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子守り

他視点です

 


 〜グラシャス・ケルアーム視点〜



 少しばかり第6の町を私用で離れて、疲労と共に我が家へ帰ってくると妻であるメディサが出迎えてくれた。



「おかえりなさい、あなた」


「ただいまメディサ。子供達は既に寝てしまいましたか?」


「えぇ、もう寝る時間ですしね」


 どうやら愛しの我が子は夢の中に居るようだ、とグラシャスは思いながら帰宅する数日前にメディサから魔法で伝えられた伝言を確認するために聞くことにした。


「そういえば数日前からケルヴィアが滞在しているそうですが」


「えぇ。4日前から自分用の服を作るとの事でお客さまが来た時に使用する机や椅子が置いてある部屋に案内してから出てきてませんね」


「4日間?」


「はい」


「何か口にしてたりとかは?」


「まったく」


「うぅむ…」


 あの質問地獄の時から分かってはいたが、彼は何処かずれているとケルヴィアは思う。


 後でそっと見にいってみようかな?と思っていた彼だったが中に入ってみるとケルヴィアの餓死死体があるのではないのか?と、この世界では絶対に死ぬ事はないと理解していても話を聞いて想像せざるを得なかった。



 …本当に彼は大丈夫なのか心配ですね。



 グラシャスがそう考えると同時にメディサが小さく笑いながら彼の心を読んだかのように口を開く。


「心配でしたら見に行けばいいと思いますよ。きっと気付かないでしょうしね」


「君には本当敵わないですね。明日の朝にでも見に行こうと思います」


「分かりました。色々と話したい事もあるでしょうから後で話しましょう。まずはお風呂に行って下さいね?」


「分かりました」


 スッキリしたい所だったと思っていたグラシャスは妻の言葉に同意して風呂に入る事にしたのであった。





 久しぶりの我が家の風呂でスッキリしたグラシャスは机に用意されていた夕食を見て聞こえるか聞こえないかくらいのお腹の音を鳴らした。


 メディサはそれを聞き逃す事はなく、目で早く席に着いてはどうですか?と促した。


 グラシャスは席につき遅めの夕食を食べ始めた。そして、数日間分の出来事や愚痴などの雑談をしながら夫婦は心地よいひと時を過ごした。







 翌朝、グラシャスは昨晩言ったようにケルヴィアの様子を見に行く事にした。


 メディサ曰く自分用の服を作っているとの事だったが、彼にそのような技術があるとは……と個人的に思うのと同時に技術発展に使えたら嬉しいですねと客観的に考えていた。


 部屋の前に着いた彼は室内に幾つかの結界が貼られている事に気がついた。



 完全され尽くしたあの結界に比べたらお粗末もお粗末だけれど、やはり彼は中々の実力者のようですね。数百年もしたら私たちと肩を並べたりするのでは?



 そうなれば面白いでしょうねと思いながら中で作業中のケルヴィアの邪魔をしないように完全に全ての気配を消して扉を開けて中に入る。


(へぇ……)


 作業中であるケルヴィアの対面に立っても、彼は気付かれなかった。それもそうだ。


 今のケルヴィアとグラシャスの実力は天と地ほどにかけ離れており、グラシャスは魔法にも長けているため彼が本気で気配を消した場合ケルヴィアにはそれを感知する術がないのだ。


 現に、目の前にいるのにケルヴィアは気付いている素振りすら見せないのだ。



(凄まじい集中力に、こだわりとでも言うべきものなのでしょうか?これなら更なる技術発展が見込めそうですね。もっとも、彼が協力的なのかは不明ですが)



 道具やそれ以外の糸などを用意したり、布地を押さえたりする事には魔法を使っているが作業のほとんどを自らの手で行っているケルヴィアを見てグラシャスは感嘆の息を漏らしそうになり慌てて塞いだ。


 いかに気配を完全に消しているとはいえ、もしかすれば僅かな呼吸音などで気づかれてしまう可能性があるからだ。



(今は、何を作っているのでしょうか?)



 予想でもしてみましょうか。と思っていたグラシャスだったがケルヴィアの次の行動に目を見開いた。



(あれは、魔法印……ふふ、なるほど。やはり彼の存在は技術発展に欠かせないですね。そうですね。彼には悪いですがこの事は他の町にも伝えておきましょうか)



 事後連絡をするつもりでグラシャスは作業中のケルヴィアの見学をやめて静かに部屋を退室して、とある部屋へと向かうために足を進めた。


 その時だった。タタタタと家の中を走る音が聞こえた。


 その音を聞いたグラシャスは瞬時に何者なのか把握した。


「この軽い音は私の可愛い子供達ですね。今日も元気なようでなによ……おや」


 何やら音がどんどん大きくなってきている事に気がついたグラシャスはもしかしたら私を探しているかもしれませんね、と考えた。


 自分の子供たちが見つけられるか試すために姿を消す事を続けて、廊下の端に立って段々と近づいてくる我が子を待つ。


 そして、まだ7歳くらいの息子と6歳くらいの娘が目の前に現れたグラシャスは今すぐに抱きついてただいま、と言いたいという親馬鹿を発症しながらも必死に堪えて待つ。



(見つけられますかね?)



