝えるまでなかったので、フライヤーが足りないようだ。


 冒険者ギルドの大浴場でさっぱりしてからウルスメル商会の倉庫に連れられて、収納から材料を出した。普通の作り方を知らないと次に作れないと思い、材料を混ぜる所から従業員に見せた。玉子に強力粉(きょうりきこ)とベーキングパウダー、砂糖(さとう)と蜂蜜と生乳と植物油少々を混ぜて行く。ベーキングパウダーは物質生成魔法で作ったので知らなくて当然だが、砂糖を知らない驚愕の事実に俺は打ちのめされた。


「えっ?! 砂糖ってないの? 凄く甘くて白い粉」

「先ほどのドーナツに降りかかっていたのが砂糖なのですね。確かに甘かったですが初めて見ました」


 店頭で菓子をあまり見かけない訳だよ。ドーナツを試作して試食したら、朱雀が泣いていた理由が分かった気がする。今も食べたそうにじっと見つめているけど。


「まあいいや。生地は三十分くらい寝かせるんだけど、時間短縮したいので今回はアルグラに入れる」

「ペッ!」

「これが三十分後の生地だと思って。この生地を平たくしてコップで丸く型抜(かたぬ)きしたら、細い筒状の物で真ん中に穴を開ける。それで鍋に植物油を入れて熱して揚げるだけ」


 丸く穴開きにするのは面倒なんだけど、やり始めると結構楽しいんだよね。俺は量を作る時は金属加工した器具を使った方が良いと教えた。


「あとは型抜きした生地を油に入れて、上に浮き上がって色が狐色になったら油から上げて、粉砂糖を塗して完成」


 従業員に試食させると、旨かったようで満足そうな顔をしていた。そして玉子の大きさで生地に加える生乳の量を変えたりだとか、生地の型抜きの時にベタ付いたら少しずつ強力粉を加えたりだとかの注意点を教えた。あと型抜き後の残りの再利用も教えた。

 今回は時間がないのでアルグラに、生地作成から揚げるまで一気にやってもらう。粉砂糖を塗すのと輸送用の木製トレイに乗せるのは従業員の仕事だ。


「ペッ、ペッ、ペッ、ペッ、ペッ! プシュゥーーーーー! ……旦那、わいは錬金窯なのか自信がなくなってきやした」

「ん? いきなりどうしたんだ」

「料理ばかり作らされている気が……」

「だって最初に頼んでいたのは調理器具が欲しいって言ったし、錬金窯なんて頼んでないぞ」

「ガーン。わいの誕生秘話にショック」

「まあ役に立っているからいいじゃん。後でツインテールフォックスの毛皮で磨いてやるから。冒険者ギルドに取りに行かないとだけど」

「お願いしやす!」


 ドーナツは2万個以上を作ったけど足りるよね? 多めに貰ったのを四神にお裾分けしたら喜ばれた。


 俺はツインテールフォックスの解体品を冒険者ギルドへ受け取りに行くと、魔聖に会ったけどドーナツでお茶を(にご)した。まだ帝都に行けるほど、この世界に慣れている訳じゃないし、ルキウスが赤子だと自由に身動きできないしね。


 翌朝の戦勝パレードは殿(しんがり)で最後尾にされた。魔石伯や剣聖と同じレビタス車に、父と一緒に乗せられて連れまわされた。屋根がないオープンなレビタス車なので景色が見渡せて良いが、目立っていたので少し恥ずかしかった。城から始まって東の商業区を走り回り最後に神殿に行くそうなので、俺は父と一緒に神殿は遠慮して途中下車した。本来は(いくさ)の前に神へ無事を祈願(きがん)する仕来(しきた)りらしいが、今回は直前に余裕がなかったので後出(あとだ)しなようだ。


 冒険者ギルド前に戻ると、ウルスメル商会の屋台が3つあり長蛇(ちょうだ)の列が出来ていた。2つはドーナツのようで、もう1つが飲み物を売っているらしい。蜂蜜を使用しているので乳幼児は飲食不可と注意書きがあり、従業員が同じ内容を叫んでいる。

 ミーティスがニコニコ顔で俺達を見つけて近寄って来た。


「ソータ殿のお陰でウハウハです」

「やっぱり商人の方が生き生きしているねミーティスは」

「私もそう思います」


 3人で笑うと、気になっている飲み物の方を聞いてみた。


「あの飲み物は何を売っているの?」

「あれは生乳を温めて蜂蜜で甘くして売っています。おーい、2つ蜂蜜ミルクを持って来てくれ!」


 ミーティスに呼ばれた従業員が、俺と父に蜂蜜ミルクを持って来てくれた。優しい甘さでホッとするし、ミルクはドーナツと相性抜群(あいしょうばつぐん)だ。


「いいねこれ。ドーナツと合う」

「私も好きですね」

「ソータ殿に頼り切りは良くないので、飲み物を考えてみました。ただ、ふっくらとさせる粉は凄いですね。試しにパンにも使ってみたら柔らかくなりました。砂糖と一緒に是非とも販売をしたいのですが」

「ベーキングパウダーは俺の魔法で生成したやつで、ここじゃ作るのは無理じゃないかな。砂糖も白いのは難しいね」


 ベーキングパウダーの有用性に気づいたのは凄いが、あれは科学的な知識がないと理解不能(りかいふのう)だろう。アルカリ性の重曹(じゅうそう)は海水を電気分解して作るし、酸性のクエン酸は(いも)類を発酵させて作るし、2つが合わさると二酸化炭素が発生して生地に隙間が出来てフワフワになるとか絶対に分からないと思う。アルカリ性と酸性を中和させてアルカリ性の苦みや、酸性の()っぱさを無くしているとか想像も出来なさそうだ。

 砂糖も白くするには遠心分離機だとか真空結晶装置だとか科学知識がないと難しいと思う。


「あとでベーキングパウダーの代わりの天然酵母(てんねんこうぼ)と、白い砂糖は無理だと思うけど黒糖(こくとう)なら比較的に楽だから作り方を教えるよ」

「それはありがたいです! 使用料はお支払いします」


 アクアヴィータの特許使用料が定期的に俺のギルド口座に入って来るし、今回のドーナツは売り上げの半分を貰えるので儲けられた。父の装備でもプレゼントしたいなと見上げたら、不思議そうな顔を返された。

次回の話は翌日の19時になります。

実は創造神は○○○○でした!


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