娼館9
ここまでご覧いただきありがとうございます。面白ければ評価、ブックマークよろしくお願いします。
結局、仕事の終わりはぎりぎりオープンに間に合うぐらいだった。途中、掃除が終わっていないことを見かねた三階、四階の人がたすけてくれた。仕事帰りは一昨日よりもさらに疲れて、気づいたら孤児院に帰っていた。孤児院につくと着替えることもなく一気に眠ってしまった。
朝、また高級ベッドで寝ているみたいに暖かくフワフワしていた。でも、また湿ってる。はぁまたか。と思いつつ子供たちを起こす。ある子は、私の右足で起こす。ある子は、肘で起こす。ある子は、腹で起こす。
「ほら起きろ。」
「シランおねえちゃん。ごめんね。」
あの男の子がまた泣きながら話しかけてきた。目元を両手の甲で何回もこすっている。しかし、すべてぬぐい切れずに何滴か頬に垂れている。
「ああ、もういいって。」
「ごめん。」
「うん。早くどけって。」
少し語気が強くなってしまった。
「うわああああん。」
男の子が違う種類の悲しさをもって、泣き始めた。その声が鼓膜にあたり脳にあたる。泣き止ます努力すらしたくないと思ってしまう。
「どうしました。」
「ミリーナおねえちゃあああん。シランおねえちゃんが怒った。」
その言いかたにすら腹が立つ。
「シランおねえちゃん、疲れてるんだよ。ほら、あっちで体ふこう。」
ミリーナが気を聞かせて私から、男の子を話してくれた。
「はあああ。」
とため息がでた。そのため息は消えることなく膝にあたって対流している気がした。
11歳ぐらいの子がシーツを取り換え始めているころにやっと、ため息が消えて我に戻った。やってしまった。と感じながらシーツを外していく。すべてシーツを外しまた川に持っていく。持っていく間もどう謝ろうか考えていた。
頃合いを見計らって声をかけてみた。男の子は目が真っ赤だ。
「ねえ。さっきは言い過ぎた。ごめん。」
「ん。」
「まだ怒ってるの。」
「おこってる。」
「怒ってるのか。どうしたら許してくれる。」
「ん。」
「あれ、さっきミリーナお姉ちゃんとお約束しなかった。」
ミリーナが男の子の後ろからやってきて、頭に手を置いた。
「約束、なに?」
「ごめんなさい。」
「ごめんなさい?それが約束なの。」
「そうだよねー。謝りたかったんだよね。」
ミリーナが男の子の頭をなでている。
「そっか。私もごめん。」
私も男の子の肩をなでた。すると、男の子がずっと顔にあった手を一気に広げ私に抱き着いてきた。背中を数回さすってあげる。また、だんだん男の子の呼吸が落ち着き寝てしまった。
「頑張ったんですよ。」
「そうだね。ごめん、ミリーナありがとう。ちょっと疲れててさ。」
「いいですよ。じゃあこの子寝かしつけますか。」
「うん。行ってくるよ。」
男の子を寝かしつけてミリーナに昨日起こったことを話しに行った。
「ミリーナ。」
「はい。あの子安心してましたね。」
「そうかな。」
「はい。シランさんと仲直りできて。」
「うん。」
「ところで今朝、ちょっと疲れてましたよね。昨日大変だったんですか。」
「ああ、そのことなんだけど。またものが浮いたんだよ。」
「石のことですね。何が浮いたんですか。」
「タオル。調理場でシェフが使ってたタオル。」
「タオルですか。」
「なにか分かるかな。」
「いえ、でも。関係ないかもしれないんですけど、そのタオルもしかして濡れてましたか。」
「うん。そりゃね。」
「一昨日のシランさんの服も濡れてて、トマトを握っていた私の手も濡れてたんです。」
「なるほどね。でも、今日も料理したんだよね。そのとき何か浮いてた?」
「いえ。じゃあ関係ないですかね。」
「いや、三つのものに濡れているという共通点が分かった凄いと思う。」
「そうですか。よかったです。でもあんまり深入りしちゃだめですよ。安全かどうかも分かってないんですから。」
「うん、だね。」
暖炉の薪の橙色が赤色に変わる、ほかの子が寝静まった夜。私はあることをやってみることにした。昼間より冷たく固くなった鉄なべの水の中に、頭巾をいれる。頭巾を取り出す。頭巾の端から水が落ち、ちょぼちょぼと音が鳴る。音が鳴りやんだあとそっと鉄なべから出してみる。そして、ぱっと手を放してみるときゅーっと落ちていったが、床に落ちる音がしなかった。しゃがみ込み確かめてみると芋一個分浮いていた。息を吹きかけてみると奥に芋半個分うごいた。そして、戻ってくる。やっぱり水にぬれたものは浮かすことができるんだ。
さらに、どれだけ重いものまで浮かすことができるのか気になった。近くにあったぼろ靴を頭巾の上にのせてみる。まだ芋一個分浮いている。さらに靴の上に鉄製のコップを置いてみる。芋三分の二個分ぐらいまで下がったが浮いている。コップの中にフライ返しやお玉を入れる。一瞬ぐっと下がりコップが倒れてしまった。今度は、コップが倒れないように軽くフライ返しを支えた。また頭巾がぐっと下がったが、約芋三分の一個分ぐらい浮いている。もう一つフライ返しをとろうとしたが両手は、コップが倒れないように支えていて使えない。
そのとき、ふと思いついた。この頭巾は元の位置に戻ろうとし続けているから浮いている。だから、横に押しても下に押しても戻ってくる。なら、わざわざ下に押さなくても、どれだけ横に押して戻ってくるかを確かめればいい。コップをどかし、調理台におく。そして、右に芋一個分動かしてみる。元に戻る。さらに、芋一個分より少し長めに動かした瞬間ぼとっと落ちた。そのあと、あらゆる方向でやってみても結果は同じだった。頭巾の周り芋一個分はすべて戻る。まるで、透明な球が覆っているみたいだった。私はそれを“場”と名付けた。つまり場の中ではあらゆる方向にある程度、中心に戻ろうとする力が働いている。
これは面白い。実験はここまでにして眠ることにした。明日ミリーナに教えてあげようと思いウキウキになりながら眠りについた。
ここまでご覧いただきありがとうございます。面白ければ評価、ブックマークよろしくお願いします。そして、もし宜しかったら次も見てください。