 恐らく無理ですね、と思いながらも淡い期待を抱いていたが結果は予想通りであった。


 自分に気がつく事なく通り過ぎていった我が子達の後ろから驚かそうと思い、姿を現して声をかけようとしたら、なんと我が子達が作業中のケルヴィアの部屋へと入っていったのである。


 流石に不味い、と思ったグラシャスは慌てて自分も部屋に入ると目の前には想像もしなかった光景が広がっていた。


「ケー兄ちゃん、遊んで〜!」


「あの…もうお仕事終わったん、ですか?」


「ん?二人とも今日も来たのか。今ひと段落着いたから少しだけなら遊んでもいいぞ」


「やったー!」


「あ、ありがと。ケルヴィアお兄ちゃん」



 そんな光景を見たグラシャスは、無意識のその場から立ち去った。


 後に、自室のベットで虚な表情でうつ伏せになって人形と化したグラシャスがメディサによって発見されたそうだ。





 〜ケルヴィア視点〜



 ローブはこの4日で完成したので今はズボンに使う布地に魔法印を施している。


 布地一枚一枚に魔法印を施し、最後に全体としてまた魔法印を施す事で強力な衣類が完成する。



「…よし、とりあえず休憩にしよう」


 魔法印を施し、それが布地に完全に定着するまで少しばかり時間がかかってしまう。こればかりはどうしようもないのでこの時間を休憩にしている。


 ふぅ、と一息吐いて椅子に座ろうと思ったその時だった。


 突然扉が開いて2人の子供が中に入ってきた。


「ケー兄ちゃん、遊んで〜!」


「あの…もうお仕事終わったん、ですか?」


 中に入ってきた2人の子どもはグラシャスとメディサの子供だ。

 男の子の方はクリューオル。女の子の方はアロメダだそうだ。


 クリューオルは父親と同じ灰色の髪色に父親と母親譲りの白と薄赤のオッドアイが特徴的で元気な子だ。


 アロメダも父親と母親の特徴を持っており、母親譲りの純白のような髪色に父親と片目と同じ白色の目を持っている。確か、アルビノと言ったはずだ。



「ん?二人とも今日も来たのか。今ひと段落着いたから少しだけなら遊んでもいいぞ」


「やったー!」


「あ、ありがと。ケルヴィアお兄ちゃん」



 何故僕が2人と仲良くなっているかと言うと、色々な経緯はあるのだが2日前だっただろうか?


 僕が作業している時にたまたま2人が部屋に入ってきたのだ。その時の僕は作業に集中していて扉が開いたことすら知らなかったが、丁度今回と同じように魔法印を刻み終えたタイミングだったので2人に気付いたのだ。


 2人はメディサから僕のことを聞いていたらしいが好奇心などに負けて扉を開けてしまったらしい。いや、クリューオルが開けたの方が正しいか。


 クリューオルは最初から元気に自己紹介してくれたが、アロメダの方はとても警戒されていたので兄のクリューオルが代わりに紹介してくれた。



 それから話をしたり、楽しませるために魔法でちょっとした物を見せたりしていたら段々と懐かれ始めた。アロメダが僕に近づいてきてケルヴィアお兄ちゃんと口にした時のクリューオルの驚きの表情は今も鮮明に思い出せる。


 どうやらアロメダはとても警戒心が強く、引っ込み思案だそうだ。そのせいで家族以外で話す人は滅多におらず、さらに自分から話しかけるのは家族以外に居ないそうだ。つまり、僕が初めて家族以外でアロメダから話しかけられた人物になったわけだ。


