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緑の石  作者: ナニカ
娼館
24/42

娼館23

ここまでご覧いただきありがとうございます。面白ければ評価、ブックマークよろしくお願いします。

「僕はボンロだよ。」

「ボンロ。ボンロ。」

本当に初めて聞いた名前だった。目の前にいた男の子はボンロなんだ。そのときはじめて、彼のことがしっかりと見えた気がした。眉毛が長くて、髪は茶色でくせがある。耳が大きめで、鼻が高い。

「ボンロ。私もボンロのことが好きだよ。」

私には未だにこの感情が、愛情なのか差別なのか全くわからなかった。ただそばにいたい、守ってあげたいと感じる。しかし同時に今までの自分の冷徹さに恐怖していた。これがあの娼婦と私の共通点だったんだと思う。娼婦にボンロと私の関係について問われ怒りがわいてきたのも、娼婦が私との関係を打算的に考えていたことに怖くなったのも私が私自身について考えたくなかったからだ。

「シランお姉ちゃん大好き。」

ボンロはそういってまた眠ってしまった。ボンロのお腹に耳をあてると、ぎゅるぎゅるやさーさー、ゴロっとした音が聞こえてくる。もっとよく聞いてみるとボンロの息遣いと心臓の音も聞こえてくる。

「ボンロ、お休み。大好きだよ。」

ボンロの陥没した頬に唇をあてた。

 気が付くと、外は暗くなっており肩に布団がかかっていた。あのまま寝てしまったらしい。

「シランさん。おはようございます。」

「おはよう。ミリーナ。あの後どうなったの。」

「神父様が明日の朝まで待ってくれるそうです。」

「そっか。ミリーナ、じゃあ今から出てくるから。ボンロのことよろしく。」

「よろしくってどこに行くんですか。」

「娼館に行く。」

「なんでですか。今日は働く日じゃありませんよね。」

「うん。でも大事な用事があるから。」

「ボンロ君をおいてまですることですか。あと数時間しかいられないないんですよ。」

「分かってる。でも行かないと。」

「何の用事ですか。」

「あの石のことが分かるかもしれないんだ。もしかしたらボンロもあの娼婦だって救えるかもしれないし。」

「でも救えないかもしれないんですよね。だったら、。」

掃除でボロボロになっている爪で、自分の右の掌を傷つける。血が少しずつ染み出てくる。

「分かってる。でも今行かないと。必ず明日の朝までには帰ってくるから。」

「だめです。絶対にダメです。この前、ボンロ君の治療のために石を使ったこともまだ疑ってるんです。」

「どういうこと。」

「だからそもそもあの石のせいで色々おかしくなったじゃないですか。」

「そうだけど。」

「それに、シランさんは自己中心すぎます。私が何回我慢してきたと思ってるんですか。」

「ごめん。」

「だから今回だけは絶対に行かせません。」

ミリーナが両手を広げて入口をふさいでいる。

「ごめん。ミリーナ。いろいろと負担ばっかりかけちゃって。でも絶対に行かないといけないんだ。」

「だめです。」

「ミリーナ。ごめんね。」

私は右手の掌にためていた血をミリーナの服めがけて振った。血の粒が空中を待ってミリーナの胸から足の付け根にかけてついた。そして、ミリーナの右側から走って近づいて体で押す。するとミリーナは簡単に動き、宙に浮いた。

「シランさん。何するんですか。」

「ごめんミリーナ。血だからすぐに乾くと思う。」

「だめです。いったら。ボンロ君が。」

ミリーナの目から涙がまたあふれてくる。ミリーナはその涙を左手で拭きとり、私に向けて涙を飛ばそうとしてくる。けれど、すでに私の右手はドアに手をかけておりドアで涙をガードした。

「絶対に戻るから。」

月の光がまぶしいほど明るい。私の左には背丈の二倍ほどの長さの影ができている。私はその影から逃げ切れるほどの速さで娼館へと走った。孤児院の横を通り抜け、路地を抜けて遮るものを蹴飛ばしながらとにかく走った。風を切り裂く音が聞こえ、寒さで耳が痛くなる。右の手もじんじんと痛さが増してきて、血がたれているのが分かる。

