やるべきこと
食事を終えた僕は、まず旅の準備だけをするために行動をしようとして立ち止まる。
交換に必要な物品がないのだ。
仕方ない…さっさと取りに行くとしようか。
そう思った僕は素早く行動を開始して、体感ほんの数時間で大量のドロップアイテムなどを集めた。そして、集めたドロップアイテムで必要なものを全て入手した僕はそれらを空間収納に入れながら考え事をしていた。
「この後は……武器を買いに行くか?それとも」
シーラのために魔法印を刻むための道具を作って渡しにいくかどうか考えた結果、早めに終わらせれる事から終わらせよう思ったので武器を買いに行く事にした。
この世界の武器は地上の世界にある物とは明らかに違う。とは言っても、僕が見たのはオルロスの骨っぽい剣だけだがな。
今回僕が買おうかと思っている武器は手甲系だ。武器というか防具というか……まぁ、なんでもいい。
僕は魔法と格闘を組み合わせて戦う肉弾戦が得意だ。極めれば武器を使わずとも打、突、斬が可能だと知って以降ずっと使ってきている。
そのため今回も同じようにしようと思っている。
いや待て……どうせなら違う武器を使ってみるのも一興ではないか?迷うな。
使うにしても何を使うのか、と考えていると気付けば目的地に辿り着いていた。
「むしろ、一通り買えば試したい時に試せるか」
そんな事を呟いて僕は中へと足を踏み入れる。
店内はもちろん武器が売られており、防具も置かれている。一品一品均等に並べられており店主の几帳面さが伺えられる。
これ一通り買うとしたら、今自分が持ってる物で足りるだろうか?と考えていると店主が話しかけてきた。
「見ない顔だな。何が欲しい」
「新しくやってきた新入りだ。そして、この店に売られている武器を各種一つ欲しいのだが手持ちで足りるかどうか分からなくてな」
「各種一つか……今どれだけ持ってるか言えるか?」
そう聞かれた僕は空間収納に入っているドロップアイテムなどを全て告げていく。
「ーー以上だ」
「その中から武具に使える物となるとさらに少ない。そうだな……少し足りないな」
「そうか……」
仕方ない、何個か諦めるとしよう。
そう思っていると、店主はだが、と口にした。
「だが、あんたは新入りだ。新入りには優しくするってのが俺の流儀だ。足りない分はマケてやる」
「いいのか?」
「あぁ。一通り買う奴は久しぶりだしな」
「そうか……必ず恩は返す」
「勝手にしろ」
店主に今僕が渡せる全てを渡し、各種武器を一つずつ購入してその場を後にしようとする。
「待て」
「ん?」
「何を目指すのかは知らないが、一点を極めるのか複数を極めるのか……しっかり考えておけよ。半端な事はやめるんだな」
「あぁ、分かった。その忠告、しかと胸に刻んだ」
当分は今まで通り魔法と格闘攻撃を組み合わせて戦うつもりだ。
さて、次に向かうのはシーラの元だ。まだ数十日程度しか経ってないが元気にしてるだろうか?
シーラの服屋へと向かうと、2人客が居た。いや客というより知り合いだろうか?店主であるシーラと仲良く談笑しているように見える。
水を差すのは悪いか、と思っていると何故かシーラがこっちを見て手招きしてきた。それと同時に彼女と話してた2人も僕を見てくる。
「何故分かったのやら…」
はぁ、とため息をついて僕は彼女達の元へと向かった。
「やっほ〜、ケルヴィア」
「シーラ?この人が?」
「そうそう」
「貴方がシーラにこの服を?」
「ん?……あぁ、そうだ」
そう聞かれたので僕は答えると同時にチラッとシーラが着ている服を見ると彼女はこの前僕が贈った服を着ていた。やはり似合っている。
「聞いた通り……ねえ、もう新しい服は作らないの?」
「生憎と予定は無いな。なにせ、旅に出るつもりだからな」
「そう、残念ね」
「残念だけど……あっ、またこの町に来た時に何か作ってくれない?素材は当然こっち持ちで」
「その時にもよるが、今は承諾しておく。またこの町に戻ってきた時に2人が覚えていたら僕に言ってくれ」
そう言うと2人は感謝の言葉を述べて、シーラにまたねと言ってから何処かへと去っていった。
「承諾して良かったの?」
「あぁ。次に来た時に彼女らが覚えていたらもう一度頼んでくるはずだしな」
「ふ〜ん。それよりも、今日はどうしたの?」
