ゴールデンウィーク
ゴールデンウィークの遊園地は人が多い。
むしろ少なければヤバい。経営的に。
俺はゴールデンウィークの遊園地に来ている。ゴールデンウィークは毎日来る予定だ。
今年は9連休だ。学校も歯抜けなしに連休になっている。
高校に入って初めてのバイトだ。ちゃんと働くのも初めてだ。働くのは楽ではないが、昨日の夜は良いことがあった。
昨日の夜、メールが来た。今日、俺がバイトしている遊園地に遊びに来るらしい。そこからけっこうメールでやり取りした。途中で雑談になって、なかなか終われなかったけど、楽しいやりとりだった。
あ、メールの相手は田上くんね。
日向はメールしてこないから。今まで、何回かメールのやり取りはしたけど、大体、待ち合わせの確認にしか使ってない。
昨日のメールは皆で遊びに行くと、書いてあった。
みんなには日向が含まれてる筈だ。書いてなかったけど、書くまでもないね。
この時のために、田上くんは日向の連絡先を聞いていたからね。この間の昼休みの事だ。
二人で来るのだろうか?それはないな。二人で遊園地なんて、デートに見えることを田上くんはしないだろう。
となると……。
不安だ。
配属されたショップは、エントランスに近い場所にある。ガラス張りで、外から丸見えだ。
もちろん、中からも外が見える。
ガラス越しに、田上くんが手を振っていた。
後ろに二人。
日向と榎本さんだった。田上くん頑張ってるね。榎本さんはおすすめしないけどね。
あと、日向と榎本さんをつれて歩くなんて、勇気あるね。外目には、美少女二人を連れたイケメンか。
ムカつく。
「お昼いただきます」俺はスタッフに声をかけてバックに入った。
休憩時間を教えてあったので、昼休みに合わせて彼らは来た。
スタッフ制服のまま外に出るわけにはいかないので、いったん私服に着替える。裏口から出て、表に回った。
「お待たせ」俺が声をかけると、店のなかを覗いていた3人がこっちを見た。店の中から出てくるわけないだろ。
いきなり日向が抱きついてきた。
「日向、久しぶり」俺は声をかける。今日でゴールデンウィーク7日目。日向とも7日間会ってない。電話もしてないのは、さすがにどうかと思ったが、俺がバイト終わる時間から日向のバイトが始まる。仕方ないね。
「ん」日向は短く返事した。俺の胸に顔をうずめたまま。
こんな人通りの多い、エントランス近くでこれは恥ずかしいな。でも、浮かれたカップルだらけだから、そんなに目立たないか。
日向から視線を外すと、生暖かい目で見ている田上くんと、目が会った。やっぱり恥ずかしいな。
榎本さんは暗い目で俺たちを見ていた。これはよろしくない。
「日向、そろそろ離れて」
「どうして?」顔をうずめたまま返事をする。
「恥ずかしいから」
「私は恥ずかしくない」
知ってる。でも、俺が恥ずかしいんだよ。
「休憩時間中に昼御飯食べないと」
「ん」体を離す。でも、手は俺の腰に回したままだ。
今日の彼女の服は前に一度見たことある。明るい色のパーカー。白いキュロットスカート。パーカーが開いていて、中は何だかよくわからない原色のTシャツ。彼女のセンスはよく分からない。
野球帽みたいな前にだけつばがある帽子をかぶっている。つばを後ろにして、顔を出している。前髪もピンで留めてひたいがオープンになっていた。
でも、店に来るまでは、帽子のつばで顔を隠してたよね。見えてたから。
ヘアピンは榎本さんにもらった物だった。
棄てずに持っていたらしい。今日つけてきたのは、榎本さんへのサービスではないだろうな。
多分俺への、アピール。俺がごみ袋から拾って彼女につけたのを、「会うときにはヘアピンをつけていってやれ」と、言ったものと思ってるのだろう。いや、そこまでは思ってなかった。せいぜい、好意をゴミ箱に捨てるな、程度の理由だったんだけどね。
「今日はビビッドな感じで可愛いね。オデコの出ているところが特にいい」
ほめろ、が習慣になりましたね。あと、ヘアピンに気づいていることもアピっとく。
「じゃあ、キスしてください」
「ここで?!」
「1週間我慢しました。拓海のにおい嗅ぐだけでは足りない」
におい嗅いでたのか。俺、汗くさくなかった?大丈夫?
田上くんは、さすがに引いてる。彼女の奇行にはまだ慣れないか。
榎本さんは、打ちのめされてるようだ。おもしろい顔してるよ。ここでキスして見せたら、倒れるかな。
「お腹すいてるので後で」
「むー」
仕方ないので、瞬間でおでこにキスをする。
彼女はキョトンとしてから、
「むー」とまた不満げにうなった。
田上くんは、呆れた顔で、「店入ろう」と言った。
榎本さんは真っ青になってる。学校ではそんな顔しないよね。
店は昼時を外れていたので、比較的すいていた。パン中心のファーストフード店に入った。
ハンバーガーのセットを買って席につく。当然日向は俺の横だ。
田上くんと榎本さんがテーブルの対面にならんで座る。
「いただきます」いつも通り日向に合わせて、挨拶をしてから食事をはじめる。榎本さんは二回目だね、一緒に食事をするの。
「あーん」いつものように、日向が俺に食べさせてくる。
同じハンバーガーを一口交換することに意味があるのだろうか?
儀式だから仕方ないか。
「この後どうするの?」俺は田上くんに尋ねた。
榎本さんはしきりに日向に話しかけている。日向は「ん」またはムシの塩対応。いつも通りだが、榎本さんはめげない。
榎本さんからみたら、日向が榎本さんを同じ仲良しグループと思ってる、と認識してるのだろう。一緒に遊園地に来てるのだからそう思うのは普通だね。
でも日向からみたら、俺の友達の田上くんと一緒に俺に会いに来ただけ。なんで榎本さんがついてくるの?というところだろう。
それはね、田上くんが俺の彼女と二人っきりで出掛けるような、誤解される行動を避けただけだよ。
ん、日向にはわからないかな。
「帰る」日向がそっけなく言った。俺に会いに来たのだから、俺の昼休みが終わったら、ここには用がない。まあ、そうなんだろうけどね。
「ここまで来て、すぐ帰るの?!」榎本さんがあわてて、引きとめる。
田上くんは苦笑していた。予想範囲らしい。
「せっかく遊園地来たんだから遊んで行こうよ」榎本さんは、そう主張するが日向は返事もしなかった。
「ひなちゃん、バイト無いんでしょ。那智がバイト終わるまで待ってようよ」田上くんの提案に、日向は田上くんの方を向く。
「何時に終わるの?」と、田上くん。
「5時」
「夜間営業してるよね」
「8時までね」
ゴールデンウィークは夜間営業期間になってる。
「バイト終わってから、ナイトパス買おう。良いかい?」
「良いよ」
俺と田上くんで話がまとまった。
バイト終わってからも職場に居続けるとは、どんだけ仕事好きなのかな俺は。
俺が日向をみると、彼女は「ん」と返事をした。
榎本さんが、パーっと表現できるくらいの満面の笑顔だ。
榎本さんのためじゃないから。田上くんのためだから。
読んでくれてありがとうございます。
次回はドキドキ遊園地デートかな。




