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リボン

 月曜日の朝。教室に入ると日向(ひなた)が俺の席にやって来た。

 昼休み以外に、俺の所に来るのはめずらしい。

 この土日は泊まりで劇を観に行っていたから、彼女とは会っていなかった。

 日曜日は会うことにしていたのだが、結局泊まりになってしまったので、3日ぶりだ。

 日曜日の朝、行けなくなったことをメールしたが、返事はなかった。メールの返事が無いのはめずらしくはないのだけど、もしかして怒っているのかな、とは思った。


 うん、機嫌悪そう。

 怒っているというよりかは、すねている感じ。


「おはよう。日向」俺は不機嫌そうなのには気づかないふりして、いつも通りあいさつする。

「お早うございます」いつも通りのあいさつを返してくる。表情はいつも通りの無表情ではない。


 彼女は自分の席に向かわずに、少し考える。

 ? 何だろう?


 彼女は荷物を俺の席の上に置くと、俺の膝の上に横向きに座った。


 はい? 何してるんですか?

 彼女は何もしゃべらず、ただおとなしく座っているだけだ。両手を自分の膝の上にそろえている。すねて目を合わせてこない。


「日向、教室でこれは恥ずかしいのだけど」

「私は恥ずかしくありません」

 いやいや、知らない人ばかりの町中と、知っている人ばかりの教室ではかなり差があるよ。

 まわりの、何してんのこいつら、って視線が痛い。中にはかわいそうな子を見る目で見てる人までいるのは、いたたまれない。


「どうしたの?」

「昨日はだっこしに来てくれませんでした」

「ごめん。終電乗り損なった」

「女の子と二人でお泊まりですか?」

「劇団の人たちと、アトリエで朝まで打ち上げしてただけだから」


「私とはお泊まりしてくれないのに、ズルいです」外していた視線を俺に向ける。おねだりするような上目遣い。

 うん、可愛い。そして何かずれてる。


 ここは他の女の子とお泊まりしたことを追求するとこではないのかな?彼女さんとしては。


「いや、朝まで打ち上げだから」討ち死にしてましたが。

「私は独り暮らしです」

「そうだね」

「一人はさびしいです」

 ダメです。そんなあざとい表情してもだまされない。これはワナだ。


「他の女の子とお泊まりするのに、どうしてお泊まりしてくれないのですか?」さっきまで声が小さかったのに、普通の声量で責めてきた。

 隣の席の人が、驚いた顔でこちらを見る。


 わざと周りに聞こえるように言ってるよね。小賢しくて可愛いな。

「誤解されそうな事言うのやめて」周りに誤解であることをアピール。事実、誤解ではないのだけどね。


「むー。誤解ではないです」

「誤解だよ」はい、事実です。

「今度の週末は空いてますか?」

「空いてるね」

「じゃあ、お泊まりしてってくださいね」

「じゃあの意味がわからないよ」

「他の女の子とお泊まりしました」

「二人っきりではなかったから」

「その子とばかり遊んで、私はかまってくれないのですか?」


 そもそも日向も誘ってるよね。それを断っといて何なの? いや、このながれに持ってくるための伏線? 俺、はめられたか?


 俺は言葉につまってしまった。


「何してるんだ?」いつの間にか田上くんが俺たちのそばに来ていた。朝練が終わったらしい。


「お早うございます。この週末にお泊まりをする相談をしていました」彼女が返事をした。

 普段積極的に会話しないくせに、何だよ。


「いやいやいや」何か言おうとしたが、まともな言葉がでてこない。


「あー、教室ではやめとけ」田上くんが呆れたように言った。何か同情するような目を向けられたのが刺さる。

 かわって彼女には非難の目を向けたが、彼女は平然と受け流した。


 こうして俺は罠にかかったらしい。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 土曜日。いつもの隣駅のショッピングセンターに来ていた。

 ちなみにいつもの儀式は当然済ませている。

 今日の日向のファッションは、榎本さんが選んだものだった。


「この服、お気に入り?」

「拓海の趣味ですよね。可愛いですか?」

「日向はいつも天使だよ」見た目はね。

「勝負服です。頑張りました」

 何と戦うのでしょうか?

「下着も勝負下着です。頑張りました」

 そんな情報はいらない。


 しばらく散歩してから店に入った。待ち合わせ時間が早すぎで、開店前だったから。


 前回の反省から買い物の前に、「ウィンドショッピングはデートらしいです」となった。


 髪飾りの所で時間を使った。

「前髪切った方が早くない?」

「死んじゃう」

 何言ってるのか?


 頭の半分ぐらい占めるような、大きなリボンのついた髪留めがあった。こんなのコスプレかよ。と思いながら赤色のリボンを手に取る。

 彼女に着けてみる。


 鏡に映る姿を見て、彼女はちょっと困った顔をする。

 これはダメなのか? 普段絶妙にダサイTシャツとか着てるのに?

 うん、これは無いな。


「可愛いね。買ってあげようか?」

 彼女は驚いた顔をする。少し考えてから、「ん」っと答えた。


 買うんだ。冗談だったんだけどね。


 会計するときに、「今、使うので」と言ってタグを外してもらった。

 その場で彼女の髪に着けてあげる。


「ありがとう」彼女は少し嬉しそう。


 嫌がらせにもなりはしない。


読んでくれてありがとうございます。


令和3年です。久しぶりの更新になりました。

今年もどうぞご贔屓にお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 拗ねる日向、何を買ってもらっても嬉しい日向。 あれ……なんか日向にキュンキュンしてる気がします……。 ……不整脈かな。
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