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最下層の住人達

 


 なんだこれは、地獄か?



 そうとしか思えない光景が遠くの方で広がっていた。


 オルロスの父親が単身で魔物の大群に向かっていったと思ったら、とんでもない衝撃と揺れが僕を襲った。


 拘束具を解除するために使っていた魔力を少し使っていったいどんな戦いを繰り広げているんだ?と思って見てみれば、まさに無双であった。


 見たことのない赤黒い巨大な蟻っぽい魔物達を男が大剣を一振りしただけでまるで塵芥の如く吹き飛んで、ドロップアイテムだけを残して消えていく。



 ダンジョンの中で魔物を倒すと死骸は残らず代わりにドロップアイテムと呼ばれる倒した魔物の一部が残る。原理は謎だ。


 目当てのドロップアイテムが手に入らなければ何度も同じ魔物を倒さなければならない、なんて事もよくある事だ。この謎原理のせいでな。


 しかも、一番の謎は例えば血や臓物がドロップアイテムとして出る場合、何故か瓶の中に入った状態なのだ。さらに、中身を取り出せば瓶は消えるという………流石の僕も、その事に関して研究するのは諦めた。




 大量のドロップアイテムが散乱していく様は無双と言わざるを得ない。


 あの魔物の強さがどれほどなのか分からないが、それでも大剣を地面に叩き落としただけで僕がいるところまで振動がくるので、考えなくともあの男は化け物だって事くらい分かる。



 もう様子を見ずともどうなるのかは明白なので僕は魔法を使うのをやめて再び拘束具の解除に精を出した。



 衝撃や振動が収まったのは、それから少しのことだった。






「よぉ、待たせたな。終わったぜ」


 傷一つなく、息切れすら起こしてない化け物を再び目の前にした僕は逆らう気を消失させた。


 勝てない戦いに挑むほど僕は馬鹿じゃない。しかし、少しでも勝てる可能性があるのなら挑むが、いくら知恵を振り絞っても勝てる未来が見えないので今は大人しくしておくのが賢明だ。


 まさか、この最下層にはこいつと同じような化け物が?想像もしたくない。



「さて……あぁ、そういえばまだ名前を言ってなかったな。俺の名前はテュフォンだ。そして、こいつが俺の息子の」


「オルロスだ。次こそ勝つ!」


 テュフォンとオルロスか……父親と息子。似ているのは髪色と口調か?



「僕はケルヴィア・リリアムだ。つい先程この最下層に連行されたばかりだ」


「親父、先に言っておくけど既にこいつ時間感覚狂ってるぜ」


「どうだろうな。まっ、詳しい話は向こうについてからだ」


 テュフォンはそう言って懐から謎の石?を取り出した。


 何かしらの魔法術式が刻まれてるな……ふむ。


「その石っぽい何かが壊れない限り無限に使える一方通行の転移動画か……中々お目にかかれない貴重な代物だな」


 僕がそういうとテュフォンはニヤッと笑った。


「ほぉ、分かるのか」


「魔法は比較的できる方だと思ってる」


「嘘つけ……てめぇ、あの糸みたいなやつ……」


 オルロスが何か言いたげだが無視しとこう。


「この転移道具で転移する先は俺たち罪人達の集落だ。そして、そこにはこの最下層に落ちてくるに相応しい罪人がたくさんいるから気をつけとけよぉ」


「なんとかなるだろ」


「だが、新入りは特に気をつける事だな。まだ力も取り戻せてないだろ?」


「もう少しだ」


 あと体に張り付けられてる数十の封印札と体内に刻まれてる魔法術式に、あと一つは………まぁ、今は札からなんとかしよう。数が多いからな。


「んじゃ、早速行くとするか。それと、転移した後は全部自分で対処しろよ」


「そこまでは頼らないつもりだ。自分でできることは全部やる」


「面白いやつだ」



 そう言ってテュフォンは転移道具を発動させた。ここに来た時に使った転移魔法陣と同じ感覚がしたと思ったら、次の瞬間には景色が一変していた。



 転移した場所は木造?で作られた家が点在しているテュフォンが言ったような集落というより小さな町のような場所だった。


 畑があり、道が整備されており、店もあって色んな服を着た多種多様な種族が楽しそうに歩いている。



 何も知らずにここに連れてこられたらタルロス大監獄の最下層とは絶対に予想出来ない、そんな光景が僕の視界に映った。



 唖然としている僕の姿を見てテュフォンはニヤニヤしていた。そして、そんな彼の姿を見た住人…いや、罪人達が声をかけてくる。


「テュフォンさん、戻ってきたんですか」


「オルロスも無事かー?…おっ、そっちが噂の?」


「いつぶりだろうな。新入りが来るのは」


「案外まともそうな見た目だが、ここに来るってことはやばい奴くらいってのは知ってますよ」


 他方向から声が聞こえ、時折僕に対しての質問も飛んできたりした。

 正直何を言っているのかゴチャゴチャし過ぎて分からないのでテュフォン待ちとしよう。


 僕が個人的に行動しても今は大変そうだからだ。そして、テュフォンの奴は人気があるみたいだな。子のオルロスも父親並みとは言えないが人気はあるようだ……いや、優しい目つきをしているから人気とは少し違うか。



