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まさかの看病相手

だ、誰なんだ

 


 今までで割と上位に来る方の良い目覚めだった。


 パチッと目が覚め、ほぼ同時に寝起きで鈍っているはずの思考は鮮明だ。


 天井は全く覚えのないものだが、自分がベットか何かに寝かされている事を考えるに倒れた後の僕を誰かが運んでくれたのだろう。



 そこまで考えてゆっくりと体を起こそうと思ったら部屋の扉が開いた。誰だ?と思ってそちらの方を見て、僕は思わず「は?」と声を出してしまう。


 何故なら、扉を開けて中に入ってきたのはつい先程決闘をした相手である処女の集まり(フェレアニリーア)リーダーのアラアクナだったからだ。


「あら、起きましたの?」


 そう言って部屋の中に入って来る。いや、待て待て…


「何故お前がここに居る」


「何故って、一応看病ですわ。間接的にはとは言え倒れる原因を作ったのは私ですもの」


処女の集まり(フェレアニリーア)は僕に構わない、という約束があるはずだ」


 看病してくれた相手に対して冷たいかもしれないが、それが約束なのだ。


 そう思っていたら予想外な回答がアラアクナの口から発せられる。


「私、処女の集まり(フェレアニリーア)抜けましたの」


「は?」


「今の私は処女の集まり(フェレアニリーア)リーダーのアラアクナではなく、ただの蜘蛛神(アトラクア)のアラアクナですわ。だから、貴方を看病しても約束は破ってないですわよ?だって、あの約束は処女の集まり(フェレアニリーア)だけのものですもの」


「屁理屈だろ」


「では私を追い出しますの?」


「……そのままでいい。約束外の事だからな」


 ただ、看病だけだ。どうせアラアクナもそのつもりだろうしな……しかし、何故彼女は処女の集まり(フェレアニリーア)を抜けたのかが分からない。


 だが、気にして変に地雷を踏むのも嫌なので聞かないようにしよう。


「懸命な判断をしてくれて嬉しいわ。あっ、お腹が空いてると思うから何か持って来るわね」


「…あぁ」


 アラアクナが退出していって部屋に1人となった僕は今更ながら視界が元に戻ってる事に気がついた。


「切り替え可能なのか?それとも、何か別の要因で使えないのか……」


 一時的なものだったのだろうか?それとも、アラアクナが関係しているのか?いや、あとで考えるとしよう……もう少ししたらどうせ彼女が来るしな。


 案の定、扉が開いて律儀にトライの上に湯気を立たせた食事をアラアクナが持って来る。両手は塞がってるのにどうやって扉を開けたのだろうか?と考えていると、彼女は脚の一本を使って扉を器用に閉めた。


 体の構造が大きく違うのでどうなのかは分からないが手が塞がっていても脚で扉を開け閉めできるのは少し便利なのか?……あの脚的には難しいと思うが、慣れなのだろうか?


 じっと、アラアクナの脚を見ていると僕の視線を感じ取ったのか揶揄ってきた。


「乙女の脚をジロジロ見ないで欲しいですわ。気になるなら一言言ってくださいな」


「すまない。少し気になってな」


「ケルヴィア様は脚がお好きで?」


「普通だ。僕が気になったのは脚で扉を閉めたように思い通りに動かせるものなのかどうかだ」


 確かに一部では脚が好きだなんだの言う奴は居るが、生憎と僕はそういうのに興味を持つ人間ではない。


「そういうことですの。先日の決闘で薄々思っていたことですが、もしかしてケルヴィア様って戦う事より研究とかそっちの方が得意ですの?」


「あぁ」


「意外ですわ」


「そうか?」


「えぇ」


 そう言ってアラアクナはベットの近くにあるテーブルに食事が乗ったトレイを優しく置く。そして、何を思ったのかスープが入ったお皿とスプーンを手に取って近づけて来た。


「なんのつもりだ?」


「食べさせてあげようと思っただけですわ」


「いらぬお節介だ」


「あらそう」


 なんとかアラアクナの魔の手を阻止して、僕は冷めないうちに彼女が持ってきた料理を食べようとするが…


「…食べにくいんだが?」


「お気になさらず」


 そう言い終わると同時に彼女の気配が消える。目の前に居ると分かっているのに目を逸らしたら何処にいるのか分からなくなりそうだ。


 ……もう、いいかと、どこか諦めた僕はゆっくりと食事を食べ始めるのであった。






「良い食べっぷりでしたわ」


「っ…そういえば居たな」


「忘れられてるなんて泣きそうですわ」


 そう言うが口元は笑っているので無視だ無視。それにしても、かなり美味しい料理だったな。


「この料理はここの人が作ったのか?」


「えぇ。最初は私が作ろうと思って宿の店主に一言言って厨房を借りて試してみたけど……冒涜的な物体が出来たのでやめましたわ」


「二度と料理を作らない方がいいんじゃないか?」


「流石の私も今までにかいたことのないような汗が出ましたわ」


 懸命な判断だな。死人が出る前に自分で気づけて良かったな……いや、待てよ。むしろ今の今まで気が付かなかった責めるべきか?


