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娯楽革命 番外編SS  作者: 藤田 麓(旧九雨里)


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11/13

ディアナ視点 チェーン作りと特別

時間軸は六年生の章最終話とエピローグの間から始まって、エピローグ後まで。

前半は家での出来事、後半はアルスランとのやり取りです。


 シェフルタシュ学院を卒業した次の日から、私は忙しい毎日を送っていた。うちで数ヶ月暮らすことになるファリシュタとヤティリの受け入れや、溜まっている商売の書類仕事、劇団の活動拠点となる館の準備など、やらなければならないことがたくさんある。

 五の月にはイシークとザリナの結婚式に、私の社交デビューも控えているので、それまでに終わらせておきたい事柄が詰まっているのだ。

 そんな中、私はサモルにガシュを呼び出して欲しいと頼んだ。先日約束した通り、アルスラン様用のネックレスチェーンを作るためだ。

 

 誰に見られるわけでもないけど、サイズの合わない物を身に付けてるアルスラン様は見たくないんだよね。本人は全く気にしてなさそうだったけど。

 

 彼の特別補佐として王族周りの決まり事を一通り習ったからか、本人より私の方がそういうことを気にするようになってしまった。おかしなものだ。

 サモルはお願いした翌日にガシュを連れてきてくれた。いつもの商談部屋に私と側近の二人とイシュラルたち、そしてサモルとガシュが集まる。

 

「久しぶりですね、ガシュ。元気でしたか?」

「は、はい。ディアナ様のご卒業用の装飾を任せていただいたお陰で、工房にも活気がみなぎっています」

「ああ、そうでした。あの装飾品たちはどれも素晴らしい出来でしたよ。服にも合っていましたし、みんな絶賛していました」

「も、勿体ないお言葉です。ありがとう存じます」

 

 ガシュの真面目で職人気質な受け答えにくすりと笑っていると、彼の隣に座っていたサモルが話を振る。

 

「それで……今回ガシュを呼んだのはどうのような要件なのですか?」

「繊細な装飾を作れるガシュに頼みたいものがあるんです。ネックレスの鎖なんですけど……」

 

 私の言葉にガシュが顔を上げて口を開く。

 

「ディアナさまの新しいネックレスでしょうか。それはどのような……」

「あー、えっと私のではな……」

 

 そう言い掛けて私はハッと口を噤む。

 

 しまった、つい自分のものを頼む時と同じようにガシュに来てもらったけど、どうやって注文するのか全く考えてなかったよ!

 

 欲しいのはアルスラン様用のネックレスチェーン。つまり、成人男性用のもので、しかも品質は王族が身につけてもおかしくないくらい最高級のものでないといけない。

 そこまで思い至って私は勝手に冷や汗を流す。


 ここでそんな注文を口にしたら、まずルザとイシークから「どなたに贈るものですか⁉」って聞かれるし、いきなり最高級のものを作れと言われても、ガシュも困るだけだよ。うわぁ、どうしよう!

 

「ディアナ様?」

「どうかされましたか?」

 

 私が急に黙ったので、サモルとルザがこちらに怪訝な顔を向ける。

 

 なにか、怪しまれない頼み方がないかな? そうだ、誰かに贈るものってバレるとダメだから、自分のものだって言えばいいんだ。あ! それならちょうどいいのがある!

 

「つ、作って欲しいのは、このネックレスの替えというか……予備の鎖なんですけど」

 

 私はそう言って襟元から透明の魔石のネックレスを引き出して、それをテーブルの上へ置く。イシュラルに言ってそれをガシュの前に持っていってもらうと、彼はそれをまじまじと眺めた。

 

「この先についているのは魔石ですか?」

「ええ、透明の魔石なんですけど、私の、お守りみたいなもので……大事なものなんです」

「このような大きな魔石は初めて見ました……んん⁉」

 

 じっとネックレスを見ていたガシュが急に目を見開いて固まる。

 

「どうしましたか?」

「こ、この鎖の形は……クスト工房のものではないですか⁉ おお……初めて間近で見る……」

「クスト工房?」

「この王都で一番と言われる装飾職人がいる工房です。普段は高位貴族様の依頼をこなしていますが、王族の方々とも取り引きがあるとか」

「んんっゴホゴホ!」

「ディアナ様! 大丈夫ですか?」

 

 ガシュの言葉に思わず咽せると、イシュラルがすぐに私の背中に手を回して、側にいるトカルに飲み物を持ってくるように言う。

 

 そうだった! アルスラン様が用意したってことは、このネックレスは王族専属の工房に作らせたってことじゃない! 私のバカ! 迂闊過ぎる!

