王城と占い師について―12歳―
リド暦791年 七の月 二日
困ったことに父上にどうしてあの占い師が近づいているのかまだ分からないことだらけだ。
僕が占い師に直接近づこうとするのを、父上の側近たちが止めるから直接の情報収集はあまり出来ないんだ。それに母上も、僕が調べるためにとはいえ、占い師に近づくのが嫌みたいだから余計に近づきにくい。
母上は王妃としてなんでもない顔をしているけれど、家族の前では不安そうだったりする。
やっぱりあの占い師が何かの鍵だと思うのだけど……。
ティモ
リド暦791年 七の月 五日
ティモ、原因が分からなくても焦りは禁物よ。焦る気持ちのままでは見えるものも見えなくなったりするもの。
それにしてもティモが調べて調べられないって珍しいわ。
私ももうすぐそちらにつくから一緒に頑張りましょう。
乙女ゲームの世界で、陛下に近づく占い師の姿なんてあったかしらと考えているのだけど思い出せないわ。
私も転生して十二年経っていて、乙女ゲームの世界のことを結構忘れてしまっているわね。もっと完璧に乙女ゲームのことを覚えていたらこういう時に役に立てたかもしれないのにって悔しいわ。
私のお父様とお母様も、占い師のことを気にしているわ。
ミリセント
リド暦791年 七の月 八日
父上の様子はこの一か月で少しずつおかしくなっているね。
僕に対しても前より少し冷たくなっている印象で僕は少し悲しい気持ちになったよ。僕でもこういう気持ちだから母上やキッドはもっと悲しいと思う。
占い師は外と連絡を取り合っていることは分かったけれど、まだまだ情報が集まらない。
王城に時々やってくるエイブルガンたちも父上の様子が変なのなんとなく感じ取っているみたいだった。今の所、大きな問題は起こっていないけれどもこのままでは駄目だと思う。
気にしなくていいよ。ミリーの言う乙女ゲームと同じ人物がいたとしても、その通りこの世界が動いているわけじゃないし。ただ何か思い出したことに占い師が関わっていたら教えてほしい。
ティモ
リド暦791年 七の月 十一日
王城にやってきて、ティモの言う雰囲気のおかしさは感じ取れたわ。陛下は私に対しても少し冷たいわね。何だか様子がおかしい。表面上は普通の陛下に見えるけど、何だか違うもの。
というか、私、あの占い師を見たことがある気がするわ。やっぱり乙女ゲームにいたのかしら? 頑張って思い出すわ。
ミリセント
リド暦791年 七の月 十一日
やっぱりミリーが傍にいてくれると心強いね。
ミリーの記憶にあの占い師がいるのか。それにしても乙女ゲームって聞いている限り、女の子を操って男たちを落とすゲームだけど、何だか設定とか結構暗いものもあったりするね。そういうのおおかったの?
ティモ
リド暦791年 七の月 十四日
ティモ、朝から交換日記送りつけてごめんね!
夢で乙女ゲームの世界のことを見たの。それで思い出したわ。あの占い師、他でもない悪役令嬢――ゲームでの私の傍にいたわ! そういうスチルがあったのを思い出したの。
何だか危ない薬とか売りつけていたとかそういう設定見た気がする。その悪役令嬢に売りつける前に実験をしてたって話で、もしかしたら今、王城にいるのも実験なのかもしれないわ。
ミリセント
リド暦791年 七の月 十八日
ミリーが思い出してくれたおかげで、占い師のことを問い詰められてよかった。
仲が良い夫婦や恋人たちを破滅に追い込んで実験しようとしていたなんて悪趣味すぎるよ。他にも犯罪を犯しているみたいだから捕らえられてよかったよ。
それにしても魅了系の魔法って、魔力で自分を好きなように思わせるような、どちらかというと力業な感じを予想していて、それに伴う魅了系の魔法具の対策をしていたわけだけど、魅了にしても色々あるなというのが分かったね。
魔法植物などを調合した薬を使って、魔法も使ってだと、僕らが制作していた魔法具だと上手くいかないのは当然だったかもしれない。
ティモ
リド暦791年 七の月 十八日
私も思い出せてよかったわ。思い出せなかったらと思うとぞっとするもの。
それにしても魅了と言っても色んな魅了の仕方があって、正直全ての対策をするのは難しいかもしれないわね。
乙女ゲームの世界では陛下たち夫妻もここまで国民達に噂されるほど仲がよくなかったから、乙女ゲームではあの占い師の実験の犠牲者にならなかったのかもしれないわ。
陛下も魅了が解けた後、慌てていたわね。王妃様もほっとしていて良かったわ。
ミリセント
リド暦791年 七の月 二十日
あの占い師、自分と同じような存在はまだまだいるみたいな恐ろしいことを言っていたね。
あの占い師自体はミリーと同じではないようだけど、『乙女ゲームがどうたら~』っていっていた人がいたみたいなことを言っていたから、学園に入学した時にかき乱してくるかもね。
ミリーがミリーだから、ここはそのミリーたちの知る乙女ゲームの世界とはだいぶ違っているだろうし。
僕はミリーが僕のミリーであることを幸福に思っているけれど、ミリーを悪役令嬢のままにしたい人もいるのかもしれない。
でもミリー、僕は何があってもミリーのことを守るからね。だからそんな不安そうな顔をしなくてもいいんだよ。
ティモ
リド暦791年 七の月 二十日
私は必死に取り繕って、隠しているつもりなのにティモにはバレバレね。やっぱりちょっと不安になるわ。
私は悪役令嬢って役割だったから、そうなってしまったらって、ティモに捨てられたらってそういう不安って少しはあるのよ。此処が現実だって分かっていてもここをそういう乙女ゲームの世界そのものにしたい人もいるだろうから。
でも、ティモがいてくれたらそういう不安もなくなる気がするわ。
ミリセント
リド暦791年 七の月 二十二日
占い師のこともあったから、ゆっくりおもてなしできなくてごめんね、ミリー。
もうミリーが帰ってしまうと思うと寂しいよ。次に会える時には、もっとゆっくり過ごそうね。
ティモ
リド暦791年 七の月 二十五日
馬車に揺られながら、領地に帰っているわ。
次に会うのはティモの誕生日の時ね。ティモが抱きしめてくれたから不安もなくなったわ。ありがとう、ティモ。
誰がどんなふうに動こうとも、私はティモの隣を誰にも渡すつもりはないし、私はティモと幸せになる。
そのために頑張るわ。
ミリセント




