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緑の石  作者: ナニカ
娼館
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プロローグ

発見していただきありがとうございます


ここまで来てくれるだけでとっても嬉しいです!!!


もし面白ければ評価、ブックマークよろしくお願いします。

神歴1925年12月25日 

 今朝は、服の冷たさを感じながら目が覚めた。あくびは瞬く間に水の結晶となって私からでていく。結晶が見えなくなる前に私の肩は震え始め一瞬のうちに全身に広がり起き上がらずにはいられなくなった。四方八方に広がっている髪の毛を手櫛で整えつつ、つま先立ちで調理場へと向かう。調理場に入ると踵をつけても大丈夫なほど暖かく震えも少しだけ止まった。火がついてる。おそらく、誰かが私よりも早く起きて準備をしているのだろう。調理場の外に少しだけ明かりが見える。身を縮ませながら小走りで小窓に向かう。ガタガタと震えている窓の外を見るとミリーナがランプを片手に井戸に向かっている。私は、急いで外に出た。外に出ると孤児院の中とは次元の違う寒さがあった。肌は針を刺されたように痛み、手は凍り始めているようだ。寒さに耐えつつ走ってミリーナのもとへ向かうと、

「おはよう。」

「・・・・・。」

声をかけても風の音に遮られていて聞こえていないようだ。私は感覚神経がもう一本しかとっていない手を器用に動かしミリーナの肩を触った。

「あ、おはようございます。シランさん。」

左手にランプを持ち替えて、右手で風に揺られる髪をかき分けながらミリーナは言った。普段のミリーナの顔は暖かなひまわりのようであるが、今のミリーナの顔は枯れたひまわりのようだ。

「おはよう、水くむの手伝うよ。」

井戸のロープを握ると一気に引っ張る。井戸のロープを交換していないのか少し細くなっていて手の皮がむけそうになる。手の痛みに耐えつつロープを引くとだんだんと手の痛みが増大してきた。ロープが湿っているからだ。すると、水が入った桶が上がってきて冬風に水が舞い上がり顔に飛んでくる。

「冷たい。ミリーナ、バケツ。」

ミリーナが腕にかけていたバケツを手に持ち、私が水を注いだ。水は甲高い音を上げながら注がれていく。井戸の桶から水がなくなると井戸に落とす。私は、ミリーナの耳を覆った。井戸水と桶が当たる音を聞くとより一層寒さが増すからだ。

「ちべたい。」

ミリーナをつぶやいた。ミリーナの顔のパーツが中心に寄っている。私は少しつかんでいる手に力を入れてミリーナの耳を触った。

バシャン

「寒さの音がした。」

「暖かい。」

井戸水にぶつかった音がしたあとほぼ同時に話した。私たちはお互いの顔を見ながら少しだけ笑い。また、井戸のロープを引っ張り始めた。ミリーナは一度手に持っていたバケツを地面に置きランプが落ちないように右腕にかけてロープを引っ張った。

少しずつ引っ張っていくとほのかに匂いが香ってきた。その匂いは桜が芽吹き始めた匂いのような蝶の鱗粉と野花の匂いのような、はたまた鍛冶場で鉄を鍛えるときの匂いのような独特な匂いがした。そして、だんだんと緑色の光がロープを引く速さと同じ速さで近づいて来る。すると、ぐんっと急にロープが重たくなった。ミリーナが手を離したようだ。

「シランさん。これ、、。」

風に声が流され一部しか聞こえないが怖がっているようだ。不思議なことに私は恐怖よりもこの光の正体が気になり腰を下ろして一気にロープを引いた。滑車のガラガラ音とともに桶の水が緑色に反射して揺れている。緑色の光はランプの光よりもはるかに幻想的であったが、ランプよりもひどく冷たい光であった。匂いもきつくなっている。

風が先ほどよりいっそう強く吹き桶の水を巻き上げて、私の顔に水がかかった。桶を持つと明らかに先ほどよりも重くカラッと、何かが桶の底や側面と当たっている感触がある。

「ミリーナ、バケツバケツ。」

ミリーナは慌てて左腕にかかっていたバケツを手に持った。慎重に水を注いでいくと、宝石のような緑色の石が出てきた。石は水の中に入っていたよりも弱い光を発している。匂いは風に流され感じない。

「これって、なんですかね。」

「ミリーナこれは、、。」

と言いかけた瞬間、緑色の石は色をなくしながら粉々になって宙に舞い消えた。

「シランさん。早く神父様に知らせないといけませんよ。」

ミリーナはバケツを手で握りしめている。その右手の指はひび割れ、指先は赤く染まっている。親指にはバケツの冷たい水がついているが全く気にしていないようだった。ランプの暖かい光がミリーナの顔を下から照らしている。口は半開きになり、大きな涙袋の影が目を覆っている。