 これにはメディサも驚きだったようで翌日、2人と共にやってきて感謝を述べていた。



 嬉しい気持ちや少し複雑な気持ちもあったが、そこからは魔法印が定着するまで色々と遊んでやった。



 僕が作業中の時は2人は一切邪魔をしてこないが、勘とでも言うのだろうか?僕がこうやって休憩をするタイミングには必ず現れて遊んで、と言ってくるのだ。



「今日は何をしたい?」


 僕が2人にそう聞くと別々の返事が返ってきた。


「魔法見せて!」


「もっと、お話し…したいなぁ」


 まったく違う内容に僕は小さく笑っていると、2人は互いに顔を見合わせてちょっとした言い争いを始めた。


「えー!あの凄い魔法アロメダも見たくないのか?」


「お話しする方が、楽しいっ!」


「ぜってぇー、違うよ。アロメダだってあの魔法凄いって言ってたじゃん」


「むぅ、そうだけどケルヴィアお兄ちゃんの事、もっと知りたい!」


「その辺にしておけ。喧嘩するなら僕は何もしないぞ」


 このまま放っておくと白熱して言い争いから殴り合いの喧嘩に発展しそうな予感がしたので止める。


 2人は僕の言葉を聞いて素直におとなしくなった。良い子だな。



 さて、2人が納得する方法は……まぁ、やはり一つしかないか。


「魔法も見せてやるし、話もしてやるから喧嘩はするなよ。同時に何かをするのは簡単だしな」


 僕がそう言うと2人は納得してくれたようだ。



 クリューオルが見たい魔法は昨日見せた実用性皆無の見た目だけの魔法だろう。いわゆる観賞用的なやつだ。

 例えば、小さな火球を鳥の形にしたり魚にしたりなどだ。


 一方、アロメダの方は基本的に彼女から質問されるのでそれに答えたりしたりする。他にも普通に話すけどな。


「ケー兄ちゃん、ならもっと細かいものってできる?」


「出来るぞ。ほら」


 手のひらに生み出した小さな火球を家の形にする。なんの家かは彼なら分かるはずだ。


「ん?これって、うち?」


「そうだ。この家だ。熱は制御してるから触っても熱くないし細かい部分も再現してるからよく見るといい。他にも要望があったら言ってくれ」


「うぉぉー!すげぇー!こんな所まで魔法で再現できんのか!?」


 当分クリューオルは1人で盛り上がっているだろうからアロメダの相手をしようか。


「アロメダ、何か聞きたい事はあるか?」


「う〜ん……ケルヴィアお兄ちゃんってこの町に、住んで…くれる?」


 今日最初の質問がそれかと思ったが言葉にはもちろん、顔にも出さない。


 そして、嘘を言ってもバレるので正直に言う。


「いや、住む予定はない。色んな場所や、見たことのないものを見に行こうと思ってる」


「…そう。なら、いつくらいに……ここを出発する、の?」


「それはまだ未定、あー、決まってないな。服を仕立ててから旅のための準備や興味のあるものもいくつかあるから……最低でも数ヶ月は先になるだろうな」


「そっか…………なら、出発するまでにアロメダ、ケルヴィアお兄ちゃんともっと仲良くなりたい」


 僕がこの町に住まないことを残念に思っているのは明白だ。だからこそ、まだ幼い彼女の要望には応えてあげたい。


「あぁ、いいぞ」


「ほんと?」


「ほんとだ」


「…ありがとっ!」



 満面の笑みだ。


 やはり子供は良いな。昔の弟子たちを思い出す……純粋な心の持ち主で、無邪気で、可愛らしい。

 その点で言えば僕も子供が欲しいとは何回か思った事はあるが、昔の僕はそれまでの過程が面倒だ。と思って考えるだけにとどめた気がする。


 中々にとんでもないことを考えていたな、と改めて思う。



「じゃあ、次の質問はーー」


「ケー兄ちゃん、これって誰かの姿にすることって出来るの?」


 アロメダが嬉しそうにしながら次の質問をしようとした時、それを遮るようにクリューオルの声がやってきた。


 邪魔された本人は現在、不満げな顔をしながら兄であるクリューオルを見つめている。……これはまたか。


「むぅ、クリューオル。今はアロメダがケルヴィアお兄ちゃんと話してるのっ!」


「ずっと話してるんだからたまにはおれが話しかけてもいいじゃん!」


「アロメダと話してる時に入ってこないでっ!」


「独り占めはよくねぇーぞ!」


「独り占めじゃないもん!クリューオルだって、ケルヴィアお兄ちゃんに魔法見せてもらってるもん!」



 再び始まった兄妹喧嘩に僕はため息を溢した。まぁ、喧嘩するほど仲がいいとも言うしな。……実際本当に仲がいいのかは知らないがな。


 今度は止めずに2人の喧嘩がどんな結末を迎えるのか眺めていると、机の上に置いてある魔法印を刻んで定着中の布地が少しの間小さく光った。



 これは刻んだ魔法印が完全に定着した事を示すサインみたいなものだ。


 そして、そのサインが光ったということはだ。


「2人とも、そろそろ僕は続きをするから今回はここまでだ」


「「えぇーー!!」」


 仲はいいな。それに、アロメダの方だが段々とハッキリ喋るようになってきたな。それだけ心を許してくれている、ということなのだろうか?

 親からしても分からないらしいので明確には断言できないがな。


「次にまた休憩する時に来たら続きをしてやるから、今は帰るといい」


 僕がそう言うと2人はしぶしぶ部屋から出て行った。


 聞き分けがいいのはとても嬉しい。ただ、扉を閉める際にアロメダが閉まりきる瞬間まで視線を送ってくる事を除けば、だがな。



 肉体的な疲労は取れないが、精神面の疲労は回復した。


 さて、残りの作業を終わらせて……そうだな。クリューオルとアロメダのために何か仕立てるとしようか。


 きっと喜んでくれるな違いない。


 

 そんな事を考えながら僕は作業を続けたのであった。




親馬鹿グラシャス

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