昨日の夜の話
紳士は宗教と昨日の夜の話はしないそうです。
月曜日。部活の終わり。2年と3年生は固まって打合せをしていた。
真城珠だけは参加していない。いても役に立たないから。彼女は彼らから離れた窓際のイスに座って、ぼんやりと打合せを眺めていた。
高松明里も、珠の近くで荷物をまとめていた。みんな着替えを終えている。特に用もない明里は、上級生の打ち合わせが終わるのを待たずに帰るつもりのようだ。
俺は明里に近づいて話しかける。
「明里、ちょっといい?」
「何?」明里は荷物から手を離して、俺の方を向く。
俺はイスを引いて、珠の隣に座る。先輩はこちらに興味を示さずに、座長たちの打合せをしている方をなんとなしに見ている。
明里は座っている俺の前に移動してきた。
「明里、パンツ見せて」俺は右手で、彼女のスカートのすそをつかんでまくり上げた。
水色か。いい布地を使っているのか、光沢がありさわりごごちが良さそう。
「きゃ、何でめくるのー?!」明里が楽しそうに声をあげる。わざわざ両手を、グーに握ってあご下に寄せて、恥ずかしがるふりをする。
あざといな。いや、可愛いんだけどね。
彼女は一拍おいてから両手を下ろして、まくられたスカートを戻そうとする。まったく力をいれてないので少しも戻せてない。
俺はスカートから手を離した。
「何がしたいの?怒るよー」彼女はスカートを押さえたまま、可愛く怒った顔をする。
なんだろう? 今日はあざといムーヴだな。なんか良いことあったのか? さっきまではそんなことなく、いつも通りだったのに。
「いや、彼女さんがね、俺にパンツ見せようとするんだ」
「あー、このパターンね。理解した」彼女はスカートから手を離して、右手を人指し指だけ立てて、自分の右頬に持っていく。少し顔を右に傾けて、訳知り顔。
「それがどうしたの?パンツぐらい見てるでしょ。なんなら、その中も見てるよね」
「いや、見てないけど」
「? どうしてるの? セックスするとき? あ、部屋を真っ暗にする派?」
「直球な言い方だな」
「セックスが?」
「セックスがだよ」
「じゃあ、なんと言えばいい?」
「えっと、あー、……、セックスでいいや」
「で、彼女とセックスするときがどうしたの」
「まって、そんな話はしてない。て言うか、セックスなんてしてないから」
「まだ?」
「まだ」
「そのうちするの?」
「そのうちね」
「じゃあ。那智は童貞なんだ」
「そうだよ。悪いか?!」
「悪くないよー」
「何で嬉しそうなんだ?」
「えー、嬉しそうかなー」彼女は両手の手のひらで頬をはさんで、楽しそうに体をクネクネさせた。
ん、まずったか。
「話、戻していい?」
「いいよー、童貞くん」
「明里も処女だろ!」
「処女だよー。貰ってくれる?」
やっぱり間違えてたか。
「ごめん」俺は静かに答えた。
彼女はクネクネするのをやめて、頬においていた両手を下ろした。
隣に座っていた珠先輩が、俺たちの方を見て、顔を真っ赤にしていた。目を白黒させてアワアワしている。
何してるんだ?このゴミ。
明里もゴミを見るような目で、珠先輩を見下ろした。楽しそうな表情は、もう欠片も残していなかった。
「何?」明里が冷たくとがめた。
先輩は険悪な雰囲気にビクッとする。
先輩のおびえた表情に、明里のスイッチが入ったのか、明里は悪い笑みを浮かべた。
「珠ちゃん先輩、何赤くなってんのー?」明里は楽しそうに先輩に近づく。少し腰を落として顔を近づける。
先輩はさらにおびえた表情になり身を引くが、イスの背もたれがあるため、距離を取れない。
「ねえねえ、童貞と処女のお子ちゃまな会話に赤くなるとこあったかなー。ねえ、非処女の珠ちゃん先輩」
先輩は経験者なのか。まあ、そうだろうね。
「珠ちゃん先輩、セックスなんて言葉に赤くなったりしないよねー。いつもセックスしてるんでしょ?」
先輩は首を横に振る。恥ずかしがっているのか、恐がっているのか。
「ねえねえ、いつから監督と付き合ってるの? 初めてセックスしたのはいつ? 毎日してるの?昨日もセックスしたの?」
「監督なんだ」俺はつい、言葉にした。
「あれ?気づいてなかった?」明里が俺を振り返る。
「いや、気づいてはいたけどね。珠ちゃん先輩が一方的に監督の事を好きなだけって、事もあるかなって」
「あー、珠ちゃん先輩は監督に依存してるもんね」もう一度先輩の方を向いて、「つきあってるよね。もうセックスしたよね。だって珠ちゃん先輩、監督の事、発情したけだものみたいな目で見てるもの」
「わ、私は……」先輩は何か言おうとしたが、言葉が続かない。
「何々? 昨日も監督に抱かれたのー? 監督、優しい? どんな感じ? どんな感じでしてるの? どんな体位でするの? ねえねえ、声って出るの? 気持ちいいの? 気持ちいいとどんな声出すの?」明里は止まらない。
先輩の返事を期待していない。ただ、たたみかけているだけだ。
セクハラオヤジな美少女だった。うん、ひどいな。
「明里、落ち着いて。監督に飛び火してる。やめて上げて」俺は明里を止めに入った。
明里が先輩で遊ぶのは止めないが、監督まで巻き込むのはちょっと。
明里は俺を見る。嫌らしい笑みを消して真顔になった。
かがんでいた背を伸ばして俺に向き合う。
「あ、那智と話してたんだものね」落ち着かせるように一拍おいた。「ごめんね」
「うん。ごめん」
「で、何だっけ? 彼女さんと何があったの? 相談に乗るよー」明里はいつもの楽しそうな笑顔になった。「友達、だからね」
ホント、ごめん。
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