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緑の石  作者: ナニカ
娼館
22/42

娼館21

ここまでご覧いただきありがとうございます。面白ければ評価、ブックマークよろしくお願いします。

 私は走ってあの娼婦のところへ向かった。扉を今まで以上に豪快に開けて、生足めがけて手を伸ばした。触ってみると、異様に細かった。まるで、あの男の子のようだ。

「シラン。こんばんは。」

「あの、大丈夫ですか。」

「うん。いや、大丈夫ではないかな。」

「あの、私。どうしたら。どうしたらいいですか。」

「どうしたらって、シランは。この部屋を掃除すれば。いいんだよ。」

「違います。そんなことじゃなくて。」

「ははは。」

「何笑ってるんですか。」

「いや、シランと。最初にはなしたとき。とは。だいぶ違うなってね。」

娼婦の声はかすれていて、ゆっくりと話していた。足も全く動かすことがなく止まっていた。

「何言ってるんですか。熱はあるんですか。お水持ってこないと。」

急いで、水を取りにいこうとすると

「いいよ。ここにいて。お願いだから。」

娼婦が枯れそうな声で言った。

「でも、、。」

「シラン。ほんとに。やさしいね。」

「いたいよ。シラン。」

無意識に娼婦の足を握る力が強くなっていた。

「あ、ごめんなさい。」

「ははは。」

「だから、なんで。」

「わたしね。ゆくゆくはこうなるって。分かってたきがするの。」

「分かってた気がするって。」

「だから。いま。へいきだよ。」

「私、貰ったあの石。薬を探してきます。」

「いいよ。だいじょうぶ。」

「なんでそんなこと言うんですか。」

「ぎゃくにさ。なんで。シランはわたしを。おもってくれるの。」

「なんでって。」

「くすりをあげたから?」

「、、、、、。」

この娼婦を特別に感じる理由が分からなかった。この娼婦にきてから、山ほど娼婦が病気にかかって死ぬようすをみてきた。だから死ぬことに慣れているはずだ。実際、この娼婦より前にここいた娼婦がどんな人間だったか全く覚えていない。薬をくれたからだろうか。それも違う気がする。確かしかに男の子を助けてもらったお礼をしたいとは思った。そのお礼ができないから悲しいのか。そもそも、男の子を助けてもらったことがなんであんなにも嬉しいことなのか分からない。孤児院でも子供たちの別れは多く経験しているはずなのに。私にとって娼婦とあの子はどう違うのだろうか。

「わたしね。ほんとは。わるい女なの。」

「どういう意味ですか。」

「わたし。生き残りたかったの。だから、かんがえたの。どうやったら。この娼婦を。やめさせらないようにするか。」

「そんなの普通ですよ。みんなやってます。」

「シランとなかよくするのも。そのため。」

「え。どういうことですか。」

「リンとなかがいい人と。なかよくなれば。わたしが辞めさせられそうになっても。かばってくれる。てね。」

「あの。」

「それが、シランだよ。」

 この娼婦と初めてあったときを思い出した。あの娼婦は私がやってきたときに“助けて”“いかないで”と言って注意をひいてきた。あれは計算して話しかけてきたのか。

 扉を開けて外に出た。廊下をろうそくの光が線になるほどの勢いで走り、玄関を出た。外からは酒とごみの臭いがたちこめている。外面だけの男たちが舐めまわすように見てくる。とても怖い。襲われる恐怖感でも男たちに対する嫌悪感でもない。彼らが何を考えているのかわからないことが怖かった。とにかく、走り続けた。今までどうやってここを歩いてきたのか分からなかった。

 孤児院につくと蠟燭の光があふれていた。光の中に包まれるように孤児院に入った。孤児院に入るとミリーナが子供たちを寝かしつけて、忙しくしていた。そんなことを気にせずミリーナに抱き着いた。

