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旅に予想外はつきもの

 


 第6の町を出発した僕はただ目的もなく歩いていた。


 このまま歩いていけばいずれどこかの町に着く。もしくは誰かと会うかもしれない。そのどちらでもないのならこの世界の端っこに到達するだろう。



 この世界はダンジョンの最下層だ。そのため無限に広がっているわけでもないので壁が存在する。そのため、一方向にずっと歩いていればやがて行き止まりになってしまう。


 行ってみるのもありだろうが、いったいどれほどかかるのかは分からない。もし、道中で処女の集まり(フェレアニリーア)に遭遇したら……最悪転移で逃げればいいだろう。


 それに、この世界は広い。そうそう出会うことなんて無いだろう。



 胸によぎった嫌な予感を無視して僕は歩き続ける。



 この世界には朝、昼、夜の概念が存在する。そして今は丁度お昼の時間だ。


 タイミング良くお腹が空腹を知らせてきたので僕は歩くのをやめて昼食を取る事にした。


 辺りは緑に溢れている心落ち着く場所だ。適度に木々や僕の腰元まで伸びてる低木も生えており、葉の隙間から差し込む光が明るく地面を照らす。


 これだけならばゆっくりと心を落ち着かせて昼食を取ることが出来ただろう。しかし、ここは違う。



「……先に処理をしよう」


 僕の目線の先には一本の木が立っている。幹は太く、葉も生い茂り健康的な木そのものだ。だが、ひとつだけ違う点がある。


 掌に小さな火球を生み出してそれを木に向かって放つ。


 ゆっくりと進む火球は木に着弾する寸前、枝の一本が鞭のように動いて火球を消滅させた。そして、そのまま枝をゆらゆらと動かしながら木はゆっくりと全身を揺らすように動き始めた。



 普通の木とひとつだけ違う点。それは、この木は魔物だということだ。



 この魔物の名前は聞いている話と合っているのなら、恐らくヘルトレントという魔物だ。


 これは余談なのだが、この世界のほとんどの魔物名には"ヘル"という言葉がついているそうだ。




 地面を砕いて枝と同じ鞭のような根が現れ、それらはゆらゆらと揺れていると思ったら次の瞬間には僕の体を突き刺そうと素早い動きで襲ってくる。


 風切り音すら遅れて聞こえてくるような速さの根を僕はかろうじて避けることが出来た。そして、戻ろうとする根に手を添えてある魔法を行使する。


「蝕め、【細胞破壊毒】」


 それは相手の体内の細胞を破壊していく死の毒。細胞を一個破壊すると周りにある細胞も破壊され、そしてさらに破壊された細胞の周りの細胞も……と連鎖的破壊を起こす毒を与える魔法だ。

