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閑話:賢者が消えた世界

 


 国家反逆の罪で賢者ケルヴィア・リリアムがタルロス大監獄に投獄されたという知らせは瞬く間に世界中に広がり、同時に混乱を訪れさせた。



 ある者達は驚いた。あの名高い賢者様がそんな事を、と…


 ある者達は信じなかった。そんな事をするはずが無い!!と…


 ある者達は喜んだ。邪魔者が消えた、と…



 そんな多くの感情が乱れる中、一番多かったのは驚愕や悲しみ、喜びではなく怒りであった。



 例えば、ケルヴィア・リリアムを崇めているーーなお本人は知らないーー魔導教院だったり。


 例えば、ケルヴィア・リリアムしか生み出す事が出来ない物を利用、購入している人々だったり。


 例えば、ケルヴィア・リリアムに命を助けられたり恩があったりする全種族の平民、貴族、中には王族だったり。


 そして、ケルヴィア・リリアムの弟子達だったり。



 ケルヴィアの弟子達は、彼が世界中から魔法の才能がある者に目をつけて集めて育ててその数はおよそ数百人も居る。そこに種族や年齢は関係なく、まさしく全種族が一つなっていると言っても過言ではなかった。その中でも一握りの者達は世界中に名が知れ渡っていたりする。



 そんなケルヴィアの弟子達には一つの共通点があって、全員が彼を心酔している事である。そのためケルヴィアが捕まったという知らせを聞いて全員が彼を捕まえた国に集まろうとしていた。


 理由はただ一つ。師匠を投獄した国と犯人に地獄を見せるために……




 ◆




「久しぶりですね」


「再開を喜ぶ前に、やるべき事をやる」


「なら私が師匠が住んでいた家を探り当てるーーーー分かった。こっちだ」


「僕はバレないように隠蔽の魔法を全員にかけます」


「各自、今はまだ落ち着け。まだ暴れる時ではない。何かあれば通信魔法で連絡を……行動を始める」



 集まった弟子達は複数グループで淡々と行動を始めた。一つのグループで軽く国家を滅ぼせるほどの戦力だ。




 ケルヴィアが住んでいた家にやって来たグループは室内を探知しながら犯人の痕跡を探っていた。


「…流石に無いか?」


「お師匠様の研究道具が全て消えているのは愚国のせいですかね」


「それにしては無くなり過ぎでは?……これは?」


「何か見つけた?」


 弟子の1人の声に周りの弟子達が集まる。


「ここに【清潔化】魔法の残滓が残ってます……他のグループに連絡と共に術式と魔力の共有をしますーーー心当たりは?」


 テキパキと無駄な動作を行わずに情報が全弟子達に共有されて僅か数秒後、別グループから返答が返ってくる。


 〈間違いない、ザルバだ〉


 〈ザルバ?〉


 〈知る者は少ないだろうな。なにせ、破門された5番目の弟子なのだから〉


 〈っっ!!?〉


 その言葉に多くの弟子達が驚く。


 〈ザルバは師匠の教えを守らなかった。魔法をどこまでも私利私欲の為だけではなく悪行にまで使った。それを知った師匠はあいつを破門にした。当然のことだな……で、あいつは破門した師匠を恨んで刃向かったが結果は言わずとも分かるな?3秒も持たずにに惨敗して姿を消した。どこで何をしてるのかすら、先程まで存在すら忘れていたがまさかこんな場所で思い出す羽目になるとはな〉


 〈何故あいつの魔力がそこにあるのかは分かりました。恐らく、彼がケルヴィア師匠を捕まえるように仕向けた犯人なのでしょうね。彼はケルヴィア師匠を恨んでいた。今の今まで……予想外ですね〉


 〈術式を見れば分かるが、成長はしてないな……よし、俺が転移でそこに行き、残った魔力からザルバの位置を逆探知する〉


 〈分かりました〉



 一つ分かれば次々と芋蔓式のように分かっていく。なんたって、彼ら彼女らはケルヴィアが育てた一流の弟子なのだ。全員が集まれば勝てる存在など師匠を除いてこの世に存在しないのだ。



 そして、魔力から逆探知した弟子の口からザルバの位置が告げられる。


 〈ザルバは王宮に居る〉


 〈では、作戦はこうしましょう〉



 瞬く間に組み立てられていく作戦はいたってシンプル

 なものであった。


 弟子達の中でも特に優秀な弟子達がザルバの元へ突入し、残りの者達が王宮から誰1人逃げられないように結界を張って見張る。



 〈行動開始。必ずザルバに地獄を見せる〉




 〜〜



 ザルバは愉悦に浸っていた。


 憎きケルヴィア・リリアムをあのタルロス大監獄に送ったからだ。



 何年もかけて国家反逆の証拠を造り続け、この前ようやく全てが完成したため王に密告をした。最初こそ疑ってはいたが最後はどうだ?ケルヴィアを捕まえてタルロス大監獄、最下層送りの判決を下した。