「さっきも言ったが旅に出る事と、シーラから貰った布地で服が完成した事、魔法印の事について色々と教えにきた」
「そうなんだ。良い服が完成したみたいだね」
「あぁ、お陰様でな」
色に関しては言わない。
「旅って言ってたけど、どこか目指すの?」
「いや特にない」
「そっか。なら頑張ってね。半永久に死なないように気をつけて」
「半永久に?」
なんとなく予想はつくのだが聞いておこう。そして、シーラの返答内容は予想通りであった。
「うん。死んだら少ししたら蘇生するでしょ?でも、蘇生すると同時にまた死んじゃう事を言うんだよ。実力差が大きすぎるとよく起こりうる事だよ」
「そうなったらどうするんだ?」
「助けが来るまでひたすら死に続けるか。生き返って死ぬまでの間の一瞬をひたすら繰り返して強くなって逃げる」
「前者ならまだしも、後者に関しては不可能じゃないのか?」
「さぁ?私には分からないよ。そんな話を聞いただけで」
嘘ではないのか?と言いたくなったが、この世界に住む住人の事を思い出せば本当の話なのかもしれないと思った。
それに前者の助けが来るまで死に続けるに関しても体験はしたくない。何故かというと、この世界には死というものは存在しないが、痛みは存在しているからだ。
どんな殺され方にもよるかもしれないが、痛みが存在している以上永久に殺され続けるというのは絶対に体験したくないな……痛みに慣れるというメリットはあるかもしれないが最悪の場合精神が破壊される可能性がある。
「なんだろうと気をつけるとしよう…」
「うん、その方がいいよ。あっ、そうそうケルヴィア」
「なんだ?」
「この服、最高だよっ。着心地も良くて私、毎日着てるよ」
「飽きないのか?」
毎日着てくれるというのは嬉しいのだが、流石に数十日一緒というのは飽きるのではないのか?僕なら……いや、僕はさらに酷いか。
体の汚れは魔法でなんとかできるし、服の汚れも魔法印で常に清潔だから地上で暮らしていた時は着替えるなんて全くしなかった覚えがするようなしないような……
シーラはどうなのか?と思って聞いてみると彼女は少し考えてから首を横に振る。
「ううん、全く飽きないよ。理由は色々あるけど、嬉しいからかな?」
「嬉しい?」
「うん、私って服を作って誰かに売ったりあげたりはするんだけど……その逆の貰うってのは経験が無いの」
「意外だな」
「そう?でも、この前初めて貰ったんだよ。そう、ケルヴィアにね」
「なるほどな……俺が初めてで良かったのか?」
「ずるい質問だね。それは、うん、ケルヴィアで良かったよ。だってこんなに凄い服を貰ったんだから」
シーラは恥ずかしそうにしながらそう答えてくれた。
そういえばだが、この世界では一般的に子供はその種族によって異なるが成人年齢までは成長する。そして、シーラは見た目だけならば子供だが……まさか成人年齢まで達した結果、この身長なのだろうか?
「失礼な事考えてる?」
「まさか」
この話題はここまでにしておこう。やはりどこの世界でも女性というのはこういう事に勘付きやすいものだな。
「それよりだ。本題の魔法印に関してだ」
「教えてくれるの?」
「基礎的な事は教えるが、あれは自分が一番やりやすい方法でやるのが一番だ。あぁ、これが魔法印を刻むための道具だ」
そう言って僕は空間収納から絡み合った一本の棒みたいな物を取り出した。
「えぇと、それが?」
困惑しているようだ。まぁ、これで魔法印が刻めるとは中々思えないだろう。
「これにシーラの魔力を注ぐ事でシーラ専用の魔道具となる。使い方は簡単で、魔力を流しながら先端部分を魔法印を刻みたい場所に当てて後は動かすだけだ」
「話を聞くだけならシンプルだね。でも、その刻む形とか一切知らないんだけど」
「そう言うと思って、これも用意しておいた」
次に僕は空間収納から厚さ10センチ近くある本を取り出して渡す。これは自分の記憶を紙に転写するだけだったので同時並行で終わらせておいた。
「うぇっ!?こ、これ全部?」
「勿論だ。どこに何があるのかは目次があるから安心してくれ。さて、次は実際に簡単な魔法印を刻むとしようか……もう使わないような物はあるか?」
「あるよ?それでやるの?」
「あぁ」
「ちょっと取ってくるね………これ全部かぁ」
