遊園地
遊園地デート回です。
「戻りました」遅めの昼休憩が終わり、日向たちと別れてから、ショップに戻る。
「お疲れー」高松明里が明るい声で返事を返した。
今回のバイトは、部活仲間の明里が見つけてきた。明里もゴールデンウィークはすべてバイトを入れている。
演劇部は練習を入れていない。演劇には金がかかるから、バイトを優先された。
因みに2年の先輩達は、学外の劇団の練習を入れている。
「私が休憩中に、友達来てたんだって?」
「ああ」
「知ってる人?」
「多分知らないと思う」
明里はクラスが違うから知らないだろう。
「さて、仕事しようか」明里はパペットを両手にはめていた。
「了解」俺もパペットを両手にはめた。
「ふあっふあっふぁ。姫はいただいて行く!」なんてベタな展開だ。
「ひきょうだぞー!」俺の右手のパペットがじだんだを踏む。
「助けてー!勇者様!」明里の左手にはめた、姫のパペットが助けを求める。
「美しい姫はワシにこそふさわしい。田舎騎士には高嶺の花じゃわい」明里の右手の悪者パペットが尊大に見下してくる。あと、明里、悪い顔になってる。
ホントに悪役好きなんだな。
観客は小さなお友達。でも本当のターゲットは親、それもお父さんだ。
世の中のお父さんは娘に甘いのが、このバイトでよくわかった。
「ご主人様、今です!」俺の左手の従者のパペットが、勇者のパペットに言った。
勇者のパペットは俺の右手から小さなゲストの右手に移っていた。
「えい」小さなゲストは勇者のパペットで、悪者パペットに体当たりする。
「やーらーれーたー」明里の悪役パペットが大げさに倒れる。
「ありがとう勇者様」姫が小さなゲストに飛びつく。おかしいなー。さっきまでパペットだったのに、大きな姫のぬいぐるみに変わってる。
パペットより、ぬいぐるみの方が、売上になるからね。大人の事情ってやつだ。
姫のぬいぐるみが、小さなゲストのほほをすりすりする。ぬいぐるみは毛ざわりが命。自信あります。
「勇者様、一緒に旅につれていってください」
こうして姫のぬいぐるみは小さなゲストと共に、旅立っていった。
「けっこうな値段するよ」という母親の意見は、「まあ、良いじゃないか」という父親の意見に負けた。勝因は、父親じゃなくて、小さなゲストのおねだりだったけどね。
その後、女子大生風の二人連れを観客にした。明里は、そのうちの一人をメインに攻めた。案の定その女性はぬいぐるみを買った。
もう一人はそこまでお金を使うつもりがないみたいなので、
「お嬢様、私に護衛をさせて下さい」と、パペットの勇者が申し出た。ま、俺なんだけどね。
パペットはぬいぐるみみたくは値段がしない。お手頃なお土産値段だったので、もう一人はまあいいかと、購入した。
「行ってらっしゃいませー!」俺と明里はゲストを笑顔で見送った。
「二人ともお疲れ様」チーフの女性が俺たちに声をかけた。「今ので、ノルマ達成よ」
俺と明里は顔を見合わせて、笑顔でハイタッチを交わした。
ぬいぐるみの売り上げまでノルマがあるとか、バイトするまで知らなかったよ。
今日も夜間営業があるので、まだ売り上げは増えるだろう。
土産を対象としたショップの1回目のピークは終わりかけだ。遠方のゲストは夜間営業の前に帰路につく。夜間営業の終わりが2回目のピークになる。
今日は俺と明里は、早番だったので夜間営業の前にバイトが終わる。
俺がこの後、友達と遊んで行くと言ったら、チーフがナイトパスを職員割引で用意してくれた。俺たちはチーフに気に入られてるからね。ジュースやお菓子をよくもらえる。
餌付けされてる?