 

 まさか鎖の形だけで工房がわかるなんて思わなかったし、この場でアルスラン様から貰った物だなんて言えるわけがない。私はイシュラルから手渡されたコップからお水を飲んで、内心の動揺を悟られないように背筋を伸ばした。

 ここは敢えてその話題には触れないでおこう。

 

「そ、その鎖と同じような品質のものは作れますか? その鎖が切れた時用に予備に作っておきたいのですけど」

「これと同じ品質のものですか……」

 

 ガシュはそう言ってネックレスを凝視しながら眉を寄せる。超一流だと思っている彼でさえ、難しいと思うほどの技術のようだ。

 だがガシュは少し目を瞑ったあと、静かに顔を上げた。開いた瞳に、静かな闘志が見える。

 

「わかりました。私の職人生命を賭けて作りたいと思います」

「え? あの……」

「私が今職人として生きていけているのは、ディアナ様のお陰です。その方からのご依頼ならば、断るという選択はありません!」

「いや、そこまで思い詰めなくても……」

「クスト工房にはいずれ追いつきたいと思っていたのです。これを機に、さらに高みへ成長したいと存じます!」

 

 ガシュはそう言って注文を承諾すると、鞄から測定道具を出してネックレスの形状を調べ始めた。

 

 ……なんだか大仰なことになっちゃったけど、注文できそうだからまあいっか。王族の専属工房と同じ品質のものができれば、アルスラン様がつけてても問題ないよね。

 

 鎖の長さは私が成長しても余裕でつけられるくらい、という要望を出した。それと私がアルスラン様から貰ったネックレスは女性向けの華奢なデザインだったので、それを男女ともつけられそうなものにして欲しい、と頼む。


「男女どちらがつけてもおかしくないデザインとは……ディアナ様は斬新なものをお求めになるのですね」

「た、たまには違った趣きがある装飾品があってもいいかなと思いまして……ほほ」

 

 そうしてガシュとの打ち合わせを終えた私は、自室へ戻りながら大いに反省した。今回の注文に関しては見通しが甘すぎた。貴族が誰かへの、しかも異性への贈り物を注文するのは、婚姻相手か家族間でしかない。もしこっそり秘密裏に頼むのなら、商談部屋にガシュと二人きりになるしかないが、もちろんそんなことは貴族女性である私には無理だ。

 

 サモルにこっそり頼んでやってもらった方がよかったかな。まあ……もう遅いけど。

 

 家族ではない人になにかプレゼントをすることの難しさを、私はここでようやく思い知った。

 

 

 その日は午後からファリシュタとヤティリとお茶会をした。客用の館の談話室でユムサンドを勧めながら二人に話を聞く。

 

「もう、うちには慣れた? 二人とも」

「ふふ、ディアナ、私たちここに来てまだ二日目だよ?」

「だって二人ともうちに来るのは初めてじゃないし」

「そうだけど、何回来ても緊張はするよ。特に今回は長い間お世話になるんだし」

 

 ファリシュタのその言葉に、斜め前に座っているヤティリが激しく頷く。

 

「ぼ、僕も……慣れないことしてるから……ずっと緊張してる」

 

 そう言ってお茶を飲んではため息を吐いているヤティリに、私は肩を竦めた。

 彼には自分の存在感を完全に消すという特技があるのだが、今回の滞在ではそれを禁止してもらっている。いきなり姿を消されると世話をするトレルたちも困るし、なにより気配を消したままうちの館をウロチョロされると警備上問題になる。なんせうちは王宮騎士団長の家なのだから。

 

「仕方ないね。もし姿を消した状態でウロウロすれば、それに気付いたうちのお父様にヤティリは言い訳する暇もなく斬られちゃうよ」

「うひぃぃぃぃっ怖い」

 

 想像して顔を青くしているヤティリに、私は違う話題を向ける。

 

「そういえば、前にお願いしたおすすめの本の一覧出してくれた?」

「あ、ああ……うん、書いてきたよ。これが今本屋で話題になってる小説の一覧で、僕も読んで面白いと思ったやつには丸をつけてる。平民向けのも入ってるけど、それでいいの?」

「うん、わぁありがと! 今どんな物語が話題になってるのか知りたかったんだよね。でも平民が読んでる本までよくチェックできたねぇ」

「……僕の本を売ってくれてる商人に教えてもらって買ってきてもらったんだよ。貴族用の本屋だけじゃ内容が偏るから」

「ああ、そういえば専属の商人とは上手くいってるの? ええと、確かラマン、だったっけ」

「そうだよ。よく名前まで覚えてるね。上手くはまあ……いってる方かな。時々圧が強いけど」

「そっか、それなら良かった。おお……おすすめの本がたくさんあるね」

「今年は結構豊作なんだよ。平民向けから貴族向けまで面白い作品が出てる。あ、これは叔父さんの新作ね」

「え! 例のラティシ叔父さん⁉」

「そう。これは去年出した本みたいだけど、結構売れてるみたい。これを見たラマンが僕の新作も『必ず売ってみせます!』って息巻いてた」

 

