娼館3
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「コン、コン、コン。」
「ガチャ。」
「はい、どうぞ。」
中から非常に若々しい声が聞こえてきた。今日はどうやら機嫌がいいらしい。扉を半分まで慎重に開けた。その隙間を半身になりながら、バケツとモップ、ほうきを抱えながら入った。
「ガタガタ、ガタ。」
扉に道具があたる。怒られるそう思いながら急いで入った。
中に入ると部屋は真っ暗だが、燭台に乗った一本のろうそくに生足が照らされている。扉を閉めると余計暗くなった。急いで、掃除用具を一旦おいて右手のポケットに入っているマッチを取り出した。左腕に抱えてあったランプを床において、マッチをこすると
「うんっうん、助けて。助けて。」
生足のほうから声が聞こえた。蠟燭の揺れる光とは逆方向に生足が動いた。マッチをもう一度こすり、火が付くと動きが止まった。ランプに光が宿り、床においてあった掃除用具をいくつか手に取り部屋の奥へ行こうとした。左手に持つランプを目一杯伸ばし、娼婦の様子をうかがおうとした。娼婦は窓のほうを向いて寝ていて、目を瞑っているかどうか分からない。部屋はそんなに汚れておらず、いくつか食器が乱れていて机やいすが移動している程度だった。食器とシーツの交換は最後にする。本当は同時に行いたいのだが、娼婦が移動しないので思うように掃除できない。
まず、掃き掃除から始めた。そのあとは拭き掃除、乱れた家具の配置を整えていったん部屋の掃除が終わった。娼婦はあの後一度も何も言うことなく、動くこともなかった。部屋を出ようとしたとき
「いかないで、お願い。」
娼婦が言った。
「え、あの。」
「お願い。」
少し悩んだ後、掃除用具を廊下に一度出しランプを右手に持ち娼婦に近づいた。娼婦は、まだ窓の方を向いて寝ており顔が見えない。しかし、毛布から足だけは出ていている。
「大丈夫ですか。」
そういって、ランプを床の上に置き軽く毛布に手を置いた。毛布は少し冷たく軽い。そのまま手をシーツの下の方に動かした。
「シュー。」
と甲高い、手が擦れる音が聞こえる。小指が娼婦の足にあたった。やわらかい。娼婦の足が少し動いた。
「私の足。きれい。」
「え、はい。やわらかいです。」
そう答えると
「あはははは。」
娼婦が笑い、毛布の中に足をかくした。
「もういいよ。」
娼婦はそういってまた動かなくなった。私はすこし戸惑いながらランプを手に取り、部屋を後にした。その後も普通のお部屋の清掃はたまに怒鳴られたり、蹴られたりしながら順調に続いた。あの娼婦のことがとても気になってはいたが、自分の中で恐らく大変な客にでも会ったのだろうと無理矢理考えて納得させていた。
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