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力と勝敗

 



「約束の20分が経ちましたわよ?」


 その言葉と同時に僕は気持ちを研究から戦闘に切り替えながら返事をする。


「…あぁ、ある程度理解した」


 ゆっくりと目を開けると、先程の薄紫色に満ちた視界ではなくいつもと同じ視界。


 この20分でこれについてある程度は理解をした。


 仮称としてこの目の事を"魔導ノ眼"と呼ぶことにする。この眼は簡単に言えばどんなに僅かな魔力でも視認可能だ。それこそ、魔法を使う際に魔力の動きなんかも視認が可能だと分かった。


 魔導ノ眼について分かったのはこれだけだ。なにせ、時間がなさすぎる上に設備も十分ではないからだ。それに、分かった事も正しいとはまだ証明は出来ないので完全に信じはしない。



 ただ、魔力の動きが見えるのなら出来ることは大幅に増える。


 例えば、何か物が動くとしよう。すると物に合わせて空気中の魔力も僅かに移動するのだ。そうすれば相手が高速で移動しても魔力も合わせて動くので何処に行ったのか予測が可能になるというわけだ。


 ただ、今の僕のでは不可能に近い技術なので魔法でなんとか可能にする。


【思考加速】【並列思考】【反応速度強化】


 この三つがあれば恐らくは……



「では、続きを始めますわよ?」


 そう言うのと同時にアラアクナの脚の一本を経由して僕の背後に魔力が集まっていくのが見える。空気中の魔力ではなく、彼女自身が持つ魔力だ……色が違う。


 そして、言い終わると同時にズシっと見えない圧を掛けられたかのような重い魔力で作られた不可視の魔力槍が僕の頭を貫こうと射出された。


 体を一歩横に動かして避ける。直後、僕の足元の地面が音を立てて風穴が空いた。


 とんでもない威力だ。ただの魔力で作られた槍でこれなんだ……彼女が本気で作った魔力槍はいったいどうなるのやら。



 アラアクナの方を見ると、彼女は僕が避けた事に対して驚くわけでもなく、ただ笑みを浮かべるだけ。その笑みは先ほどまでの小さな笑みではなく心の底から喜んでいるような……もしくは全く別物の笑みだった。


「では、これならどうですの?」


 今度は3方向に魔力が急速に集まる。また魔法槍か?と思ったが嫌な予感が胸をよぎったのでその場から退避すると、直後僕がいた場所が爆発して天に向かって火柱が立った。


 離れてなお肌を焼くような熱量を感じ、まともに浴びていれば骨すら残らないと思っていると、また別々の方向に複数魔力が集まっているのが見えた。



 このままでは一方的なやられるだけなので、反撃に出るとしよう。とは言っても、魔法の威力が変わるわけでもないので最大火力もしくは一点に集中させないと傷を付けることすら不可能だ。


 最大火力での攻撃は魔力消費が非常に激しくなる。その上確実性もないため、却下だ。となると一点集中でやるしかないか。


 それと、少し嫌がらせをするとしてみよう。


 アラアクナが発動させようとする魔法の術式を読み取り、こちらのものにする。言うだけならば簡単だが実際はかなり難しいが、今の僕なら出来る気がした。


(術式理解完了……掌握する)


