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地獄のような森

 


 徒歩で向かう事にしたのは良かったものの距離の事を聞いておけば良かったと思ったのは出発してから体感で6時間ほど経った時だった。


 歩きながら周囲を観察したり、時折単体である魔物を倒してドロップアイテムを空間収納したり、未だ残っている拘束具を解除したりしながら進んでいた。


 既に拘束具の方に関しては封印札系は全て剥がし、体内にある封印系も6割ほど解除出来たが残りの4割はまだまだ時間がかかりそうだ。


 それだけに専念するのなら1ヶ月ほどで解除出来そうだが流石に無理なので同時並行で解除をしている。そうだな、軽く3ヶ月ほどはかかりそうだ。



 一応、今の僕は100パーセントのうち73パーセントほどの力を取り戻せた。どうしても、体内の拘束具というのは表面上の鎖や封印札による拘束より僕の力を強く抑えているようだ。


 なにしろ、魔力器官や筋力、神経などを見えない魔法術式で拘束しているのだから。



「ん?……あぁ、はぐれのヘルアントか」


 この世界のそこら中に居る蟻系の魔物が少し離れた場所で立ち尽くしているのが見えた。


 1匹なら僕でも簡単に倒せるが9か10匹を超えると無理だ。この世界にいると自分の力の無さを嫌と言うほどに突きつけられる。




 そういえば、これは余談なのだが僕は自分がこの世界に来て一日も経ってないと思っていたのだが実際は3日ほど経過していたらしい。


 体内の時間間隔が狂ったか?と思ったが、どうやらこの世界は時間の流れが地上の世界とは違うらしい。


 正確な時間の流れは不明だが、おおよそ地上での1日がこの世界では1年ほどらしい。


 最初にそのことを聞いた時は分かりやすく驚いていただろうな。この世界に住んでいる者たちは既に自分がどれほど長く生きているのか分からないそうだ。


 タルロス大監獄内では死なない上に歳を取らないのが呪縛にしか思えない。しかし、慣れたら気にしなくなって不老不死を便利に思えるようになるらしい。

 僕もいずれそうなるのかと思うと複雑な気持ちに襲われるため今は気にしないようにした。




「……狩っておくか」


 少し考え事に集中しすぎたせいかヘルアントがこちらに向かってきていた。

 奴らからすれば僕なんて矮小な獲物にしか見えないだろうしな。向かってくるのは当然だろう。


 向かってくるのなら返り討ちにする。今の僕からしたらこの世界の魔物の素材は喉から手が出る程に欲しいものだからな。研究素材としていくらあっても足りない……あぁ、研究場所も作らないといけないな。



 鋭い牙をガチンガチンと鳴らしながら向かってくるヘルアントを見ながら僕は得意の魔力糸を生成して魔物の直線上の地面に張り巡らせた。


 そして、ヘルアントの全身が魔力糸の範囲内に収まったのを確認した僕は両手を一気に振り抜いた。


 次の瞬間、地面に張り巡らされた魔力糸が一気に引き上げられて真上のヘルアントの全身をサイコロ状に仕上げた。


「やはりこの戦法が一番楽か」


 ヘルアントの死体が霧散していってドロップアイテムである外殻の一部を空間収納に入れて、僕は本来の獲物であるヘルスパイダーがいる南西の森に向かって再び足を動かし始めた。





 ◆






 4回、朝と夜が入れ替わって僕はようやくヘルスパイダーが棲息する森に辿り着いた。そして、今からここに入るのかと思い心底憂鬱な気分に陥っていた。


 何故ならここからでも伝わってくるヤバそうな雰囲気に加え、棲息している数多の魔物の存在、少し奥に足を踏み入れたら二度と日の目を浴びることができないと思えるほどに入り組んでいる木々………燃やし尽くしたい気分だ。



 しかし、ここで足を止めた所で何も意味がないので僕は覚悟を決めて名も無き地獄のような森へと足を踏み入れた。





 僕は普段、数十層にも及ぶ魔力障壁や物理障壁、空間障壁などを自身を覆うように張り巡らせているのだが、どうやらこの世界の魔物からしたら紙切れも同然のようで一瞬で貫いてくるのだ。


 そのため僕は障壁を張るくらいなら攻撃に魔力を回すようにしている。だが、今回ばかりはとある事情により障壁を発動させていた。


 その理由というのが、なんだ……簡単に言うのなら蜘蛛の巣だ。厳密には糸だ。


 とにかく嫌というほどに蜘蛛の巣が木々の間に作られているのだ。そして、そこを棲家としている巨大な蜘蛛でたるヘルスパイダーが獲物を絡めとるために糸を射出してくるのだ。


