出発の日
今日は第6の町を出発する前日だ。
先日購入した武器は既に使用して感覚を掴んだが思っていたより早めに掴んだので残りを武器の研究に費やした。その結果、分かったこととしては武器の材料、硬さ、魔力浸透性などなど……色々だ。
感想を述べるとすればそうだな。大変満足した、と言っておこう。
さて、今日はグラシャスとシーラの所に行くつもりだ。明日出発するつもりだがかなり早めに出発するからな……それなら前日に行く方が向こう側もありがたいはずだろうしな。
という事なので早速グラシャスの元へと向かったのだが……タイミング良くというべきか、悪くと言うべきかグラシャス家の玄関にてアロメダと出会った。
僕を見てアロメダは少し固まった後にタタタッと走ってきて足にガシッと抱きついてきた。剥がそうかと思ったが力強く抱きついていたので無理だと判断して肩車に移行させた。
「なるほど、経緯は分かりました……諦めて下さい。私は妻のありがたいお話によって諦めると言う選択肢を選べる知能を得ましたので、アロメダの行動については諦めることにしました」
「おい保護者」
頼みのグラシャスはもう使えないようだ。彼ならなんとかなると思っていたのだが……メディサが居たならなんとかなったのかもしれないが、彼女は今ここに居ないそうだ。
どうしたものか、と思っていたがグラシャスは保護者ではなく第6の町のリーダーとしてちゃんとしてくれた。
「ただ、アロメダ。これから少し大事な話があるので二人きりにさせて下さいね」
「うぅ〜………分かったぁ」
アロメダも空気を読んだのか降りようとするので体を支えて落ちないようにする。そして、部屋から退室していった。
「では、少しお伝えしたいことがあります。そちらの方で話しましょうか」
場所を移動して互いに机を挟んで椅子に座る。いったいどんな話なのかと思っているとやがてグラシャスが喋り始めた。
「これは忠告ですから忘れずに聞いて下さい」
「あぁ」
「旅をする上で、独身男性は気をつけるべき事があります」
「なんだ?男を誘惑する魔物でもいるのか?」
「それよりタチが悪いです」
似たようなものがいるのか……
「様々な事情から結婚が出来てない独身女性が集まって、一か所に滞在せずにずっとこの世界のどこかを歩いて旅をしている集団がいるのですよ……これが酷くてですね。独身男性を見かけるか否や、ありとあらゆる手で誘惑して自分と結婚させにくるのですよ」
「最悪だな」
どんな集団なんだよ……
複雑な事情で結婚出来ない独身女性のみで構成されて、独身男性を見つけると我が先にとばかりに誘惑して結婚するようにしてくる?
ふむ、独身男性か……つまりだ。
「僕のことか」
「えぇ、失礼ですがケルヴィアは独身ですのでもし、彼女らに遭遇して独身男性だとバレたら危険です」
「分かった。ちなみに、その集団は一目見て分かるものなのか?」
「女性だけで移動していたらほぼ確定で、こう名乗ってきたら確実です」
「集団名があるのか?」
「はい。その名も、"処女の集まり"と言って、別名"フェレアニリーア"です。ははっ、笑えるでしょう?」
「ノーコメントだ」
「あぁ、それと独身男性だとバレたら危険だと言いましたが何故だかは不明ですが」
一旦言葉を途切れさせて、手を口の前で組ませてから再び喋る。その内容を聞いた僕はどう思っていたのだろうか……
「彼女らはこの世界に居る全ての独身男性の名前を知っているのです。それは最近来たばかりの人も例外ではありません」
恐らく僕はこう思ったはずだ。ありえない、と……
◆◆
グラシャス家を後にした僕は考え事をしながらシーラの元へと向かっていた。
(処女の集まりか)
グラシャスの話では、雑に結婚をしたくなければ見かけたら即座に逃げるべきと言っていたが……何がなんでも結婚したければ探せばいいとかいいとも言っていたが、僕はそんな雑な事はしたくない。
きちんと段階を踏んだお付き合いをして、結婚をしたいと思っている。
って、何をこんな真剣に考えているんだ僕は……思考をリセットしよう。
今回の旅では転移魔法を重宝しそうな予感がするな……まぁ、この世界はグラシャス曰くかなり広いためそうそう出会うことはないだろうな。
それに、仮に出会ったとしても嘘を言うか転移魔法で逃げればなんとかなるだろう。
そんな事を考えているとシーラの服屋に着いた。今日は誰も居ない時に来たようだ。
店主であるシーラはカウンターで暇そうにしている。そんな彼女だったが僕の視線を感じ取ったのかこちらを見てだらっとしていた姿勢をシャキッとした。
「ケルヴィア、やっと来たんだ。いつ来るのか待ってたよー」