 影の長さが変わらぬままに娼館についた。娼館の周りには昨日よりは人がいなかった。おかげですんなりと中に入ることができ、リンのもとへもむかいやすかった。

「はあ、はあ。リンさん。」

「シラン。なんでいるの。」

「はあ、はあ。あの娼婦はまだいますか。」

「うっうん。走ってきたの。」

「そうです。会いに行ってもいいですか。」

「ああいいよ別に。もう客は取ってないしね。」

リンの右の指がまた少し動いた。どかどかと階段を上がりあの一番奥の部屋に向かう。そのままの勢いでドアを開ける。ドアを開けると本当に真っ暗だった。蠟燭に一本も火がともっていない。しかしほぼ毎日掃除した部屋なのであの娼婦がいる位置がよくわかる。一直線に生足に手を伸ばした。

「こんばんは。シラン。」

「こんばんは。」

「きょう。はやいね。なんで。」

「私、あの石をくれたスーツのお客に相談しようと思うんです。そうすれば、あなたもボンロくんも助かるはずなんです。」

「ボンロくんって。だれ。」

「あのあなたが助けてくれた。男の子ですよ。」

「なまえ。そっか。いいね。」

「あのそれで相談しようと、。」

「エリ。」

「え。」

「わたしのなまえ。エリだよ。」

「エリ。エリですね。エリさん。」

「そう。でも。おぼえないで。わたしみたいに。さいていなおんなの。なまえ。」

「そんなことありません。私やっと分かったんです。私もエリさんと同じだって。私も人間関係なんてどうでもいいと思ってたの。どうやったら私を認めてもらえるか、どう発言すれば波風たたないかとか考えて人のことなんてまったく考えてなかった。だって、そう過ごすほうが楽だったから。いちいち人との別れに一喜一憂しなくてすむし、自分の将来や価値についても考えなくてすんだ。でもこの考えのままじゃ、エリさんやボンロくんに近づけないの。」

「わがままだ。」

「そうわがまま。だから、エリさんにも生きてほしい。行かないでほしい。一緒にいたい。」

エリの足が久しぶりにびくっと動いた。

「エリさんが私と嘘でも話してくれたの嬉しかったです。ボンロくんを助けようとしてくれて嬉しかったです。」

「わたしも。うれしかった。さいしょはうそだった。でも。シランとはなせて。よかった。」

「私もです。」

エリの足を抱きしめた。右足に頬をこすりつけて左手で足をなでた。

「シラン。わたし。いま。しあわせ。でも。リンにあいたい。リンにさいごに。あいたい。」

「分かりました。」

右手の固まった血を左手ではがした。血が再びあふれ出してくる。その血をエリの足に塗り付ける。そして、エリの上半身を起こす。

「なに。どうしたの。」

「大丈夫です。エリさんはなんもしなくてもいいです。任せて下さい。」

エリを私の背中にのせて持ち上げる。そのままドアを足で開けて、廊下に出る。

「うわああ。」

「なにしてるの。」

廊下にいた娼婦と客が私たちを見て叫んだ。しかしそんなことは一切気にせず、廊下を歩き階段をくだる。階段を下ると、派手な格好の女と男たちが酒を飲みながら歌を歌っている。そして、私たちを見るや否や歌が止まり、皆が私たちを見ている。この異変に気付いたリンが飛んできた。

「あんたたち何してるの。」

「これは、わがままです。」

「何言ってるの。」

「手を広げてください。」

「はやく帰りなさい。」

「いいから、手を広げて。」

私の声が娼館全体に響く。リンも驚き手を開く。

「エリさん。いいですか。少し、飛びますからね。」

私は前かがみになって、エリを頭のほうに持ってくる。そして同時に血が付いた足に、私の血だらけの手を近づけた。すると、エリがリンのもとに飛んでいった。リンは慌ててエリを抱きしめた。

「なにしてるの。」

「ほら。エリさん。リンさんですよ。」

「ありがと。」

「リン。リン。わたし。リンがすきだよ。うまれてはじめて。わたしを。みてくれたの。うけとめてくれたの。だから。リン。あいしてる。」

リンの右手がエリの髪をなでた。リンの顔は本当のお母さんのようで、エリは本当の子どものようだった。ここが娼館であることなんてもう誰も分からなかった。

 ある客が歌を歌い出した。国歌だ。独立の祝福と平和、親愛と日々の努力の意味がこめられている。歌はだんだんと大きくなり道にいた客たちも入ってきた。エリとリンを中心に人が集まってきているようだった。


ここまでご覧いただきありがとうございます。面白ければ評価、ブックマークよろしくお願いします。そして、もし宜しかったら次も見てください。

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