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ついにアレを使うのか?

「背中、流しますか?」

「いえ、自分で洗います」


 日向(ひなた)と二人でお風呂です。

 はい、全くドキドキしません。俺は恥ずかしいのだけど、彼女が全く恥ずかしがってない。


 何これ?


 俺は洗い場に座って、タオルを広げて股間を隠す。それから髪の毛を洗う。

 彼女は掛け湯だけして、湯船に入る。

 俺が座っている真横で、こちらを見ている。湯船の縁に腕を置いて、顔をその上にのせていた。


 無表情のままかぶりつきで見てくる。

 恥ずかしい、いや、怖い怖い。


 シャンプーを流すときに、わざとお湯を跳ねさせて、彼女の顔に飛ばす。

 彼女は慌てて顔を離し、目をパチパチさせる。

 でも、すぐにもとの姿勢に戻して、無表情のままこっちを見てくる。




 体を洗い終わって、湯船に浸かる。

 タオルを湯船の外に置く。湯船に入るときも、ずっと目で追ってきた。特に下の方。


 狭い湯船に向かい合って浸かる。

 彼女はずっと湯の中を見ている。無表情のまま。


 俺は股間に手を置いて隠した。


 やっと彼女は、視線を動かして俺の顔を見た。


 しばらくは二人とも黙っていたが、俺は視線を彼女から外す。だって恥ずかしいんだもの。


「はい」彼女は両手を、手のひらを上にして差し出す。「手をつないでください」


 俺は少しためらってから、両手を湯から上げる。そして彼女の手をとる。

 向かい合って両手をつなぐ。


 彼女は再び視線を下に向けた。


「日向?」

「見てません」

 あ、はい。


 しばらく無言のまま。


「さわってもいいですか?」

「体洗えば?」


 また、しばらく無言。


「ちょっとだけ」

「体洗いなよ」


 3度目の無言時間。


「 」

「体も洗わない人と、一緒に寝たくないなぁ」彼女が、頭の悪いことを言う前に、冗談めかして煽ってみる。

「洗います」彼女は手を離して、湯船から出た。


 俺は聞こえないようにため息をついて、天井を見上げる。

 疲れる。


 俺は目を閉じた。




 お風呂から上がり、彼女はドライヤーで髪の毛を乾かしている。

 二人ともお揃いのパジャマに着替えていた。

 ちなみに、二人で一緒にお風呂から出て、二人一緒に脱衣場でパジャマを着た。

 服を着る間、彼女はずっと俺の方を向いていたが、俺は彼女に背を向けていた。


 彼女が髪を乾かせている間、俺は今回の劇のシナリオを読み直していた。市民劇団の方。


 9月の終わりにある、文化祭用のシナリオも上がっている。2本あって、1本は俺の脚本。

 文化祭は2本芝居をうつ。

 2本も演って大丈夫か?

 2本する理由は、「脚本家が二人いるから」と座長が説明した。

 誰も反対しなかった。基本、座長の言うことに反対する部員はいない。


 二人の脚本家とは、座長と俺だ。

 書かせてくれるらしい。


 反対する理由は無いね。




 髪の毛を乾かし終えた彼女が、俺の膝を枕に寝転がった。そして、両手を俺の腰に回して抱きつく。

 彼女は顔を俺の腹に、あるいは股間に埋める。


 おい。


「今日は一緒に寝てくれるのですよね?」


 言ったかな?

 言ったな。風呂に入っているときに。


「そうだね」

 どうせ今日は、彼女の方からベッドに誘うのだろ? そして、どうせ俺は断れない。


 一緒の布団で寝るの初めてだね。


「お盆は空いてますか?」彼女は違う話を始めた。

「どうして?」俺はシナリオから目を外して、彼女を見る。

 俺の股間に埋めていて、顔が見えない。


「実家に来ませんか?」

「ん?」

「祭りがあります」

 そうなんだ。

「父に会ってください」


 お盆に父親に会って欲しいね。なるほどね。

「お母さんは?」一応尋ねた。

「あ、母はいます」

「会わないの?」

「あ、会ってきますか?」

「うん」

「では泊まりで良いですか?」

「いつ?」


 地方によっては、お盆の時期が違うから、確認した。

 1日だけ練習を休めばよいか。


 彼女の話しはわかりにくい。はっきりと言いたくないから、わかりにくい会話になる。

 まだ向き合えていないのか。




「そろそろ寝ますか?」彼女は顔を上げて俺を見る。

「まだ、早くない?」

「ほんとに寝るわけではないですから」

 えー、どういう意味かなー?


 彼女は起き上がると、ベッドの枕元に色々置いた。前に箱だけ開けて、一個も使ったこと無いゴムでできたアレとか、ティッシュの箱とか。


 俺の脚本のブラッシュアップもしたかったかな。



 彼女は枕電気を点ける。布団に入って、隣を開ける。「電気消して」


 あ、電気って言った。


 俺は明かりを消して、彼女の隣に入る。そして肘を支えに上体を浮かせて、彼女の顔を覗きこむ。

 彼女は布団の端を両手でつまんで、顔まで引き上げ、口元を隠す。

 顔を赤らめ、恥ずかしそうに俺を見上げる。


 あざとい。そして可愛い。


 俺は彼女に優しく微笑みかける。


 彼女は嬉しそう。顔が上気して、期待に満ちた目がランランと輝く。呼吸も荒くなっている。


 いや、怖いわ。


 彼女の頭を、空いた方の手でナデナデする。

 彼女は気持ち良さそうに目を閉じた。


「お休み」俺は声をかけて、枕電気を消し、彼女に背を向けて寝る。

「え?」背中で、困惑した声が聞こえる。

「疲れたから寝るね」

「ええー?」彼女の手が俺の肩に触れる。

「僕の睡眠を邪魔したら、もうお泊まりしない」


「ふぇえ???」


 面白い声も出せるんだ。


 日向がちゃんと向き合うなら、側にいるよ。

 ちゃんと彼氏してるよね。




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