野外劇
土曜日。電車に乗って2時間弱、地元とはまったく規模が違う都会に来ていた。
今日は野外公演がある。前売りとかは買えなかったので、早めに会場入りするつもりだ。田舎はこの手の前売りを買うところがない。
先に電車に乗っていた高松明里と車内で待ち合わせした。電車の中で彼女はずっと喋り続けていたけていた。もちろん俺も。
「明里っておしゃれなんだ」俺は明里のファッションを、とりあえずほめた。ほめるのが習慣になってる。
黒のスラックスに黒の靴。何か尖っててキラキラな金具がついてる。
白のブラウスはカチッとした感じなのに、襟元だけ柔らかいデザイン。黒のベストは前を止めずに着ていた。
そして被れていない小さな黒のシルクハット。赤い花の飾りがついてる。
「イキったファッションが似合ってるな」
「なにそれ」明里が笑う。
「街行くから、気合い入れてきた?」
「ちょっとね」
「カッコいいな」あと、高そう。
「明里の私服、初めてかな?」
「先週も私服だったよ」ちょっとむくれる。
「あ、そうだった。男の子っぽいの」
「ちゃんとほめてくれたよ?」
「あれ?」
地下鉄を乗り継いで、寺の門前町に来た。 レトロな雰囲気のアーケード。この近くの公園が劇場になる。
開場までまだ時間があるが、とりあえずチケットを手に入れるために会場に向かう。
「よう、兄ちゃん、デートかい」
スキンヘッドのガタイのいい男性に声をかけられた。作業ズボンにTシャツ、分類しにくい人種だ。
顔がこわい。圧がつよ。
え?何?
明里も驚いた顔をしてる。
うん、俺も驚いた。
「デートにうってつけのとこがあるんだ」こわもての男が俺の肩をだく。逃がさないとするように。「おっちゃん。劇やるんだ。チケット買ってくれるよな」
「主演が本番前になにやってるんですか?」明里が呆れたように尋ねた。
チケット売れてないのかな?
「おっちゃんの事知ってるのか?」
「知ってますよ」
なぜか本番前に、今から見に行く劇の主演が、キャッチやってた。このチケットの売り方、問題ないか?
とりあえず、当日なのに前売り券をゲットした。
日没から始まった野外劇は盛況だった。
劇が終わってから、すぐに帰らずに明里と劇の感想戦をしていた。
せっかくだから、チケットを買った主演に挨拶しておこうと思っていたからだ。
それほど待たずに、出口でお見送りをしていた主演の手が空く。
主演はスキンヘッドに白塗りのメイクだった。劇中は全身白塗りにしていたが、今は昼間と同じズボンとTシャツを着ている。
「すっごく良かったです。わーと、なって、ぎゅんとして、凄かったです」明里の語彙が死んでる。
「愛ですよ、愛を感じました」俺も何言ってるんだろ。
「わかってくれるか、少年少女よ」主演も意味あること言ってない。
劇が終わった後の謎テンションだ。
「打ち上げするから残っていけ」
「いいの?残ります!」明里が即答した。
「会費払えません!」
「子供から金は取らない。どうせ差し入れだからな」
「参加します!」やったね。
客席の一角で打ち上げが始まった。
差し入れの酒やジュース、つまみをあける。
俺たちもしれっと参加しているが、他にも関係ない人が混じっているようだ。劇団の知り合いや、俺たちみたいな違う劇団員、ただの観客までいる。
彼らは差し入れ持参らしい。俺たちは手ぶらだけど。
「凄かったです、神原さん」明里がキラキラした目で、主演に話しかけている。一応シラフだ。勧められるままに酒を飲もうとしたのを、俺がとめた。
「観客が沢山いるのにあんなに起てるなんて!」
主演の神原さんを尊敬の眼差しで見つめる。
主演もまんざらでもなさそう。明里みたいな美少女にうっとりと見つめられたら、それは悪い気はしないだろう。
明里が言っているのは、劇の終盤の主演の一人パフォーマンスの事だ。
白塗りの全裸で踊った。何が起っていたかはあえて言わないでおく。
「那智もやってみたら?」
「ムリ。絶対起たない。恥かくだけだ」
「やってみようよー。いけるかもよ」
「ん?ドーランかそうか?」主演ものってくる。
「君も俺たちの仲間になるか?」白塗りの劇団員が横から口をはさむ。
「いやいや、白けるだけですから」
「何?那智、小さいの?」
「おまっ!泣くぞ!」
「だいじょうぶ。私はかわいくてもバカにしたりしないよー?」
「酔ってるの?!飲んでないよな?!」
「酔ってないよー」明里がけらけらと笑った。雰囲気だけで酔える体質のようだ。
主演はいつの間にかいなくなっていた。できるだけ沢山の人に挨拶しなければいけないから。
俺たちのところにも他の団員が話しかけてきては、いつの間にかいなくなる。
俺も明里も用意してきた名刺をばらまいていた。このために打ち上げに押し掛けているからだ。
「やば、終電なくなりそう」俺は明里に耳打ちする。
「えー、まだ飲み足らない」
ジュースな。酒は飲んでないからな。
「少年たち、アトリエに来るか?」製作の人に誘われた。大きな劇団は製作までいるらしい。
「この後、電車無いやつつれて、アトリエで飲み直すんだ」
「行きます!」明里が即答する。
まあ、異存はないね。
そんなわけで、俺はアトリエ、つまり練習スタジオで目を覚ました。
床に寝っ転がって、寝ていたらしい。他にも床に倒れてるのが何人もいる。
まだ起きて酒を飲みながら管を巻いている人もいた。主演もその一人だ。
「少年、起きたか」
今何時だ?まだ早朝だろうか。
明里はどうしただろう。と、思ったらすごい近くで寝ていた。具体的には俺の右肩を枕にしていた。
何か重たいと思ってたんだ。
誰かが、俺と明里に一枚のシーツをかけてくれていたようだ。親切な劇団だね。
左手で彼女にシーツをかけ直す。
彼女はもぞもぞと動くと、俺の首筋に抱きついて、からだの上によじ登ってきた。
どうやら、床が固いので、柔らかい場所を寝ながら探しているらしい。
俺は彼女が落ちないように、両手で俺の上に乗るように抱き上げた。
彼女は俺を抱き枕のように手足で抱きついた。そしてまた寝息を立てて動かなくなった。
「すみません。動けません」俺は主演に断りを入れた。
「青春だねー」
「俺もあんな青臭いときがあったなー」
「嘘つけ。お前は昔からひねてたよ」
「酷いなー」
団員たちの笑い声が聞こえた。
青臭いって、誰の事だ?
なんとか2日に1回の投稿ができました。
ヤバかった。
見つけて読んでくれた人、ありがとうございます。




