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ディアナ視点 物語のススメ

時間軸は六年生「ディアナが得たもの」の塔の先端で話をしたあと。

ディアナとアルスランが昼食を取りつつなぜか恋愛の話をします。


 王の塔の先端でアルスラン様と透明の魔石を交換し、歌を歌った私はそれから二人で王の間に降りて昼食の準備を始めた。

 

「昼食がすっかり遅くなってしまいましたね」

「別に構わぬ。其方との話の方が大事だったからな」

 

 アルスラン様はそう言って自分のヤパンに座り、机の上にある書類を片付け出した。その空いたスペースにコモラの料理を並べながら私は口元をニヤつかせる。

 

 あー、ダメだ。これからもう一人じゃないって思うと嬉しくて顔が緩んじゃうよ。

 

 寿命については自分の力ではどうしようもないと諦めていたことだったので、同じ時間を一緒に生きてくれる人が現れたことが嬉しくて仕方がない。

 

「たくさん食べてくださいね。アルスラン様にはこれからも健康でいてもらわないといけないのですから」

「今の体調を思うに風邪一つひきそうにないがな」

「油断は禁物ですよ。病気には癒しは効かないのですから」

 

 私はそう言いながら彼にお茶を出して、自分に用意された昼食を食べ始める。

 

「んんー美味しいぃ。コモラはやっぱり天才です!」

「相変わらずよく食べるな。其方は午前のお茶会で食べたのではないのか?」

「お茶会に出てくるのはお菓子ばかりですし、メンバーと話をするのに忙しくてそんなに食べられなかったんですよ」

 

 さっきまでいた練習室を思い浮かべながらそう説明すると、アルスラン様はなにかを思い出したようにこちらに視線を向ける。

 

「演劇クラブといえば……公演会について話していなかったな」

「ん、なにか問題がありましたか?」

「いやそうではなく……劇の内容についてだ」

 

 そう答えるアルスラン様の表情は少し恥ずかしそうだ。それを見てピンとくる。

 

「あ! もしかして劇の感想ですか⁉ そういえばアルスラン様からは詳しく聞いていませんでした。是非聞かせてください!」

「落ち着きなさい。お茶がこぼれる……」

 

 勢いよく机に手をついた私にそう注意しつつ、アルスラン様はミュージカル「革命」についての感想を語り出す。

 

「観終わったあとにも言ったが、予想出来ぬ話になっていて面白かった。まさかアルシアが呪いの花の蜜に倒れ何百年も眠りにつくとは思わなかった。そしてダイナクローが彼女が目覚めるまで自分の志を全うするということも……あのように壮大な話になるとはな」

「あの脚本は素晴らしかったですよね。さすがヤティリです」

 

 私はそこですかさずヤティリの素晴らしさを語り、今回の脚本は初めはダイナクローは数百年生きていた設定だったことを話す。そしてそれを途中で一千年という長い年月に変えたことも。

 

「アルシアが眠りにつくのも数十年くらいだったんですけど、私が途中で四百年にすることを提案したんです。ダイナクローについても数百年より一千年の方が孤独感が増しますし、もっと大きな時間の流れを伝えられるかなと思いまして」

「そうだったのか……ふむ、確かにその方が時の流れの残酷さも伝わってくるな」

「アルシアとの再会の喜びもその方が増すでしょう?」

「そうだな。そのようなことよく思いついたものだ」

 

 そう言われ私は持っていたフォークを下ろして眉を下げる。


「……実は自分が一千年氷の中で寝ていた経験を参考にしたんです。死ねないダイナクローの苦しみはなんとなくわかるので」

「ディアナ……」

「ふふ、大丈夫です。その設定を足したお陰で思った通り物語に大きさや深さを足すことが出来ましたし、私は満足です」

 

 そうニコリと笑って私は三角形の包み揚げを口に入れた。

 

「その他にも楽しめたところはありましたか?」

「……そうだな、役者の演技や舞台の演出というのか? それも興味深かったが、私はやはりその登場人物たちばかりに目がいった。特にアルシアに関しては不満を抱いたな」

「え、不満ですか?」

「あの者は父の仇を討ち、国を乗っ取った元宰相を倒そうとしていたのであろう? その割りには考えが甘いという印象を持った。それは休憩時に其方にも言ったであろう。あの印象は最後までなくならなかったな」

「そ、そうなのですか……」

 

 アルスラン様は少々眉を寄せながらアルシアについて「為政者としての力が弱い」だの「行き当たりばったり過ぎる」だの「結局牢に助けに行った時も彼女だけ足手纏いだった」だのなかなか辛辣なことを言う。どうやら同じ王族として許せないことが目についてしまったらしい。

 

 なんともアルスラン様らしいね。

 

「そこはあくまで物語ですからねぇ……あの救出の場面にアルシアがいなければ話が進みませんし、呪いの花の蜜を受けることが出来ませんから。それに戦力にはなりませんでしたが彼女は人の嘘がわかります。その力を使う場面があるから一緒に助けに行ったという裏設定もあるのですよ。元々彼女たちはボフマンと直接対決するつもりでしたから」

「ふむ……なるほどな。それが予想外にあの広場に誘導され、計画が失敗したということか」

「そういうことです。あくまであの物語はダイナクローの生き方を中心に進んでいましたから、その辺が少し説明不足になったかなとは思います」

 

 私がそう答えると、アルスラン様は腕を組んで考え込み始めた。なにやらぶつぶつ言っているので聞いてみると、劇を観ている間に気になったことがいくつかあるらしい。それについて一つ一つ答えながら私は心の中でふふ、と笑う。

 