 それを聞いたファリシュタがカップを置いてニコリと笑う。

 

「次の新作って、あの『革命』でしょう? 絶対売れるよ」

「うーん、でも元がミュージカルだったからなぁ。歌のところをどう書くかでかなり悩んだんだよ。……上手く受け入れてもらえるといいけど」

「『革命』はまあ、出してみないことにはわかんないよね。新しい試みだし」

 

 不安げに口を尖らすヤティリにくすりと笑って、私はイシュラルにおすすめが書かれた紙を渡し、そこにある本を買ってきてもらうように言う。

 それを見てファリシュタが首を傾げた。

 

「それ全部読むつもりなの? ディアナ」

「うん。劇団でやる演目を考える時の参考になるし、貴族と平民で流行りに違いがあるのか知りたいからね」

 

 本当はアルスラン様に勧める本を探すという目的もあるのだが、それは秘密だ。

 

「劇団の準備で忙しいのに、さらにやる事を増やすの? ディアナ、ちゃんと寝てる?」

「ふふ、大丈夫だよ。ちゃんと寝てる。五の月の社交に出る前に色々調べておきたいんだよ。劇団の紹介や人材募集もしたいから」

「それはわかるけど……無茶しないでね」

「ファリシュタはすっかり心配性になったねぇ」

「ディアナが何度も倒れたからでしょう?」

「……そうでした。ごめんなさい」

 

 ファリシュタに可愛い顔で睨まれ、私は耳を下げる。六年生の時に、私は三回倒れた。十二の月はほとんど寝ていたし、しかも三度目に倒れたのはついこの前だ。ファリシュタが過保護になるのもわかる。

 

 ……確かに、我ながら怒涛の日々だったね。

 

 それに卒業してからも忙しさは変わらないし、むしろ仕事が増えている。このあとも私の服を作ってくれている専属職人が来て、仮縫いをする予定だ。急に成長したので、服の入れ替えが大変なことになっているのだ。今日の服は少し余裕がある作りだったのでなんとか着れているが、やはり少し不格好である。

 

「ディアナ、手伝えることがあったら言ってね。私ここでずっとぼーっとしてるなんて嫌だよ。私も劇団員としてディアナの役に立ちたい」

「ファリシュタ……わかった、じゃあ私のために歌ってくれない?」

「え?」

「ファリシュタの歌を聴いてるだけで幸せな気分になるんだよ。それで疲れなんて吹っ飛んじゃうから。だから歌ってほしいな」

「……それくらいならいくらでも歌うけど。練習にもなるし」

「えへへ、ありがと。ヤティリも聴きたいでしょ? ほら、新しいミュージカルを閃くかもしれないし」

「……まあ、そうだね」

 

 そうして、その日から私にはファリシュタの歌というご褒美ができた。癒されるし元気が出るし、本当に最高のご褒美だ。

 

 

 

 それから円形劇場での歌と一人芝居のお披露目を経て、さらに数日後、私の姿は王の間にあった。いや、正しくは王の書斎、だ。この春からアルスラン様は王宮執務館で執務を行うことになったため、王の間というものがあちらに移動したのである。

 そのためこの王の塔はアルスラン様の私的区域で、研究などをする書斎という位置付けになった。人の出入りも禁止され、基本的にアルスラン様とクィルガーとソヤリしか入れない。

 今までここに入り浸っていたティムール様や五大老とは、王宮の中で会うことにしたそうだ。

 

 まあ変更されたのがこの間だから、まだここの雰囲気は変わってないね。

 

 私は相変わらず緊急脱出路経由でここまで来ている。学院に繋がる道は私が卒業するとともに閉じられたので、もう一方のティムール様の館の側にある出入り口から入っている。もちろん私がふらっとそんなところに立ち入ることはできないので、「ティムール様に招待された」という名目がなければ、ここまで来られない。

 故にアルスラン様に会いに来る機会は、これからおそらく減ると予想している。

 

 寂しいけど、仕方ないよね。私が表から会いに行くわけにもいかないし。

 

 ここにはまだ他に誰もいない。約束の時間までいつものように机周りの本を片付けていると、やがて廊下の先から足音とワゴンを押す音が聞こえてきた。そのあと書斎の入り口から入ってくる人の姿を見て、私はニコリと笑って立ち上がる。