 彼が連れて行かれる瞬間、目が合った。上から見下した。実に爽快であった。最高の気分だった。


 自分を破門にした罰だ。自業自得だ。



 国家反逆を未然に防いだという事で巨万の富という褒賞も貰い、さらに実力を買われて近衛魔導隊隊長にも任命された。まさに大出世とも言える展開であった。


 王宮の一室が自分の部屋となり、そこで優雅にザルバは過ごしていた。


「賢者は消えた。そして、次の賢者はこの俺様ってことだ……くく、賢者ザルバ様の誕生だぁ!!ははははっ!!」


「天地がひっくり返っても似合わぬ二つ名だな。ザルバ」


「っ!」


 誰だ!!と振り返るよりも早く、ザルバの体は拘束されて床に叩きつけられる。


「お前には絶対に解く事ができない」


 ザルバの体から魔力が、体力が、気力が吸われていき力も入らない。さらに、動こうと身をよじった瞬間に全身に激痛が走り思わず叫んでしまう。


「あぁぁぁぁ!!!……だ、誰かぁ!助けろぉぉ!!」


「小物が。それに、無駄だ。この部屋は隔離されて音は外に届かない上に誰も来ない。諦めろ」


「そうですよ。叫ぶだけ無駄なので」


「さっさと殺しちゃおう」


 そんな会話が行われて、ザルバは必死に頭を回転させながら生きながらえる為に喋って時間稼ぎを行うと試みる。


「ま、待て!!俺様を殺せば何も分からなくなるぞ!」


「関係ない。それに、知りたい事があれば死体からでも知る事が可能だ」


 思ってもみなかった返答が送られ、必死に回転させていた思考が止まってしまう。


「あれ非人道的だから私はパース」


「確かに脳を直接弄りますから感触は最悪ですね」


「だが、そう簡単に死なすと思うなよ?師匠をタルロス大監獄へ送った事、そもそも師匠という存在がどれだけ世界に貢献しているのか貴様は知ってるのか?あの人が居なくなるだけで文明は100年は遅れるとも言われている」


「だね。あの発想力には負けちゃうね。あっ、でも何人か勝るとも劣るとも言えない人は弟子に居た気がするよ」


「ケルヴィア師匠は超えられない。例えどんな分野だろうと、絶対に」


「無駄話が過ぎたな。王に会いにいくぞ」


「っ!は、離せっ!!おい、聞いているのか!!」


 ズリズリと引きずられながらザルバは連れて行かれる。そう、王がいる玉座の元に……



「これは……我が国と敵対行動と捉えてもよいのか?」


 玉座の間に着いて、唖然としていた王がようやく発した一言目がそれだった。隣の宰相は固まっており、左右に並ぶ近衛騎士は武器を構えている。


 そして、弟子の1人が王に向かって話す。


「敵対?やるならば自由にしてくれ。ただし、勝てるならの話だ。俺たちの目的は二つ。師匠を捕まえるように仕向けたザルバの捕獲と、師匠の釈放の要求だ」


 一国の王に対してあまりにも不遜過ぎる態度だが、それを行える力も実績が弟子達にはある。そんな弟子の返答に王は顔に疑問を浮かべる。


「ケルヴィア・リリアムを捕まえるように仕向けた?何を言っておるのだ」


「ザルバは証拠を捏造しただけだ。信じないなら本人の口から無理矢理喋らせる。どうせ自分から話す訳がない」


 ちなみに、ザルバの口は塞がれており声も出せない状況だ。


「証拠を捏造?宰相、今すぐザルバが提出した証拠を持って来させるように」


「はっ」


 宰相が走って証拠を取りに行く。そして、王はため息のような深呼吸のような呼吸を挟んで、覚悟を決めたような顔をして目の前の人物に話しかける。


「……貴殿らの名は余も知っておる。同時に、ケルヴィア・リリアムに対する心酔している事もな」


「隠す気は無いしな。あぁ、一部の恋愛感情を抱いている者を除いて」


「恋愛感情あるなら晒した方が良いのでは無いかと思いますけどね」


「乙女を分かってないね〜」


「乙女?おや、貴方は乙女を語れる人物なんですか?」


「どう言う意味かな?」


「さぁ、どうでしょうね」


 玉座の間で到底起こり得ないような会話が行われている一方、王は言葉を続ける。


「もし、ケルヴィア・リリアムの罪が冤罪だとして彼を釈放するように要請しても……それが通るかは分からぬ」


「どういうわけだ」


「タルロス大監獄。そこは数多の罪人が送り込まれる場所であるのは知っておるな。そして、普通の監獄と違い例え国からの命令でも罪人を受け入れるか否かは向こうが独断で決める」


