娼館 完
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「シラン。ありがとう。」
歌声の中からかすかにエリの声が聞こえた。同時にリンがエリを抱えたまま近づいてきた。
「そろそろ、この子をベッドに戻してくるよ。」
「はい。」
「ところで、今日はこのために飛んできたのかい。」
「まあそれもありますけど。正直なところある人に会いたくて。」
「ある人って誰のこと。」
「ブルーのスーツを着たお客さんです。」
「ああ、エリを気に入って何度も来てくれた人か。」
「はい。次いつくるか分かりますか。」
「分かるも何もそこにいるよ。」
ぱっと後ろを振り返ると娼館の入り口付近に、きょろきょろと周りを見回している男がいる。
「ありがとうございます。すぐ、戻ります。」
軽くリンに会釈し、群衆をかき分けながら男に近づく。人のあいだからブルーの袖口が見えたので目一杯に引張り娼館の外まで連れだす。
「ちょっと。君なにをするんだ。おい、君。手を怪我してるじゃないか。」
男は袖口が血で汚れていることを気にすることなく、ポケットからハンカチを取り出した。
「ありがとうございます。」
「いやいいよ。それよりも一体、何の用なんだ。私は今人を探していて忙しんだ。」
「エリさんですか。」
「そうだ。君知ってるのか。彼女のところまで案内してくれ。」
「あなた本当にそんなこと言えるんですか。エリさんがなんで苦しんでるか知ってるんじゃないんですか。」
「知ってるさ。だから会いに行くんじゃないか。」
「私エリさんからあの石をもらったんです。」
「なんだと。」
男は急に激怒して、近づき私の胸ぐらをつかんできた。そのまま持ち上げられて、息ができなくなる。私は口の中に唾をためて、男の顔めがけて吹きかけた。男は一瞬力がぬけてよろめく。私はそのすきに両手で男の手を強く握り、体を揺らして男の下腹部を蹴っ飛ばした。男は手を放し後ろに後ずさりながらしゃがんでいく。
「ごっほん。っほん。」
私は咳を何回かして、乱れた胸元をなおした。
「急に何するんですか。私ちゃんと基本的な護身術は知ってるんです。」
「お前。石をどこにやった。」
「エリさんから聞いてないんですか。孤児の男の子の治療のために使いました。」
「そうか。」
「はい、これ。大丈夫ですか。」
私は先ほど男から貰ったハンカチを拾って、男の前に差し出した。
「ああ。どうも。」
男は片膝をつきながら片手でハンカチを取ろうとした。しかし男の手は私の右腕をつかみ引張った。
「このハンカチは私のだ。」
私の右手から無理やりハンカチを取ろうとする。すると激痛が走った。傷口が広がったようだった。ハンカチを反射的に離してしまった。
「その孤児はどこにいるんだ。」
「この手をはなして冷静に聞いてくれるんでしたら話します。」
「無理だ。さっきあんなことをしたやつを話すわけにはいかない。答えろ。」
「離してください。」
男は左手で持っていたハンカチを私の右手にかぶせて、無理やり掌を閉じさせた。そして、その上から力を加えてきた。
「痛い。」
「これは止血をしてるだけだ。」
「最低。」
「いいから答えろ。」
じわっと血がにじんでくる。ハンカチの端まで真っ赤になると、端のほうから浮き始めた。
「これは。お前もしかして。お前も石を使ったのか。」
「答えません。というかそろそろ手を放さないといけないんじゃないですか。周りを見てください。」
周りに野次馬が集まってきていた。
「分かった。」
男はそういって力を抜き、浮いているハンカチをポケットに無理やり入れて私の腕を引張った。
「どこに行くんですか。」
「人がいないところだ。」
付いた場所は娼館のある通りから一、二本外れた路地だった。
「今度は冷静に聞いてくれるんですか。それとも路地に少女を連れ込んで乱暴でもしますか。」
「ああ分かった。話を聞かせてくれ。」
「エリさんに私の孤児院にいる孤児が病気なんだ。という話をした次の日にエリからあの石を直接もらったんです。盗んだり、無理やりとったりしてません。」
「本当か。」
「本当です。」
「まあいい。それじゃあ石はもう使ったんだな。」
「はい。」
「エリはどうしてる。あの石をあげた日からエリに会ってなくて、心配してたんだ。」
「え。エリさんの最近の体調をご存じないんですか。」
「どういうことだ。」
「エリさんは今とても体調が悪くて寝込んでいるんです。」
「寝込んでる、、、、、。」
「何か思い当たることがあるんですね。あの石とエリさんとボンロくんが寝込んでいること。加えて、ハンカチが浮いたことは関係してるんですか。」
男はしばらくの沈黙の後再び話し始めた。
「ボンロってのは誰だ。」
「さっき話した孤児です。」
「まさか。ありえない。だが。」
暗がりでよく見えないが男が私をじっと見つめているのはよくわかった。