 

「おかえりなさいませ、アルスラン様」

「……ああ、戻った」

「あ、ここは書斎になったのだから、おかりなさいというのはおかしいですかね? いらっしゃいませ?」

「それだと、ここは貴女の部屋になってしまいますよ、ディアナ」

 

 アルスラン様の後ろから、ソヤリが呆れたように言ってワゴンを押してくる。

 

「確かにそうですね。今日は昼食をこちらでとるんですか?」

「ええ、最近はずっと誰かとの昼食会が入っていましたからね。アルスラン様もお疲れでしょうから、今日はこちらでとることにしました。ではディアナ、あとは頼みます」

「あれ、ソヤリさんは?」

「今のうちに手配することがあるので。それではアルスラン様、またお迎えにあがります」

「ああ、わかった」

 

 アルスラン様がそう答えると、ソヤリはさっさと下がっていってしまった。相変わらず無駄のない動きだ。

 そう思っていると、ふと視線を感じて隣を見上げる。そこまで久しぶりではないのに、その顔に疲れが出ているのに気づいた。

 

「……そんなにお忙しいのですか?」

「……執務のやり方を変えようと動いているところだからな。昼食も毎日各執務長官たちと共にとる羽目になっている」

 

 そのげんなりした言い方に私は眉を下げる。人が多いところが苦手で、一人が好きなアルスラン様にとって、朝から夕方まで人のいる場所で過ごすのはかなりキツいのだろう。

 

「それは……大変そうです。お腹は空いてますか?」

「いや、それほど空いていないが」

「でしたら、少し時間をいただけますか?」

「む?」

 

 私はそう言ってニコリと笑い、アルスラン様を中央の机の前まで引っ張っていく。机を挟んで向かいに座った私は、側に置いていた大きい鞄から長細い木の箱を取り出して、ついっとアルスラン様の方へ差し出した。

 

「これは?」

「ふふ、開けてみてください」

 

 怪訝な顔をするアルスラン様にそう言うと、彼はなにか思い当たることがあったような顔をして、その箱の蓋を開ける。

 そこには、ガシュに頼んだネックレスのチェーンが入っていた。そう、彼はこの短期間に見事に最高級の鎖を作り上げたのだ。アルスラン様はわずかに目を見開いて、その鎖に手を伸ばす。

 

「……これは、もしや私に?」

「もちろん、そうです。透明の魔石を交換した時にお約束したではありませんか。私の専属に頼んで、頑張っていいものを作ってもらいました。どうですか?」

「美しいな……クスト工房が手掛けるものに似ているが、こういうデザインは初めて見る」

「それは男女ともに身につけられそうなものにして欲しい、と頼んでそうなりました」

 

 私はそう言って自分の透明の魔石を引っ張り出して、それを机の上に置きながら、注文する時に思わぬ苦労があったことを正直に話した。それを聞いてアルスラン様が呆れたように笑う。

 

「なるほど……それでこのようなデザインになったのか」

「私がいただいたものと比べて、ちゃんと男性向けになっていると思うのですが……どうですか?」

「どう、とは?」

「アルスラン様が身につけるのに抵抗があるのでしたら、また違うデザインを頼みますけど」

「いや、これでいい」

 

 アルスラン様はそう即答して、自分の襟元から私と交換した透明の魔石のネックレスを引き出し、そこから透明の魔石を外そうとして、止まった。

 

「これにはマギアコードは付いていないのだな。どうやって魔石を外すのだ?」

「ああ、一千年前のアクセサリーですからね。多分金属に爪があって、そこで魔石を固定しているんですよ。見てみましょうか?」

「頼む」

 

 私はそれからアルスラン様の後ろへ回り、ネックレスを外して透明の魔石を固定している金具を調べる。魔石は前世の指輪のように金属の爪が魔石を掴むようにして固定されていた。

 

「この爪部分をこう、ペンチかなにかで剥がせば取れると思います」

「ペンチ……?」

「工具なんてここにはないですよね? うーん、どうしよう……」

「それよりこの爪を剥がすなど……いいのか? このネックレスは大事なものなのであろう?」

「金属部分は特に思い入れはないのでいいですよ。当時にしては繊細な装飾品だとは思いますけど」

「……ならば、これは私が保管しておいていいか? 一千年前の装飾品は貴重な遺物だ」

「もちろんいいですけど……それで、どうします? これ」

 

 二人でネックレスを覗き込みながらそう尋ねると、アルスラン様はこちらを向いて口の端を上げた。

 

