誘惑する二人
ハーレムですか?
「真面目な話に戻していいか」
「いいよ」高松明里は微笑みを残しながらも、真摯な声音で返事をした。
その後ろでは、ほっとした表情の真城珠がいた。まあ、いなくていい。
「俺の彼女さんがね、パンツ見せようとするんだ」テイクツーだ。
「うん、誘ってるんだね」今度は脱線しない。
「だろうね」
「でも、那智はのってあげないんでしょ? なんで?」
「あからさまにパンツ見せられて欲情するか?」
「んー」彼女は少し考える。「人によるかな。那智は欲情しないんだね」
「見えそうで見えないのがいいんだろ。もしくは、たまたま、偶然、アクシデントで見えるのがいいんだ」
「おー、ラッキースケベだね」
「そう。偶然見えてラッキー、ていうのがいいよね」
「んー」再度彼女は少し考える。「とりあえず、真面目な話、の定義がわからない。これって、那智にとって真面目な話なの?」
「真面目に相談してるのだけど?」
「こんな下らない相談されたのは、初めてかも」
「見えそうで見えない。とか。ラッキースケベとか。それがロマンってもんだろ? わかるよね? わかってくれる?」
「んー、わからなくもない。……かな?」
「明里ならわかってくれると思ってたよ」
「んん?」彼女がまた考える。「でもさっきは私のスカートめくってたよね? これはラッキースケベとは違うよね?」
「ああ」その事なら説明できる。納得してもらえる理由がある
「明里のパンツが見たかったから。偶然とかは待てなかった」
「あー、なら仕方ないか」
「うん、仕方ない」
「んー」彼女は少しの間を空けてから「とりあえずやってあげたら? ヘタくそな誘惑されて、興醒めするのは避けられるよ」
「やらないよ」
「何で?」
「誘惑がヘタだからって理由じゃないからね」
「そうなの? ん? 那智病気? 起たないとか? 病院行く? 付いていってあげようか?」なんか真剣な表情できいてきた。
冗談っぽくない。本気で心配してるのか?
「うん、ありがとう。でも違うから」
別に言う必要もない事なんだけどね。
「俺の事をたいして好きでもないヤツとやってもね」
明里に言うことでもなかったか。
彼女は俺の言葉に固まった。少しのためらい。
「那智、だいじょうぶ?」
本気で気づかわれているようだ。
日向の事で、たまに田上くんにも気づかわれるな。いい友達を持ったものだ。
「俺が彼女の事を好きなことには変わらないから」
「そう」彼女は納得したような、そして少し寂しそうな表情をした。
「そんなわけで、偶然か故意かに関わらずパンツが見えた後の、正しい誘惑の仕方を演じてみよう」
「そこにつながるのか。前ふりが長いよ!」彼女は呆れたように叫んだ。
ホントにさ。話伸ばしたのは明里だけどな。
彼女は少し考えてから、「見せないからね」と言ってイスに座った。
パンツが見えた、との前提で演じると言ったのだ。さっき見たけど。
彼女は上半身をねじって後ろの物をとろうとする。反対の足がバランスをとるために、床から離れ浮いた。膝上のスカートから、太ももの内側がのぞく。
パンツが見えている(と言う設定)事に気づいた彼女は、戸惑いながら顔を赤らめて、体をもとに戻し、足をそろえてスカートを整えた。その間目線をそらしたままだ。
「ごめん」小さな声で謝った。恥ずかしがっているのか、下を向いたままそわそわしている。
なんか庇護欲をそそられるね。
彼女は顔を上げた。「どう?」自信ありそう。
「いいと思う」
「そう」とたんに嬉しそうな表情。
「騒いだり、切れたりするムーヴより、ただ謝るのがいいね」
「怒り出すとか、マンガ的表現するのはちょっとね」
「分かりやすい記号だよな」
「那智は単純な記号的な演技嫌いだよね」
「まあ、好みで言えばね」
「ねえ、変わって」横から真城珠が割り込んできた。
え? って顔で、明里が珠先輩を見上げた。
珠先輩は好奇心に満ちた、ワクワク顔で明里を見下ろしている。
明里はイスから立ち上がり、先輩にゆずった。
いや、何割り込んでるんだよ。これはよくない流れだ。
明里は座っている俺の横に立つ。少し不安気だ。
先輩は明里と同じ演技を始めた。
パンツが見えると言う設定だけでいいのに、明らかに見せてきた。今日も白だった。
そう言えば、今日は幕の裏で着替えていたから、下着を見てなかったな。とか、どうでもいいことに気がついた。
「ごめん」先輩は明里と同じセリフを口にする。それだけで俺の胸はドキドキした。
何が違うんだ?
その後の恥ずかしがるところも、明里と同じ演技だった。ただ、一点だけ。目線を一瞬だけ俺に向けた。
挑発するような、誘うような。
蠱惑。
俺は真城珠に囚われていた。
明里が守ってやりたい。なら、珠は押し倒したい。だった。
今回の演技のテーマは、男を誘惑する、だった。
明里が震えているのを感じた。俺も震えているのだろうか。
これは恐怖だ。
どれだけの熱意も練習も、才能の前には何の役にもたたない。
そう突きつけられる恐怖。
俺のとなりに立つ明里が泣きそうになっている。そう感じた。だから俺は理性を手放すことにした。
真城珠の演技は素晴らしい。男を誘惑する完璧な演技。俺は真城珠を押し倒すしかない。
俺は飛びかかるように、立ち上がり、先輩をイスに押し付ける。
片方の手でスカートをめくりあげると、下着に手をかけた。
「え? え?」先輩は驚いて声にならない。怖がった涙目で俺を見る。
俺は興奮しているように、息を荒くして先輩の下着を下ろそうとした。
「那智! 何してんの!」
思った通り、明里が慌てて俺を先輩から引き離そうとする。
俺は両腕を後ろから抱えられて引き離された。それでも俺は、明里の手を振りほどかないように暴れて、先輩に向かおうとした。
珠が俺からいつでも逃げられるのに逃げなかったのと、俺が明里を振りほどこうと思えば振りほどけるのにそうしなかったのは同じだろうか。
「もういいから」明里は俺をイスに座らせると、俺の頭を抱き抱えるように、自分の胸にうずめた。
「泣かなくていいから」
俺は泣いているのか?
彼女の背中に手を回して、強く彼女の胸に顔をうずめた。
あんなやり方は必要なかった。真城珠ならどんな演じ方でも明里よりうまくできた。わざわざ見せつけるように、明里と同じ演技で心を折りに行く必要は無かったはずだ。
俺達の騒ぎに、座長と監督がやって来た。騒ぎ出す前から、何をしているのか把握していたのだろう。
監督は「1年生をいじめるな」と真城珠を怒った。
「私が怒られるの?」珠は理不尽だとばかりに抗議するが、監督に睨まれただけだった。
座長は呆れたように、それでいて同情するような目で俺たちを見た。
「那智くん。甘やかすばかりが優しさではないのよ」とだけ言った。
「ごめんね。那智。ごめんね」明里が泣きそうな声で謝った。
どいつもこいつも、うるさいな。
わかったような、わからないような、意味深っぽいセリフは俺の十八番なんだ。
まねすんな。
いつもありがとうございます。
誤字報告もありがとうございます。
スマホで書いてると、つっづ の区別がつきにくくてよく間違えます。てへ。