「いや、とにかくバケツを持って帰ろう。」

 石が入っていた水もそのまま調理場に持ち帰った。調理場はうっすらと火の光が見えているだけで人がいる気配はない。私とミリーナは扉の音が鳴らない容易慎重にドアノブに手をかけた。ガチャっという音と伴に温かい空気が漏れてくる。その空気に吸い寄せられるように調理場に入った。水の入った持ち手がひりひりする。バケツを一旦床におろした。

「はああ。寒かった。」

「寒かったですね。」

ミリーナはそう言いながら私を避けてバケツの水を火の上の鉄製の大鍋に入れた。大鍋が声を発して揺れている。私もまた重たいバケツをもち大鍋に注ごうとした。しかし、その水はさっきあの緑色の石が入っていた水であることを思い出し、水が一滴垂れる寸前にバケツの口を上に向けた。

「危ない。これはどうしようか。」

「どうするって、、。毒ですかね。」

私とミリーナはバケツの水を覗き込んだ。水面は少し揺れ一部が火を反射している。しかし、水面が私たちの顔を反射することなく暗闇が見える。私は、右手を口の近くに持ってきて自分の息で温めて、恐る恐る深淵に指を突っ込もうとした。

「何しようとしてるんですか。毒だったらどうするんですか。」

ミリーナは私の右手を勢いよく掴んだ。ミリーナの手はバケツの冷水よりも冷たく、井戸のロープよりも乾燥していた。

「いや、でも確かめないと。もう一回外に出て水をとり行くのは嫌だろ。それに、朝の料理に使うぐらいは水もあるし。」

ミリーナの私をつかむ手が少しだけ緩み、私は水に指を入れた。冷たい。ただ冷たいと感じただけだった。私はすぐに指を曲げて水から出した。

「どうもないですか。」

ミリーナは不安そうな声でまた力を込めて私の手を握る。

「うん。たぶん大丈夫。じゃあ次は舐めてみるよ。」

「だめです。今度は私が試してみます。」

そう言うとミリーナは私の指に滴る水を舌先で舐めとった。ミリーナの温かい息が指にかかり、少しざらっとした感触を感じた。

「大丈夫?」

ミリーナは目をつむって、苦い薬でも飲むかのように勢いよく飲み込んだ。しばらく目を瞑っていたがだんだんと目の皺がほぐれていき、ブルーの目があらわれた。

「大丈夫です。たぶん。」

私をつかむ手が震えていて大丈夫そうではないが、顔色や体調の変化はなさそうだ。

「そっか。じゃあ私も舐めてみるよ。」

もう一度指を水につけようとしたところ、ばたばたとした足音と隣の家の扉が開く音がした。私とミリーナはバケツの水を一気に大鍋に入れて孤児院の朝の準備をし始めた。


 最近は、数年前と違ってしっかりと食事をとることができるようになった。孤児院の畑でとれたものや近くの農家の方から譲ってもらったものを適当に煮たものとパンだ。おかげで、今となっては孤児院で餓死者が出ることはほぼない。加えて、孤児院の子供の出入りも非常に多い。戦争で働き手がなくなった家庭が多く、また戦争で家族を失った子供も多いからだ。唯一数年前から残っているのはすでに適齢期を過ぎ性別も男ではない、私とミリーナあとランと数人である。一般論として貰い手を受ける適齢期を過ぎた孤児は、成人するまで孤児院にいることになる。そして、成人した後は孤児院から喜ばれながら追い出される。よって、普通の孤児はどうにかして貰い手を見つける努力をするものだ。しかし、私たちは今更そんな努力はしない。むしろ、成人する前に孤児院を自分たちから出たいと考えている。有難いことに人手不足は、いくら今いる孤児を全家庭が引き受けても解消するわけではない。だから、今はどこの企業も行けばだいたい雇ってくれる。それに、孤児院にいる間は孤児院側が仕事を斡旋してくれるからありがたい。

 そんなことを考えながら私は、ガキたちのおねしょした後のシーツを洗っていた。水に手を付けすぎていて、今手が冷たいのかどうか分からなくなってくる。

「お姉ちゃん、ごめん。」

「いいよ。いいから早く暖まってきなよ。」

「うん。」

おねしょの犯人が半べそかきながら、下半身を露出したままぺたぺたと走っていく。肌はほのかに赤く指の先はより真っ赤だが、お尻には青い斑がくっきり見える。

「早く、服着て。」

「うん。」

そう言いながらこけそうになった。すると、ミリーナの右手が転げそうになる体を支え少しその子と会話をしてこっちに向かってくる。

「シランさん、お疲れ様です。お水のこと神父様に相談しました。」

「ありがとう。で、どうだった。」

「神父様があの水を確かめた結果、特に異常はなかったようです。」

「そっか。石のことは話した。」

「いいえ。」

「うん。しばらくは黙っておこう。」

ミリーナは話を終えると調理場に戻っていった。

ここまでご覧いただきありがとうございます。面白ければ評価、ブックマークよろしくお願いします。そして、もし宜しかったら次も見てください。

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