「……あら?」


「制御権は貰ったぞ」


 アラアクナが発動させようとした魔法ーー【射光月】を彼女に向けて放つ。その間に僕は魔力を一点に集中させていく。


【射光月】はいたってシンプルな魔法だ。


 月の神聖な光を一点に集中して射出する。その速度は光の速度と同レベルと言っていいほど速く、威力は込めた魔力に比例する代わりに、必要量は凄まじいという特性を持つ。


「私の魔法の制御を?……ふふっ、やっぱり思ってた通りですわね」


【射光月】はアラアクナ直撃したと思ったら消失した。先ほど言っていた魔法破壊の力だろう。


「その魔法破壊とやらがある以上、僕の勝ち目は無いに等しいな……」


「なら使わないようにしてあげましょうか?」


「いや、これ以上のハンデは不要だ」


 魔法が無理なら、魔法を使わなければいいだけの話だ。


 ……僕の準備が完了した。


「凄い魔力ですわね。動けるだけの最低限を残して一点集中とは賭けに出るつもりかしら?当たらなければ何も出来なくなるわよ?」


 アラアクナの視線が僕の右手に向く。


 右手に一点集中させた魔力は僕の全魔力ーー全部使えば動けなくなるので最低限は残してるがーーと言っていい。


 つまり、近づいてアラアクナを右手で殴るなりなんなりするだけということだ。

 時間は残り少ない。先程かけた補助魔法達もあと数分で効果が終わる……その数分でケリをつけなくてはならない。


 並列思考を魔力を見る用と戦闘用に大きく分ける。それ以外は別の処理のために回す…


「当てる自身があるからこんな事をする。そうでなければこんな無謀な事はしないしな」


 成功確率は1%にも満たない。ただ、0%ではない。



「確かに、当たればかすり傷くらいは負いますわね。なら避けさせていただきますわ」


「当ててみせる」


 拳に集中させた魔力の形をドリルのように変え、姿勢を低くして構える。そして、全力で両足に力を込めて大地を蹴る。



 それと同時に僕の体に力が戻る感覚があった……なんとか間に合ったな。



「直線上に来るだけなら簡単に避けられますわよ。例えば、こんな風に…貴方の真後ろにっ!?」


「かかったな」


 片足を軸に体を反対方向、アラアクナのいる方へと回転させる。そして、風魔法を使って足裏から衝撃波を起こして短い距離を詰めるためにさらに加速させる。


 そこから更に動こうとしても動けないことに困惑してるアラアクナを縛り付けるために、土魔法を使って彼女の足を大地と繋げることで拘束させる。


 これは大地を操って拘束するのでアラアクナの魔法破壊は適用外の筈だ。



 そして、引いた右拳に全力を込めてアラアクナの胴体目掛けて突きを放つ。


 アラアクナは最後に彼女を縛り上げている物があるにも関わらず無理矢理動いて回避しようと試みる。その結果、ど真ん中に入るはずの僕の拳は逸れて脇腹を掠るという結果になった。


「外し……いや、最後の悪あがきだ」


「なっ…」


 右拳に込めた魔力に指向性を持たせて爆発させる。爆発方向はもちろん、アラアクナだ。


 瞬間、世界から音が消えて大気と地面が大きく揺れる。両眼と脳が再び激痛に苛まれ、僕の右腕が爆発の反動で物理的に千切れとび激痛が襲いかかる。体も吹き飛び地面を転がっていると伝わってくる感触と痛覚で察する。



「かはっ……けほっ、こほっ……つっぅぅ…」


 動ける分すら魔力が残っておらず、ただ意識を保つだけで精一杯だ。未だ激痛を知らせてくる右腕や折れたりヒビが入っている骨を治す魔力なんてあるわけない。


 ノロノロと首を動かして、アラアクナはどうなったのかと確認をするが先程の爆発の影響がまだ残っているのか魔導ノ眼が伝えてくる情報は役に立ちそうにないため彼女の状態を知ることは出来ない。



 ようやく聴力が戻ってきたのと同時に、ちょっとした時間で聞き慣れた声が耳に届く。


「今、楽にしてあげますわよ。蘇生すると体の不調全て治りますもの」


 直後、意識が途切れかける。そして千切れ飛んだはずの右腕も激痛を訴えてきた脳と両眼も何もかも全て治っていた。ただ、魔力だけは未だ枯渇寸前なのは不便だと思ってしまった。



