001話 神様は身体が目当て?
第1章 幼少期編 開幕
俺が落ちて行く様子はあまりにリアルだった。落ちる途中で自分が光に包まれた後、気が付いたら何もない白い床に着地した。
『ようやく会えたね! 剣持蒼汰』
「うわっ!!」
突然に白色の光の球が目の前に現れて、男とも女とも判断がつかない声で話しかけられる。
「誰だ?」
『私は君たちの世界の【生命の庭】を作って、生命の源を送り出した者だね』
「創造神のようなものか……じゃあ、あんたは神様なのか?」
『神の定義がよく分からないが、好きに呼ぶと良いよ』
謎の光球【創造神】は、一定の周期で明暗しつつ答えた。
「……ここは天国か何かなのか?」
『まあそのような所だね。我々は【原初の海】と呼んでいるがね』
(つまり…俺は死んだと言う事なのか?)
『死んではいないよ』
「心が読めるのかよ!」
『ここは空気がないので音声でコミュニケーションが取れる場所ではない。これは【念話】と言って、魂同士で意思の疎通をしている。伝えたくない時は、しっかり伝えない意思を持たないと駄目だよ』
創造神に言われてみれば自分が呼吸をしていない事に気づいた。
『死んでないのに、何故ここに呼ばれたんだ?』
『私は呼んでないよ。君が自力で、ここに辿り着いたのさ。しかも肉体を保ったままね!』
創造神は光の明暗を激しくしながら説明してくれた。俺は生命の庭と呼ばれる物質的な世界から、この白い何もない空間の原初の海と呼ばれる魔法の源【魔素】で満たされた世界へ、肉体を保ったまま渡って来たらしい。それを【高みへ至る】と呼んでいるそうで、他にも高みへ至った者が存在するという。
全ての生命は、庭と海の両方にペアで魂を持って情報を同期して産まれ、死亡や高みへ至ると庭側の魂は海側に吸収されるのが原則だそうだが、俺の場合は特殊なケースで、庭側の魂が海側に吸収されずに残っているという。このような輪廻転生に近い魂サイクルのパターンは、創造神の認識する限り初めてらしい。
『元の場所に戻れないのか?』
『戻れると思うけど、君は落ちてたから死にそうだけど?』
『……じゃあどうすれば良いんだ?』
『願いなら聞いてあげられそうだけど?』
『助けてくれ!』
『フフフ、太古より高位の存在に願うと、対価を要求されるのが筋だよね?』
『えっ?!』
俺は絶句して創造神をギョッと睨むと、創造神は光の明暗を緩やかに戻して提案し出した。俺の元の身体、剣持蒼汰が居た場所には戻れないけれど、新たに別の身体で違う場所に生まれ変わらせる事はできるそうだ。しかも高みに至ったから剣持蒼汰の記憶を持ったまま生まれ変わり、新しい身体と前の身体を変身するように交換したりする事が可能らしい。この原初の海にも戻れるし、1つの魂で2つの身体を入れ替えて使える感じになるということだ。
『……妻と娘や幼馴染に会えなくなるのは残念だが、こちらには悪くない提案に聞こえる。ちなみに生まれ変わってから元の世界に戻れないのか?』
『頑張れば戻れるんじゃないかな』
『戻れるのか! それで対価って何だよ?』
『よくぞ聞いてくれました! 身体を貸して欲しいんだよ、か・ら・だ!』
『?』
創造神は、この原初の海に誕生し、孤独のために生命の庭を造ったらしいが、箱庭を上から眺めるだけで我慢しなければならずに嘆いていたらしい。肉体がないままに庭で行動すると壊滅的な被害になり、かといって普通の生命に乗り移ったりしても、乗り移った先の魂が耐えられないので死んでしまうようだ。
『肉体なしだと壊滅的な被害ってどのくらいなんだ?』
『瞬きで嵐が起きて、林檎を取ろうとすると海が割れたりするかも』
