告白再び
「ナイスプレー」
俺は知らない男子生徒に声をかけられた。
隣に田上くんがいる。
サッカーのレクリエーションが終わって片付けしているときだった。
片付けしてるのは主に田上くんたちサッカー部員だけど。
たぶん彼もサッカー部員なんだろう。
「ありがとう」
「運動部入ってるの?」
「いや、演劇部だけど」
「文化部かよ!」面白そうに笑う。
明里みたいなタイプかな。友達になれそう。
「君と、後二人、すごい運動量だね」
「あー、たぶん吹奏楽部と合唱部の事かな」あの二人もボールと一緒に走り続けるボンボンサッカーしてたから。
「すごいな文化部」
「うちの学校、進学校だから。文化部の方がガチ勢多い」田上くんが代わりに答えた。
「今度、劇観に来てね。文化祭でもやるから」
「おう、観に行く」
「あ、三鬼さんって知ってる?うちのクラスの女子で、こいつの彼女」田上くんがなんの脈略もなく、日向の話題を出した。
彼となんの関係が?
「知らない。田舎だからって、同じ町の人、全員顔見知りって訳はないぞ?」
どうやら、彼は三鬼という名字が多い田舎から来たらしい。
「こいつも下宿なんだ。ひなちゃんと同じ町から来てる」
「三鬼って名字は、うちの町しかいないだろうけどな。全員知ってる訳じゃない。どんな田舎だとおもってるんだ?」
「田舎だろ?」
「田舎だけども!」
たしかゲーセンすら無い田舎。
「君、面食いなんだな」田舎者の彼は俺にそう言った。
日向が美人だと知ってるのか?
「会ったことあるの?」
「いや、三鬼って名字だから美人だろ?」
何言ってるの?
「あの村のやつは、美男美女しかいないからな」
何その、異常な村。
田上くんも怪訝な顔をする。
「でもあんまり美人とか言うなよ。不機嫌になるから。あいつらすぐ暴力に訴えるから、気をつけて」
何それ怖い。
「何なんだ? その村」田上くんが尋ねる。
「海賊の村だよ。普段は漁師してるけど。明治くらいまでは、海賊と山賊やってた」
そんな最近まで?
「美人はさらってきて嫁にしたから、いつの間にか一族みんな美形の遺伝子しかない」
呆れた話だ。
「あと、戦闘民族。ケンカ強いのも遺伝。すぐケンカするのも遺伝。常識だよ」
君の田舎の常識は知らない。
「美人とか言うと、海賊の子孫と揶揄されたように感じるらしいから、あんまり言うなよ」
そんな理由か。
いや、わかるわけ無いだろ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
林間学校、1日目の夜。
晩御飯は班毎にバーベキュー。
日向にふーふーしてもらってからあーんされた。まだ熱かった。
ムカついたので、熱いのをあーんしてやった。全く平然と食べてた。
その後は適当にお風呂タイム。
俺と田上くんと徳山くんは、さっさと入浴を済ませる。
徳山くんは、他の班の人と話が弾んでいたので、先に上がった。
大浴場のある施設を出て、バンガローに向かう途中、少し道を外れて、自販機に寄ることにした。
自販機には先客がいた。
榎本さんが一人でベンチに座って、たそがれていた。
「可奈ちゃん」田上くんが声をかける。
「ああ」榎本さんはアンニュイなまま、生返事を返した。
「一人で何やってるの?」田上くんは彼女の前に立つ。
俺は自販機に硬貨を入れて、適当に3本ジュースを買った。
「お風呂は?入ったの?」
彼女は困った顔をする。しばらく戸惑ってから、
「入れないよ」とカミングアウトした。
「簡単に、カミングアウトするのですね」俺は彼女に3本のジュースを差し出す。
「ありがと」そう言ってオレンジジュースを選んだ。
田上くんにも差し出す。
「サンキュー」微糖のコーヒーをとる。
残ったブラックコーヒーのプルトップを開けた。
「那智くんは、気づいてそうだから」
「田上くんもいるけど、いいのですか?」
「言ってないの?」
「他人のプライバシーをベラベラしゃべりませんよ」
「そっか。ごめん」
「いえ」
「なんか、俊も気づいてそうだったから」彼女は田上くんを見る。
「うすうすはね。今初めて確信したけど」
「そう」
「それで風呂には入らないのですか?」
「私が女風呂入ったら、覗きか何かみたいじゃないの。ムリ」
しばらくの沈黙。
虫の声がうるさい。
「榎本さん、謝罪させてください」俺の言葉に、彼女は怪訝な顔をする。
「榎本さんの事を、日向をつけ狙うウジ虫変態野郎と思ってました。日向に色目使うな、変態レズと、ムカついてました」
彼女は、はあ? て顔をする。
「でも、榎本さんは、理性ある誠実な人だったんですね。謝罪します」
「いや、むっちゃ酷いこと言ってない?」
「ですから謝罪しました」
「えー」
「受け入れてもらえますか?」
「了とするけど、もっと言い方無いの?」
えー、だいぶオブラートに言ったつもりなんだけどな。
「可奈ちゃんは女の子だけなの?」田上くんが彼女に尋ねる。
「?」彼女は意味をとらえかねていた。
「レズかバイかを訊いてます」田上くんの通訳までしないといけないのか。まあ、いいけど。
「女の子だけよ」彼女はすまなさそうに、そう言った。
田上くんは、小さくため息をついた。
「ところで榎本さんの性別自認は何ですか?男、女、中性、不定、無し?」
「女」
「不定とか無しって、何?」田上くんが訊いてくる。
「後でね」適当にあしらっておく。「片っ端から女の子口説いてハーレム作っても虚しくないですか?ドンファンみたいに」
「ドンファンに見える? カサノバじゃ無いだけましかな」
「ドンファンとカサノバって何?」
「後でね」
「おい」
しょうがないな。
「女を取っ替えひっかえした男。カサノバは遊び人」でも、
「ドンファンは真実の愛を求めて、裏切られてを繰り返した」
田上くんは黙った。
「私だって彼女欲しい」彼女はモテない男子高校生みたいな事を言い出した。
「みんなにカミングアウトしない限りムリでは無いでしょうか?」
「嫌われたらどうするの? 気持ち悪がられたら? こわいよ!」彼女は叫んだ。泣いて叫んだように見えた。
でも、彼女は泣いていなかった。
強いな。
再び無言になる。
虫の声しか聞こえない。
「可奈ちゃん」田上くんが沈黙を破った。
俺たちは、田上くんを見る。
「俺は可奈ちゃんが好きだ。可奈ちゃんは、美人で、明るくて、楽しくて、笑い顔が素敵で、みんなの人気者で、強くて、カッコいい」
……。
「可奈ちゃんは、気持ち悪くなんか無い。俺は可奈ちゃんが好きだ。大好きだ」
田上くんの方がカッコいいよ。
不毛で、無意味で、何ら建設的ではないけれど。
報われることもなければ、彼女に罪悪感を与えるだけの告白だけれど。
「ごめんなさい」
しょうがないよね。
いつもありがとうございます。