「工具などなくとも、金属を変形させることはできる。『サリク』爪を移動させよ」

 

 彼がそう言うと、黄色い光が流れてきて透明の魔石を包み込む。じっと見ていると、その魔石を固定していた四つの爪がググッと外側へ反り始めた。その爪が九十度立ち上がると、黄色い光が消え、透明の魔石がポロリと落ちる。

 

「……移動の魔石術って金属も曲げられるんですか」

「あまりに硬いものは曲げられないがな。これは比較的加工のしやすい金属なのであろう」

 

 相変わらずとんでもない魔石術をさらっとやってしまう人だ。私は半ば呆れながら、取り出した透明の魔石を新しいネックレスに取り付ける。再びアルスラン様の後ろに回ってそれを首に掛けると、彼は嬉しそうに笑った。

 

「長さはどうですか?」

「問題ないと思うが、どうだ?」

「うん、うん、いいですね。バッチリです。そのデザインも上品でいい感じですね。アルスラン様にとてもよく似合ってます!」

 

 私が頷きながらそう言うと、「そうか」と答えながら彼も満足そうに頷く。

 

 よかった。喜んでもらえて。ガシュ、ありがとう!

 

 私はそれから一緒に昼食を食べつつ、家から持ってきた数冊の本をアルスラン様に手渡した。この前ヤティリがおすすめしていたもので、他にヤティリ作の短編も添えてある。

 

「どれも面白い小説でした。ジャンルも色々あるので息抜きに読んでください」

「随分とたくさんあるのだな」

「アルスラン様ならすぐに読んでしまうでしょう? 感想ちゃんと聞かせてくださいね」

「ああ、わかった」

 

 他にも様々な話をする。アルスラン様はどうやら執務と関係のない話をするのが好きらしく、時々しょうもないことを言い合いながら、食事を進める。

 

「そうそう、忙しい社交のシーズンが終わったら、商業区域に行こうかと思ってるんです」

「商業区域? なにをしに行くのだ?」

「シルばあさんが新しいお店を開いたらしいので、その開店祝いと、あとは……まあ色々」

「どうせ美味しいものでも探しに行くつもりなのであろう?」

「なんでわかるんですか! あ、いや、それだけじゃないですよ。平民の暮らしにも娯楽に関するヒントがあると思うので、その情報を集めに行くんです。遊びじゃありません」

「遊びではないのなら、別に美味しいものは探さなくてもよかろう?」

「平民のご飯を知るのは大事なんですよ! そこから様々なことがわかるんです。流行りとか、景気とか、溜まってる鬱憤とか!」

「其方は動揺すると早口になるな」

「動揺なんてしてませんって」

「耳も忙しなく動いているが?」

「んああ! 耳!」

 

 私がそう言って耳を押さえると、アルスラン様は堪らず笑い出す。

 

「もう、耳のことで揶揄うのはやめてください! 自分では止められないんですから」

「ふ……はは。其方のその耳はどうにもできぬな」

「そうです。どうにもできないんです。好きでこんなに長い耳をしてるわけじゃないですよ」

 

 むぅ、とわざと膨れてみせると、その途端なぜか彼が真顔になった。

 

「それは……すまなかった。確かに其方は好きでエルフに生まれたのではないな。これから耳のことで揶揄うのは止そう」

「え、いや……そんなに急に凹まないでくださいよ。本気で気にしているわけじゃありません」

「……本当か?」

「そんな顔しないでください。大丈夫ですから」

 

 いきなり親に叱られた子どものような表情をするアルスラン様を、私は慌てて慰める。

 

「……耳は本当に自分ではどうにもできないので、そういう反応しちゃうのが恥ずかしいだけです。アルスラン様に揶揄われるくらいならいいですよ」

「そうなのか?」

「はい。だって私を揶揄うアルスラン様はとても楽しそうに笑うので。だからいいんです」

「……」

「アルスラン様だけ特別ですからね。他の人には許しませんよ」

「……私だけ、か」

「はい、そうです」

「では、ついでにその耳の研究もさせてくれるか?」

「それは駄目です!」

 

 私がそう叫んで耳を両手で覆うと、アルスラン様はまた嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

ディアナにとっては素直に笑うアルスランの表情が特別なので

それが見れるなら許しちゃいます。

アルスランはディアナとなんでもない時間が持てて上機嫌。

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― 新着の感想 ―
[良い点] よすぎたので番外編だけですが全部読み返しました。 ディアナ視点、しかもエピローグ付近時間軸が見れて嬉しいです。 本編での関係でディアナの中でアルスラン様が特別な関係なのは明白ではあるので…
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