「なんですか。」
「君はいつから浮遊力を得ている。」
「二週間以上前ぐらいからです。」
「どうして。力を得たんだ。」
「待ってください。さきに私の質問が先です。あの石は何なんですか。」
「本来なら教えちゃいけないが、能力保持者ならいいだろう。あの石はこの国で発見された鉱石だ。あの石がどういう能力があるかは未だに不明な点が多い。だが、分かっていることが二つだけある。一つはあの石に極度に接触すると浮遊能力を得る。二つ、あの石に接触するとある程度の病気が治る。」
「ある程度ですか。」
「ああまだ、どの病まで有効なのか分かってないんだ。」
「だからエリさんにあげたんですか。エリさんの病気を治すために。」
「ああ。」
「でも治るどころか悪化してるじゃないですか。」
「そうだ。この二つの条件が当てはまるのは一部の人間だけだ。ほとんどの人間は拒否反応がでる。高熱や倦怠感、吐き気が死ぬまで続く。」
「嘘。」
「ほんとだ。」
「でもボンロくんはあの石を使った日から少しずつ回復してるんです。」
「ボンロは普通の風邪じゃないだろ。」
「はい。でもなんで。」
「これもまだなぜかは分かっていないが、拒否反応がでた人間にさらに石を与えると一時的に回復するんだ。だが死ぬことは変わらなかったが。」
その一言は案外あっさりと響いてきた。
「何をしても。死ぬんですか。」
「これは、この国の研究機関でここなんかよりも遥かにきれいで栄養管理もされた場所で得られた結果だ。」
「そうですか。」
でも、という言葉は喉の奥でとどまらせた。いくらここで私の薄い知識と低い学力では反論することもできない。この現実に立ち向かう方法がなにもない。私にはお金も権力も頭もないんだ。そのあと男が何かを話した気がした。しかし全く聞き取ることができなかった。
「お嬢ちゃん。お嬢ちゃん。大丈夫か。」
「はい。」
「君の名前は。」
「シランです。」
「姓は。」
「ありません。私も孤児ですから。」
「分かった。とにかく私はもう一度娼館に戻る。君にはまた必ず会いにいく。それでは帰ろう。」
男は私の背中に手をまわしてきた。私はある道をあるだけただ進むだけだった。
「ほら、シランさん。つきましたよ。」
「あ。」
もう娼館についていた。
「さきほどは乱暴してしまい申し訳なかった。後日しっかり謝らせてもらう。それじゃあ気を付けて。」
男は礼儀作法に則った言い方で去っていった。わたしはとぼとぼと月明りから逃げるように孤児院に帰った。
孤児院につく頃には太陽が出ていた。孤児院の周りはざわついている。
「シランさん。早く来てください。もう行くんです。」
その一言で全身の力が一気に抜けた。涙が頬を流れてきた。
「ミリーナ。無理だった。私には無理だった。」
「いいから。行きますよ。」
ミリーナは私の肩を支え無理に前に進ませようとする。ゆっくりと孤児院をまわり玄関に出るときちょうど神父様が両腕でボンロくんを抱えて馬車に乗せようとしていた。私は走った。ボンロくんを最後に見たかった。
「ボンロくん。ボンロくん。」
「シランお姉ちゃん。ぼく卒業するんだよ。お姉ちゃんよりもはやく。」
「うっうん。羨ましい。」
「お姉ちゃん。大好きだよ。」
「うん。私もボンロくんのことが大好き。」
ボンロくんは震えながら手を差し伸べてきた。私はその手を取ろうとした。しかし掴むことができなかった。右手が血で固まって開いたままになっていた。
「待って。待ってください。」
神父様はボンロくんを荷物のように馬車に乗せた。
「もう待てません。行ってください。」
馬車は目の前で行こうとする。
「待って。待って。私何もしてない。何もできてない。お願い待って。」
馬車は何も言うことなく行ってしまった。
悔しい。悔しい。悔しい。本当に何もしていない。助けることも。手を握ることだって。なにも。何も理解できてない。なにも。
正直、この日以来何も覚えていない。この後すぐにエリもこの町から去ったことも数日後に口頭でリンから教えてもらった。私を得て、他人を失うすべては緑の石のおかげだった。冬が過ぎようとしているころである。
ここまでご覧いただきありがとうございます。ここまで書くことができたのは一重に読んでくださった読者の皆様のおかげです。ありがとうございます。一章完結まで書けたことに本当に自分でもびっくりです。
とはいうものの、正直心残りがあります。それは読者の皆様に飽きずに読んでもらおうとしすぎて、話の展開を早めすぎたことです。次章以降は反省してもっとゆっくりと書いていこうと思います。またバトルシーンももっと加えていきたいです。
次章を書くためにもどうか感想、評価をいただけると嬉しいです。良かったの一言でも全然かまいません。逆に気なったところを書いていただいても嬉しいです。よろしくお願いいたします。ありがとうございました。




