ヘアゴム
月曜日。定例の昼食会。
いや、田上くんと日向と俺で、いっしょに昼食を食べているだけだけどね。
日向の「いただきます」にあわせて食事をはじめる。ずいぶんお行儀の良いグループだね。
その後のいつもの儀式には慣れたよ。田上くんも完全スルーさ。
「ゴールデンウィークは全部バイト入ってる」俺は田上くんと、ゴールデンウィークの予定を確認しあっていた。
もうすぐゴールデンウィーク。高校入学してからもうすぐ1ヶ月。いや、まだ1ヶ月かな。彼女さんとの交際が怒涛すぎて、濃い日々をおくっている。
彼女は何をあせっているのか。
「遊園地のグッズ売りだよ」
もちろん田上くんはほとんどが部活。
「ひなちゃんは?」田上くんは昨日に「ひなちゃん」と呼ぶことに決めてから、「ひなちゃん」呼びにしている。
彼女は田上くんの事を……、ん?彼女から田上くんに話しかけることはないな。
彼女は俺の方を見る。
「バイトだけど全部じゃない。昼間は空いてるみたい」俺が代わりに答える。何なの?
「ひなちゃん、連絡先交換しよ」
大体わかった。
彼女はまた俺の方を見る。自分で決めようよ。俺が黙っていると、
「この人、好き?」何か誤解されそうな質問のしかたをしてきた。あと、田上くんね。名前覚えてあげて。
「親友だよ。日向はもちろん、友達を大切にしない男は嫌いでしょ?」
目の前で親友と評され、田上くんは目をぱちくりした。照れてるの?可愛い。
「ん」彼女は携帯を取り出した。
田上くんは俺たちの、はしょりすぎた会話についてこれてないようだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
部室にいくといつも通り、真城珠が先に来ていた。
絶対サボりだろ。この高校、一応進学校の筈なんだけど、だいじょうぶか?
先輩は窓際のイスに座った本を読んでいた。戯曲集のようだ。制服のままで、まだ着替えていない。
高松明里はまだ来ていない。今日は明里に用事がある。
「先輩着替えましょう」
明里が先輩で遊び始められたら、俺の用事がすませられなくなる。ここは明里が来る前に、先輩には着替えを済ませておいてもらいたい。
「着替えさせて」本から顔を上げもせず、そう言った。
ふざけてんのか!
イラっとしたが、時間をムダにしたくない。俺は先輩のカバンからジャージを出すと、座っている先輩の横から手を伸ばす。本を持っている手の上からリボンをほどく。
「右手離して下さい」
先輩は右手を本から離して、左手だけで読書を続ける。右手のそでを抜く。同じ様に左手のそでも抜いて、上着を脱がせた。
今度は後ろに回り、両脇の下から手を差し込み、頭の上からのぞきこみながら、シャツのボタンを外していく。けっこう大きな胸の膨らみで腹のあたりのボタンが見にくかった。
胸が手に当たるが、そんなことは気にせずに、さっさと着替えさせることにする。
上着と同じ要領でシャツを脱がす。
インナーのシャツは片手ずつ脱がすと、服が伸びそうだったので、首を先に抜いてから片手ずつ脱がせた。
半袖の運動用のシャツを着せるのは、その逆の手順で。ジャージの上は着せない。運動するには暑い季節になっていたから。
「立ってください」
先輩は本を読みながら立ち上がる。スカートは簡単に脱がせられた。本を読むのをじゃましないから。
片足づつ、足首をつかんで上げて、スカートを抜く。ジャージのズボンは逆の手順で足首に差し込む。
ズボンを上げる前に、先輩の太ももを触ってみた。
かなりの筋肉がついていた。固くない、しなやかな筋肉だった。
日向の方が上か。日向の太ももは、服の上からしか触ったことはないが、それは明らかだった。
いや、俺の筋肉よりは質が良いのは間違いないんだけどね。
ズボンを上げ、巻き込んだシャツの裾を外に出す。
「座っていいですよ」
先輩は本を読みながらイスに座る。
「ありがとう」
「いえ」
それで良いのかよ!
