イベント二日目
イベントのバイトが終わってから、みんなでいつもの駅まで帰って来た。
俺の家の最寄り駅は通りすぎたけど。
日向の部屋に行くので、みんなと同じ駅で降りた。
2年生たちと別れ、明里を家まで送っていく。
「わざわざありがとー。送ってくれて」
「いいよ」
「また、電車で戻るのでしょ?」
「いや」
「帰らないの?」
「彼女さんの部屋に泊まるから」
「え?」彼女の目がゆれる。「だいじょうぶ?明日も大変だよ?」
「寝るだけだよ」
「いやいや、一戦するでしょ。彼女と」
「しないよ」
「やらせてくれないの?」
「言い方」苦笑する。「違うよ」
「してあげないんだ」
しばらく無言で歩く。
「別れたら?」
「何で?」
「そして私と付き合う」
「それは楽しい毎日になりそう」
「でしょ」
「ごめん」
「いいよ」
◇◇◇◇◇◇◇
「ただいま」彼女の部屋に着いた。この挨拶は正しいのだろうか?
「お帰り」日向が玄関で抱きついてくる。
この挨拶は良いよね。
彼女はすでにパジャマに着替えていた。
「お風呂入る?」
「うん」
風呂から上がると、疲れのあまり、床に倒れこんだ。
まじで疲れた。着ぐるみは着ているだけで、体力も意識も持っていかれる灼熱地獄。予測不能な小さなお友だちには翻弄されるわ、頭の悪い大きなお友だち、あ、日向の事ね、に飛びつかれるわで、大変だった。
「はい」彼女がグラスに入った麦茶を差し出す。
一気に飲んだ。冷えていておいしかった。
グラスを彼女に返すと、再び横になった。
彼女はコップを台所に置いて戻ってきた。
「クッションしきます」
俺はのそのそとその場から移動する。
彼女は薄手のマットを床の上にひいた。俺が彼女と一緒にベッドで寝ることを拒んだら、いつの間にか用意されていた。
「どうぞ」
俺はマットの上に横になる。
ベッドの下に、平行になるように配置されている。
彼女は、俺の枕元に座った。横向きに座って、ベッドを背もたれにする。
彼女は両手で俺の頭を持ち上げると、その下に足を滑り込ませた。
足を伸ばして座っている彼女に、膝枕されている格好だ。
頭をなでなでされる。
なでなでする事はあっても、されたのは初めてだったかな。
今日は疲れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
いつの間にか寝ていた。
窓の外が明るくなって、目が覚めた。
顔に布が当たる。彼女のパジャマの布だった。
いつの間にか寝返りをうって、彼女のお腹に顔を埋める体勢になっていた。
て言うか、ずっと膝枕されていたのか?
見上げると、彼女が座ったまま寝ていた。
「日向」
声をかけると、すぐに彼女は目を開けて、俺を見下ろした。
「おはようございます」
「おはよ」
照明は消されていた。膝枕したまま、寝るつもりだったのだろう。
俺は上半身を起こした。
「ごめん。ベッドで寝たらよかったのに」
「ん」
「ジョギングは?」
「拓海が出かけたら」
俺の出発時間が早いので、今日はジョギングはやらない。
「朝ごはん作ります。先に顔を洗って」
彼女は立ち上がった。
「行ってきます」玄関で彼女に声をかける。
今日は家に帰るので、ここには戻ってこない。行ってきます、との挨拶は正しいのだろうか。
「いってらっしゃい」
彼女は俺の首に手を回して、キスをした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
冷風機と扇風機が最大出力で唸りを上げる。
テントの布に遮られた太陽の光が、それでも熱を降り注ぐ。
暑い。ひどく暑い。
灼熱地獄か。
「サウナだね」
扇風機の前に座った明里が、スカートをパタパタさせていた。スカートの中に風を送っている。
俺は寝転がって、スカートの中をなんとなしに見ていた。
だいじょうぶ。彼女は衣装を着ているので、スカートの中にも、衣装の短パンをはいている。
つまらない。
今日は日曜日。イベント二日目であり、最終日。
今日も着ぐるみのグリーティングのバイトだ。
すでに本日初回のグリーティングを終え、テントの中はしかばね置き場となっていた。
着ぐるみを着ない明里は比較的元気だ。
我らが演劇部の看板女優、真城珠にいたっては、インナーかと思うぐらいの薄手の短パンとTシャツで、床に転がっている。
この状況では、このダレた格好でも仕方ないか。
珠はTシャツのすそをめくって、風を送り込んでいる。胸より上までまくり上げて、ブラまで見えている。
やっぱりゴミだったわ。
あげくに、短パンに手をかけ、お腹のところを下げた。
目にも止まらぬ早さで、監督が珠の頭を叩いた。
演劇部2年の二枚目俳優。兼、舞台監督の市山聡司。
珠と付き合っている、ボランティア精神溢れるお人好しだ。
監督は珠の服を直して、お腹をしまった。
監督も苦労するよな。何かひとごととは思えない。
イベントスタッフのアルバイトは、暑くて脱水症状の危険を含みながらも、順調に終わるかと思っていた。
グリーティング班を担当する、イベント屋の社員さんがテントに入ってきた。
暑さ以外の理由で、厳しい顔をしている。
イベントにはトラブルが付き物だね。
知ってた。
読んでくれてありがとうございます。
ブクマ、評価、感想など頂けると励みになります。
よろしくお願いします。




