奇行1:石
とても綺麗だ、無骨な石たちがひしめき合う河原の中で、決して突出した物がなくとも少女Aの眼にはそう映ったに違いない。
少女Aは社会にうんざりしていた。全ての人類が自身の特徴を最大限発揮する社会にうんざりしていたのだ。少女Aが石に感じた素晴らしい点とは、特徴がもはや常人から見れば「石」という"記号"で現されるほどに特徴がないことである。
だから鉱山から取れるような色とりどりの鉱物ではなく、大した特徴を持たない河原の石を、少女Aは美しく思った。
美しいことが、記号化された極端な自身の特徴として機能することを夢見て、少女Aは自身を磨いていた。だから少女Aは綺麗だった。芸能人とかモデルなどと呼ばれる人間と同じように美しかった。
少女Aは、その自身を磨いていたことによって、今度は「努力によって美しさを勝ち得た無二の人」として扱われた。やはり人間はそれぞれが全く違う特徴を持っていることを自覚せずにはいられない。
私は石になりたい。でもそんなことはできるわけない。分かっている。
せめて、この石たちと一緒でいたい。
少女Aはいつものように朝食を食べた。だがもう石のことを考えることはやめたらしい。彼女の中で折り合いがついたのだろう。
ある日から少女Aの腹は膨れ上がり始めた。それは何かの集合体みたいに腹に張り出していた。彼女は異変に気付いた、しかし赤ん坊であるはずはない。
今日の朝少女Aは異変に気付いた。綺麗な陶器のプレートにおいてあったのは石であった。恐らく自分が河原から集めた物だろう。
「なんでだろう、美味しそう。」
少女Aは石を食べ始めた。
「石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石! 石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!」
「苦しぃぃぃ゛ぃぃ」
「石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石! 石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石! 石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!石!…」
少女Aは死んだ。石がのどに詰まって窒息死であった。