戦いを見る者
三人称(他)視点です
ケルヴィアに嘘をついて処女の集まり待つ第9の町へと案内した確信犯であるスグルはアラアクナとケルヴィアの決闘を見て思ったことがあった。それはいたってシンプルな事であった。
(……あいつ、普通に強くね?)
この世界に来る者は全員漏れなく大罪人なのだが、全員が強いというわけではない。それに、その強さも差が激しいのだ。
ケルヴィアと初めて出会った時にスグルが抱いた感想としては、中の下くらいの強さか?であった。
ヘルスコーピオンを周囲の砂ごと浮かして倒したと知った時には驚いたが、この世界ではもっと驚くようなことが日常茶飯事に起こるのですぐに気にも止めなくなった。
そして、ケルヴィアの名前を知るとスグルは第9の町になんとしてでも彼を案内しなくては、と考えた。何故なら、こう言われていたからだった、
薄緑の髪に薄紫の目、人間にしては高身長でローブを着た魔法士を見かけたら処女の集まりに連絡するように……と。
これを無視して言わなくても別に良いのだが、過去の経験からスグルはたまたま自分が住む第9の町に処女の集まりが滞在していたのだ。
処女の集まりについて聞いてきたケルヴィアに嘘を言ってスグルは案内をした。
その時のスグルの心情としては、俺と同じ道を歩め。であったのは彼だけの秘密だ。
そして、ケルヴィアと処女の集まりリーダーであるアラアクナの決闘を見届ける事になったスグルであったが、暇つぶし程度になればいいかと考えていた。
何をどうしたってアラアクナという存在には勝てないとスグルは知っている。だからこそ、ケルヴィアに勝機など無く一方的な闘いになるだろうと思っていたのだ。
そして、決闘が始まると思っていた内容と同じ状態にはなったが予想外な事もあった。
初手でケルヴィアが死んだ事もその一つであった。
アラアクナが戦う時は必ずと言っていいほど先制攻撃を相手に譲るのだ。だが、今回彼女はそれを行わずスグル自身も視認できなかった攻撃でケルヴィアを殺したのだ。
次に予想外だった事はケルヴィアの強さであった。
ほとんどの魔法で構成された各種20本の魔法槍が空に生み出された時は「は?」と声を漏らしそうになったほとである。いや、実際に漏らしていたのかもしれない。
それらがアラアクナ目掛けて降り注いだ時、スグルは僅かにかすり傷を負わせたんじゃないのか?と考えた。しかし、結果は無傷。その後の見たことのない魔法を手に纏ってアラアクナに近接戦を仕掛けたが軽くあしらわれるだけであった。
結果だけを見れば戦う前から分かっていた事であった。しかし、ここまでケルヴィアが強いとは思ってもみなかったのである。
もしかすれば、自分にも迫るのではないかと思えるほどの強さにスグルは新入りに負けないように修行でもしようか?と考えたほどであった。
ただ、それらの予想外すら超える驚きが一つだけあった。それは、アラアクナの行動であった。
普段の彼女なら絶対にしないと断言出来るような行動をアラアクナは次々と行う。
スグルは思わず同じ観客席に居る処女の集まりのメンバーに視線を向けたが、彼女達もまた驚いている様子であった。
何かがおかしい、とこの時点でスグルは何かを感じ取った。そして、それは正しかった。
アラアクナの脚の一本が光ったと思ったらケルヴィアが両眼を抑えながら叫んだのだ。
何をしたのか分からなかったが、決闘を止めるべきか?とスグルは考えたが僅か10秒ほどでケルヴィアの叫びが止まり、代わりに荒い息が吐かれる。
会話内容は聞こえるが、意味が分からなかった。アラアクナの発言の内容にケルヴィアの20分くれ、という言葉……
混乱している頭を必死に整理していき、ケルヴィアを見ると雰囲気が変わっていた。
自分の眼に手を当てたと思ったら今度は頭に、次は体に……と腕が忙しなく動き回り、何かの魔法が絶えず発動され続けている事にスグルは気づいた。
20分間、ずっと彼はそうし続けるのか?ならばアラアクナは何をするんだ?と思い、視線を向けたスグルは目が飛び出るんじゃないかと思うくらいに見開いた。同時に「は?」という言葉も口から出る。
なんと、ケルヴィアの顔を覗き込んで笑みを浮かべていたのだ。
それが何を意味するのかスグルには到底理解は出来なかったが、とある確信を得た。それは、ケルヴィアという存在はアラアクナにとって重要な何かだということであった。
まだこの世界に来たばかりのケルヴィアの何が重要なのかまでは分からなかったが、ただ良い男だからという理由でで顔を覗き込む訳がない。
先程のケルヴィアの叫びと関係性が?とスグルは自分でも自称するほど出来は良くない頭脳を回転させながら考察をするが何も分からなかった。
そして、20分が経ち……ゆっくりとアラアクナが口を開いた。
「約束の20分が経ちましたわよ?」
その言葉にケルヴィアはまた雰囲気を変えて返答をする。
「…あぁ、ある程度理解した」
その目を紫黒色に輝かせながら……




