合宿の夜
合宿の夜。
完全に真っ暗になった頃に、夕食になった。
施設の職員の方たちは、夕食の用意だけして、帰宅した。
多分、標準の夕食時間より遅くなっていたのだろう。しつこく練習していたから。主に座長が。
夕食の片付けは、自分達でした。
3年生が花火を買ってきてくれた。青春ぽい。
花火の後は、談話室でおやつ。畳の部屋で車座になって、おやつを広げる。
明里は当たり前の様に、俺の横に座る。
そのわりには、あまり話しかけてこない。
花火の時も俺の近くにいたが、特に会話は無かった。
先程のお風呂の照れが残っているのか。
そのお風呂では、あれから特に何もなかった。
お互いにテンパって、意味の無い会話を重ねただけだった。
のぼせそうになって、風呂から上がった。一緒に脱衣場に入るのは恥ずかしかったので、先に明里を出して、時間をずらした。
湯船を出てから脱衣場に入るまで、彼女の裸の後ろ姿を見送った。
彼女も見られてるのがわかってて、脱衣場に入ってもすぐには扉を閉めなかった。
しばらく後ろ姿を見せていた後に、振り返って微笑む。
何か、名残惜しそうに、ゆっくりと引き戸を引いた。
一体何をしたかったのか。
あんまり頑張らないで欲しい。
対照的に、2年生三人は何事もなく過ごしている。
監督と珠はそもそも大人な関係なのでいいとして、監督と座長はよく一緒にお風呂に入れるな。珠も、彼氏が他の女と一緒にお風呂に入っても平気なのか?
ホント、この2年生達はおかしい。
しばらくすると、自然と会話するグループが別れた。
明里は3年生二人と、女子高生なガールズトークをしている。もちろん俺にはさっぱり話がわからない。
俺は座長と監督と演劇論に話を咲かせていた。ホント、この二人は演劇ガチ勢だね。
珠は一人でジュースを飲んでいた。暇に任せて、お菓子の包装ゴミを彼女の前に増やしていく。
コミショウに割りとよくある光景だね。
彼女は別格だ。
周りはそれを理解している。
珠もそれを知っている。
夜も更けてきて懇親会はお開きになった。
明日も練習だ。
朝食前にジョギングもある。
3年生が部屋に入ると、1、2年生はこっそりと部屋換えをした。
3年生の部屋の隣に俺と明里の1年生。その隣に座長が一人で。その隣に監督と珠。
これも明里と珠の希望がそのまま通った。
風呂に引き続き、俺には相談も無しに決定されていた。
「ざちょおー」俺は恨みがましく、座長に詰め寄った。
彼女は余裕のある微笑みで、「私は女の子の味方なの」と楽しそうに言った。「部長と副部長にばれるといけないから、珠と聡司は一番離れた部屋にしたから」
そうですか。
「あなた達は、部長達の部屋から離す必要はないでしょ?」
「無いですよ」俺にはね。明里を暴走させない配慮か。
「珠の部屋とも離してあげたから、ゆっくり休みなさい」そう言って、彼女は遠い目をした。
何を覚悟しているのか?
「そっちで良いよね?」
明里はそう言って、俺の座っていたベッドの隣に座ってきた。
俺達の部屋。
彼女は薄手の短パンにTシャツ。これが寝巻きの代わりらしい。えらく薄着だね。
俺はスウェットのズボンにTシャツ。
「いいよ」
「電気消すね」
ああ、明かり消す、とは言わないんだ。何か笑える。
「何、笑ってるの?」なぜ笑ったのかを理解しているのか、拗ねたように言った。
明かりを消すと、枕を並べて一緒の布団に入った。
しばらく雑談をしていると、いつの間にか寝ていた。
何もなかったよ。
朝起きたら、抱き枕のように、彼女にしがみつかれていた事を除けば。
スマホのアラームで目が覚めた。
「おはよ」声をかける。
「おはよ」彼女が返事をする。そして、一度ギュッとしがみついてから、体を離した。伸びの代わりかな?
彼女はよく眠れたようだった。
朝練のために、二人揃って部屋を出る。
ジャージに着替えていた。気恥ずかしくって、お互いに背を向けて着替えた。
一緒にお風呂入ったのにね。
ロビーに座長がいた。何か眠そう。
「おはよう」
「「お早うございます」」明里と二人で返事を返す。
座長が優しい微笑みを向ける。
「「おはよう」」珠と監督がやって来た。なんか眠そう。
挨拶をする前に、座長が素早く珠に近付き、珠の頭をはたいた。
珠が、イタっ、て顔をしかめる。
監督はばつが悪そうに、顔を背けた。
「行くわよ」座長が先頭で2年生達が外に向かう。
部長達が苦笑しながら、ロビーに降りてきた。
「何?」俺は小声で明里に訊く。
「珠ちゃん、声が大きいから」彼女は小声で返してきた。「それにしつこい。ベッドも安物でよく軋んだし」
うん、俺も聞こえてた。隣の部屋にいた座長は、寝られなかったのだろうな。
部長達3年生は、これがわかっていて、顧問のいない合宿を学校に認めさせたのだろうか。多分、風呂の事も、部屋の事も、部長達は気づいている。
座長も、部長達に迷惑をかけないように、部長達に内緒にしている体裁をとった節がある。
たぶんそうなんだろう。
俺達は部長達と挨拶を交わして、連れ立って外に出た。
部長達、2年生に甘いよな。