「シランさん。なんで。どうしたんですか。」

「、、、、、。」

「おねえちゃん。どうしたの。」

「おねえちゃん。おかえりなさい。」

「ほら、みんなは早く寝て。いいから早く。」

「えー、おねえちゃん。おはなし。」

「ちょっと待ってて。お部屋に入ってて。」

ミリーナの匂いがする。ミリーナの声が肋骨に響いて震えている。

「シランさん。」

ミリーナの手が頭に触れた。ミリーナの手は小さくて、冷たかったけれど確かにミリーナの手だった。あの娼婦もふくらはぎを触られたときにこんなことを思ったのだろうか。

「シランさん。みんな。行きましたよ。顔を上げてください。」

「怖い。」

「怖いってなにがですか。」

「分からない。」

「娼館で何かあったんですか。」

「分からないの分からないから、怖い。」

ミリーナの右手が頭をなでる。左手で背中をたたいてくる。子供たちをあやすときと同じだ。

「シランさん。大丈夫です。大丈夫ですよ。」

「ミリーナ、私のこと知ってるよね。」

「はい。もちろん。小さいころからずっと知ってますよ。」

「私もミリーナのこと知ってる。」

涙が流れてきた。頬を流れて、首を通って鎖骨の下まで流れていく。涙が足首につく頃、自然に頭巾が勝手に上に動いた。私もそれにつられて顔を上げた。

「おかえりなさい。シランさん。私もこの力を利用してみました。」

ミリーナの顔が見える。私を見つめて、口が軽く笑っている。脱げそうになっている頭巾を触ってみると、少し湿っていた。

「ミリーナ。私より上手だね。この力使うの。私失敗してばっかり。」

「シランさんは頭がいいですけど、不器用ですからね。裁縫も上手くないです。」

「ちょっと。ミリーナ。」

「いつものシランさんに戻りましたね。」

「うん。ただいま。」

「もう大丈夫ですか。」

ミリーナの手が私から離れそうになったので、手首をつかんで自分の頭にまた戻した。

「甘えんぼさんですね。いいですよ。」

またミリーナの手が頭をなで始めた。ミリーナはなにも聞くことはなかった。私がどうして娼館を抜け出してきたのか、どうして泣いているのか。ミリーナ自信も疲れているはずなのにずっと私のそばにいて頭をなで続けてくれた。

「ミリーナ。あの子。元気かな。」

「今朝から寝てるので大丈夫だと思います。」

「そっか。」

「シランさんは優しいですね。ずっと、あの子のこと考えてるんですね。」

「考えてる。でもなんで考えてるか分からない。」

「私にもシランさんがあの子のことをどう思ってるかは分かりません。でも、誰かにずっと思われているのは嬉しいことですよ。きっと。」

前にも同じようなことをあの娼婦に言われたことがある気がする。

「ありがとう。」

「はい。あの子のこと見に行きますか。」

「うん。」

ミリーナから離れて、男の子が寝ているところへと向かった。ゆっくりと物音が鳴らないようにドアを開けると男の子が浮かずにしっかりと寝ていた。ミリーナのランプにところどころ照らせている。男の子に少し近づくと足が見えた。小枝のようにやせ細り、骨だけが見えている。もう少し近づくと顔が見えてきた。顔色はランプの明かりのせいもあるのか、以前よりもよくなっている。

「ミリーナ、私戻るね。」

「どうしました。今日はもうお休みしてもいいと思いますけど。」

「いや、みんなに迷惑かけるし。」

「怖くないですか。」

「怖い。でも、この子はたぶん私以上に怖いと思う。だから私も頑張らないと。」

「そうですか。分かりました。頑張ってきてください。待ってますね。」

「うん。」

正直なところ今もまだ、なんでこの男の子が私にとって特別なのか分からなかった。けれど、この子が必死に頑張る姿に感化されたみたいだった。

 ミリーナと別れてまた走って娼館に戻った。南通りは下を向いて、目をつぶって必死に走って通り抜けた。


ここまでご覧いただきありがとうございます。面白ければ評価、ブックマークよろしくお願いします。そして、もし宜しかったら次も見てください。

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