 治った両眼が伝えてくる情報に僕は驚いた。


 目の前に立つアラアクナの脇腹が僅かに炭化していたのだ。


 周囲を見るとアラアクナが張った結界にヒビが入り、地面は焦土の如き色を放ちながら未だ白い煙を放っている。


「負けましたわ」


 そう彼女が観客席にも聞こえるように言うのと同時に結界が消える。


「最後のあれ、どうやって私を動かなくしたのか教えてくださるかしら?」


「簡単だ。お前の魔力で糸を作って縛っただけだ。僕の魔力で作った糸は破壊されるが、自分の魔力で作った魔力糸は破壊出来ないだろ?」


 アラアクナが魔法を使う際に彼女から出ている魔力を拝借しただけだ。引っかかるかどうかは賭けではあったが、結果として勝った。


「あと、どうして魔法を扱えたのかしら?あの時貴方には魔力がほとんど残っていなかったわよね」


「封印を解除した。それだけだ」


「封印?……まさか体の中の封印の事かしら?」


「それ以外に何がある?」


 封印を破壊もしくは解除すると力が戻る。その力には魔力も含まれているため、封印されていた分の魔力が僕の元に戻ってきた。その魔力を使っただけだ。

 タイミング的に一つ解けそうだったので、僅かな【並列思考】を使って解いた。


 そんな事を簡単に纏めて話すとアラアクナは驚いた表情を見せた。


「貴方は随分とギャンブラーのようですわね」


「大きく賭けに出なければ勝てないだろ?」


「ふふっ、そういう時もありますわね」


「さて、約束通りこれから僕には構うなよ?最低でも僕が旅をする間は絶対にだ。それが終われば自由にしてくれ」


「あら、期間を設けて下さいますの?」


「あくまで旅が邪魔されたくないだけだからな。目的が終わればなんだっていい」


「分かりましたわ。では、約束通り私たち処女の集まり(フェレアニリーア)は貴方の旅が終わるまでの間、一切の手出しはしない。と宣言しますわ」


 その言葉を聞いて、ようやく僕の心に安堵という気持ちが訪れを告げた。


「倒れ伏してる状態とは場に似合いませんわね」


「言ってくれるな…もう動くのも無理なんだ」


「では、未だ唖然としてるスグルに宿にでも運ばせるようにと命令しますからゆっくり寝なさいな」


「そう、させてもらおう…」


 最後にアラアクナに何かを言おうと思ったが、その気力も失せて僕は静かに眠りに着いた。







 〜〜〜〜





 アラアクナは眼下でスヤスヤと眠るケルヴィアを見て、彼を宿に運ぶために未だ唖然としてるスグルに近寄った。


 何故彼が唖然としているのかは明白だ。


 ケルヴィアとアラアクナの決闘で絶対に負けると思っていたケルヴィアが勝ったからだ。


「スグル」


「…はっ!?どうやら夢を見ていたのかもしれないな。ケルヴィアがあの化け物蜘蛛に勝つなんて…」


「……軽く数百程殺して差し上げましょうか?」


 笑みを浮かべるーー目は笑ってはないがーーアラアクナにケルヴィアは一瞬にして顔を青ざめる。目の前に張本人が居る事と、これから自分に降り注ぐ災厄を想像して……


 しかし、アラアクナは彼に何もせずにただ命令をする。


「ケルヴィア様を宿まで運んで最高級のベッドで寝かせなさいな」


「はいっ!!ただちにー!」


 スグルは命令を瞬時に完遂させるために一瞬にしてケルヴィアの元へと行き、抱え上げようとするとアラアクナから静止の言葉が告げられる。


「丁寧に、そして一切の衝撃を彼に与えないようにすることですわ。破ったら……分かりますわよね」


「はっ!」


 アラアクナには過去の経験上逆らうことの出来ないスグルは命令にしたがってケルヴィアに衝撃を与えずに素早く宿に運んだ。



 そして、ベッドで横になって眠るケルヴィアを見てスグルは思う。


(……とんだ化け物だな)


 特に、最後の爆発だ。と彼は思い出す。


 アラアクナが張った結界すら破壊しそうな程の破壊力の魔力爆発。鼓膜が破れるんじゃないかと思うくらいの轟音に網膜が焼かれそうなほどの光と大地を揺らす衝撃……あれが自分に回避不可能の状態で向けられたら耐えられるか?とイメージするが、どう考えても木っ端微塵になる未来しか考えられなかった。


 アラアクナは脇腹の一部が炭化するという結果を見て、やはりチートだろ…とスグルは改めて思った。



 そんな事を思いながら宿の階段を降りると、そこにはどこから持ってきたのか優雅にワインを飲んでいるアラアクナが居た。既に炭化した脇腹は服ごと治っていることに今更ながらスグルは気づいたが気にしないことにした。


 アラアクナはワインが入ったグラスを手に持ちながら誰に聞かせるつもりもなく話し始める。


「ケルヴィア様は魔力枯渇寸前でしたから、完全に魔力が回復するまで目覚めないと思いますわ」」


 スグルはそうなのか、と思って返事をしなかったが代わりに沈黙が訪れてしまったので仕方なく返事をする。


「そうかよ……で、色々聞きたいことがある」


「なんですの?」


「避けようと思ったら避けれたろ?あの時」


 スグルが思い出すのはアラアクナが突然動きを止めた瞬間の事であった。どういう魔法で動きを止められたのかは分からないが彼女ならば動けたはずだ、とスグルは思っていたのだ。


 そんな質問に対しアラアクナは少し考える素振りを見せて、答える。


「避けようと思えば確かに避けられましたわ。しかし、無理矢理動けば私の柔肌に跡が残るんじゃないかと思ったため動こうかどうか迷ってしまい、その隙をケルヴィア様が突いただけですわ」


 嘘をつくな、とスグルは喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。


 アラアクナは常時自身を纏うように何かしらの障壁を纏っている。それがあるにも関わらず柔肌?冗談も大概にしろ、とスグルは言いたくなった。


「それと、ある計画の為というのも1%ほどありますわ」


「ある計画だ?」


「それは言えませんわ。それより、処女の集まり(フェレアニリーア)は表に居ますわよね?」


「多分な」



 宿側からすればとてつもなく迷惑な事をしているが、彼女達に逆らっても特段利益は生まれないし、そもそも宿自体趣味でやっているような物なので追い払うつもりなど毛頭ない。



「では、彼女達の元に私は行きますわ。大切な話をしに」


 そう言ってゆっくりと動くアラアクナにスグルはどこか嫌な予感を拭いきれなかった。


 ここまで来たんだ。どうせなら最後まで付き合うか、と覚悟を決めたスグルは彼女の後を追う。




「アラアクナ様、これから私たちは?」


「その前に一つ、大切なお話があるから静かにしなさいな」


 アラアクナが姿を見せたことに小さなざわめきを起こす処女の集まり(フェレアニリーア)に一言、そう告げるだけで彼女達は静かになる。彼女達のリーダーだからこそ出来る事だ。



 そして、その場にいる全員がアラアクナが次に発する言葉にドキドキしながら待ち、やがてそれは放たれる。とびきりの爆弾発言と化して……



「私は処女の集まり(フェレアニリーア)を抜けますわ。次のリーダーは貴方達で相談して決めなさいな」



 直後、第9の町全体に轟くような声が発せられた。


 

 処女の集まり(フェレアニリーア)リーダーであるアラアクナの脱退。


 それはその場に居たスグルが慌てて第9の町のリーダーに伝えるのと同時に瞬く間に世界中に情報が広がり一瞬の混乱を訪れさせた。

 それを起こした張本人は、笑みを浮かべているだけであった。そこに込められた意味は本人から知り得ない……

 

 

最後の悪あがき(自爆)

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