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お姫様抱っこ

お姫様抱っこにはロマンがあるのですか?

 日向(ひなた)は女の子を抱えて柵を飛び越えた。

 着地するときに、盛大にスカートがめくり上がる。

 パンツの色は白。

 いやー、すごいの見せられたよ。


 壁を走って登れるなんて!


 俺は日向のそばまで駆け寄った。

 彼女は女の子を離して、側で困惑していた。女の子が泣いてしまったからだ。

 うん、彼女はこういう事には向いてなさそうだね。

 俺は泣いている女の子に近より、しゃがんだ。

「どうしたの?どこか痛い?」俺は女の子よりも目の高さを下げて、見上げるように尋ねた。

 女の子は泣き止まない。見たところケガとかは無いようだ。日向に抱き抱えられて柵を飛び越えたことに驚いたのだろう。

 壁を駆け上がってきた人間に、突然抱き抱えられたら誰だって驚くよね。

「困りごと?手伝うよ?」優しく話しかける。

 女の子は泣きながら、さっき手を伸ばしていた木を見た。

 俺もその木を見る。

 壁の下から生えているその木は、枝を柵の近くまで伸ばしていた。その葉っぱが繁った枝の先に帽子が引っ掛かっていた。

 小さな女の子がかぶるような帽子だ。この子の帽子だろう。風か何かで飛ばされたのか。

「あの帽子をとれば良いのかい?」

「うん」女の子がやっと返事をした。

「まかせて」俺は微笑んだ。

 女の子は泣き止んで俺の顔をまじまじと見た。


 俺は立ち上がって、帽子が引っかかっている木を見た。

 日向もつられてそちらを見るが、なんの興味も示さずに、俺の方に視線を戻した。

 俺が何をしようとしているかわからないらしい。彼女は当てにできないな。


 俺は柵まで近づき手を伸ばしてみる。

 全く枝まで届かない。柵からみを乗り出すしかないか。下を見る。

 けっこう高いな。これは怖い。


 俺は柵を乗り越えて、柵の外に立った。両手で柵を強くつかんでいる。

「拓海、何してるの!」日向が大きな声を出した。俺の行動に驚いているようだ。

 彼女が大きな声を出すのは珍しいよね。


 彼女は俺に駆け寄ると、両手で俺の腕をつかんだ。

「痛いって!」マジで痛くて、思わず声を上げる。

 彼女は全く取り合わない。

「危ない。止めて」本気で心配そうな表情。「何してるの」

「いや、帽子を取ろうと思って」

「ダメ」

「大丈夫だって」

「危ないから、止めてください」本気で泣きそうな顔になる。


 いや、確かにこの高さはシャレにならないけど、届きそうにも見えるから。

「日向が腕をつかんでくれていたら安全」俺は彼女に微笑みかける。でも彼女は心配そうな顔のままだ。

「つかんでいてね」俺は彼女につかまれている右手だけで柵をつかみ、左手を伸ばす。

 帽子はまだ上の方だ。届きそうにない。

 俺は一旦両手で柵をつかみ、その柵の上に飛び乗った。柵の上でバランスをとる。

 両手を離すと、右手の重心を彼女に預けて立ち上がった。

「拓海、止めて!」彼女が叫んだ。俺をつかむ右手に力が入る。つかまれた腕はかなり痛いが、空中に固定されたかのように、全く動かない。

 俺は右手を彼女に預けたまま、重心を外に傾け左手を伸ばす。


 あっさりと帽子に手が届いた。

 帽子には風で飛ばされないように、首にかけるひもがついていて、このひもが枝に絡まったために落ちなかったようだ。

 まあ、風に飛ばされたのだろうから、役に立ってないけど。


 俺はからまったひもを取った。

「取れた」俺がそういった瞬間に、凄い勢いで彼女に引っ張られた。


 引っ張られた勢いで、俺は背中から、柵の内側に倒れこむ。

 彼女はその瞬間に俺の手を離し、仰向けに倒れこむ俺の背中の下に片方の腕を差し込んで支えた。もう片方の腕で俺の両足を救い上げ、俺が地面に倒れるのを防いだ。

 倒れる勢いを殺すため、彼女は両腕で俺を抱えたまま半回転する。勢いが無くなってから、ゆっくりと俺の足を下げて地面に下ろした。そして背中に回した腕を上げて俺を立たせた。


 ねえ、今、お姫様だっこした?

 今のお姫様だっこだよね?


 勢い付いて倒れる男を、お姫様だっこで支えられるの?すごくね?

 いや、彼女ならできるか?壁も走る上れるくらいだし。鍛えてる人なら、それくらいできるか?


 できねーよ!


 俺は彼女を見る。驚きを込めた目で。

 彼女は涙目で俺をにらんでいる。マジで怒ってる?ちょっと、いや、だいぶ怖い。


 俺は怒ってる彼女を後回しにして、やるべき事を終わらせる。

 女の子に近づき、目の高さを合わせるようにしゃがんだ。

「はい、取れたよ」俺は微笑んで、帽子を女の子に差し出し。

「ありがとー」女の子がお礼を言って帽子を受け取った。

 ちゃんとお礼を言えて、えらいね。

「もう、飛ばされないようにね」

「うん」


 女の子が走って立ち去るのを見送る。女の子は一度立ち止まって振り向き、俺に向かってバイバイした。俺も手を振り返した。


 さて、どうしよう。マジで怒ってない?俺の彼女さん。


 俺は立ち上がり、恐る恐る振り返る。

 案の定、彼女は涙目のまま、俺をにらんでいた。


「止めて下さいって、言いました」

 はい、言いましたね。今回はちゃんと言ってました。

「ごめんなさい」俺は殊勝に聞こえるように、謝った。弱っわ。だってマジで怖いよ。

 でも彼女に手をつかんでもらってたら、行けると思ったんだ。かなり安心できる、命綱だよ。彼女なら俺を落とすことはないと確信してた。

 実際に俺を抱き抱えるくらいはやってのけたしね。


「いや、女の子泣いてたし」

「私が泣くのはかまわないのですか」ホントに泣きそうだ。

「ごめん」

「帽子はまた買えます」

 そうですね。

「人は死んだら生き返りません」

 おっしゃる通りです。


「私が泣くのはかまわないのですか」もう一度言った。彼女の下ろしていた両手は、握りしめられていた。

 涙目だった彼女の目から、あふれた涙が頬をつたった。


「ごめん。心配かけた」俺は彼女に近づき、優しく頭を抱き寄せた。

 彼女は顔を俺の胸にうずめた。

 握りしめて下ろされた腕は、俺に抱きついてこなかった。


 何がなんだかさっぱりわからないよ。

 まるで、俺の事を本気で好きみたいじゃないか?


いつも読んでくれてありがとうございます。


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