クッキング日向
林間学校。山に来ている。
テントなんかは張らないよ。バンガローがあるからね。
「三鬼さん、上手だね」
初日の昼御飯。キャンプと言えばカレーライスです。
前の席の人、佐々木さんが日向に話しかけている。いや、良い人だ。
日向はなれた包丁さばきで、野菜を切っていく。
たいして、佐々木さんとその友達の浜口さんは、それほど料理をやりなれてなさそう。
佐々木さんと浜口さんが楽しそうに料理をしている横で、日向は黙々と調理マシーンと化している。
俺は田上くんとその友達の徳山くんと、三人で火をおこしている。
どうやらこの男三人は、料理が不得手なので、食材に触らせてもらってない。
いや、火をおこすだけで、三人も要らないだろ。
田上くんと徳山くんは楽しそうにしゃべりながら。俺は適当に会話に入るが、意識は日向に向いていた。
ホントは俺も田上くんたちと、キャッキャしたいよ。
「三鬼さん、いつも自炊してるの?」浜口さんも日向に話しかける。
佐々木さんも浜口さんも、普段はおとなしめだと思ったけど、けっこう気遣いやさんらしい。あの騒がしい榎本さんのグループにいないだけで、おとなしいと思い込んでいただけかな。
彼女たちの会話は聞こえるが、日向の返事は聞こえてこない。声が小さいのか、返事したとしても「ん」ぐらいしか言ってないのだろうけど。
「三鬼さん、前髪じゃまじゃない?」浜口さんが、何となしに日向の前髪に手を伸ばした。
日向はいつもとかわらず、前髪で目を隠していた。当然、料理がしにくいと思ったのだろう。
日向の反応は早かった。
日向の左側から伸ばされた浜口さんの手を、ジャガイモを持ったままの左手でさえぎる。むしろ、手を払いのけたと言っていいほどの勢いだった。
浜口さんと佐々木さんが息をのむ。
日向の右手に持たれたままの万能包丁は、腰のところで切っ先を浜口さんに向けて構えられていた。
「日向!」俺は立ち上がって叫んだ。
彼女の体がビクッとして、俺の方を振り返る。
「何やってるの!」俺は早足で日向に近づく。
彼女の左手は下ろされ、震えた手からジャガイモがこぼれる。
彼女の右手をつかみ、握られた包丁を取り上げて、静かにテーブルに置く。
「浜口さんに、あやまれ」ちょっと声が大きすぎたか?
彼女の目が震えて泳いでいる。なぜこんなにおびえるんだ?
「那智くん、どならないで!」佐々木さんが、強く俺をとがめた。
「どなることないでしょ。三鬼さんはちょっと、おどろいただけでしょ」
おとなしいと思っていた佐々木さんが、意外と怖い。
いやいや、佐々木さん、日向が格闘技やってること知らないよね。
左手で相手の顔を払ってから、腰の後ろに隠すように右手に持ったナイフを、右足で踏み込みながら、ナイフごと体当たりする。そんな反復練習を延々やってることなんか知らないよね。
ちなみに、日向はナイフ以外にもこん棒や、模造刀。あと、どうやって使うかわからない武器らしい物をいくつも持っている。
どうも、武器も使う流派らしい。
「三鬼さん」浜口さんが、日向の左腕を引っ張って俺から離す。
俺はつかんでいた日向の右手を離した。
「ビックリしただけだよね。ごめんね、三鬼さん」浜口さんが日向にあやまる。
日向は、それに答えず、俺を弱々しく見ているだけだった。
「那智くん、彼氏だからって、彼氏づらしすぎじゃない? 何でそんな高圧的なの?」佐々木さん、責める責める。
えー、俺、そんなに悪いことしたか?
「ごめん」うん、あやまろう。
「彼女になら、えらそうな態度とってもいいわけ?」
「いえ、そんなふうに思ってる訳ではありません」
「えらそうだったよ。何? 彼女従わせて、俺カッコいいアピール?」
「そんなつもりはありません」
なんか、他の班の人にも注目されてる。恥ずかしー。
助けを求めて、田上くんを見る。
田上くんは、必死に笑いをこらえていた。徳山くんもニヤニヤしている。
ひどいなー。
「彼女を怖がらせて、何が楽しいの?」
「楽しくありません」
いやいや、物理的にケンカしたら、俺なんかが彼女に勝てるわけがないのだけど。彼女が何で俺にどなられただけで、怖がるのかがわからない。
「三鬼さんにあやまって」
この辺でいいか。
「日向、ごめん」
「ん」日向はうつむいて小さく返事する。
「日向も浜口さんにあやまって」できるだけ優しく言う。
「……」彼女はすねたように無言。
イラッとする。
佐々木さんが、怒るな、と目で圧をかけてくる。
「日向」もう一度言う。
「ごめんなさい」小さな声で言った。
佐々木さんが、ほっとした顔をする。
ごめんね、茶番に付き合わせて。ホント、みんな優しいね。
「いただきます」
日向の発声に合わせて、みんなでいただきますをした。
そして恒例の、食べさせあいっこ。
「あーん」彼女の差し出すカレーを口にする。
「あーん」と催促する彼女に一口食べさせる。
なれた田上くん以外は、がくぜんとした表情。
佐々木さんの、その顔、久しぶりだね。
ほぼ日向が作ったカレーは美味しかった。
我ら火おこし班が炊いた、飯盒ご飯も美味しかった。
お焦げ美味しいよね。
読んでくれてありがとうございます。
誤字報告もありがとうございます。
なんか不定期ですみません。
がんばります。