「監獄の仕組みについては悪いが知らない」


「その上、収監されている罪人をどうするかは全て向こうが決める。冤罪だった。だから釈放をしてくれなどという要請を国そのものから行なったとしても向こうがそれを承諾するか拒否するかは、全て向こうが決めるのだ」


「国よりも偉い立場にでもあるのか?」


「…そうだ。タルロス大監獄はどんな国であろうと命令出来ない。場所も明確に知らされておらぬのだ」


「タルロス大監獄……あまり知り過ぎてはいけない場所だな。今回、師匠をそこへ送ったらしいが賭けではなかったのか?」


「そうだ。受け入れて貰えなければ何度も要請していただろう」


 そう言い終わると同時に宰相が証拠を持って現れる。


「タイミングが良いな。見ているといい……」


 並べられた証拠に手を(かざ)して小さく呟くと、証拠の品から魔法の術式が浮かび上がる。


「これは証拠を造るために使われた術式だ。随分と幼稚な術式だが、パッと見では誤魔化せれる」


「……それは真実か?」


 王は彼の言葉を既に信じかけている。何故なら、目の前の人物が長年自分の国を守り続けたきた賢者ケルヴィア・リリアムが育てた弟子でもあり他国の英雄でもあるのだから…


「確かに俺がそう見せているだけかもしれないな。だが、近衛魔導でも連れてくれば直ぐに分かるはすだ」


「ふむ……一つ聞いてもよいか?」


「あぁ」


「何故、そこまでケルヴィア・リリアムが冤罪だと思っておるのだ?」



 王自身疑っていた。ケルヴィアがそんな事をする訳がない……と。しかし、証拠という覆す事ができない物が提出されてしまい個人的感情でどうにかする事はできなかった。



 弟子達が師匠がそんな事をする訳がないと疑う理由は王にも見当がついていた。しかし、確信を持っているわけでもないので念のために聞いてみると見当はずれな回答が返ってきた。


「師匠が仮に国家反逆をするならば、途中でバレる訳がないからだ」


「っ!……そういう考えもあるのだな」


「弟子ならば最初に思い浮かぶ事だ。師匠の実力ならばバレる訳がないし、バレたとしても次の瞬間には計画を開始させて翌日には焦土と化しているだろうしな」


 そこにあるのは絶対的な信用だった。それを見て王は考えるのをやめて、言う。


「分かった。貴殿らを信用して、ケルヴィア・リリアムを釈放するように要請するとしよう。そして、近衛魔導隊隊長ザルバを解任してその身柄を………貴殿らに渡そう」


「そんな簡単に言っていいのか?王なのだろう?」


「ふっ、王以前に前に余も彼に命を救われた事がある上に他国がどう言う事だと、うるさくて敵わんのだ……それに、断れば貴殿らが何をするか分からぬしな。このまま我が国の判断は間違ってないを貫き通せば関係を断たれる可能性もある」


「メリットとデメリットの差は明白と言ったところか」


「最悪、国が滅ぶ可能性もあるのでな。貴殿らによってな」


「懸命な判断と言っておこう。では、目的は達成したので我らはここらで去るとしよう……また数日後に師匠の事に関して結果を聞きに参る」


「ようやく終わりましたか。聞いてて暇でしたし、半分以上茶番劇のようにも思えましたよ」


「みんなにも連絡終わったよ。集団転移術式完了したよ」


「分かった。では、また」


 そう言い残して弟子達は姿を消す。諦めて完全に力が抜けているザルバと共に……



「王よ、あれで良かったのですか?」


「問題はない。それに、思った以上にケルヴィアについて心酔している事を知れた」


「もしかして、初めから彼らの話を承諾するつもりで?」


「当然だ」


「裁判も納得していなかったと」


「裁判に個人的感情は持ち込んではならぬ。心を殺した結果ではあったが、納得などするはずがなかろう……それは宰相も同じであろう?」


「はい。我が国の者は全員、彼に命を救われております。命の恩人でありますから」


「では、約束したようにタルロス大監獄へ要請を行う。賢者ケルヴィア・リリアムを解放するように…とな」


「畏まりました。王よ」



 そう言って、ケルヴィア・リリアムの解放を要請しようとする王と宰相の足取りは非常に軽い者であった…


 果たして、ケルヴィア・リリアムが解放されるのかどうかは……結局のところ、タルロス大監獄側次第なのである。



半ば思考放棄をした王と宰相

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