「待たせてたのか。それはすまない。明日の朝早くに出発するつもりでな」
「そうなんだ」
「で、来てと言われたから来たんだが……何かあるのか?」
「うん。これ、プレゼント」
そう言ってシーラは手のひらに白と黄色、ピンク色の糸で作られた御守りらしき物を乗せて渡してきた。
僕はそれを受け取る。これは…
「魔法印を施してあるのか……この形は大変だっただろ」
「うん、苦労したけどケルヴィアに教えてもらったから使いたかったんだよね。旅が安全に行きますようにって思いながら作ったから」
「そうなのか。大事にする」
早速僕はシーラお手製の御守りを右手首につけた。
「うん、似合ってるよ」
「最高の物をありがとう。またこの町に戻ってきた時にお礼を」
「ううん、いらない」
お礼をする、と言おうとしたが遮られた。
シーラは着ている服に手を当てながらゆっくりと話す。
「私はケルヴィアからこんな素敵な物を貰ったから、今あげたのはそのお返しみたいなものなんだよね……全然釣り合ってないけど」
「何を言っている。シーラの想いが宿った物なんだ。釣り合っているに決まってる」
「そうかな?……大事にしてね?」
「当たり前だ」
千切れないように最大数の障壁などで守っておこう。
そんな事を考えているとシーラは「あっ」と言って僕に聞いてきた。
「ケルヴィアって利き腕どっち?」
「?…今はもうどちらの腕も利き腕のように扱えるが、右利きだったな」
そう答えると彼女は少し嬉しそうな表情を浮かべた。疑問に思った僕はいったいなんなのか?と聞いてみるとシーラはこう答えた。
「秘密っ」
結局、その後何度も聞いても教えてはくれず……魔法印に関して色々教えて最後にシーラに「またな」と言って別れた。
そして、一夜が明けて僕は荷物を全て空間収納に入れた事を再確認して、歩いている人もまだ少ない第6の町を人知れず出発した。
〜??〜
名前もないような場所でテントの中でゆったり寛いでいる彼女は遠隔でも会話できる魔法を使ってとある人物からの話を聞いていた。
〈彼の名前はケルヴィア。恐らく魔法士で常に障壁を張り巡らせていて、服は濃紺色のローブを着ているけれど色を変える可能性がありますね。髪色は薄緑で目は薄紫。身長は少なくとも私よりは高いです〉
「そう、他にはあるかしら?」
〈優しそうな男ですね。一人で旅をするそうなので見かけたらすぐ分かるかと思います〉
「ふぅん……そう。私たちの誰かと結ばれたら嬉しいわ」
〈あら、貴方は?〉
ここには居ない相手にそう言われた彼女はため息を一つ吐いて質問に返答する。
「私の容姿は、この世界でも少しずれてますもの……」
そう言って彼女はゆっくりと脚を動かしてその場から立ち上がる。脚の一本ずつ順番に力を入れて立ち上がった彼女の容姿は、様々な種族が住むこの世界の住人でも時折驚いてしまう程だった。
紫黒色の髪は腰元まで伸ばしており、その顔は枠組みから外れたように美しくどこか妖艶さを伺えられる。そして全女性が羨むかのような体つきをしている彼女だが、それだけならばいたって普通のーーこの時点である意味ずれてはいるがーー女性なのだが、彼女にはさらに目立つ部分があった。
それは目と下半身だ。
瞳孔がまるで蛇のように細い金色の目が二個あるのは普通だが、彼女にはそれだけではなくさらに6つの目が左右対称に存在しており合計8個の目を持っているのだ。
そして、下半身は紫黒色の楕円のような丸っこい腹とそこから生える同色の輝く甲殻のような脚が合計8本の足が生えている。
彼女の種族を簡単に言うならば蜘蛛人だ。しかし、彼女はそれを否定して自らのことをこう呼ぶ……
蜘蛛神と……
〈私からしたら貴方は普通だと思いますよ〉
「それは貴方も似たような者だからよ」
〈ふふっ、それもそうね……夫が来たからそろそろ切るわね〉
「えぇ、ありがとね」
〈どういたしまして。それじゃあ、良き出会いがあらんことを……フェレアニリーア、リーダーのアラアクナ〉
そう言って魔法が切れたことを確認した彼女--アラアクナは静かに呟いた。
「どうせ、私の願ってる人なんて現れないわ……それに、私の目的は結婚じゃなくて独身で過ごす皆んなを幸せにさせてあげたいだけだもの………」
その心にはどんな想いが込められているのか……それは彼女にしか分からない。
彼女の名前はアラアクナ。
処女の集まりのリーダーでもありこの世界において最古参の住人の1人でもある蜘蛛神だ。
シーラがケルヴィアにあげたのはミサンガ的な代物です。気になる方はミサンガ 腕とかで検索すれば出てくるかも?