 アルスラン様のこの反応って、まさに「ハマった人」のものなんだよね。特にアルスラン様は研究肌で考察が好きだからめちゃくちゃよく観てくれてるよ。

 

 思った以上に劇に夢中になってくれたらしいアルスラン様を見て私は幸せな気持ちになる。ずっと見て欲しいと思っていた人に面白かったと言われて心が躍らないわけがない。なんなら今すぐ踊り出したいくらいだ。

 そして最後にアルスラン様は意外なことを尋ねてきた。

 

「そういえば……最後の終わり方が疑問だったのだが、あれは結局ダイナクローの不死の呪いは解けたということでいいのか?」

「そうですね、そう思っていいと思います」

「なぜあのようにはっきりと言わない最後にしたのだ?」

「その方がその後が想像出来て面白いと思ったからですよ。余韻といいますか……ヤティリもそれを計算してあの終わり方にしたのだと思います」

 

 そう答えるとアルスラン様はますます眉間に皺を寄せる。

 

「余韻……? よくわからぬな。ダイナクローの呪いが解けたのか解けなかったのかはっきりしなかったのでそこがスッキリしなかったのだが」

「うーん……アルスラン様は物事をはっきりさせるタイプですもんね。こればっかりはその人の好みに寄るとしか言えないんですけど。小説などではよく見る手法なんですよ」

「そうなのか? ふむ……あまりそういうものは読んでこなかった故わからぬな」

 

 ああ、そういえばアルスラン様が読むものって資料とか研究書とか歴史書とかばかりだったよね。

 

「それは勿体無いですね……世の中には面白い小説がたくさんあるのに。アルスラン様は公演会の劇を面白いと思ったのですよね? それなら十分楽しめると思いますよ、物語も」

「物語か……」

「あ、じゃあ今度私のおすすめの本を持ってきます! ヤティリが書いた短編も面白いのがありますし。どんなジャンルのものでもいいですか?」

「それほどたくさんあるのか?」

「ありますよ。『戦記もの』『恋愛もの』『冒険もの』や他にもいっぱいありますし、年齢層で分ける物語もあります」

「ふむ……戦記ものか……それは興味があるな」

「それだけでなくいろんなジャンルを読んでみてくださいよ。アルスラン様は読むのが早いのですし。恋愛ものの中にも壮大なものはありますよ」

「それにはあまり興味を引かれぬな。まず恋愛感情というものがピンと来ぬ」

「え……」

 

 不可思議な顔をして首を傾げるアルスラン様に私は目を見開く。普通は成長すれば恋愛感情は自然と持つものだと思うが、目の前にいる人は本当によくわかっていないという顔をしている。

 

「アルスラン様は今まで誰かを好きになったことがないのですか?」

「それはどういうものなのだ? 尊敬していたのは父上と母上だけだがそれとはまた違うものなのであろう?」

「ち、違いますね……」

「どう違うのか説明が欲しいな。そういえば其方はどうなのだ?」

「え! 私ですか?」

 

 そう言われて思い出そうとするが、悲しいかな私にも誰かを好きになった経験はほとんどない。一千年前は同じ一族の男性しかおらず家族のように過ごしていたし、恵麻時代に至っては夢に全力で進むことに必死でそういう事柄にはあまり目が向かなかった。だから私は恋愛相談が苦手なのだ。鈍いから。

 

「そう言われてみると……恋に恋した状態というのはよく知りません……」

「其方も一緒ではないか」

「で、でも恋愛物語に出てくる女の子のキュンとする気持ちはわかりますし、幼いころに抱いた初恋はあった気がします! ちょっと忘れてしまいましたが」

「忘れているのなら同じだな」

「同じじゃないですよ! えっとえっと……そうだ、好きな映画俳優さんならいましたよ。小さいころに『この人と結婚したい!』って言ってた人が。その時の気持ちは恋愛感情に近いと思います」

 

 私がそう言って勝ち誇った顔をすると、アルスラン様は半眼になって私を睨む。

 

「結婚したいと思った者がいるのか」

「なんでそこで怖い顔になるんですか。まあ、そうは言っても会ったこともない有名人にキャーキャー言ってただけですから……子どものノリというか、ただのファンというか……」

 

 そうしどろもどろに言うとそのニュアンスがなんとなく伝わったのか「やはり私とそう変わらないではないか」と彼は口の端を上げる。

 

 うう、違うもん。誰かを好きになる気持ちはなんとなくわかるもん……なんとなくだけど。

 

 そこではっきりと断言できないのが悲しいところではあるが、私は思考を切り替える。とにかく昔から感情を抑えてきたアルスラン様にとって恋愛感情は未知のものらしい。それならやはり物語を読むべきではないかと思う。

 

「よし、では恋愛ものも冒険ものも全部選んで持ってきますよ。いろんな物語を読めば自分の好みもわかりますし、楽しいですから」

「……まぁ読めるものであればなんでも良いが」

「では読んだら感想を教えてくださいね。物語について語り合うのもいい気分転換になりますよ、きっと」

「そうだな……わかった」

 

 そう答えるアルスラン様の表情は穏やかだ。さっきみたいに観たものに関して話をするのは彼も嫌いではないらしい。そんな時間を持てるのは私にとっても嬉しいことなのでこちらも自然と頬が緩む。

 それから私たちは昼食が終わってソヤリが来るまで物語の話をしながら楽しい時間を過ごしたのだった。

 

 

 

 

特別な絆がある二人ですが

そちら関係はさっぱりです。

先に成長するのはどちらなのか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 無自覚ーーww いつになったら お互い気付くのか ニマニマしてしまう
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