表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/78

夜道

月は綺麗ですか?

 日曜日。俺は明里と夜道を歩いていた。

 街灯があるし、車の往来もそれなりにあり、ヘッドライトでそれほど暗くはない。しかし人通りはまばらで寂しい夜道。

 俺は明里を家まで送り届けるために、彼女と夜道を歩いていた。


「いや、あの舞台は斬新すぎだよ」明里は楽しそうに、興奮冷めやらぬようすで話続けていた。

「倉庫で公演とはね。しかも、機材が置きっぱなしで、それが大道具扱いとはね」俺も饒舌になる。

「客席にまで置くことないよね」


 今日は劇を観に行っていた。

 2年生の演劇部の先輩が参加している、市民劇団というか社会人劇団というのか、そんな感じの劇団だった。

 地方の田舎なので、それほど規模は大きくない。会場も使用料の高いホールを借りずに、使われていない倉庫での公演だった。


 収容人数が少ない分、土日で昼夜2公演ずつ、回数で動員数を増やしていた。

 今日の最終公演に明里と二人で観に行った。最終だけあって、満員御礼だった。

 早めに日向(ひなた)の部屋を出て、劇場になっている倉庫の前に並んだ。並ぶのが早かったので結構前の桟敷に座れた。


「一人が何役も演じて、コロコロシーンが変わるの、那智好きそうだよね」

「うん、好物」

「珠ちゃんすごかったね」

「一番、演じる役多かったんじゃないかな」

「小さい女の子の役、むちゃくちゃ可愛かった。お持ち帰りしたくなるくらい」

 持ち帰るな。


「あの陰険な主人も、殴りたくなる位、嫌な感じだったよな」

「あの、お母さんと別れ別れになる少年、泣いちゃったよ」

「俺も」

 全部、真城珠(ましろ たま)が演じた役の話だ。


「話、全然理解できなかったけど」

「理解させる気ないよね」

「那智、好きそう」

「大好き」


「気づいてた?珠ちゃんおっぱい見えてたの」

「見た見た。前のかぶりつきで、見上げてた人には見えてたね」

「珠ちゃん激しいんだもの」


 服の背中を引き裂いて、生えていた翼を自分で引きちぎるシーンだ。

 背中だけ裂けて、背中以外は見えないように調整してあったのだろうけど、最終公演って事で、勢い余ったんだろう。倒れ込んでいるとき、乳房が見えていた。

 本人はまったく気にしてないようだった。役に入り込んでいたのか。


 いったいどんな話かだって?

「意味不明だけど面白かったー!」明里の感想と同意見だ。

「最後、こわかったわー!こわくて泣いちゃった」

「俺も」

「いや、嗚咽聞こえてきたときはびっくりしたよ。何泣いてるのよ」

「明里も泣いてただろ。涙まみれで。鼻水垂らして」

「鼻水でるねー」

「鼻水延びすぎ!」

「だいじょうぶ。お化粧直したから。ほら、可愛いでしょ」自分の顔を指差してニカッと笑う。

「可愛いけど、鼻水垂らすかわいい女の子。バカっぽ」

「あはは、可愛いのは認めてもらえるんだ」

「事実だし」俺も笑う。


「じゃあさ、今度の台本、可愛い私が、とっても可愛いヒロインを演じる、可愛い劇にしようよ」

「どんだけ可愛い自分、大好きなんだよ」微笑ましすぎてにやける。


「んーそうだな」俺は考えてみる。「今日の劇の台本、何を狙ってたかな」

「はい!」彼女は元気に手をあげる。「変化しすぎて流される日常と常識。あまりにも変化しすぎて、何も変わらない不条理!」


「陳腐だなー。でもそれがいい」

 明里は得意そうに微笑む。

「テーマをどう解釈するかは観客次第だけど、仕掛けはわかるね。どうやって魅せるか」

 俺は立ち止まる。

 彼女も立ち止まる。


「真城珠の引き出しの多さを、これでもかと見せつけて、観客の度肝を抜く」

 彼女は黙ったまま聞いている。


「俺でもそうする」

 ごめん。真城珠は大嫌いだし、明里は大好きだけど。本気で脚本書くなら、主演、真城珠以外あり得ない。


 彼女の目が弱く揺れた。

 そして歩き出す。

 俺も歩き出す。彼女から半歩後ろを。彼女の顔が見えないように。


「ねえ、那智はいつから劇団に入った?」彼女は明るく、話題を変えた。

「小学4年生から」

「私も。児童劇団ってそれくらいなのかな?」

「そうなんじゃないかな」

「もう6年やってるのね。私たち」

「そうだな」

「監督も4年生からだって。7年になるんだね。座長は小学1年生からだって。10年もやってるのよ」

「ベテランだね」

「部長と副部長も中学から演劇部だから5年になるのよね」


 あんまり目立たないけど、3年生の二人もそれなりの経験年数あるんだ。


「知ってる?」彼女は少し言葉を止めた。「珠ちゃんと監督は幼馴染みなんだって」

「そうなんだ」

 仲いいよね。付き合ってるんだっけ。


「珠ちゃんは、監督に誘われて同じ劇団に入ったんだって」

「ん」

「中学1年の時に」また言葉を止める。「て事は4年やってるんだね」

 言いたくないなら言わなくていい。


「うちの演劇部で、一番キャリア無いんだよね、珠は」

 俺は、何か言葉にしようとして止めた。


「ずるいよね」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 彼女の家まで送り届けた。こじんまりした2階建てのよくある家だった。

 彼女は玄関を開けたまま、家に入らずに、俺を見送った。

 彼女は手を小さくバイバイする。

 俺も軽く手を振って挨拶をしてから、歩き出した。


 あの後の彼女はいつものように、楽しそうにあちこちに飛ぶ、とりとめのない会話をした。

 いつも通り、元気で楽しそうな明里だった。


 しばらく歩いて、角を曲がる前に振り返った。

 玄関前に彼女が立っているのが見えた。

 俺は見えるように、大きく手を振った。

 彼女も大きく手を振ってきた。


 俺は角を曲がった。


いつもありがとうございます。

しゃべってるだけの回になってしまった。


ブクマとか、応援よろしくです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