 その糸に触れられるのが嫌すぎた僕は障壁を使ってなんとか防いでいたが、正直言って限界だったのだ……主に精神面が。


 蜘蛛系の魔物が苦手な僕にとってここは地獄のような空間だ……だから、本気を出してこの森ごと一瞬で終わらせる事にした。


 テュフォン曰く、どれだけ地形や森などを破壊しても1週間後には元通りになっているのだ。だから、気兼ねなく破壊しつくせるというものだ。




 僕は魔力枯渇にならない程度に今の僕自身が使える全ての魔力をとある魔法の発動のために使用する。


 使う魔法は辺りいったい全てを破壊する空間破壊型の魔法だ。


 魔力を練り上げ、魔法術式を組み上げていく。


 何かを察したのかヘルスパイダーが糸を射出してくるが障壁が塞いでくれる。嫌悪感は凄まじいがな…



 そして、最後の術式が組み上げられたのを確認した僕は魔法名を告げながら練り上げた魔力を魔法術式へと一気に流し込んだ。


次元空間破壊(ディリアクラッシュ)


 次の瞬間、僕の周囲の空間がバキバキッと割れていき形容し難い異界が顔を見せ、そこにヘルスパイダーも大木のような木々も地面も全て飲み込まれていく。


 術者である僕は巻き込まれないように術式を組んでいるのでただ眺めているだけだ。



 異界に全てが吸い込まれていき、ドロップアイテムだけがどんどん増えていく。これは新発見だ。


 ドロップアイテムは謎の力が働いて異界に吸い込まれないようになっているのか……ますますダンジョンについて疑問が深まるな。


 仮説として、ダンジョンというのは別次元に作り出された異界そのものであり空間や次元を破壊して現れた別の異界同士で反発しあってるとかか?いや、それならば範囲内のもの全てが吸い込まれる事はないだろう。


 では、ドロップアイテムそのものに謎の保護的な何かが働いているとかか?


 ドロップアイテムの原理は謎だ。そのため、後者の仮説は比較的ありえるのではないかと思うが今は真剣に考えている暇はないので全てが落ち着いてからゆっくりと考えるとしよう。


 もし今になって僕は冤罪だった。だからここから出す、なんて言われた断固拒否するだろうな。



 周囲のものが粗方異界に吸い込まれた頃に異界がどんどん塞がっていった。これは世界の意思みたいなものだ。


 空間などが破壊されると時間は僅かにかかるが、どんどん塞がって最終的には元通りになるのだ。これは世界の意思だと確か神によって教えられているので確かな情報だ。



 やがて異界が完全に姿を消して、後には少し前まで森だった更地と化した場所と積み上げられた大量のドロップアイテムだけが残った。


 魔力を大量使用したことにより少し体がふらつくのを気合いで我慢して、空間収納でどんどんドロップアイテムを収納していった。

 ヘルスパイダーの糸の他にも、足の一部ーーこればかりはーーや外殻、骨格などもドロップしていたのだが他の魔物のドロップアイテムも混ざっておりこれは中々の収穫では?と収納中に思った。




「これで、最後か………まさか、こんな酷い目に遭うとはな」


 最後のドロップアイテムを収納し終えた僕はバタッと背後から地面に倒れた。流石に限界だったからだ。


 これから蜘蛛系の魔物のドロップアイテムが必要になった時の事を考えると現実逃避をしたくなる。



 この世界では僕は弱い。最弱ではないけれど、それでも十分に弱者の部類だ。


 今回はヘルスパイダーが僕を侮ってか糸を射出するだけという攻撃手段をとってきたが、もっと数が多ければ、降りてきて直接攻撃してくれば僕は魔法を使うよりも早く死んでいただろう。


 地上の世界では僕は最強の一人だった。だからこそ、今以上の力を手に入れる事をやめて研究に没頭した。


 でも、この世界では割と実力主義な雰囲気がある。それに、力がないと満足に生きていけないので更に力が必要だ……


 まぁ、何が言いたいかというと。


 僕はもっと強くならないといけないということだ。



 そう決意した僕は僅かに回復した体力を使ってオルロスから貰った転移道具を使用して街へと帰還した。


監獄ダンジョン内では地形等が壊れたり消失しても数日経てば元通りになります

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