本の厚さを確認しながらどこか気の遠くなるような目で呟きながら消えていった。
複数の効果を持つ魔法印から一点特化の魔法印など全てがあの本に記されているからどうしても分厚くなるのだ。
シーラが戻ってきて手には布地の切れ端が握られていた。
「これでいい?」
「十分だ。早速やろう。まずは手本を見せよう」
本来僕は道具を使わないやり方で魔法印を刻むのだが、彼女には少し大変そうだと思った為道具を用意したのだ。
久しぶりに道具を使うがなんとかなるだろう。
「じゃあ一番簡単な耐久上昇をやってみる」
「うん」
棒に魔力を流しながらゆっくりと直線上に動かして魔法印を完成させていく。
「綺麗な黄緑色だね」
「魔力だからな」
魔力には人それぞれではあるが色がある。しかし、普通では見ることができないので視認するには特殊な目か魔法が必要だ。もしくは、魔道具だ。
僕の場合はシーラが言ったように黄緑色だ。それも、ただの黄緑色ではなく澄んでいて僅かにキラキラと光っている。
そして、もう少し続けること数分で黄緑色の淡い光を放っている魔法印が刻み終わった。
「あとは定着するまで待つだけだ。定着すればパァと光って見えなくなる。そうすれば完成だ。分かったか?」
「なんとなく分かったよ。魔力を流す量に気をつけることってある?」
「これと言っては無いな。それにある程度魔道具側が管理してくれるが過剰な魔力を流し続ければ異変が起こる。自分に合う量は何回もこなして見極めていくしかない」
「分かった。早速やってみてもいい?」
「あぁ」
棒ーー近いうちに名前を決めておかないとなーーを手渡すとシーラは僕が渡した魔法印用の本を開けながら布地に棒を当てて魔力を流し始めた。
ゆっくりと彼女が棒を動かすと、魔力による線が引かれる。その色は澄んでいる黄色だった。
「……綺麗だな。良い色だ」
「……」
集中しているようだ。静かにしておこう…
シーラは真剣な目でゆっくりと線を引いていき、途中で形を確認するために本を見るが、その時に僅かに布地から棒が離れたのを僕は見逃さなかった。
集中しているが言うしかないだろう。失敗したのだからな。
「シーラ、少し手を止めろ」
「えっ……な、なにか間違えた?」
「間違えてはないが、ちょっとしたミスだ。心当たりはあるか?」
「……ううん、ない」
「布地に棒を当てながら線を引くのは良いが、引き終わるまでは絶対に離してはいけないのだが先程、形を確認するために本を見た時、僅かに離れたのを確認した。……言ってなかったな。これは僕のミスだ、申し訳ない」
「そんなことないよ!むしろケルヴィアが気付かなかったら私は絶対に気づかなかったし…私としては感謝したいくらい?」
「そうか。では、もう一度最初からいこうか」
「結構大変なんだけどね」
「そうしないとダメだからな」
僅かに離れれば線が途切れたり細くなってしまう。そうなれば十分な効果は発揮されず不良品となってしまうのだ。
不良品を売るのは誰だって嫌だろう。
僕は途中まで出来上がってた布地の魔法印を消す。
「やってみよう」
「うん」
再び魔力を流して線を引き始めた彼女を僕は静かに見守り続けた。
「……ど、どうかな?」
そう言いながらシーラは定着する前の魔法印を見せてくる。
「最初にしては上出来だ。上手い方だ」
かかった時間は遅いかもしれないが最初でこれなら上手い方だ。やはり、元々器用なのも関係しているだろうしな。
「やった。ありがとっ、ケルヴィア。難しいけど楽しいね、これ」
「慣れたらもっと複雑な形も出来るから更に楽しいぞ」
「頑張ってみる……」
渡した本の厚さを思い出したのか僅かに顔を顰めているシーラを見て少し面白くなった。
…さて、用事は済ませたな。
「シーラ、僕はもう行くとする。伝えたいことも伝えたしな」
「…うん。分かったよ。そうだ、出発する前に絶対、私の元に来て」
「あぁ、必ず行くしよう」
そう約束して僕はシーラの元を去った。
そして、一人道を歩きながら僕は考えていた。
必要な物は買った、武器も買った、伝えたいことも伝え終えた。あとは、出発前にグラシャスとシーラの所に行くだけか。
いや、武器を握る感覚を少し取り戻したいからもう少しかかるか。
そうだな……出発は8日後としようか。
今更ですが、この世界での技術の発展等は非常に遅いです。