 これだけならば強そうにも見えるが、これには弱点がある。それは相手の魔力で毒を覆うと簡単に防がれるということだ。


 威力などを追求した魔法のため抵抗性などがとてつもなく低いのだ。そのため、いわゆる初見殺しという魔法に分類される。



 僕の手から死の毒がヘルトレントの根を朽ちさす。それだけでは終わらず根を伝っていき地面下の根もどんどん朽ちらしていく。そして、毒は幹の根本から葉まで広がっていく。


 バサバサと大きく全身を揺れながらヘルトレントが迫り来る死と毒に苦しむ。


 やがて、最後の一枚の葉が朽ちてヘルトレントはその生命を途絶えさせた。後に残ったのはヘルトレントの幹の一部だった。ドロップアイテムだな。


 毒で全てが朽ちたのにこうやってドロップアイテムが出るのはどうなのか?と今更ながら思ってしまう。



 拾ってみて軽く叩いてみるとカンッカンッとまるで鉄のような音が鳴った。明らかに木の硬さではない事は確実だ。


 また合間に研究しようと思って空間収納に仕舞う。



 さて、昼食を食べるとしようか。


 この周囲に魔物は居るには居るが、こちらを襲ってくる気配はしない。奴らの警戒範囲に僕が入ってないからだろう。



 それからしばらくの間、僕はゆっくりと落ち着いた昼食と休憩時間を取った。




 ◆





 再び歩き始めた僕は周りにいるヘルトレントの多さにうんざりしていた。


 木々に擬態するように少なくとも数百のヘルトレントが僕が探知できる範囲内にいるのだ。



 まとめて焼き払ってやろうか?と思ったが流石に燃焼がとんでもない事になるので苦渋の決断の末やめた。


 奴らの警戒範囲に足を踏み入れなければ襲ってこないのは既に分かった事なので上手く避けながら僕は進んでいく。



 風が僕の頬を撫でる。ここで鳥の囀りが聞こえたら完璧だったろうが、聞こえたらきっと魔物だと思うはずだ。



 さらに歩き数時間が経過した頃、木々の数が少なってきたことに気がついた僕は自分でも気づかない内に早足になっていた。


 そして、完全に木々が無くなり目の前には呆然とするような光景が広がっていた。



「砂漠だと…!?」


 一面に広がる砂と枯れ木と石の世界。これは予想外としか言えない。


 改めてここがダンジョンなのだと認識させられる砂漠が目の前には広がっている。


「ここを歩くのか」


 多めに休憩を挟むか、と思いながら僕は足を踏み出す。


 ザッ…という音と足が僅かに砂に沈む感覚を味わいながら歩き進める。



 全く変わらない光景が続くな……何か考え事でもして気を紛らわせよう。



 そういえば、処女の集まり(フェレアニリーア)という集団だが、一体全体で何人居るのだろうか?


 最低でも2人、多くて10人と考えるとしよう。その場合見つかったら連携して追い込まれる可能性が高い。


 転移魔法で逃げると考えていたが、とある事を思い出してその考えは捨てた。


 弱点があるのだ。


 転移魔法にはどんなに丁寧に行っても僅かに空間のほつれというものが転移場所に残るのだ。そして、魔法が得意な者ならばその空間のほつれを利用して相手と同じ場所に転移する事が可能になる。


 そのため転移魔法を使って逃げたとしても空間のほつれを利用されて追いつかれてしまう可能性がある。転移場所をグラシャス家にすれば追いつかれても大丈夫そうだが迷惑過ぎる。



 相手が魔法に精通していれば、の話ではあるが相手が相手なのだ。その可能性はほぼ無いに等しい。


 そういった事に気づいたため処女の集まり(フェレアニリーア)に見つかった場合は嘘で貫き通す事にした。


 ん?……あぁ、そういえばこういった選択肢もあったな。


 誘惑に負けない、という選択肢だ。いや誘惑に関しては正直効かないと断言出来る。


 僕が恐れているのは魔法で無理矢理魅了される事だ。これに関しては耐えられる、と断言出来ないため少し怖いのだ。


 流石に魅了系の魔法は使ってこないと思いたいが可能性として十分あり得る。頑張るという根性論でなんとかしよう……




 話は変わるが、処女の集まり(フェレアニリーア)のリーダーについてだ。

 グラシャスに諸々聞いたことは全て覚えている…再確認といこう。


 名前は確かアラアクナで自身を蜘蛛の神と自称している、この世界においても最古参のうちの1人であり同時に最強の1人でもある彼女。


 その強さを知るものは限られている。何故なら彼女はずっと一ヶ所に留まらず常に移動しているため追いかけるのは難しい。そこまで熱心なストーカーも居ないそうだ。


 だが、アラアクナの強さを知ってるグラシャス曰く…正攻法ではまず勝てず、彼女に勝てる存在なんて数人しか居ませんよ。との事だ。ふむ、僕には勝てないということも同時に分かった。


 妻よりは確実に劣るがとても美しい見た目をしており身長も大きいらしいので一目見たら直ぐに分かるとも言われた。惚気が混ざっていたのは仕方のないことだろう。


 まぁ、出会ってみれば分かることか。出会いたくはないがな………ん?



