幕間:護衛騎士①
俺の名前はセッタ。
栄えあるリードレ王国の王太子――ティモ・リードレ様の専属の護衛騎士である。王族全体の護衛は他にもいるが、ティモ殿下専属の護衛は俺だけである。
四年前からティモ殿下専属の護衛騎士になった俺には、嬉しいことにティモ殿下も心を許してくれていると言えるだろう。
ティモ殿下は、つい先日八歳になったばかりだというのに、王子として立派な方だ。
王族には見目麗しい方が多いが、ティモ殿下はその中でもまだ子供でも美しい。
銀色の美しい髪に、エメラルドのような美しい瞳。
美少年と誰もが称するティモ殿下は、今よりも小さな頃に美しさに魅了された侍女に攫われそうになったこともあるのだ。それだけティモ殿下は美しく、人を引き付ける魅力がある。今でさえこうなのだから、もっと成長すれば益々魅力が増すことだろう。
ティモ殿下は大人びた少年で、その攫われそうになったことも覚えているのだと本人が言っていた。そういう経験もあるからか、子供とは思えないような言動をよくしている。
それだけでなく、あれだけ幼いのに使い魔と契約し、魔法を使いこなす。それだけでなく、武器の扱いもすさまじい。
どんどん力をつけていて、何気なくなんでもこなす。
挫折などないと言わんばかりに、完璧というのにふさわしい。
俺はそんなティモ殿下に仕えられることを誇りに思っている。ティモ殿下ならきっと良い王になるだろうと、期待している。そしてそれだけではなく、もっと小さいころからティモ殿下を知っている身としてみれば、こんな感情を抱いてはいけないものかもしれないが弟のような感覚にもなっている。
そんなティモ殿下は、今でこそ、子供らしいところを見せたり、陛下や王妃様と親しくしているが、俺がティモ殿下に仕えてすぐはそうではなかった。
ティモ殿下は子供らしくなく、いつもつまらなさそうにしていた。何でも簡単にこなせてしまうからだろうか、それとも大人に子供らしくないと距離を置かれたりしていたからだろうか。俺はティモ殿下にもっと子供らしくしてほしいとか、楽しく過ごしてほしいと思っていたものの、護衛騎士の身でどう動けばいいか分からなかった。
それでもなるべくティモ殿下が楽しく過ごせるようにと動いていたおかげか、ティモ殿下は俺に少しは心を許してくれていたと思う。
――ただ陛下や王妃様は子供らしくないティモ殿下への接し方に困っていた。王城内でも距離を置かれていた。王太子として注目を浴び、接されるが、心を許せる相手がいないというのが現状で、そういう現状があったからか、ティモ殿下は退屈そうにしていたのだ。
そんなティモ殿下が変わったのは――楽しそうにするようになったのはいつだったかというと、それはミリセント・アグエッドス様と婚約をしてからだ。
ミリセント様もティモ殿下ほどではないが、子供らしくはなく、よく分からない単語を口にしたりする、言ってしまえば変な令嬢だった。でもそんな令嬢だからこそ、ティモ殿下が張っていた大きな壁を壊すことが出来たと言えるだろう。
「ティモ、行くわよ!!」
「ティモ、これ、美味しいでしょう?」
「ティモ、私はこれが好きなの!!」
壁を作って、冷たい態度ばかりのティモ殿下にミリセント様は躊躇いもせずに話しかけにいった。ミリセント様は素直な人で、思ったことを結構口にする。そして無邪気な笑みをティモ殿下に向けていた。
正直令嬢として素直すぎるのはどうかと思ったのだが、公的な場ではミリセント様は淑女らしくしていた。子供なのにそんな風に使い分けられることに驚いた。
無邪気で子供らしい、けれどそういう大人びた面も持っている。
そんなミリセント様だからこそ、ティモ殿下は面白いと思ったのかもしれない。
ティモ殿下は、ミリセント様との邂逅を重ねれば重ねるほど心を許していった。傍に居るからこそ、俺には分かった。
令嬢として変わっていて、それでいて真っ直ぐにティモ殿下と向き合うミリセント様だからこそだと言えるだろう。
ティモ殿下はいつしか、ミリセント様のことを「ミリー」と呼ぶようになった。
それでいて、昔からは考えられないような「ミリーといると楽しいね」と言った素直な気持ちを口にするようになっていた。
世間では夫婦は共に過ごす内に似るという話があるが、ティモ殿下とミリセント様も同じように思えた。まだ夫婦なんかじゃなくて、婚約者だけれど。
ミリセント様の影響もあって、ティモ殿下は表情が柔らかくなった。それもあってティモ殿下に前よりも近づきやすくなった。
陛下たちとの距離をティモ殿下が縮められたのも、ミリセント様のおかげであると言えるだろう。ティモ殿下が柔らかく、子供らしさを見せるようになったから。そしてミリセント様が王妃様と仲良くなり、その場にティモ殿下を連れて行ったり、王妃様に沢山ティモ殿下の話をしたから。
そういうのが重なって、ティモ殿下はご両親との距離を縮められたように見えた。
ティモ殿下は、ミリセント様と出会ってから楽しそうにしている。最近は、楽しそうにミリセント様との交換日記をしている。
交換日記をしようと言い始めたミリセント様は本当に変わった方だと思う。けれど、公の場では本当に完璧な令嬢なのだ。
本当にそのギャップは俺から見ても面白いと思う。
そういう令嬢と出会ったからこそ、ティモ殿下は今、心から人生を楽しんでいる。その様子に俺は嬉しくなる。
――俺は個人的に、ミリセント様に感謝している。ティモ殿下に出会ってくれてありがとうと。