多分、ノルマがきついんだろうな。
俺たちがバイトに入ってから、ノルマを達成できなかった日はない。残り2日も達成するつもりだ。
「悪いな、明里」明里を送っていけないことを謝る。
「だいじょぶ。友達と楽しんできてね」明里は笑顔で俺をねぎらった。
このバイト中、電車の時間を合わせて、一緒に出退勤している。
電車とシャトルバスで1時間ほどかかるが、明里と二人だとあっという間の時間に感じる。
ずっと演劇の話をしている。部活の短いあき時間では、なかなかできないから、貴重な時間だった。
今日は俺が日向たちと遊んで行くから、明里は一人で帰宅だ。明里との通勤時間の演劇談義は楽しみだったので少し残念。明里も少し残念そうに見えた。
シャトルバスのバス停で明里と別れた。
明里はバスの窓越しに手をふる。
俺も手をふり返して見送った
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺は割引で買ったナイトパスで、ゲートから入場する。
日向たちは、ショップの前で待っていた。
だから、ショップの入り口から出てくるわけないだろ。
日向は帽子のつばで顔を隠していた。俺を見つけると、つばを後ろに回す。やはり、帽子のつばを後ろにしていたのは、俺がいた間だけだったみたいだ。
田上くんが俺に気づいて手をふった。
「ジェットコースターはまだのっていないんだ」田上くんが言った。混んでたので、避けたらしい。夜間は昼ほど並ばないだろうから、今から乗ろうとの事だった。
実際、待ち列は昼よりは短くなっているらしい。
「ひなちゃん、ジェットコースター初めてなの?」榎本さんが日向に話しかけている。
列に並んでいる間、日向は俺の腕にしがみついていた。今は俺の左手にしがみついている。榎本さんは俺の右側にいる。
何で俺越しに話しかけているのか。
日向が俺の影に隠れるからなんだけどね。さっきからちょくちょく、しがみつく俺の腕を変えていた。
「ジェットコースター乗ったことないの?」俺が尋ねると、
「ん」と、返事した。「こんな大きな遊園地も初めて」
県内に大きな遊園地が3つほどあるが、彼女の住んでたところからはかなり遠い。
「こわくない?」榎本さんは俺越しでもめげずに、日向に話しかける。
「?」
「日向はジェットコースターがこわいって事も知らないみたいだね」日向の代わりに俺が答える。何なの。俺は通訳なの?
俺は後ろで一人順番待ちをしている田上くんを振り返った。
田上くんは苦笑いを返した。俺がいない間の田上くんの苦労がしのばれる。
ごめんね、田上くん。田上くんは榎本さんと会話できたのかな?
俺、田上くんと並んでいて良い?
順番が回ってきて、俺と日向、田上くんと榎本さんで、二人掛けのシートに座る。
3人で回っていたときは、日向のとなりに必ず榎本さんが座っていたらしいので、初めて田上くんと榎本さんがペアになったようだ。
よかったね、田上くん。全く祝福できないけどね。
ジェットコースターが動き出す。安全バーで日向とは少し離されたが、日向は手を出して俺の腕をつかむ。
怖がっているのかと思ったが、日向は無表情に俺を見ていた。いつも通りか。
その後はあっという間だった。
出口のところにモニターが並んでいた。乗客の、シートごとのデジタル写真が、モニターに写っていた。
ジェットコースターが、一番高いところから落ちているときの写真みたいだ。記念にプリントアウトを頼んで、買える仕組みのようだ。
榎本さんは両手を挙げて、笑ってる写真だ。楽しそうだね。
田上くんはバーにしがみついて目をギュッとつむっていた。スリルを堪能できてよかったね。
俺も田上くんと変わらない写真だった。ビビってるんじゃないよ。スリルを楽しんでるんだよ?
日向の写真は、無表情で隣の席の俺を見ていた。
怖いよね。
読んでくれてありがとうございます。
バイトの方が長いね。
次回もバイトします。
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