噂9
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「ミリーナ、ミリーナ。大丈夫。」
浮いたまま何も動かない。ミリーナの骨が張り出している左肩を軽く触ってみる。すると、反時計に回り左足が私の右手に触れた。ミリーナをベッドのうちに戻して、肩を下げてベッドに押し付ける。
「ミリーナ。起きて、起きて。」
ボンロのことを思い出した。あの子と同じ現象。
「ガチャ、何をやってるんだ。」
階下に降りたはずの男が入ってきた。
「あなたは。どういうことミリーナに何をしたの。」
「離れなさい。」
「やめて。」
両手をつかまれ、体を抑えられて身動きが取れない。
「あんまり動くと、傷がまた開くぞ。」
「やめて。」
体を持ち上げられて部屋から出される。ミリーナの体はまたもとの高さに浮いていて眠っていた。
「きゃー。何してるんですか。」
さっき話していたナースさんたちだろうか、私を見て驚いている。
「君たち、この子を病室に戻してくれ。」
「えー。」
男はナース二人に私の体を雑においた。
「痛い。」
「大丈夫ですか。」
男はミリーナの部屋の鍵をかけて、階下に早歩きで降りて行った。
「何があったんですか。」
「いや、何も。」
「ねえ、この子みて。」
「なんですか。」
「出血してます。」
「え。」
私の右足らへんから違和感を感じる。右手で触ってみると右手に赤い血がべっとりとついた。
「早く。お医者様読んできて。」
「うん。」
「大丈夫ですよ。」
このあとお医者様がやってきて、傷口をもう一度縫い直して部屋に戻された。さらにまた私が部屋から出ないように扉を外側から鍵を閉められ、ナースさんが見回りによく来るようになった。
しかし頭の中ではミリーナが浮いていたことだけを考えていた。石を与えられたのだろうか。もしくはと思い机の上においてあるコップを手に取った。コップの中には半分ぐらい水が入っている。袖口をつかんでコップの中に手ごと突っ込んだ。数十秒入れたあと、コップから手を出すと床に水が垂れている。そのまま腕を左右に振って浮いているか確かめるが、気配は全く感じない。
「ガチャ。」
誰かが入ってきた。急いで袖を布団の中に隠す。
「失礼します。おーい元気ですか。」
「はい。」
入ってきたのはカミラだった。鍵の束を片手に元気よく入ってきた。
「会わないうちにいろいろあったみたいですね。」
「はい。」
「どうしましたか。何か悪いところがありますか。」
「いいえ。でも聞きたいことはあります。」
「なんですか。」
「分かっているんでしょ。ミリーナの件ですよ。」
カミラは鍵の束をベッドの上において椅子に座った。
「はい。分かってますよ。」
「なんで嘘ついたんですか。」
「嘘はついていません。メモは渡しましたよ。」
「でも、ミリーナは寝込んでいて返事なんてかけるわけないじゃないですか。」
「返事に関しては今日話そうと思っていたんです。だから来たんですよ。その前にこんな騒ぎを起こすなんて。」
「いいから話してください!」
「はい、分かりました。そもそもシランさんが私に言伝を頼んだ時点においても、ミリーナさんは寝込んでいました。しかし、起きてからでも読んでもらえばいいと思い引き受けました。」
「返事はどういうことですか。」
「待ってください。メモを渡そうとミリーナさんの部屋に入ったところリンさんに出会ったんです。」
「部屋の中でですか。」
「はい。リンさんはミリーナさんを優しくなでていました。しかしリンさん自身も重症で、私はすぐにリンさんを部屋に戻そうとしました。そのときにメモを見られてしまったんです。」
「え。」
「メモを見たリンさんは私が代わりに返事を書くからそれを渡してほしいと頼んだんです。」
「なんで断らなかったんですか。」
「シランさん。」
「なんですか。」
「私も怒りますよ。リンさんの気持ちが分からないんですか。リンさんは重症のなか一人一人の病人の部屋をめぐって看病してたんですよ。」
「で、でも。」
「それにあの段階ではミリーナさんの状態は非常に危険でした。心拍も非常に弱く、いつ死ぬか分からない状況だったんです。そこでリンさんは、シランさんがミリーナさんの訃報を聞いたらどうなるか考えていたんです。」
「え。」
「これでもあなたは断った方がいいと考えますか。」
「、、。いや。」
「すみません。私も説明が足りていませんでした。でも、シランさんは人を大切に思うことの責任を知りません。シランさんがここにいま生きているのも誰かが大変な思いをして、あなたを守る責任を果たしたすえに成り立っているんですよ。ミリーナさんを大切に思うことはとても素敵なことです。けれど、そのためだといって好き勝手に話したり、行動したりしてはいけないんです。」
「はい。」
「それじゃあ、袖がびしょびしょになっている理由も教えてくれますね。」
「え。」
カミラがわたしの腕を布団の上にだす。
「なにしてたんですか。」
「でも。」
「怒っているわけじゃないですよ。さっきはあんなこと言いましたけど、あなたの気持ちは素直でいいなと思いましたから。」
「え。」
「照れてますか。」
「違います。」
「すみません。でも私のことを信用してください。さっきみたいに何でもぶっちゃけていいですよ。その度に叱ってあげます。でも誰にも言いませんよ。」
カミラさんがまっすぐに私を見てくる。
「ここのナースさんって元娼婦なんですよね。」
「えどこで聞いたんですか。」
「それは。」
「まあいいですよ。ほとんどはそうです。」
「ほとんど。」
「はい。一人だけ本物がいますけどね。」
「え。じゃあ。」
「はい。私が本当の軍看護婦です。ほら。」
カミラはポケットから手帳を出した。手帳にはカミラの名前と年齢などの個人情報と軍のバッチがついている。
「本当だ。」
「ほら、信用しましたか。」
「は、い。」
「なら何をしていたか話してください。これは軍にも伝えませんから。」
カミラのその目を見ると、無条件で信じたくなる気持ちになった。
「力を試していたんです。」
「力って浮遊させる力のことですか。」
「はい。知ってるんですか。」
「もちろん。」
「私が力を使えたことも知っているんですか。」
「はい。」
「どうやって知ったんですか。」
「それは秘密です。でも予想はできますよね。」
あの男から教えてもらったのだろう。
「力は使えたんですか。」
腕を持ち上げて、左右に振ってみる。
「見ての通りです。」
「そうですか。じゃあ、着替えますか。」
「え、それだけですか。」
「怒って欲しかったですか。」
「いや、別に。」
「はははは。ほら脱ぎますよ。」
カミラがボタンをゆっくり外す。鼻が高く良い匂いがする。
「なに見とれてるんですか。」
「違います。」
「シランさん。ミリーナさんはきっと大丈夫ですよ。何かあったら一番に教えてあげますから。」
「はい、ありがとうございます。でも。」
「リンさんのことも気になりますか。」
「はい。」
「リンさんは4階にいるらしいです。ちなみに今日の夜は私が見回りなんです。」
「え。」
「はい、右腕脱がしますね。」
着替えを終えるとカミラは鍵を一つだけおいて出ていった。
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皆さんありがとうううううううううう