 退屈を紛らわせる為にグラシャスとの会話内容を思い出していると僕に接近してくる生命体に気がついた。


 直ぐさま思考を戦闘用に切り替えて迎撃行動を取る。


 相手はまだ姿を見せていない。恐らく砂の中を進んでいるのだろう。ならば…砂ごと宙に浮かしてやろう。



 僕は手を前に出して宙に浮かせる砂の大まかな範囲を調整し、魔法名を呟く。


「【物体浮遊化】」


 ズズッ…という音と共に目の前の砂の地面が大きく膨れ上がっていき、やがて宙に浮かび上がる。

 今回調整した範囲はおおよそ縦横20メートルだ。相手がどれほどの大きさなのかも分からない現状なので大きく調整した。


 突然地面の一部が宙に浮かんだ事で大きな穴が出来る。そして、そこに周りの砂が一気に流れ込み始める。


 僕は障壁を足元に生み出してそれに乗って砂の中に埋もれてしまうのを防ぐ。



 さて、ここから砂の中に居るであろう生命体を引きずりだしてやろう。


「【重力場生成】」


 生み出した砂の塊の下方部分に本来の重力とは違う新たな重力場を生み出す。すると、宙に浮いている砂がどんどん重力場に引かれていく。


 こうする事で砂を減らせてかつ、中に居る生命体も引きずり出すことが可能だ。


 重力場に溜まってきている砂は転移魔法を駆使して別の場所に移動させてる。そうでないといずれ重力場を囲むように砂のボールが出来てしまうからな。



 このまま時間が経つのを待つか、と思っていると相手はどうやら反撃を選択したようだ。


 砂の中から魔力反応を感知した僕は咄嗟にその場から飛ぶ。やや遅れて砂の中から恐らく針のような鋭い何かが先程まで僕がいた場所を通り過ぎて地面に突き刺さる事なくそのまま潜って行った。


「…あれを乱射されると不味いな」


 不味いな、と言ったには理由がある。見えなかったのだ……ギリギリ視認できたかどうかの速さだった。もしあれを乱射されたら僕は避け切ることは不可能に近い。


 障壁などで守る選択肢もあるが……あまり得策ではない気がする。ならば、もう一度あの攻撃をされる前に片をつけるのが一番良い。



 僕は空間収納から槍を取り出して右手に握り、左腕を前に出して右腕を後ろに引いて投げの構えを取る。



 この槍は第6の街で購入したヘルトレントと何かの金属らしき物で作られた見た目は質素だ。しかし、素材が素材のため、とても硬くて鋭い。



 槍に風と雷を纏わせて加速と追撃を可能にさせる。さらに、自身に補助魔法の一つである身体強化を発動させる。これをすることによって本来の身体能力をさらに上げる事が可能になる。ついでに魔力糸も結んでおこう。



 相手がどこにいるのか正確に探りながら、僕は突き出した左腕で照準を取る。そして、ここだ!と完璧なタイミングで槍を思いっきり投げる。



 強化された身体能力によって投げられた槍は纏わせた風魔法も相まって小さなソニックブームを起こしながら直線上に進み、的確に砂の中に居る生命体を貫いた。


 それだけでは終わらず、槍に纏わせた雷魔法の力によって体内から生命体をバチバチッ!!と焼かれる。



 ボバァッ!!と言う砂が弾けるような音ともに槍が空へと飛んでいったのを確認した僕は予め結んでおいた魔力糸を引っ張って回収をする。


「流石に死んだだろうな」


 そう思いながら僕は障壁を階段上に張って宙に浮いた砂の上に登る。


「……おや、便利なものだ」


 見渡すと砂の上に尖った何かと鱗っぽい物が落ちていた。恐らく先程の生命体ーーこれを見て確信したが魔物だろうなーーのドロップアイテムだ。


 僕はそれらを回収して【物体浮遊化】の魔法を解く。


 ザァッ!!という音と共に砂が地面に流れ落ち、砂埃が発生する。


「さて、一件落着だな」



 しかし、あのような魔物が普通にこの砂漠には居ることを考えたら少し憂鬱になりそうだ。


 だが、自分の実力を試したり上げたりする事が出来るので可能ならば積極的に戦っていこう。


 学習しながらドロップアイテムも集まり、研究対象が増えてさらに強くなる。そうすれば倒せる魔物も増えて……と半永久的に好循環が可能となる。



 砂漠というのは予想外ではあったが中々に楽しい旅になりそうだと僕の心は静かに踊っていた。


 そんな時だった。


「お〜い、大丈夫かー?」


 そんな呑気な声が遠くの方から聞こえてきたのであった。







ケルヴィアも十分チート級の強さです

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