 今の光景はあれだ。英雄などが凶悪な敵を打ち倒して凱旋している時と似ている。懐かしいな…


 感傷に浸っていると、テュフォンが周りに聞こえるような声で喋り始めた。


「話はあとで聞くから先に新入りの自己紹介からさせるぞー」


 ……自己紹介か。名前と何を言えばいいのか分からんが適当にいってみるか。


「ケルヴィア・リリアムだ。魔法を嗜む程度の新入りだから優しくしてくれ」


「ここに落ちてくる奴が魔法を嗜む程度なわけないに決まってるな」


「違いない」


「しかし、魔法を使える人材はいいですね。他の場所にも連絡してきますよ」


 自己紹介は終わり、滑ってはないようだ。


 密かに安堵しているとテュフォンが話しかけてきた。


「ケルヴィア、ここを仕切ってる奴に会いに行くぞ。俺はここのリーダーじゃない上に、今は滞在中の身だからな」


「そうなのか。分かった」


 ここのリーダーか。やはりそう言った人物というのは居るものなのか。



 テュフォンに連れられて僕は周りの木造家より一…いや、二回りほど大きい一軒家に着いた。



 そういえば、この木材の事も気になるな。いたって普通の物なのか、全く違うものなのか。


「多分居るだろ」


 テュフォンがそんな事を呟き、特にノックをする事もなく中へと入っていった。


「何してんだ?来ないのか?」


「…いや、行く」


 ノックくらいしたらどうなんだ?と思いながらテュフォンについて行くと大扉の前で立ち止まった。そして、今度はノックをすると中から若そうな男の声で入っていいよと聞こえてきた。



「おう、邪魔するぜぇ」


 ガチャッと扉を開けて、ズカズカと入っていくテュフォンの後ろを追うように僕自身もゆっくりと室内に足を踏み入れた。


「あぁ……あなたでしたか」


 どこか嫌そうな顔をしている目の前の彼がこの町のリーダーか。


 灰色と白色が混ざり合った髪色に同じ色のオッドアイが特徴的な奴だ。

 テュフォンのように筋肉質な体つきでもなく痩せ細っているわけでもなく、パッと見では優しい性格の持ち主なのだろう。だが、ここに居るという時点でそういう身体的特徴や性格などはあまり信じない方が良さそうだ。


「いんや、あんたに用があんのは俺じゃなくて連絡したように新入りの奴だぜ。この町に連れてきたから挨拶くらいはさせとかねぇとな?」


「そういうことでしたか。初めまして、私はグラシャス・ケルアーム。不本意ながらもこの町のトップを務めています。分からないことがあればいくらでも質問して下さい」


「僕の名前はケルヴィア・リリアムだ。いくらでも質問してもいいのか?」


「もちろん。あぁ、その前に一点だけ先に言っておこう」


「なんだ?」


「この世界でのルールみたいなものでね、君は結婚はしてるかい?」


「いや、したことはないな」


 結婚というより恋愛というものをする時間が無かったのだ。興味はあったのだが、時間が経つにつれそういった気持ちも薄れてしまい生涯独身の身だ。


 僕がそう答えるとグラシャスはなら良かったと言ってきた。そして、軽く説明をしてくれる。


「この世界では姓というのはいわゆる結婚した人だけが名乗れるものでね。君には悪いけれどリリアムという名前は結婚するまで捨ててもらう事になる」


「分かった。そのくらいのことなら容易い。……む?結婚した人だけがという事ならテュフォンはどうなるんだ?」


 オルロスという子が居るのなら彼も結婚はしてるはずだ。


「おや?言ってなかったのかい?」


「別に言わなくてもいいんじゃねぇのか?って思ってな」


「結婚して姓を名乗るか名乗らないかは彼みたいに自由にしてもいいけどね。それで、質問というのはなんだい?」


 ようやくか。さて、僕が抱いている疑問を全て彼に聞くとしよう。いや、彼らに聞くとしよう。


「テュフォンも一緒でいいか?」


「俺もか?まぁ、いいぜ」


「軽く数百ほど質問したいことがあるが、順に聞いていくつもりだ。じゃあまずは最初の質問だーー」



 始める前の僕の言葉を聞いた二人の顔は少し引き攣っていた気がするが僕は気にすることなく彼らに僕が抱いた疑問や気になる事を次々と質問するのであった。







ここにやってくる人達は全員がとんでもない罪を犯しているので、大半がいわゆるチート級の強さを持っております

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