「練習しますわ」


「勝手にしてくれ」



 腹も膨れてこの後はどうしようか?と考えているとカツコツという音が隣から聞こえてくる。そちらに目をやるとアラアクナがこめかみに手を当てて目を閉じていた。脚が僅かに動いているのは癖だろうか?


 恐らく彼女は通信魔法で誰かと会話しているのだろう。



 通信魔法はいわゆる遠隔で話すことができる便利な魔法だ。ただ、突然話しかけられたりするとビックリする上に秘匿術式を使わないと他人に盗聴されかねないという点もあったりする。他にも、話しかけるにはその人物の事を知らないと不可能だ。



 誰と会話してるのかは知らないが、よくよく見ればアラアクナの容姿は凄いなと思った。


 色んなことが立て続けに起こったせいで彼女をあまり観察できなかったが……珍しい紫黒色の髪は腰元まで伸ばしていて、その顔は枠組みから外れたように美貌で時折浮かべるあの笑みによって妖艶さも感じられる時がある。そして均整が取れているまさしく完璧な肉体は凄いと言わざるを得ない。

 蜘蛛神(アトラクア)だからだろうか?あまり見ないような瞳孔の細い金色の目が左右対称に合計8個あるが、そのうちの6個に関してはよくよく見なければ気づけないな。


 そして、彼女の一番の特徴でもある蜘蛛の下半身は髪色と同じ紫黒色。脚も甲殻みたいで見た目だけでも重厚感がある。そして、何度も思ったのだが大きいのだ。


 脚の一本が一般的な蜘蛛人(アラクネ)より太く、長く、腹も大きく膨らんでいて座れそうだ。いや、座れるんじゃないのか?


 その上、上半身も相まって彼女が立てば目線はほぼ僕と同じくらいの高さに来る。これでも僕はかなり高身長だとーー周りから高い高いと言われたせいでーー思っている。


 それだけでも異質感は凄いのにさらに、あの強さだろう。誰がどう見ても蜘蛛人(アラクネ)とは言い難いだろうな…


 確か、脚には特殊な力があると言っていたな。そして、8本のうち2本がまだ何も無いとも。任意で取得できるようなものなのか?もしそうならば何かしらの代償があっても良いとは思うが、こういう場合は無い可能性が高いと相場は決まってる。



 アラアクナの容姿を観察してると通信魔法を終えたのかパチリと目が開き、僕の目と合う。今度は彼女自身も予想してなかったのかキョトンとした顔で聞いて来る。


「どうしましたの?」


「気分を害するかもしれないが、凄い容姿だなと思ってな」


「それは…どういう意味の凄いなのか教えて欲しいですわ」


「ただ単純に目が奪われる程の美しさとか均整が取れてる肉体に対しての凄い。そして、見た目にそぐわない強さに対しての凄いだ」


「この体を保つのも結構大変ですもの。自身はありますわ」


 自画自賛ときたか。いや、納得はするがな。


「では、下半身はどう思いましたの?」


「デカい」


 アラアクナが静かに脚の一本を向けてきた。


「紫黒色というのは個人的には好きな色合いの一つだ。それに、脚の一本一本に計り知れない力が宿ってるのも感じ取れるし……その蜘蛛腹とでもいうのか?座れそうだなと思ったな」


「……まぁ、許しますわ。危うく脚が滑りそうになりましたわ」


「そうなれば宿の店主に謝らないとな。ベットが汚れてしまったと」


 下半身がどうなのかと聞かれて、デカいは無いな……気にしてる人ならば冥府の果てまで追いかけて殺してきそうだ。


 そんな事を考えているとアラアクナは僕の名前を呼んできた。



「ケルヴィア様」


「ん?」


「これからどうなさるつもりですの?」


「しばらくは、あの感覚をもう一度出来ないか実験をして…成功したら研究して……終わればこの町を出発だな」


「場所にあてはありますの?」


「……無い」


「そう言うと思いましたので空き家を購入してますわ。それをケルヴィア様にお譲りしますわ」


「何を考えている」


 感謝や困惑ではなく、そんな言葉が僕の方から自然と出る。看病は分かるけれども、僕の行動を予測して家を購入し、さらにそれを譲るだと?疑うのは至極当然の話だろ。


「何も考えておりませんわ。いえ、訂正しますわ。私は…………………いえ、もう正直に言いますわ」


 余程葛藤したのか長い間を空けてアラアクナはそう言う。そして、彼女は言う。


「私は、貴方に尽くしたい。理由はまだ言えないけれど、いつか必ず言いますわ」


「え?……は?…はぁ!?」


 アラアクナの言葉の内容を一瞬頭が理解できなかったが、それは時間の問題であった。次第に言葉を理解していった僕はそんな大声を出してしまう。


 そして、そんな僕と違いアラアクナは照れているような顔はしておらず……いつもの謎の笑みを浮かべているのであった。


 ただ、なんとなく感じ取れたことが一つある。それは、彼女の発言に色恋やそういった類の意味は一切込められていなかった……ということであった。





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