あと、太ももさわったのもスルーか。
しばらくして明里がやって来た。
「お早うございます」
「「おはよー」」
「珠ちゃん先輩、今日は着替え終わってるんだ」先輩で遊べなくて、ちょっと残念そう。
悪いね、そんな下らないことに、時間を浪費したくないんだ。
俺が着替えさせたことも黙っておく。おもちゃをひとりじめしたと言って、すねられそうだから。
「明里、ヘアバンド?髪留めるゴム持ってる?」
「ヘアゴム?あるよ」
「出して」
彼女はカバンを机において、小さな化粧バッグから黒色の髪止めのゴムを出した。
「前髪だけまとめて、チョンマゲのようにできる?」
「え?チョンマゲ?」と言いながらも、日向がしていたときのように、前髪を筆のように、額の上に突き出させた。
鏡なしで器用に出来た。子供っぽくて可愛くなった。もとが、愛嬌のある美少女だからね。
「これで良い?」
「うん、ありがとう」
俺はさっそく手を伸ばし、明里のゴムでまとめられた髪の毛をつかんだ。
引っ張って引き寄せたり、右や左に振ってみる。
「痛い!痛い!やめて、やめて」
俺は髪をつかんだまま、引っ張るのをやめた。
真城珠は突然騒ぎ出した明里に驚いて、本から顔を上げていた。
「何?説明して。何がしたいの?」明里が髪の毛を捕まれて、頭を下げたまま上目使いで俺を見ている。
非難しているわけではなく、どういう遊び?と聞いてきてるようだ。
「俺の彼女さんが、このあいだそういう髪型していたんだ」
二日前の土曜日ね。彼女は服を脱がされたがっていたが、そんなことより髪の毛の方が気になってたよ。
「あ、彼女いたんだ」
「いるよ」
「私は彼氏いない」
「あ、そう」
「なまいき」
「えー」
「別れろ」
「明里が彼氏をつくれば?」
「付き合いたいと思ってた男に、彼女がいたことがわかったとこだよ。たった今!」
「あー、一週間ちょい前に言ってくれたら、即OKだったのに」
「ま、仕方ないか」
「うん、仕方ない」
「で?なぜ私の髪を引っ張っているの?」
「いや、こういう髪型って引っ張ってみたくならない?」
「引っ張ればいいじゃん」
「痛そうじゃん。彼女さんの髪の毛引っ張るわけにはいかないだろ?」
「私ならいいんだ?」
「うん」
「なるほど」明里は少し考えてから、「ちょっと離して」
俺は明里の髪の毛から手を離す。
明里は化粧バッグから、もうひとつ同じゴムを出す。
「頭下げて」俺は言われるまま頭を下げる。
明里は、俺の前髪を束ねてゴムで留める。
俺の前髪もマゲになったらしい。
「じゃあ、よーい」明里は何かの競技のように構える。
俺も同じように構える。
「はじめ!」明里が叫んで、俺の前髪に手を伸ばす。
俺も同時に明里の髪の毛に手を伸ばす。
明里は俺の手を避けず、房をつかませた。
もちろん、俺も避けずにつかまれるままにした。
お互い髪の毛のマゲを引っ張りあう。
「痛い痛い!ハゲるー!」明里が笑いながら叫んだ。
「マジで痛い。むっちゃ痛いわ!」俺も笑いながら叫ぶ。
しばらく笑いながら髪の毛を引っ張りあった。さすがに痛いわ、これ。
「一年、いちゃついてないで着替えなさい」いつの間にか、座長の八坂雪から声をかけられた。
騒いでたので、入ってきたのに気づかなかった。
俺たちはお互いの手を離す。
「「いちゃついてません」」声がそろった。そろったのがおもしろくて、顔を見合わせてまた笑った。
座長は呆れ顔だ。
真城珠は固まった表情でこちらを見ている。恐がってるようだった。
読んでくれてありがとうございます。
長くなってきましたが、読み進めてくれている皆様に感謝です。
これからもごひいきにお願いします。
ブクマ、評価、感想など、いただけると嬉しいです。