『……乗り移られると魂が耐えられないで死んでしまう所をボカしていたような気がするが、具体的にどうなるんだ?』
『君の居た所では科学が発達していたから説明できそうだけど、肉体の質量が全部エネルギーになって爆発する』
『核分裂や核融合を超えて、正物質と反物質の対消滅ってことか?』
『そうそう、そんな感じ。星系くらい吹っ飛びそうだよねぇ!』
『…………』
創造神は自分の光球を爆発させたようなエフェクトを発生させた。俺は創造神が自分の身体?で感情表現するのを面白いと思ったが、話の内容で苦笑するしかなかった。
『ちなみに俺が身体を貸すとして爆発したりしないのか?』
『君は高みへ至った存在だから、我々と同じように魔素で構成されている。もちろん庭でも物質的に安定して存在し続けることができるので、庭では他の生命と変わらずに過ごせるはずだよ』
『身体を貸すことによるデメリットがなければOKだな』
『特にデメリットはないんじゃないかな。貸している間は、こちらの海に君の意識が移るし、貸し出した方とは今の我々のように意思の疎通ができるからね。それじゃあ他に身体を貸して欲しい者も紹介しとこうか』
『おいっ! あんただけじゃないのかよ……』
創造神が2度短く点滅すると、創造神の背後に4柱の男女が唐突に現れる。彼らは古代ローマ人のように身体に布を袈裟がけに巻いたトーガを纏っていて、創造神に向かって片膝を跪いた。
『彼らも君と同じように高みに至った者なんだけど、君とは違って庭に単独で戻れないんだ。身体を貸してくれるなら新しい君の生活もサポートしてくれるそうだ』
黒色トーガを纏っている黒髪黒眼の男が、立ち上がって自己紹介し出した。彼は手をこちらに向けると、亀の甲羅のような模様の黒く丸い盾が出現した。
『俺は玄武だ。盾役と回復は任せてくれ』
次は赤色トーガを纏っている赤髪赤眼の女が立ち上がった。彼女は背中に赤い翼が生えているようだ。
『僕は朱雀。火と光の属性魔法は他に引けを取らせないよ』
『魔法が使えるのか?』
『君の転生先では魔法が使えるし、もちろん君も使えるよ』
『妻と見ていた漫画やアニメのような異世界転生かよ! チート能力は貰えないのか?』
創造神は忘れ物があったような口調で補足し、俺と創造神を抜かして皆の疑問の声が重なった。
『あ、そうだ! チートと言えば、君には【アカシック・レコード】の管理を認めよう』
『『『『は?』』』』
俺の疑問に創造神は答えるが、聞いた感じヤバそうな気配に、俺は眉間にしわを寄せた。
『それは何だ?』
『簡単に言うと生命の庭で亡くなった魂の記憶を保管している図書館みたいな物だね。それと生命の庭の全ての事象を記録してある』
玄武が代表して創造神に苦言を呈する。
『アカシック・レコードが管理できるということは過去の賢人の行動や技術が、この者に知られるぞ。使い方次第では非常に危険になる』
『高みに至った君たち全員が管理できるのに、同士の彼ができない道理がないかな。それに彼にしかできない事を頼む報酬の意味もある』
『俺にどんな難題を押し付ける気だ……』
『まあそれは追々に!』
創造神は光球の点滅の消える方を長めにしながら楽しそうに答える。
その後に残りの2柱が挨拶してくれた。3柱目は青色トーガを纏っている青髪青眼の女で青龍。彼女は頭に東洋タイプの龍角が生えている。最後は白色トーガを纏っている白髪白眼の男で白虎。彼は耳と尻尾が白い虎だ。
こうして剣持蒼汰、享年?四十歳は、異世界に生まれ変わる事になった。
次回の話は翌日の19時になります。
蒼汰君は、どんな人物に、どのような所に転生したのでしょうか?
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