噂10
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夜になって、こっそりとベッドから起き上がって扉にむかう。扉越しに廊下の様子をうかがうが、物音ひとつしなく安全そうだ。ドアノブを音が鳴らないように、慎重に下げるとドアが開いた。カミラが開けておいてくれたのだろう。ドアを少し開けて、隙間からもう一度廊下を確認する。誰もいない。左右を見張りながらドアノブを押す。
廊下に出ると真っ暗で唯一見えるのは、階段にある一本の蝋燭の光だけだった。手すりを頼りに蝋燭の方角に歩く。右足がずきずきする。カミラがいれば助けてくれそうだが、人がいる気配が全くしない。
蠟燭につくと、右足を見た。包帯が赤くにじんでいる。視線を足からそらすと長い階段があった。一段一段、高いわけではないが横幅がある階段がある。遊び場に蝋燭がもう一本あり、さらに上の階に蝋燭がある。木製の豪勢な手すりは波打っていて、ところどころに彫刻や飾りが施されている。その手すりに手垢をこすりつけるようによじ登る。蠟燭の後ろからの光で、右前に大きな影ができる。影はゆっくりと私を追ってくる。踊り場で消えたと思ってもまた現れ私の体力を奪っていく。
やっとの思いで三階についた。しかし右足の痛みは増してきていて、見ると血がくるぶしまで垂れてきている。仕方なく右腕を固定していた包帯を外す。そして、きつく足に巻き付ける。傷が閉まる感触が伝わってくるが我慢して結ぶ。どうしてここまで来たのか、分からなくなってきた。お医者様が足を見たら怒るだろうな。でも今更引き返すなんてできない。ここまで来たなら、せめて声だけでも聞きにいかないと。動かない足を持ち上げながら、這い上がる。
上っていると踊り場に肖像画がかかっていることに気づいた。宝石の花をつけたカントーリの肖像画。胡散臭い顔の上に赤色の花冠をのせている。赤色の花冠。ラン。ランはどうしているんだろう。今どこにいるの、ご飯食べれているの。さみしくしていないかな。ランのあの日のレースを付けたランの顔とを思い出した。『正直、状況的に疑わない理由がないんだ。』ランが人を殺そうとするわけない。あんなに私たちを思ってくれる優しいランが。でも、月明かりに照らされ強張ったランの顔がふと思い浮かんだ。『シランさんは人を大切に思うことの責任を知りません。』ランはどんな責任を取ろうとしたの。
「もういい加減にして。」
4階から大きな声が聞こえた。
「いいよ。私は。」
「何言ってるの。ここで死んで何の意味があるの。」
「そうだよ。」
どうやらリンさんのほかに人が数人いるらしい。
「私なんかが生死に意味を感じちゃダメなんだ。」
「そんなこと。」
「私ね生まれたころから娼館にいたの。色んな娼婦を見てきた。当時は私娼ばかりで10歳やもっと若い子も男を抱いてお金を稼いでいた。私と同い年の私より美しい子が、私より大人びていくのは恐ろしかった。」
「でも今は変わっているじゃない。リンさんが娼館のルールを変えたおかげでしょ。おかげで。」
「違う。確かに現状を良くしたように見えたかもしれない。娼婦に年齢制限を設けたり、コンドームの着用を勧めたり。でも娼館の運営について知れば知るほど、娼婦の値段や働ける年齢まで分かるようになった。街中や孤児院の少女を見るだけで必要な子かそうでない子か判断できるようになった。働けなくなった娼婦を簡単に切り捨てることもいとわなくなった。」
「でも、それでも娼館は前より良くなった。娼婦として働けなくなった人でもどうにか仕事がないか探してくれていたじゃない。私たち娼婦にここまでする人はどこにもいない。みんなリンさんの優しさを分かっているよ。」
「違うよ。優しさじゃない私があなたたちに感じていたのは責任感。娼婦という商品に対する責任感、娼館を運営するという責任感それしかない。優しさなんかじゃない。軍にここを貸すことを父に提案したのもうちの娼館と娼婦は健全であることをしめすため。そうすれば信用が増える。信用が増えれば娼館を利用しやすくなる。すべては娼館を守るためなの。」
「、、、、。」
「どう、失望した?こんな私が生きる意味も死ぬ意味もないの。」
「じゃあ私たちはどうなるの。リンさんがいなくなった後、リンさんが植え付けたルールはどうなるの。死ぬ意味はないなら、娼館を運営する責任感があるなら死んだあとのことを考えなさいよ。」
「私が死んでもどうにかなる。」
「本当に。根拠はあるの。」
「、、、。」
「ああ、あなた本当に無責任ね。さっき責任感しかないって言っときながら。」
「本当に。」
「あなたがここで死んだらきっと経営は悪くなるわよ。それでもいいの。」
「、、。」
「リンさん、私たちのことなんか生きる意味なんか考えなくてもいい。あなたはあなたが勝手に抱いた責任感のためだけに生きなさい。」
「みんな。」
「何泣いてるの。」
「そうよ。生きる意味なんてないんじゃなかったの。」
ぱたと肩に何かが触れた。
「あああ。」
と叫びそうになったが口をおおわれて声が出せなかった。
「うるさいですよ。」
カミラさんだった。
「なんで。いつの間に。」
「うるさいですって、静かに。」
無言でうなずく。口から手がはずれる。
「シランさん。リンさんっていい人ですね。周りにいる人の声を聴くだけでそれがわかるんですもん。」
「はい。」
「それじゃあ。戻りますよ。」
「え、待ってください。」
「リンさんに会って直接話さないと。」
「まだだったんですか。でも申し訳ございません。軍の関係者が見回りに来るそうで、今夜はもう無理です。」
「ここまで、来たんですよ。」
「ごめんなさい。ほら、帰りはおぶってあげますから。」
カミラさんは私の怪我した足をかばいながらおぶった。
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