娼館20
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娼館の仕事を終え孤児院に戻るとやはり、真っ暗だった。その中を男のめがけて進むと、男の子は蝋燭の光を浴びながら浮いていた。男の子は頭から足先まで同じ高さで浮いており、空気のベッドに寝ているようだった。しかし、髪の毛は下に垂れさがっている。また、掛布団も浮いていないようで男の子からずり落ちそうになっている。
心配になり男の子肩を軽くたたくと、男の子は下腹部を中心として反時計回りに回った。そして掛布団が絡まりとまった。このまま朝を迎えてしまうと、みんな驚いてしまうと思いあることを思いついた。
娼館を掃除していたときのことだ。手に持っていた二枚の雑巾を落としてしまったとき、二枚のそれぞれの雑巾は落下中に異様に離れたのだ。普通、二枚の雑巾を落としても塊となって落ちていくが、落とした瞬間二枚は反発しあうように離れながら落ちた。落ちたといっても勿論、着地したわけではなく地面から浮いて止まった。いうならば着浮したのだ。不思議に思い二枚のうち一枚を拾って、着浮しているもう一枚の上から落としてみた。すると、ある程度の高さまでは自由落下した雑巾が急に左斜め向こうに飛んで行った。さらに、着浮していた雑巾は右歩行に飛んで行ったのだ。つまり、場は互いに影響するのだ。
これまでのことから、場の性質がある程度わかってきた。まず、私やミリーナが濡れた手で触ったものは浮く。それは濡れた手で触ることで場が広がっていき、場の下側が私以外のものに触れた時点で、場は広がるのをやめて浮く中心が決まるからだ。
例えば、布を上から地面に向かって落とす場合を考える。まず、私が濡れた手で布を触る。そして布を中心に場が広がっていく。次に布を落としてみる。落としていくと布が地面につくより早く場が地面に触れる。その時の布の高さが、場の中心となる。よって、布がさらに落ちようとしても場の“ものを中心に戻そうとする力”により地面につく前に、布の重さとこの力が釣り合って布は浮くのだ。したがって、布を触る時間が長くなると場も広がっていくので、場の中心の位置も高くなりより高く布が浮くのだ。
さらに、先ほど分かったように場が生じている布と布を近くに置くと反発しあう。場には“ものを中心に戻そうとする力”と“ほかの場を反発する力”を持っている。これが大まかな性質だ。
この男の子を下ろすためには、“ほかの場を反発する力”を使う必要がある。男の子は濡れた布ような状態になっていると考えられる。だから、男の子をベッドに戻すには上から私の手に触れた水を落として。場同士で干渉させて、男の子を無理やりベッドに押し付ければいいのだ。勿論優しく。急いで鉄鍋にためてある水に指を少しだけ入れて、全部垂れ切らないように男の子のもとへ走って戻る。そして、親指ではじくと男の子は下に行くことはなく横にスライドした。失敗した。よく考えれば、場同士をあてて男の子を動かすことはできても場の広さを狭めることができないので意味がない。どうしようと考えていると
「お姉ちゃん。おかえり。帰ってたの。」
かすれた声で男の子が話し出した。
「ただいま。ねえ大丈夫。」
「え何が。」
どうやら男の子は寝ぼけているようで自分が浮いていることに気づいていないようだった。
「ねえお姉ちゃん。なんで下にいるの。」
「違うよ。お姉ちゃんより上にいるんだよ。」
「うわあ。ほんとだ。」
「ねえこっちきて。」
「うん。」
男の子がそう言うと男の子の体がゆっくりと落ちてきた。男の体はそのまま静かにベッドに沈み込んだ。
「きたよ。」
男の子はまた眠ってしまった。今までの場の性質では説明できないことが目の前で起きたが、なんでかと考えられるほど体力は残っていなかった。男の子が降りてきてよかったと考えたまま私も眠ってしまった。
次の日、男の子はこの前のように元気に起きておかゆを食べて寝てしまった。昨夜浮いたことについて聞いてみても、本人は全く覚えていないようだった。しかし、今までいろいろなことが起こりすぎて不安や心配は男の子が倒れた時以上には思えなかった。むしろ今日生きてまた明日生きれることに安堵できた。
けれど、その安堵は娼館に行くころには一切なくなっていた。娼館に行き、あの娼婦の部屋に行こうとするとリンに呼び止められた。
「こんばんは。シラン。」
「お疲れ様です。」
「今日は奥の部屋に行かなくてもいいよ。」
「なんでですか。」
「いや、今日はあの子客を取ってないからね。」
「なんでですか。」
「あの子、病気になったんだよ。」
「病気ですか。彼女の体のことに関係してますか。」
「シラン。あんたあの子の体のこと知ってるの。どうして知ってるの。」
「直接彼女に聞きました。」
「あの子が直接話したの。」
「関係してるんですか。」
「いや分からないんだ。でも、近づかないほうがいいよ。あんたも動かなくなるよ。」
「動かなくなるって、。」
私は走ってあの娼婦のところへ向かった。
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