お散歩
お散歩するだけの回です。
土曜日。いつものように8時に駅の改札を抜けた。
改札近くだと観光客の皆さんに迷惑になるから、できるだけ離れようと早足で歩く。
俺の天使はそんなことはお構いなしに、抱きついてきた。何ですか、一瞬で距離をつめる歩方でも使ったのですか?
「おはよう、日向」
「お早うございます」俺の胸に顔をうずめたまま返事を返してくる。
さっさと通行妨害は解消しなければならない。だから、いつもの頭の悪い会話は省略する。
「日向、今日の服、こないだ買ったのだね」榎本さんがゴールデンウィーク前に選んでいた服だ。
「ん」
「見せて」
彼女は素直に離れる。今日は両手とも離して、2歩ほど離れたところに立った。
白のブラウスにブラウンのセーラー襟のジャケットを上だけボタンを止めて前開きになってる。同色のスカートは膝よりけっこう短い。ジャケットもスカートも短めで、少し子供っぽい。
髪の毛は大きめの明る目の茶色のリボンで前髪をあげていた。いや、大きめのリボンがついたカチューシャか?
足元は白のスニーカーに短めの白の靴下。
んー、小学生かな。靴がなんかなー。走りやすい靴しかはかない主義かな。
背丈のあるきりっとした美人さんなのに、子供っぽい格好とか。いや、俺が可愛い系の服が好きだと思っているからか?
ん、可愛いからいっか。
あと、短いスカートから伸びる、鍛えられた生足の太ももが色っぽい。
彼女はキョトンとした顔で俺を見ていた。
「ごめん。可愛すぎて意識が飛んでた」
「ん。気に入ってもらえて嬉しい」
無表情で言われても、喜んでいるのかどうかよくわからない。
「後ろも」
あ、けっこう浮かれてるらしい。
両手を軽く握って肩まであげ、くるっと半回転した。ご丁寧に片足の膝を曲げて、ポーズをとった。この間も、この可愛いポーズとってたね。足は曲げてなかったけど。気に入ってる?
俺は気に入ってるよ。
高速で半回転してから、片足でピタッと止まれる身体能力の高さは、ちょっと引くレベルだけどね。
回ったときにふくらんだスカートもドキッとしたけどね。離れて見ていた人がいたら、パンツ見えるくらいにはふくらんだね。
彼女は目立つくらいには美人だから、何人かは彼女のパンツを見ていたと思う。ついてるね。
「日向、そのポーズ気に入ってる?可愛いね」
「気に入ってもらえましたか?」
「うん」
「他にはどんなポーズが可愛いですか?」
あ、やっぱり可愛い服とかポーズが好きだと思われてるかな。
「なにもしなくても、日向はそこにいるだけで可愛いよ」
「あ、そういうのいいです」冷たい目で見られた。
やっぱりこの流れかよ。あと、これは言っておかないと。
「あんまり勢い付けてターンしないで」
「パンツ見えましたか?」
「いや、見えなかった」近すぎて俺には見えなかっただけで、他の人には見えてたから。
「ん」彼女は俺の方に向き直った。両手を握って肩まであげたままだ。
「半回転では見えませんでしたか」足を少し開いて踏みしめる。息を、すっ、と吸い込んだ。
「回るな!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今日は散歩にした。
毎回毎回勉強ばかりやってられないから。
それにせっかくのおろしたての服も外で着てあげないとね。カッコいい系の美人が、可愛い服着てるのもいいもんだね。
隣に連れて街中歩く分には、最高の彼女さんだよ。
頭の悪い事さえしたり、言ったりしなければね。
短いスカートだからって、事あるごとにターンしようとしないで。
いつもなら彼女は俺の腕にしがみついている。今日もそうなんだけど、たまに腕を離して少し離れる。そして必要もないのにクルっとこっちに向き直る。スカートをひるがえらせて。
なんか見えた気もする。いや、気のせいだ。
そんなわけで今は彼女が腕を離すと、俺から彼女の腕を取りに行く。回転できないように、手をつないで引き寄せる。肩を抱いて離さないようにする。
これを何回もさせられた。
さすがに途中で気づいたよ。
これはワナだ。
いつもは彼女からくっついてくるのに、今回は俺から彼女にくっついていくパターンになってる。彼女は俺から手をつながれたり、抱き寄せられるのを楽しんでいるね。
無表情に策をろうするなよ。
ホント可愛いな。
この前の観光地デートみたいに、神社に参拝したり、茶屋でお菓子を食べさせあったりしたあと、昼に近くなったので帰ろうかとなった。
昼御飯は彼女が作るつもりのようだ。
その後はお勉強らしい。俺は適当に宿題でもやったあと、シナリオを書くつもりだ。だからカバンも軽いよ。ノートしか持ってきてない。教科書も参考書も彼女の借りたらすむからね。
俺たちは丘の下を歩いていた。丘が削られていて、急斜面がコンクリートで固められている。急斜面の下の歩道を歩いていた。10メートルほど上にも道があって、落下防止に低い柵がつながっていた。
歩いていく先に高い木が立っている。緑の葉が生い茂っていた。その木は斜面の近くに立っていて、延びた枝が斜面の上の柵に届きそうだった。
そして、その枝の先に幼女がいた。
その女の子は柵から身を乗り出して、延びている枝に手を伸ばしている。
「え?」俺は驚いて足を止める。
危ない。少しバランスをくずせば、柵から落ちそうだ。そして女の子はかなり危なっかしいバランスで柵から身を乗り出していた。
日向も俺の視線の先に気づいた。
彼女は一瞬で俺の腕を振りほどくと、いきなりのトップスピードで女の子に向かって駆け出す。女の子のが柵から落ちるのを想定して、その下で受け止めるつもりか?
ムリだ。10メートルほどの高さから落下する子供の加速度は、人間が受け止められる程度の質量ではすまない。
俺も駆け出す。反対側に向かって。
すぐ手前に斜面の上に登る階段があった。遠回りでも、上に登って女の子を、柵から下ろす方が安全だ。
俺は階段にたどり着き、駆け登る。女の子を確かめる。落ちてない。だけど柵から降りてもいない。
日向は女の子の下までたどり着きそうだったが、走る速度を落としていない。どころか更に加速する。斜面にぶつかる、と思ったときには彼女は斜面を駆け登っていた。
斜面といってもほぼ垂直に切り立っている。壁と言っていい。
何か前にも壁を走る女を見たな。真城珠か。あの時は5メートルほどの高さまで駆け登っていたな。でもここは10メートルは無いにしても、あれよりははるかに高さがある。
彼女は最後に手を伸ばして斜面の上のエッジをつかむ。そこで止まらず、腕の力で体を引き寄せ足を斜面の上に置いて更に跳躍する。
彼女の体は柵を飛び越えた。飛び越えるときに、女の子をつかんで、柵の内側に着地した。
日向のスカートは盛大にめくれ上がった。
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